ややこしく
あのエミリオ達コソベのおかげで、俺達は現在ムフマンド国と最初の街の中間地点手前辺りにいる。
やはり俺の表情が暗いのか皆が気を遣って喋って来ず、俺自身も正直、皆を引っ張っていくなんて出来そうに無かったから代わりをラウラが務めてくれていた。
そんなラウラを見てかカミラとレイシアが俺に言って来る。
「ねえアベル、何て言うか、知り合いだった人が亡くなって悲しむのは分るけど、ラウラの為にも頑張ってよ!」
「そうですよアベルさん!あの無口なラウラが頑張っているんだから!」
そう言って来る2人には軽い笑顔を返すが俺の気持ちは正直重かった。
彼らコソベ達が俺達の為に死んだ事も理由にあったが、もう1つエミリオが最後に言った言葉が頭の中から抜けなかったのだ。
なあ、俺・・・・・次は、どこに転生するのかな・・・・・・これで終わりかな?
そんなエミリオの言葉だった。
これはコソベ達が言う勝ち組らしい俺の思う事だが、もう転生なんてしたくない!そう思った。
俺は現在はアベル・ストークスなのだ。
もう過去の自分等振り向こうとも思わない!
ディンが言ったとおり、この世界で充実しているからなのか?俺がアベル・ストークスだから?
嬉しい反面怖さ半面、正直、今は怖さの方が勝っていた。
もし死んだら転生があったとしても、メリッサやリーゼ、そして今いる仲間達とは2度と会えないのだから。
「あそこの岩陰で少し休もう!私が見張りをするから皆は休んでくれ!」
ラウラが皆に言うが、さすがカミラとレイシアが自分達がやると言いラウラが引き下がった。
「ラウラ、ごめんな・・・・・疲れたろ」
「いやアベル、気にするな!」
「ありがとうな」
「知り合いが死んだ、落ち込むさ!」
そんなラウラの言葉に俺は、ふと聞いてみたくなった。
今の俺が何者でラウラはアベル・ストークスだと認識しているのかを。
言葉は変だが聞いてみたくなった。
「なあラウラ・・・・・俺は一体何者なんだろうな?」
「・・・・・アベル、何者ってどういう意味だ?」
「いや、ふっと思ってさ、ただそれだけだよ、悪かった」
「アベルはアベルだ!それ以外は何者でもない!それに・・・・・」
「それに?」
「いや・・・・・何でもない、気にしないでくれ!」
久々、ラウラの顔が赤くなった、それに釣られて俺も赤くなった・・・・・・
「マンティス!汚物・・・・・いやラウラと仲良くしているところ悪いんだけど、客のようだ!」
ゲイシーがニヤつきながら俺に言ってきた。
こんなバカな言い方をしてくれる友達なんて、転生したらいないだろう・・・・・それに前の俺には、こんな友達なんていなかったのだろうなと客が来たのに呑気に思ってしまった。
だが、俺がどうのこうのよりも今は仲間の為に行動しなければならない。
「カミラ、レイシア!ムフマンド国の兵か?」
俺がカミラとレイシアに聞くと2人は頷き指を指すが、どうも変な疑問を持った顔をしている、俺も観てみると何故か敵ムフマンド国兵100人と貴族らしき婆さん、そして着飾った20歳前半の少々小柄な若い男が白旗を掲げて、こちらに向かって叫んできた!
「我はムフマンド国第3王子アイヤンガーである、交戦の意思は無い!その方らと話しがしたい!」
交戦の意思がなくともドルマを引き渡せって言うつもりか?
あっちが無くても、そう言えばこちらは即交戦なのだが!
「じゃあ何の要件だ?ドルマ様の引き渡しに関しては一切の要求に応じないぞ!」
「ドルマの話は知っているが、我には興味は無い!用があるのはラシムハという女の方だ!」
皆が一斉に見たラシムハが、なんで私?って顔をしたが俺達も同様な顔だったろう。
「ラシムハに何の用だ!」
「その子は我の妹ゆえ父の遺言を持ってきた!話しを聞いて欲しい!」
妹だって・・・・・また一斉にラシムハを見たが、本人はパニック顔をしていた。
とりあえずドルマとは関係なさそうなので条件を付けて話を聞くことにした!
「分かった!とりあえず、お前とその貴族の婆さんだけなら話を聞くが、それで良いか?その際は兵達を300Mは下がらせろ!それが条件だ!」
アイヤンガーと婆さんが話し合って暫らくしたら返事を返してきた!
