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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第3部 テアラリ島3部族武闘祭編
34/219

愛しい人

テアラリ島の中心部にある街、ハロルド。

200年前、イグナイト帝国との外交がは始まって以来、必要に迫られ3部族の顔合わせの場として急遽開拓された街である。

現在は中心都市して成長し各部族の邸宅兼領事館もハロルドにありテアラリ島3部族の首都的役割も果たし武闘祭も、この地で行われる。

ハロルドの名前の意味は勿論、英雄ハロルド・アーチャーにちなんだものである。



その時、俺は1人の男の熱い視線を感じていた。

その視線は、はっきり言って不愉快と吐き気しか感じないが俺に好意的ではあった。

但し、その視線の先にあるのは俺の尻である事にも気づいていたが気づかないふりをした。


この視線を放つ者こそゲイシー・ロドリゲスである。


俺は3日後から始まるテアラリ島3部族武闘祭の実行委員会の委員長を務めるテリク族族長エリゾネからの訓示を聞き委員会に届け出していた自分とラウラの武器の模擬武器と防具を受け取ってテラン族族長宅に帰っているところであった。

そんな俺とゲイシーはばったりと遭遇し、いきなりゲイシーが嬉しそうに声を掛けて来たのだった。


「おうマンティス!会いたかったよ!」


「誰ですか、あんた?」


本当は一目見て、この筋肉の塊のような大きな体格と禿頭に品がない口髭を生やす如何にもって感じの男が直ぐにゲイシー・ロドリゲスであるとは気がついたが、無用な戦いは避ける為に知らないふりをしたのだ。


「連れないなあ、マンティス!僕は君のファンなのに!ウルクたちとの一戦なんて痺れたよ!」


内心、こいつ確かイグナイト帝国で指名手配喰らってるのに観に来てたのかと驚いたが、ここで顔色を変えるとどんな事が起こるか分らないので再び知らないふりをする。


「そうなんですか!ありがとうございます!」


「そう警戒するなよ!あんな武闘祭なんてどうでもいいじゃないか!それに僕と君の師であるリューケ・ガーランドの仲じゃないか、そこの店で一杯奢らせてくれよ!」


意外に紳士的なヤツだなと思ったが、油断させているのかもしれない!もしかして武闘祭前に俺を亡き者にする気か?とも思い露骨に警戒態勢を取った!


「大丈夫、絶対何もしないから、ちょっとだけ付き合ってくれ!」


あまりにも煩いので付き合う事にして、今、尻に熱い視線を浴びている真っ最中である。


その店はテアナ族出身の男が経営するバーみたいな店だった。


「ゲイシー!良く来てくれたな!」


「おうゴウド!君こそどうだい?あれから大丈夫かい?」


「あの時はゲイシーが持ってきてくれた薬草が効いて治ったよ!ありがとうなゲイシー、俺の為にあんな危険な事までして・・・・・」


「気にするなよ、友達を助けるのは当然じゃないか!それに只がオークを50匹ほどぶちのめしただけだよ!」


その後もゲイシーにはテアラリ島3部族の街で働く男たちがこぞって挨拶をしゲイシーも愛想良く応えていた。


ジーナスの話では闘技場では悪魔のような強さだと聞いていたがイメージが違うなと思った時、ゴウドが俺に聞いて来た。


「ゲイシーの友達かい?だったら何でも好きなのを言ってくれ!勿論、俺の奢りだ!」


これははっきり言った方が良いと思い言う事にしたが意外な反応だった。


「いや俺は彼の敵です!ですから勘定も俺が払わして貰います!じゃあ適当なジュースで!」


「敵って・・・・・もしかして、あんたがマンティスか?」


「そうですけど俺を御存じなんですか?」


「だって、あんたゲイシーの彼氏さんの友達だろ?ゲイシーが恥ずかしそうに言ってたから!近い内に僕を敵として訪ねて来るんだって嬉しそうに話してたよ!」


ゴウトの言葉にゲイシーがポッと頬を赤くしたのが最高に気持ちが悪いが、しかし俺がラウラに雇われる事も前もって知ってやがったのか!それにしてもリューケが彼氏って・・・・

だが、平然と答えないとダメだ、弱味は絶対に見せられない!


「まあ、この人が言う彼氏かどうかは分りませんけど、俺の思いつく人なら、もう遥か遠くに行っちゃいましたからね!」


そう答えた瞬間俺はゲイシーに肩を掴まれ物凄い力で一気に壁際に押し付けられた!

