キモオタの俺の隣りに現れた白髪美少女は異世界では俺を苛つかせる妹
『キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹』に登場するエルゾネとエリデネが紛らわしいとの御指摘があり、エルゾネから『テムルン』と修正変更しております。ご了承ください。
その時、俺は奇妙な広い部屋の中にいた。
あ、俺死んだのか!
そうだ、今日はわざわざ東京まで出て来て魔法少女〇〇〇〇〇の限定フィギアを買いに来たんだった!
んで、保存用と観賞用それから実技用の3体を買って駅で電車を待ってたら押されて俺落ちたら電車が来てグッチャグッチャだ・・・・・・
くそ・・・・・帰ったらフィギアを観賞しながらネトゲをする超過密スケジュールだったのに。
でも、ここは天国か?いや違う!なんか俺みたいなデブがいっぱい列に並んでるぞ!
そんで俺もしっかり並んでる!
でも、1人だけ違う不釣り合いな女の子がいる!
俺のすぐ前の子だ!
なんか俺のタイプだ、うん黒髪はいい!
染めた髪の女はダメだね、俺から言わせればビッチだよ!ビッチ!
せっかくだ、匂いは嗅んでおこう!スン・スン・スン・スン・・・・・・なんか匂いはせんけど得した気分だ!
ヤベええええ!気づかれた!睨まれたよ!
でも、この子・・・・・・・魔法戦隊〇〇〇の△△ちゃんにそっくりだ!
もう一回匂い嗅んでおこう!
スン・スン・スン・・・・・・・
あああああああ、いいいいいいいいー、得したー!
でも、そうこうする内に、ここがどこだか分って来た!
あの噂の異世界転生への部屋か!
おお、本当にあるんだ!
でも前の奴らの話を聞くうちにどうやら条件も分って来た。
ちょっと自分に照らし合わせてみよう!
電車だけどトラックより悲惨だから大丈夫だろ!引き籠り期間も19年もOK、アルバイトもした事も無いから大丈夫だろ!中学しか出てないからクリアーしてるはずだ!
それから俺の2つ前の奴になったけどなんか揉めてるな!
馬鹿だねー、ビキニアーマーとか言われて納得してやがんの!
女はツルペタ!小さいのが良いんだよ!
あれ、デブと黒髪の子が連れて行かれた・・・・・・なんだ、それ!
ちょっと待たされたけど、俺の順番になった!
ほぼ前の奴らと同じ説明をされた。
でも、やっぱり貴族のイケメンの父と綺麗な母がで魔法が使えて剣も使えて可愛い女の子(勿論ツルペタ)と旅をして勇敢に戦って可愛い女の子と結ばれる、それが最低条件だよね!
幸い、俺の条件はOKみたいだ!
「じゃあ、それで!」
「・・・・・・・ちょっと待って・・・・・・君、なんかしたよね?」
「へ?何の事でしょうか?」
「君、隣見てみなよ!」
「隣?・・・・・・うわあああああああ!」
さっきの女の子だ!なんでいきなり隣にいるんだ!いやさっきの子と違う!この子、髪が真っ白だ!しかもなんで俺を見て笑ってんだ?しかも知らん間に手まで繋いでる!・・・・・・・ちょっと嬉しい。
「おい君、さっきの子に何かやっただろ?」
「何もしてませんよ・・・・・・あ!」
「あ!って何やった?」
「匂い嗅いだ・・・・・」
「匂い?」
「はい・・・・あの子の匂いを嗅んじゃいました・・・・・」
「・・・・・・君、巻きこまれちゃったよ、ちょっとこっちに来て!」
それから、あのデブとこの子(2人?)の話を聞かされた。
今いる、この子がその片割れ?の魂らしい。
「でも、それって俺に全く関係ないじゃないですか?」
「君が匂いを嗅いだ事で、あの2人の因縁を君の魂に刻んじゃったんだよ!だから、それに惹かれて、この子が君を選んだんだよ!」
「それだけの理由で納得いかないですよ!どうにかして下さいよ!さっき聞いてたけど貴方は神なんでしょう!」
「どうしようもないよ、それに君自身もあのデブと因縁があるから余計にこんがらがって・・・・・・」
「あんなデブ知らないですよ!会った事も無ければ見た事もないですよ!」
「・・・・・転生したら彼ともいずれ会うよ!君自身の因縁とこの子自身の因縁に惹かれてね・・・・・・どうなるかは俺にも分らないよ」
「・・・・・・じゃあ最後に聞きますけど、いいですか?」
「なんだい、そうやって素直に疑問をぶつける、良い事だよ!」
「転生先にツルペタはいますか?」
「・・・・・・たぶんね」
そっから俺は転生された、ここでの事は忘れちゃうらしい、そんでさっきの子も俺の身近な存在として現れるそうだ!