「分かった!それでいい!」
それからアイヤンガーと婆さんだけが来て兵達が下がっていった。
「まずは話を聞いてくれた事に感謝する。改めて紹介させてもらうが我はムフマンド国第3王子アイヤンガー、そしてムフマンド国南方を治める貴族のラクシャータ、我の支援者であり祖母にあたる方だ!」
「で、ラシムハが妹って、どういうことだ?」
「まず話の前に、その子が持っている剣と笛があるはずだ!見せてくれないか?」
そう言われたラシムハが恐る恐る剣と笛を見せるとアイヤンガーがマジマジと眺めて婆さんにも見せて確認した。
「間違いない!これはパールの剣と笛だ!」
婆さんが、そう言うとアイヤンガーがラシムハに言った。
「我が妹ラシムハよ!迎えに来たぞ!」
そしてラクシャータが話してくれた。
元々、ラシムハの父はラクシャータの息子で先に亡くなったムフマンド国国王の傍近くに仕えていたが気に入られて側室に召し上げられ生まれたのがアイヤンガ―らしい。
そこまでは良かったが、偶々下人だったラシムハの母と恋仲になり手を付けて生まれた子供がラシムハという事だ。
だが、ラシムハが生まれて4年後にムフマンド国王にバレて嫉妬に狂いラシムハの母とラシムハを殺そうとした為、ラシムハの父がエルハラン帝国に逃がしたらしい。
その時に与えたのが剣と笛だそうだ。
「父が遺言でラシムハとその母の面倒を見てやってくれと残しておってな、だから迎えに来た!」
「どうしてラシムハがムフマンド国に戻って来た事を知った?」
「それは簡単だ!万が一、帰って来た事に備えてラシムハの母の実家近くの者に帰って来たら知らせてくれと頼んでおったのでな!それにエルハラン帝国にも手下の者を出して探させておったが見つからないので死んでおるか、又はムフマンド国に戻ってくるだろうと考えておったのだ!だが使いの者が迎えに行ったのは良いがおらんではないか!調べてみたら検問所を突破して後だと分ったので急いで追ってきたのだ!」
ラシムハから聞いた話とラクシャータの話とすり合わせれば辻褄は合う。
「ラシムハどうする?迎えに来てくれたってよ!」
悪い話じゃない、迎えに来てくれるほどだ、そんなに悪い人間達でもなさそうだ!
後はラシムハの意思で選べばよいと思っているとラシムハが泣き出した。
「冗談じゃない!私と母がどんな思いでいたかアンタ達に判りますか?母が死んだ時薬も無くて治療もされずに死んでいったんですよ!私はスリとカッパライまでやって生き抜いたんですよ!守ってくれなかった父の事なんて知りませんよ!」
「それは済まぬと思っておる、だから今後我がラシムハの将来を考えるゆえ我らの父を許してやってはくれぬか?」
ラシムハが号泣を始めた為、俺から提案する事にした。
「アイヤンガー殿下、今夜は我らも適当な所で野営しますから暫らくラシムハに時間を作ってやっては貰えないでしょうか?いきなりでは本人も考えが付かないかと思いますが!それとドルマ様には本当に?」
「あい分った!確かにそうだな!それから安心して欲しいドルマには興味は無い!ムフマンド国は我が実力で奪うゆえ必要とせぬ!それに我には既に許婚もおるから安心いたせ!」
それから適当な場所で野営し俺達はラシムハの意思を聞くことにした。
「ラシムハ、悪い話じゃないと思うぞ!少なくても心配して来てくれたんだから!」
「でも納得いきません!私は兎も角も母はどうなるんですか?」
「まあ、お前の気持ち次第だけど婆ちゃんと兄ちゃんとでゆっくり話してみるのも良いと思うぞ!」
取りあえずラシムハをアイヤンガ―達が野営する所に送って行き3人で話をさせた。
俺はラシムハには悪いが、この話が上手く使えないか考えていた。
まず南方のアイヤンガ―が俺達に追いついてきた疑問から考えた。
恐らく抜け道的な場所があって通って来たから俺達に追いついて来たのだろう。
そしてドルマに興味がないならローヴェに行くのに協力を願えないかと思った。
南だから海沿いの領地って事だ、これから先の魔物やイスハラン帝国の刺客達の事を考えると一旦ムフマンド国に戻ってラクシャータの領地から船でエルハラン帝国に行く方が安全かもしれない!
