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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第4部 ムフマンド国編
53/219

暗殺する?される?3

その時、ナザニンはベッドの中で不思議な感覚に襲われていた。

謂わば身代わりの立場の自分が面白くて仕方がなかったのだ。


自分の此れまでの人生で豪華な刺繍のされた絹のパジャマを着て豪華な天蓋付きのベッドに寝た事も無かったから初めての体験にワクワクして堪らなかったのだ!

これから殺されるかもしれないのに。


「ウフフ、フフフ……ヒヒ…ウフフ」


思わず薄ら笑いが出てしまった時、陰で気配を消して隠れるラウラが小声で注意をして来た。


「姉様!真面目にして下さい!」


注意されて漸く気を引き締めた時、寝室に別の気配が進入した事を察知した!


それは突然に隅から現われたようにジワジワとベッドに近づいて来た、携帯したナスィームを握り警戒する。


やがてベッドに寝るナザニンを見下ろすと直ぐには行動を起こさず、何故か祈るような仕草をしてからナイフらしきものを抜くと振り下ろしてきた!


えぇ誘拐じゃないの⁉︎


ナザニンもラウラもドルマは誘拐対象だと思い込んでいたから焦りはしたが予想外ではないので対処した。


ナイフを振り下ろす暗殺者にラウラが飛び込んでハブーフで斬撃をくわえた!


突然のラウラの攻撃に暗殺者はナイフで受け止める事は出来たが、暗殺は失敗に終わり、そして受け止めたナイフもハブーブの一撃で折られ最早役立たずの代物に変わり果てた。


「暗殺は失敗!大人しく捕縛されなさい!」


ナザニンがベッドから出てナスィームを構えながら暗殺者に警告しラウラがハブーブを向けて威嚇したが、暗殺者は笑いながら問うてきた。


「そうか失敗だと思っているのか!小娘達、勝負はこれから!という言葉を知っているか?」


何かの格闘術でも使うのか⁉︎そう思いはしたが雰囲気的には全く感じがしない。

他に武器でも携帯しているのか⁉︎


そうナザニンとラウラが考えた時、突然天井から衝撃音が聞こえ崩れた。


見上げると見覚えのある魔獣が2人を睨み臭い息を吐いた。

あのムフマンド国に向かっていた時に砂漠の街で倒したマンティコアだ!


何故、ここにマンティコアが⁉︎2人が考えた時、暗殺者が羽織っていたマントを脱ぎ姿を露わにした、婆さんだった。


「こいつが私の本来の武器さ!」


「どういう事だ?」


その問いも虚しく婆さんがナザニンに向かって小袋を投げてきた!

直ぐに察知したラウラがハブーブで弾き返した時、その小袋が破裂し何かの液体がナザニンとラウラにかかった。


「悪く思うなよ!これでお前らは死んだ!」


「どういう事だ⁉︎」


「今、お前らが浴びたのはマンティコアが好む猿の血、それを浴びると確実にマンティコアはお前らに襲いかかってくる!」


「なんだと!」


「ここに来る途中で、このマンティコアを見つけてから苦労して連れて来たが役に立ったようだ!ではマンティコアに食い殺されろ!」


「要は、こいつを倒してお前も倒せばいい、そういう事か!姉様は婆さんを頼みます、私は化け物を殺ります!」


「1人で大丈夫?2人でやった方がいいんじゃない?」


「私は大丈夫ですから姉様は婆さんを!どちらかというと人間相手よりも魔獣相手の方が気楽ですから!」


「分かったよ、ラウラ!」


2人の会話が終わった時、婆さんは逃げ出した。

血は浴びていなくとも、この場に居れば婆さんも危険なのだろう。


婆さんを追うナザニンにマンティコアが襲いかかってきた!


「お前の相手は私だ!」


マンティコアの前に飛び込んで顔面に一撃を入れた!

一撃を入れられたマンティコアが叫び声をあげる中でラウラは婆さんが投げ付けた小袋を拾い上げると僅かに残る猿の血を掬い自身の頬に塗った。

頬に3本の血の線が付くとラウラはマンティコアに向かって叫んだ!


「私がお前の相手だ!よく見ろ!認識しろ!」


マンティコアが新たに香る猿の血と一撃を入れられた相手に興奮し完全にラウラに狙いを定めたようだ!


