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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第4部 ムフマンド国編
48/219

過去との決別

俺の目の前でガツガツと食っているヤツがいる。

チャンドニーがあからさまに嫌そうな顔をして俺に訴えって来ているのが分る。


なんでコソベなんか連れて来たのよ!って顔だ!


俺は、すいません!とゼスチャーを送るのみ・・・・・


「ふう食った!ありがとよ!まともな飯なんか食えるの5年ぶりだよ!」


「食ったなら俺の質問に答えて貰おうか!、まずは、お前の記憶は消えていない件だ!」


「ああ、何でも答えるよ!」


「お前、こっちに来てから、どんな生活してたんだ?」


「部屋に閉じこもってたよ、そしたらこっちの親に追い出されたんだ!クズとか言われて!酷いだろう!」


「閉じこもって何やってたんだ?」


「何もしてねえよ!ただボーっとしてただけかな!ネットとか無いから仕方なく!」


「・・・・・そっか」


何と無くだが自分の事のように恥ずかしくなってきた・・・・・

この世界は実力本位だ!だから役に立たないヤツは放り出されても仕方が無い。


「お前、どうして知ってたんだ、その・・・・・こっちの生活が充実すると前の自分の記憶が無くなるってのを?」


「俺も話に聞いただけだよ、そう詳しくはないよ!勝ち組の奴らの事は!」


「・・・・・そっか」


「でも、聞いたところによると結構多いらしいぞ!前のスキルを使って成り上がって勝ち組になった奴って!」


「例えば、お前の知ってる中では誰だ?」


「ほら、あいつら名前なんだっけ・・・・・えーと何だったかな・・・・・仲間に聞いておくよ!」


「頼むよ、じゃあ、お前、前の記憶はどの位残っているんだ?」


「例えばさ、前の世界でPCなんか自作してたんだけど、どうやって作ったとか、どんな部品を使ったとか、原理がさっぱり思い出せないな、後はネトゲとかフィギアなんかは存在は覚えてるけど具体的には霞が掛かったみたいに思い出せないな!ああ、でもネトゲの名前は覚えてるよ!ファイティーファンタジアやってたんだ!」


「それは微かに覚えてるよ・・・・・俺も一時やったような気がする・・・・・」


「本当か!ファイティーファンタジアやってたのか!」


それから上田元治のネトゲの自慢話が始まった。

どこそこの攻略はどうとか、ギルドのトップをやってたとか、どんなに金を賭けたとかなどを熱く自慢げに語り出した。

恐らくは俺もこんな感じだったのかな、ああ、そういや俺、なんかで『脳内お花畑』って言われて晒されたんだ、もう理由すら思い出せないけど。


「で、今のディン・ツイハは何やってんの?」


俺は敢えて、上田元治ではなくディン・ツイハと現在の名前で聞いてみた。

すると調子良く語られた自慢話が止まりポロポロと泣き出した。


「何も出来なかったよ・・・・・・死んで転生してやり直してカッコ良く爽やかに生きて可愛い女の子と旅をして結ばれて、そんな希望は早々と絶望に変わったよ・・・・・良いよな、お前は幸運だよ、勝ち組だものな」


誰が幸運だと!一瞬、殴ってやろうかと思ったけど辞めた、確かに俺は幸運かもしれない。

アルやヘレンの子に生まれ、メリッサとリーゼという同じ転生者と身内になり、師匠やジーナス、リューケ、ラウラやその他の人達に出会わなかったら俺もコソベになっていたかもしれない。


「幸運か・・・・・確かに俺は幸運かもしれないな。だがディンにもあったはずだ!目の前にあったはずだ!掴もうとしなかっただけだろう?」


「そんな事は分ってるよ・・・・・出来なかったんだ!怖くて恐ろしくて、あれほど魔物を倒して旅をしてなんて世界に憧れたのに、いざなってみると怖かったんだ!俺は元は、ただの引きこもりのオッサンだよ。

外にすら出れなかったよ・・・・そんな人間が何も出来る訳ないよ・・・・・」


「いや出来たね!ディンはやらなかっただけだ!怖い?誰だって怖いよ!いつ死ぬか分らない危険なんて、この世界には何処にでも転がってるよ!お前は、いやコソベ達は一歩が踏み出せなかっただけだね!