だが、そんな事を考えていると俺はとんでもない事に気がついた。
アフマドさんの墓参り行ってない・・・・・
ドルマ達やコソベの事があって、すっかり忘れていた・・・・・
恐らくラウラもナザニンも、いや他の皆も気が付いていたが俺に気を遣って言わなかったのだ・・・・・最悪だ・・・・俺は。
急いで野営している場所に戻るとラウラはナザニンと地図を見ながら協議している最中だった。
「ラウラ!本当にごめん!俺・・・・・自分の事ばっかりでラウラの事を忘れてた!ごめん!」
「どうしたアベル、何がだ?」
「アフマドさんの墓参りにムフマンド国に行ったのに・・・・・」
「ああ心配するな!墓は逃げないさ!いつでも行ける!」
「いや行こう!今から行こう!」
「アベル、何を言っているんだ?もう私達はムフマンド国を出たんだぞ!」
「いや、まだ何とか出来る!」
次の日、俺はアイヤンガ―とラクシャータに領地から船でエルハラン帝国に送ってくれないかと頼んだ。
最初、その話をした時は2人は露骨に嫌そうな顔をされた。
ドルマの事は興味が無くても関わり合いになりたくないのだろう、今はまだ敵は増やしたくないのだろう。
「何とかお願いできませんか?」
「まず2つ聞きたいのだが、何故お主らは、あのドルマに肩入れするのだ?」
「最初は金で雇われたにすぎません。ですが、これも何かの縁です、乗り掛かった舟を見捨てる事は出来ません!」
「そうか・・・・・もう1つ、お主らの仲間の女達の格好・・・・・あれは何だ?踊り子の類か?」
「は!?・・・・・踊り子と申されますと?」
「ほれ!肌の露出が多い格好ではないか!目のやり場に困るのだ・・・・・正直に言うと兵達も困っておるのだ・・・・・」
俺やゲイシーは、もう慣れているから大丈夫だが他人から見ると確かに興味を引くよなあ・・・・・
「ああ、彼女達はテアラリ島3国の者達でございます!」
「ほう!あれがテアラリ島3国の・・・・・これも縁か・・・・・あい分った!アベルと申したな、了解した!それに亡き父の故郷をラシムハに見て貰う機会かもしれん」
「ありがとうございます!アイヤンガ―殿下、ラクシャータ様」
交渉は上手くいき俺達はムフマンド国に引き返すことになった。
南のラクシャータの領地に入れば安全が保障されたのだ。
だが、そんな早計な考えは甘かった。
引き返しだして3日後、俺達の前に別のムフマンド国兵達が現れた!
「おい、そっちにドルマなる女がおるだろう!こちらに引き渡せ!」
いきなりの命令口調でアイヤンガ―と同じ位の歳の大柄な着飾った男が兵200人程を引き連れて叫んできた!
「アジダ!この者達は我の客人だ!お前のような下世話な男に客人は渡せぬわ!」
「ぬ、お前、アイヤンガ―か!己・・・・・弟の分際で何を言う!」
「只が3年早く生まれただけで兄面か!生まれた順序よりも能力で語れ!」
「クソ生意気な!我の鍛えし親衛隊の力を見せてくれるわ!アイヤンガ―をぶち殺せ!」
こうしてアイヤンガ―とアジダの戦いが始まった。
さすがに100人VS200人ではアイヤンガ―が不利なので俺達も加勢する事にしたが、アジダの親衛隊というだけあって中々に強いし連携も整っていて1人では俺達に勝てないと判断すると5人掛かりで攻めて来る巧妙さだ。
特に親衛隊隊長なのだろうか、大男がゲイシーと一騎打ちで互角の戦いをしていた。
パワー負けしていないのだ!初めてゲイシーと互角の戦いをする男を見た!
そんな中でアイヤンガ―とアジダが一騎打ちを始めた!
その時、俺はアイヤンガ―が叫んだ言葉に耳を奪われた!
「我の神聖ヤマト皇国の剣術を得と味わうがいい!」
神聖ヤマト皇国の剣術だと!?アイヤンガーも使えるのか!?
だが確かに正眼の構えをするが後が良くなかった・・・・・
完全に屁っ放り腰で打ち掛かり、直ぐにアジダに躱されていた・・・・・
しかしアジダの方も完全に屁っ放り腰剣術で、まるで子供のチャンバラ遊びの様相を呈していた。
だが2人には体格差があり次第にアイヤンガ―が押され出した。
そしてアジダに突き飛ばされアイヤンガ―が転んだ時、アジダが大降りに斬り掛かった!
「死ねアイヤンガー!」
俺は何とか周りの敵を振り払いアイヤンガ―に振り下ろされたアジダの剣を受け止めた!
「神聖なる一騎打ちに助太刀など卑怯だぞ!」
「卑怯?そういうセリフは戦いにおいては馬鹿の言うセリフだ!」
俺はアジダを殺そうかと思ったが人質にとって、この場を脱する事に決めた!どう考えても親衛隊相手に不利だからだ。
右の剣のみで巻き込み技、神聖ヤマト皇国の剣術で云えば昇竜でアジダの剣を奪い、左の剣をアジダの首に当てた!