「それでいい!相手は私だ!そして死ぬのはお前だ!」


ラウラがニヤっと不気味に笑った!




* * *



「お婆ちゃん、足速いなぁ〜」


そう思いながら、ナザニンは必死で追いかけた。

この広い屋敷の中を婆さんも必死で逃げている。


思うに逃げ回るだけで攻撃に出ない様子から、ナイフ以外は武器を持っていなかったのか?そう思った時、裏庭に出た。


「ここで良いだろう。さて……」


婆さんは足を止め懐から奇妙な笛を取り出すと拭き始めた。

これまた奇妙な曲を奏でると直ぐに小型の竜であるワイバーンが飛んできた!


「では殺ろしてやる!」


婆さんがワイバーンに跨がるとナザニンに向かって襲いかかってきたのだ!


そうか、婆さんは魔獣使いか!だからマンティコアも連れて来る事が出来たのか!


ワイバーンが口を開き襲いかかってくる中で躱しながらナスィームで斬りに掛かった!

しかし、ワイバーンの硬い鱗には、幾らアッパス・ロムが鍛え上げたナスィームでも少し傷を付ける程度で終わってしまった。


こんな時、自分もフォースが使えたら!

そう思ってしまうナザニンだったが使えないものは考えても仕方がない!

気持ちを切り替え方法を変える事にした。


「小娘の短剣は中々の業物のようだが残念だったな!」


「いや、残念じゃないよ!斬れなければ砕くまでだよ!」


「砕くだと?」


「うん砕く!」


「何を馬鹿な事を言っておるのだ!」


そう婆さんは叫ぶとワイバーンを操り再びナザニンに襲いかかってきた。


ナザニンはナスィームを鞘に収め、腰からいつ何時も肌身放さず持ち歩く亡き祖父の形見そして現在の自分の命と呼べる物を取り出した。


ワイバーンの攻撃をギリギリで躱し攻撃の一撃を放った!


ゴーン!硬い鱗に覆われた頭に当たった瞬間にワイバーンがガクっと崩れた。

そして更にゴーン!ともう一撃ワイバーンの横面に放った!


ワイバーンは完全に二撃で地面に崩れ落ちた。

気絶したのか死んだのか⁉︎今、ナザニンに分かる事はワイバーンが口から泡を吹いて倒れている事であった。


「小娘……お前何をした?」


「だから砕いたんだよ、私には斬れそうになかったから!」


婆さんがナザニンの手元を見ると何かを握っていた。


「お婆ちゃん、良い剣を作るには良い道具が必要なんだよ!」


ナザニンの手にはアベルが持つカムシン、ラウラが持つハブーブ、ホリー・テランが持つサラーブそして自分のナスィームなどの名剣を生み出したハンマーが握られていた。

幾ら硬い鱗でもハンマーに殴られれば耐えられるはずもなく、まして名工アッパス・ロムの愛用のハンマーである、長年の作業でハンマー自身も鍛え上げられ硬度も桁違いに増しているのである。


「じゃあ、お婆ちゃんの番だね!」


「ああ、私の負けだ!殺せ、それが勝者の特権だ!」


ナザニンは何故か違和感を感じた。

あまりにも潔過ぎると……。

まだ何かを隠しているのか?と思った時だった。


「ナザニン〜、殺ろしちゃダメ〜!」


カミラの声が聞こえてきた。


「この戦いには意味もない。無意味な戦いだよ!」


どういう事だ?無意味って?少し混乱しながらカミラから事情を聞いた。


「だから、この戦いも暗殺自体も全く無意味なんだよ!お婆ちゃんも事情が飲み込めた?」


「だとしたら私はなんて事をしてしまったのだ!あの大きい方の娘が危ない!」


顔を青ざめる婆さんから、そう聞いたカミラが改めてラウラがこの場にいない事に気づき、そしてナザニンに聞いた。


「あれ⁉︎ラウラはどこ?ドルマ様の部屋には居なかったけど……」


「今、マンティコアと戦ってる……」


急いでラウラを探しに走る2人と婆さんだった。




* * *



「こっちだ!私を食いたければ着いてこい!」


小袋を翳しながらのラウラの超人的な足の速さに難無くマンティコアが着いていき、更に攻撃まで挟んでくる。


それを躱しながらラウラには目指す場所があった。


中庭!あそこなら自分の戦い方がフルに出来る、そう考えたのだ。


そして中庭に着いた。


「よし、ここがお前の墓場だ!殺ろしてやる!」


そう言うと背中に背負っていたハブーブを抜くとマンティコアに向かって構えた。


マンティコアも改めて品定めをするようにラウラを睨みグルグルと威嚇の鳴声を放った。


魔獣を相手に戦う時には鉄則がある。

絶対に魔獣の目を睨みながら戦わなければならない。

そして少しでも気遅れすれば一瞬で殺される。

要は気迫で絶対に負けてはならない!