しかも俺大の大きさの穴が壁にでき上がってしまった・・・・・


「リューケは、もうテールズにはいないのか?」


凄い目を血走らせながらゲイシーが聞いて来た、無茶苦茶怖い・・・・・


「リューケは、どこに行ったんだ?」


「ウルバルト帝国です・・・・・騎士として雇われました・・・・・あれ役職付きだったかな?」


ごめんリューケ・・・・俺・・・・・あまりの怖さにリューケを売っちゃったよ・・・・・


「そうか・・・・・ゴウト近いうちにまた来る!マンティスもすまないが先に帰る!」


そう言うとゲイシー思いつめた泣きそうな顔をしながら店から出て行った、そして俺は熱い視線から解放された。



そして武闘祭の初日がやって来た、俺とラウラは次の日である。

まずは同族同士の戦いでカミラ・テアナとミハエル・イワンホフVSリラ・テアナとゲイシー・ロドリゲスである。


だが試合が始まる前にリラが俺を訪ねて来た。

何か分らないが御礼を言われた。


「お前がどういうつもりで謀略を仕掛けたのかは分からないが、やる気の無かったゲイシーを、その気にさせてくれてありがとう!感謝する!」


リラはプリンプリンと縊れた豊かな腰を揺らして笑いながら去っていった。


「アベル、ゲイシー・ロドリゲスに何かやったのか?」


ラウラに聞かれたけど思い当たる節が無い・・・・・・なんかやったかな?


試合会場はハロルドの砂浜に50M四方に杭を打ち縄を張り巡らせただけの簡単な作りだった。

勿論だが縄から出れば失格である。

俺たちとレイシアたちは選手兼族長の流なのでホリーたち族長たちと一緒に貴賓席で観戦である。


テアラリ島3部族の観衆が見守る中で試合が開始されたがおかしな事が2つ起こった。


リラが杭の前に腰を下ろし完全に観戦モードになった。


「ゲイシー、貴方の希望通りにしてあげたわよ!さっさと殺っちゃいなさい!」


恐らく、これはゲイシーの希望、1人で2人と戦うという意味をしているのだろうか?

分る事はカミラたちは完全に舐められているという事だ。

しかし、これはリラからすればゲイシーへの好意の言葉だったのだろうが、ゲイシーの反応は違った!


「黙れー、汚物が!お前がママの娘でなかったら殺してるぞ!」


汚物って・・・・・・次期族長に向かって何という言い方だ・・・・それにママって?


「ゲイシーはテアナ族族長のアンの言う事だけは聞くんだ!理由は分らないが」


そうラウラは教えてくれた。

それは俺も疑問に思っていた。

ゲイシーは、あの闘技場から警備兵を殺し自分のプロモーターでさえ殺して逃亡した男である。

そんな男が誰かの言う事を聞くのか?天衣無縫な男が?何らかの理由があってゲイシーはアンの言う事だけは聞くって事か!しかしママって言っているところを見ると・・・・・・男好きだけではなくマザコンもあったのか!


完全に舐められたカミラがブチ切れてゲイシーに飛び掛かろうとした時、ミハエルが止めた。


「これはチャンスだ!だが罠でもある、もし2人掛かりで戦ってゲイシーを倒せても、それはカミラが認められた事にはならない!お前はテアナ族の戦士だろうが!」


これを見て俺は思った。

こいつ、俺を油断させる為に船では女たちをガン見していたりしたのではないのかと。


そう言われたカミラは少しは冷静な顔をしたが、まだ納得がいかないのか今にもゲイシーに飛び掛かりそうな雰囲気だ、しかしミハエルは冷静にカミラを諭しにかかった。


「いいかカミラ、作戦変更だ!俺が1人でゲイシーと戦う!お前はリラをやれ!向こうは待ってくれているんだ、その間に冷静になれ!」


「・・・・・分かったわ、任せるわ!」


このミハエルの言葉で少しは冷静になったカミラが答えた、傭兵の真骨頂を見せられた思いがした!

ミハエルはあくまでも冷静だ、勉強になった!


だが、この冷静さは彼が死刑執行へのサインを自らでした意味となってしまった。


ミハエルが自身の武器を模ったであろう三又の穂先を持つコスタリカをゲイシーに向かって構えるとゲイシーがミハエルに聞いて来た。


「現在、僕は悲しみの淵にいる!どうすれば癒せるだろうかと考えた!答えは人を手加減なしで思いっ切り殴る事だ!好きな死に方を選べ!一瞬で死ぬか?それともジワジワ死ぬか?どちらかだ!」


「好きな方でやれよ!この筋肉の塊が!」


ミハエルがコスタリカを突きだすとゲイシーが避けながら一瞬にして前方に飛び込んでミハエルの懐に飛び込み右のアッパーカットを放った!

しかし、これをミハエルは読んでいたのかコスタリカを捨て上半身だけで避けると両手でゲイシーの手首を掴んで飛び上がり腕挫十字固を決めてゲイシーの背中を地面に押さえつける事に成功した!


「まずは右腕一本貰うぞ!」


ミハエルがゲイシーの右腕を壊そうと捻じり掛かるがゲイシーは顔色変えずに言った。


「君と闘技場の中で会っていたなら、もしかしたら生き残るチャンスもあげられたのに残念だよ!」


そう言うと残った左手で無動作に殴り始めた!

1つ1つが重そうな音を立てミハエルの腕挫十字固を決める右足にゲイシーの拳がめり込んでいった!