「動くな!動けば、コイツを殺すぞ!」
アジダにも親衛隊達に武器を捨てるように言わせ、親衛隊の馬達もアイヤンガ―の兵達に追い払らわせた。
「コイツは抵抗しなければ適当な所で解放する。お前ら親衛隊は西に向かって3KMほど歩いてから、ここに引き返してこい!もし俺達の視界に1人でも入ったら、即コイツを殺すからな!」
それから直ぐにアイヤンガ―達にも出発を促し俺達はラクシャータの領地に向かう事にした。
アジダは2時間後に開放し、そして馬を走らせた。
アイヤンガーはアジダに勝てなかった事が悔しかったのか黙りきりになってしまった。
5日後、俺達はラクシャータの領地に続く抜け道の前に辿り着いた!
だが、その時アイヤンガー自身、ここまで来れば大丈夫だと判断したからなのか俺に聞いて来た。
「アベルに聞きたい事がある。アジダに使った剣技の事だ!」
「どんな剣技でしたか?」
「昇竜だ・・・・・その方、神聖ヤマト皇国の剣術を習っておったのか?」
「少しだけですけど、確かに習っていました!」
「そうか・・・・・すまぬが・・・・・その・・・・・我に教えてくれぬか?」
「はあ?何をですか?」
「神聖ヤマト皇国の剣術をだ!」
「ええ、俺がですか!?」
「そうだ頼む!教えてくれぬか!我も年少の折に習っておったのだが師匠の都合で中途半端なのだ!
一応師匠が書き残してくれた書物もあるのだが、読んでも年少の折の事でさっぱり理解出来んのだ!」
ん?書き残してくれた書物・・・・・どこかで聞いた様な・・・・・・
「あの・・・・・アイヤンガ―殿下・・・・・殿下の師匠の名前は?」
「我の師匠の名はアフマド・ロムだ!神聖ヤマト皇国で直に修業された方なのだ!師匠のお父上も凄い方でな、聞いて驚け!あの名工アッパス・ロムだ!どうだ驚いたか!」
・・・・・違う意味で驚いた・・・・・ナザニンを見ると、そんな話は知らん!って感じの顔をして驚き、ラウラを見ると完全に話の展開が読めません!って感じの顔をしている。
そして更に俺達が驚愕する事実をアイヤンガ―が顔を赤くしながら言った。
「我の許婚も師匠の娘なのだ!ナザニン・ロムと云うのだ!だからドルマには申し訳ないが興味は無いのだ!」
ナザニンが顔を引きつらせながら退け取り、そんな話は聞いてないよ!って感じの顔をしていた。
これはナザニンの為にも聞いた方が良さそうだ、惚けながら聞いてみた。
「殿下、その許婚様とは会われた事はあるのですか?ナザニンさんと?」
「ああ、彼女が片言の言葉を喋り出した頃に一緒に遊んだのだ!その時に彼女と結婚の約束をした!」
「ですが失礼ですが、年少の折の事では・・・・・・」
怒って来るかなと思いながらも言ってみると、意外にも笑顔でアイヤンガ―が返事を返してきた。
「かもしれぬな!だが我もムフマンド国の王子だ!一度した約束は守らねばならぬ!勿論ナザニンに強制する気は無いのだがな!」
約束したからと自分が政治的に有利になるドルマを目の前にしても手は出さない。
しかも、その約束を強制する気もない。
・・・・・なんて男前だ!
「我の話は、ここまでにしてアベルよ!我に剣術を教えて貰えるのか返事を貰っていないのだが・・・・・」
ここまで聞かされては断る事など出来なかった・・・・・
それにナザニンとラシムハそしてドルマの為にもアイヤンガーの心証は良くしておきたい。
「分かりました、殿下!しかし私の稽古は厳しくなりますが宜しいでしょうか?」
「是非望むところだ!宜しく頼む、師匠!」
「・・・・・・・師匠って俺の事ですか?」
俺は自分が師匠と呼んでも呼ばれる事は想像していなかったので焦ってしまった・・・・・・
「教えて貰う立場だからな、呼んでは不味かったか?」
「・・・・・師匠ですか!」
「いやなら先生とかで呼んだ方が良かったか?」
「・・・・・先生ですか!」
アイヤンガーが俺の顔を希望に満ちた顔をして眺めていた・・・・・
「殿下、変わった人ですね、俺をそんなふうに呼びたいなんて・・・・・」
あの時のリューケの気持ちがよく分った。
だが俺達にとって良い方向に流れた半面、ややこしくなった事も事実だ・・・・・・