「さっきのデブに多少サービスしたから君にもしておくよ、これ例外なんだぞ!」
そんな言葉が最後に聞こえて気を失ったように感じた。
※ ※ ※
転生して4年も経つと目も見えて言葉も分るようになった。
俺はウルバルト帝国という小国に生まれていた。
生活が牧畜と狩猟が中心のようで草原を求め季節ごとに移動する民族の様だ。
全ての身分の人々がゲルと呼ばれる組み立て式の簡易施設で生活していた。
そこで俺はボルドと名付けられ親からは嫌われていた。
俺の髪は真っ白な白銀髪だった。
このウルバルト国では、あまり縁起の良い事ではないらしく俺は陰で『忌み子』などと呼ばれた。
どうも俺は女帝の子らしいのだが後継ぎではなく帝位継承権は女にあるらしい。
それに女帝で母のオヨンには俺の他に4人の子供が居たからどうでも良い存在なのだろう。
そんな環境と元々の転生前からの性格のお陰で俺は1人を除いては誰も信用しなくなったが仲間は増えた。
俺が4歳の時に妹として生まれた帝位継承5位になるハタンだった。
ハタンは俺と同じ白銀髪だった、そして俺と同じに『忌み子』と呼ばれようになった。
ハタンは変わった子供で母である女帝オヨンでさえ睨みつける赤子だった。
はやり、そんなハタンには誰も近づかず、やがてオヨンでさえも忌み嫌うようになった。
だが、俺だけには何故か慕ってくるようになった。
しかしだ、俺はハタンが生まれた頃から嫌いだった。
俺に向けて来る目が上から目線に見えて仕方なかったのだ!
だが誰も相手をしないハタンを何故か妙に気になって放ってはおけず俺は面倒を見た。
俺が6歳のある時、3番目の姉、13歳のテムルンが俺を訪ねて来た。
俺はテムルンだけは好きだった、武勇も優れ帝位継承者3位だが1位の姉よりも優れていると言われていた。
それに『忌み子』と呼ばれる俺に唯一と言って良い程優しくしてくれた人だからだ。
「テムルン姉さま!」
「ボルド、ご機嫌いかが?」
優しく微笑む中に腰に帯びた奇妙な剣が目に入った。
それはどこか嫌な雰囲気を放ち、そして光っているように見えた。
「どうされたのですか、その剣は?」
聞くと母に命令されて盗賊撃退の任に着いた時に、その頭が持っていた剣らしい。
何故か惹かれて持つようになったと言った。
だが1ヶ月後、テムルンが幽閉された。
一番上の姉が謎の死を遂げたのだ。
女帝と帝位継承者が集まる会食の席にいきなり血を吐き亡くなったらしい。
その嫌疑が姉のテムルンに掛かったのだ。
無実だと叫ぶテムルンを無視しての幽閉に怒りを覚えたが、力の無い俺にはどうしようもなかった。
そんな時、ハタンが俺に言ってきた。
「人の物を盗ろうとしたからだよ・・・・・」
2歳の子供のカタコトの言葉にぞっとした。
まさか、こいつが殺したとか・・・・・
2歳の子供がいくら何でも・・・・・
俺は転生して来たから見た目は子供、中身はオッサンだ。
2歳の子供が出来る事なんて、ただが知れてる!俺の思い過ごしだ。
だが気がつくと次々に帝位継承者たちが死んでいき気がつけばハタンだけとなっていた。