だが、ここでゲイシーを離せば起き上がった瞬間に拳が放たれる、それなら痛みに耐えながら右腕を潰す事を選んだのだろう、顔を歪めながら捻じっていった。


「終わりだ!」


ボキっと音が聞こえてきた、そう無動作に殴るだけでゲイシーはミハエルの右足を折ってしまったのだ!


「ぐはあああ」


そんなミハエルの叫び声が聞こえると同時にゲイシが右腕一本でミハエルを投げ飛ばした。

そして仰向けになったミハエルのマウントを取ったかと思うと泣きながら叫び出した!

それは一方的に叫びながらの無茶苦茶なミハエルへの顔面を狙った強烈な打撃だった。


「君に僕の気持ちが分るか!」


「君に愛しい人が遠くに行ってしまった僕の悲しさが分るか?」


「愛する人のメッセージを携えて来た人から死刑宣告を聞いたような絶望を味わった僕の気持ちが君には理解出来るか?」


「どうして愛する人は東方の辺境なんかに行ったか君には分るか?」


「それは僕が、あの時に愛しい人の愛を支えきれなかったからだ!」


「僕が間違ったんだ!花束を間違えたんだ!」


「きっと薔薇じゃなかったんだ!愛しい人はスイートピーが好きだったんだ!僕が間違えたんだ!」


「なんて事をしてしまったんだ!愛しい人のイメージから僕は薔薇を選んでしまったんだ!」


「ついでに言うならリボンも赤を選んだのも間違いだったんだ!」


「花屋の小母さんが青だって言ったのに僕が赤を選んだからだ、なんて事をしてしまったんだ!」


「それでも、あの時に愛しい人を、この胸に抱いて僕だけの物にしていたら!」


「間違えたんだ!もう一度行って、この気持ちを伝えれば良かったんだ!」


「スイートピーを持って早くに告白すれば良かったんだ!」


これらの叫び声が終わるまでにミハエルにはゲイシーの拳が何十発とめり込み既に絶命し顔の形など人間だった事すら判別不能な状態になって両手と両足だけはゲイシーに殴られた衝撃で跳ね上がっていた。

そして泣きながら殴るゲイシーの叫び声とめり込む拳の音と死んだミハエルの顔から飛び散る血のビチャビチャとする音だけが会場に響いていた。


誰もが、この光景に声も出ずにゲイシーを止める事も出来ずにいた時、貴賓席で立つ俺の前に座っていた女性が立ち上がりゲイシーに言った。


「ゲイシー!もうお止めなさい、それで十分でしょう!」


それはテアナ族族長アンであった。

彼女は縄のギリギリ近くまで行くとゲイシーに語り掛けた、それは優しい母のような顔だった。


「ゲイシー、愛する人を失った気持ち、誰よりも私が理解してるわ!でもね、今は試合中です。少しだけ大人しくしましょうね!」


そう言われたゲイシーは大人しくなり、そして縄からは出ないがアンの近くまで笑顔で走っていった。


「ママが言うなら、もう止めるよ!」


「うん、良い子です!」


「ありがとう!ママ!」


これでゲイシーは大人しくなったが、試合は一時中断した。

このまま試合を続行するかの確認だった。

もうミハエルが死んだ為にリラの勝ちは決定しているのである。

それとミハエルの死体を片付ける為だ!


その間にゲイシーは三角座りをしてアンと御喋りをして、完全にカミラなど無視である。

そしてゲイシーの大きな声が会場に響き渡った。


「僕はギブアップしますー!」


恐らくはアンがゲイシーにギブアップを言わせたのであろう。

2人にテアナ族の誇りを掛けて戦ってきっちりと型をつけろというメッセージなのだろう。


こうして2人は戦う事になり、試合は続行となった。

しかし、2人の顔を見る限りでは、アンの策謀がなくても俺には続行していたように見えた。

2人の間には姉妹とは思えない程の視線が交差していたのだ!殺すという意味合いの!


だが、そんな2人をよそにゲイシーには、もう試合には興味は無かったのだろう!スッキリとした顔していた。

そんな事より、愛するママのテアナ族族長であるアンとゆっくりと御喋りを楽しみたかったのであろう!

アンの後ろに着いて貴賓席にゲイシーが来て俺に言ってきた。


「マンティス、僕が不甲斐無いせいで君にも辛い役目を負わさせてしまった、本当にすまなかった!」


「いえ・・・・・どういたしまして・・・・・」


「君の試合が終わったら2人でゴウドの店に行こう!あの店は良いぞ、汚物たちも来ないし!そして今度こそ楽しい時間を2人で過ごそう!」


「・・・・・そうですね」


それからはゲイシーはアンだけを見て時折アンと楽しそうに御喋りをしていた。

リラとカミラの試合など、どうでも良いのだろう。


何とも言えない空気が会場を支配する中でルール的にはリラの勝ちは決定しているがリラとカミラの試合が再開された。


テアナ族の誇りと次期族長となるリラの意地、そしてカミラの意地を掛けて試合は再開されたのだ。





アドバイスや誤字脱字等がありましたら御指摘よろしくお願いします。

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