引き籠ったままじゃあ、前の世界とどこに違いがあるんだ!」


ディンは、それから喋らなくなった。

もう、こんな状態じゃ聞くのは無理だろう。


「じゃあ、その勝ち組の名前が分ったら教えてくれ!礼はするから」


それからチャンドニーに料金の倍を払おうとしたけど受け取っては貰えなかった。

昨日の金貨を気にしたのだろう。

だが、最後にしっかりと言われた。


「アベルさんは大歓迎ですけど、コソベはちょっと・・・・・」


俺が謝りながらチャンドニーの店を出ると先に出ていたディンが礼を言ってきた。


「ありがとう・・・・必ず聞いておくよ!それでなんだけど・・・・・・」


「なんだ?」


「出来れば金をくれないか?いくらでもいい!生活に困ってて・・・・・」


どこまで人に頼ろうとしてるんだ・・・・・たかる気か・・・・・


「あのなぁ、俺は確かにお前に仕事を頼んだ!だが、それは契約だ!実績を上げてから言えよ!」


そう強めに言ってやると、ちょっとオドオドしながら逃げて行った。


宿屋に戻ってラウラに心配されながら考えてみた。

かなり思い出せない事が多い、前の自分の名前もだけど身内の事すら完全に忘れていた。


嬉しさ半分怖さ半分だな・・・・・・もう少し経てば完全にアベル・ストークスって事か。

まあ考えても仕方がない、いずれ時が来ればわかるさ!


それからは、また調査の日に戻ったが、日数が経過してもディンは来なかった。

逃げたかと諦めた時、ディンではなくムンドナン宮殿から警備の者達が多数、俺達を訪ねてきた。


初め、スパイ行為とでも言われるのかと焦ったが、ドルマを警備して来た事について尋ねて来たのだ。


「彼らは貴方達と、どこで知り合ってどんな事を頼まれましたか?」


別に隠す必要もないだろうと思い正直に言う事にした、変に嘘を着いてラージ達と辻褄が合わないと言われかねないからだ。


「ムフマンド国とエルハラン帝国の中間地点の街で護衛を頼まれて送り届けただけですけど!」


「そうですか、特に変わった感じとかは無かったですか?」


「いえ特には!金もキッチリと払ってくれましたから、こちらとしては不満もありません!」


「そうですか、ご協力ありがとうございました!」


「何か彼らにあったのですか?」


「いえ何も!では良い旅を!」


特別、疑われる事も無く終わったが、ドルマ達に何かあったのか気になる。

しかし、これ以上首を突っ込むのも躊躇するが・・・・・・


「調べてきましょうか?アベルさん!」


「そうだな、行きがかった事だしラシムハ調べてくれるか?でも宮殿の中だぞ、調べられるのか?」


「アベルさん、世の中何でもこれ次第ですよ!」


ラシムハは親指と人差し指で輪を作ると颯爽と調べに行った。

13歳の女の子の方が余程コソベよりも世の中を理解しているのだ、コソベが恥ずかしく思えて仕方が無かった。


それから俺は残りの皆に3日だけ出発を遅らせると伝えた。

ラシムハが調べて万が一に備える時間から計算した事だ、それに俺自身がディンを待ちたい気持ちもあったのかも知れない。


そして2日後ラシムハが情報を掴んだ!