それが第一条件なのだ!


睨み合いながら自分の攻撃に最適な立ち位置を探るようにラウラが左回りに動く。

幸いにしてマンティコアは飛ぶ様子もなく地上に降りたままだ。


だが、位置取りを見透かしていたのかマンティコアが毒のある尻尾による攻撃を仕掛けてきた。


それをラウラがハブーブで弾くと直ぐに前脚の爪による攻撃に出てきた!

左、右と連打に出て、恐らくは次は噛みつきによる攻撃に出てくるだろう!そうラウラには分かっていた。


連打を躱すと、やはりマンティコアが噛みつきにきた!


だがラウラは前進し頭の動きが上から下へのマンティコアの噛みつきにカウンターを仕掛けるように下から上への頭突きを顎に向け放った!


上手くマンティコアの顎に頭突きがヒットし一瞬グラっとした瞬間にラウラが得意に斬撃に出ようとハブーブを遮二無二に構えた時、再び尻尾による攻撃が迫ってきた。


ラウラは動じず、そのまま斬撃を繰り出し尻尾を斬り落とした。


叫び声をあげるマンティコアがラウラを見た時、顔は鬼!を想像させるに相応しい表情を浮かべていた。


殺す!慈悲も無い、ただ殺す!殺す!

そういった表情だ!

小麦色の肌は何時しか赤くなり全身に鬼気を纏っていた。

整誕な美しい顔がマンティコアに向かって殺気を放つ!

1匹の野獣と化した姿と形容した方が相応しいかもしれない。


そんなラウラを見たマンティコアは人間なら思ったかもしれない。


とんでもない奴に喧嘩を売ったのかも……


突然、マンティコアが後方を向いて走り翼を広げた。

自分よりも遥かに小さな人間に恐怖したのである。

魔獣でも動物でも優先事項がある。

それは生への執着である。

勝てない相手とは戦わない!

それが絶対のルールなのだ!


このマンティコアは砂漠の街で戦ったマンティコアよりも遥かに賢かったのであろう。

生き残りを優先したのだから。


だが選択が遅すぎた。


野獣化したラウラに息を吸う間も無い程のスピードで追いつかれ、右の翼を斬り落とされた。

そして、ラウラがあっという間に前に出たかと思うと左前脚を斬られた。


翼を斬り落とされ前脚を斬られ、このマンティコアの死が決定したのだ。


「ラウラ!大丈夫か⁉︎」


アベルだった。


その時だった、一瞬気を取られたラウラにマンティコアが生き残る為に最後の攻撃を仕掛けたのだ。


残った力の全てを費やしたように口を広げラウラに嚙みつこうとしてきたのだ!


「アベル、少し待ってくれ!終わらせる!」


ラウラが右腕一本でハブーブを操りフォースを込めた一撃を放ち、マンティコアの首を刎ね飛ばした。

首を失なったマンティコアから滝のように血が溢れ出し、首が宙を舞い、そして落ちた。


「皆は大丈夫か?アベル」


「ああ、レイシアは大丈夫!それにカミラの方にはゲイシーが行ったから大丈夫だろう!」


「そうか良かった!」


「それにしても、マンティコアを1人で倒すって凄いな!ラウラ」


「たまたまだ!それよりも姉様も暗殺者と戦っているんだ!早く応援に行こう!」



だが、そんなラウラの心配も帰趨に終わった。


ナザニン、カミラそして何故か暗殺者の婆さんまで一緒に中庭までやってきたのだから。


それからラウラはカミラから今回の事情を聞き婆さんからの土下座と1人でマンティコアを倒した事への驚きと賞賛を受け、この夜の事は全て終了した。







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