「どうもドルマ様達、王宮内で監禁されているみたいです!」


「どうして?何か不味い事でもあったのか?」


「いやドルマ様達がじゃなくて、あくまでムフマンド国の事情みたいですが王位継承問題が絡んでいるみたいです!」


「どんな事情で!?ドルマはムフマンド国の王位継承問題とは関係ないじゃないか!」


「それが宰相様が4人の王子達の内の1人とドルマ達を結婚させないようにする為にみたいです。ムフマンド国の王族の血を引くドルマ様と結婚しちゃえば1人が有利になっちゃうって理由らしいです!」


「なるほど、パワーバランスが壊れて内乱が始まるって事か!」


その情報を聞いたラウラ、カミラ、レイシア、ゲイシーが何故か戦闘準備をし始めた。


「ちょっと何やってんの?」


「何やってるって助けに行くに決まっているだろう!」


ラウラが平然とした顔で答えると他の3人も、当然です!って顔をしやがった・・・・・

ムフマンド国一国を相手に戦うつもりか・・・・・


「良いですか、まだ監禁されているだけです!俺らで勝手に動いちゃうとドルマ達に危険が及びます!それにドルマ達も考えがあって監禁されている場合もありますから!駆け引きをやっている場合もあります!」


「じゃあ、どうするんだ?このまま待つのか?」


確かに、このまま待っていて時既に遅しはごめんだ。

だがドルマ達の意思が知りたい!

果たして助けて欲しいのか?それとも、このまま王子と結婚したいのかを。


「取り敢えず、潜入する方法を考えるから、ちょっと待ってて!」


誰か潜入してドルマ達の意思を聞いて来てくれれば・・・・・・


やっぱり俺が直接行くか!


「ラシムハ、直ぐにドルマ達が王宮のどの部屋に監禁されているか調べてくれ!夜になったら俺が潜入して来るから!」


「分りました!それくらいなら直ぐに分ると思います、けどアベルさんが潜入しなくても大丈夫ですよ!」


「え、なんで?」


「だから、これ次第ですって!手紙さえ書いてくれれば、意思の確認は出来ると思いますよ!」


またラシムハが親指と人差し指で輪を作って笑顔で言った!

変に頼もしいヤツだ!


「分かった!じゃあ多い目で良いから買収してやれ!手紙も直ぐに書く!あ、それから宰相の屋敷の場所も調べてくれ!」


それから手紙を直ぐに書いてラシムハに渡し買収しに行った。

でも、考えてみたら簡単に買収できるって事はムフマンド国はかなり統制が執れていないって事だ。

きっちりと運営している国の家臣なら買収などされないし忠誠心も高いはずだ!


夜になり直ぐにラシムハが手紙を携えて帰った来た!

読んでみると、やはり王宮に入って直ぐに監禁されたらしい。

しかも助けまで求めていた。


「ここまで解れば十分だ!助けるか!ラシムハ馬と馬車を揃えてくれ!それから出立する準備を!」


「了解、じゃあ私達は直ぐに王宮だな!」


「いや俺達は朝に公務に出て来る宰相の馬車を襲う!そして人質にする!出来るだけ人は殺したくないし要はドルマ達が国外に出さえすれば良いんだろ!その宰相相手に交渉してみよう!もし決裂したら一暴れするさ!」


それからラシムハを除く者達で屋敷から出て来る宰相を待って人気のないところまで来た時に襲う事にしたが、こんな大国の宰相なのに馬車でもなく従者もおらず、たった1人で宰相が馬に乗って出てきた。


老人が1人で暗い顔をしながらトボトボと馬を進めている。

他に護衛でも隠れているのかと思ったがいないみたいだ、この国はどうなっているんだ。


取り敢えず、皆を待機させて俺1人が宰相と話をしてみる事にした。


「おはようございます!良い天気ですね!」


「ああ、おはようございます」


「あのムフマンド国の宰相閣下ですよね?」


「そうですが、暗殺ですか?私を暗殺しても大した事にはなりませんよ」


えらく胆が据わっている・・・・・・それなら本音で交渉するか!


「実は俺、ドルマ様達を護衛して来た者なんですけど、率直に申しますとドルマ様を解放して頂けませんか?」


「唐突に朝から申し出ですか?国事に関わる事を!」


「しかし、ドルマ様達を置いておいても王子達や貴族達の権力争いの道具にされるだけでしょう?それとも御自分が権力を握られるおつもりですか?」


「この国の権力なんか握ったところで直ぐに殺されるだけですよ、私も後少しは生きたいですから!」


「じゃあ解放される方が宜しいのでは?」


宰相は俺の顔を見ながらため息をついて切り出してきた。


「じゃあ率直に御聞きしますが、貴方はあの姫をどうなされるおつもりか?」


「実は俺、グラーノ・ヴェッキオと少し知り合いでして彼の所有する国に彼女を引き取ってくれるように頼もうと思います!そうすればムフマンド国ともドルマは関係なくなるでしょう!」


「亡命させるって事ですか?」


「そうです!信用できませんか?」


「はっきり言えばそうです!」


「じゃあ内密なんですが俺の現在の身分を言いますね、俺はテアラリ島3国の共通騎士です、噂くらいは聞いた事があると思いますがテアラリ島3国は誇りを重んじます!その誇りに掛けて宰相閣下にお誓いしますよ!」


「そんな遠方の国の名前を出されるとは!まあ信用しましょう!ですが我々もただ監禁していたわけではないのです」


「と、言うと?」


「既にドルマ様達の事は王子の1人に知られているのです!引き渡せと要求されていて我々も白を切っている最中なのです、ですから貴方がドルマ様達を連れ出しても恐らく追手が掛かる事になりますが大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です、何としてもグラーノ・ヴェッキオの元に連れて行くようにします!」


「では私からもグラーノ・ヴェッキオに親書を御書きしましょう!」


「いえ結構です、万が一、俺達が失敗したとしたら、親書が露見すると大事になりますので!」


「益々信用出来そうだ、では宜しくお願いします」


こうして即日にドルマ達は解放されたが、人数の都合上取り敢えずはドルマとラージだけに絞り出立する事にした、後の者達は宰相の屋敷で引き取ってもらい、ドルマ達が落ち着けば合流して貰う事にした。


こういうのは出来るだけ早い方が良い!

急いで出立し敵の態勢が整わないうちに行動を起こす方が良い。


そして出立しようとした時、馬の上で声を掛けられた、ディンだった。


「この国から出るのか?」


「ああ、もう要は無いからな!」


「聞いて来たよ、勝ち組の名前!」


「そうか、なんて名前だ?」


「ミュン・ローゼオとスノー・ローゼオだ!姉妹らしいぞ!」


「え・・・・・あのローヴェのか?」


「ああ、そうらしいよ俺は詳しくは知らないけど仲間の1人が元は知り合いだったらしい、それから・・・・・」


「なんだ、まだいるのか?」


「いや、これはそうじゃないかって話で確定じゃないんだが・・・・・・」


「とりあえず聞いておくよ!」


「グラーノ・ヴェッキオがそうらしいんだ・・・・・・」


「それマジか・・・・・・グラーノ・ヴェッキオが!?」


「いや、あくまで噂だから・・・・・」


「そうか、本人に聞いてみるよ!ありがとな!」


「なあ頼みがあるんだが・・・・・・・」


「なんだ?」


「俺も連れってて貰えないか、俺もこんな生活から脱出したいんだ!」


「死ぬぞ・・・・・俺はディンを守らない、自分で自分を守れるのか?人を殺せるか?魔物に襲われても1人で倒せるか?出来るなら連れて行ってやるよ・・・・・・但し足手まといになったら直ぐに俺はディンを殺す!俺もディンに足を引っ張られて死にたくないからな!」


「・・・・・・」


そう言うとディンは顔を真青にして俯いてしまった。


「なあディン、俺達は前の世界ではどうしようもないクズだった!でもクズでも必死に生きればなんとか立ってられる!そういうヤツが勝ち組だと俺は思うぞ!」


俺は金貨20枚をディンに渡して別れの挨拶をした。

金貨20枚ははっきり言って情報量としては、かなり多い金額だ。

それをどう使うかはディン次第だ。


「じゃあなディン・ツイハ!お互いに地に足が着いて生きてたら、また会おう!」


ラウラが俺に不思議そうな顔をして聞いて来た。


「なあ、彼はアベルの知り合いか?彼と訳の分らない言葉みたいなので話してるけど?」


「ああ、あいつは、もう1人の俺さ・・・・・・いや過去の俺さ!」


益々、ラウラが俺を不思議そうな顔をして見つめていた。










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