オヨンの落ち込みようは酷かった。
悲しみからか痩せ細り食も細くなった。
慰めようにも我が子は『忌み子』しかいないのだ。
そんなおりオヨンが力なく皆の前で発表した。
「ハタンに帝位を継承する」
そんな一言を言ったあと倒れ死んでしまった。
葬儀と即位式が直ぐに行なわれた。
僅か2歳の女帝ハタンには叔母のボルテが摂政になり権勢をふるい始めた。
当然ながら俺は無視された。
だが、そんな俺の元にハタンがやって来て俺に言った。
「何故私を守ってくれない?お前はなんの為の存在なのだ?」
守ってくれない?なんの為の存在?今の俺に何が出来ると言うのだ?
とても2歳の子供が喋る言葉ではなかったが確かにそう言った。
今の状況を何とかしろと言っているのだ。
叔母のボルテに勝てる手段を考えろと言ってきたのだ。
そう思った。
だが見た目が6歳ではどうしようもなかったが考えに考えた!
やはり頼れる人間を作るしかない、そう思った。
そうなると俺が唯一信用できる人間、それは幽閉されたテムルンだった。
その頃、テムルンは山肌の洞窟で幽閉されていた。
新しい女帝になっても警備は厳しいが俺は一応女帝の兄しかも6歳の子供だから警戒される事もなく会う事が出来た。
それに『忌み子』と呼ばれる俺にテムルンが優しかった事が有名だったらしく会いに行く事にも疑問は持たれなかった。
しかしテムルンは変わってしまっていた。
絶望した顔になり、この世の全てを呪っているような人間になり果てていた。
現在の状況を話し協力を願い出るとテムルンは直ぐに了承したが帝位継承者の殺害容疑を掛けられて幽閉されている人間だ、会う事は出来ても外に出す事は俺には出来なかった。
どうするか2人で考えに考えた。
出した答えは、この俺が来た時の警備の緩さを利用してテムルンの身代わり作る事だった。
誰を身代わりに立てるかで悩んだがテムルンの案で彼女に似た奴隷を一目を忍んで探す事にした。
しかし、そんな都合よくテムルンに似た奴隷などいるはずもなく途方にくれた時、隅に蹲る姉妹がいた。
姉の方は病気の様で身体の具合が悪そうだった。
気になって声を掛け聞いてみると嘉威国に滅ぼされた小国の家臣の子供達だった。
姉は楊春麗、妹は楊雪麗といった。
春麗が言うには滅ぼされた時、母が逃がしてくれたが、ここに来て病になってしまったらしく、どうしようもなくなったとの事だ。
大変だなと思う一方で春麗が角度によってはテムルンに雰囲気が似てなくもないと気がついた。
よく見れば確実に誤魔化せないが背格好は似ていた。
テムルンがもっと痩せれば誤魔化せるかも知れない、死んだと聞いてから俺が泣いて縋りつき演技の1つでもすれば誤魔化せるのではないかと思った。
そこで俺は奴隷を買う為に持ってきた金で渡りをつけた俺の従者の家に姉妹を連れて行き滞在させた。
直ぐにテムルンにも会って理由を話し食を絶って痩せろ、そして病気なったふりをしろと指示をした。
警備の人間にも誰よりも早くテムルンに何かあった場合は知らせて欲しいと頼んだ。
子供の俺の頼みだ!慕う姉を気に掛けているとでも思ったのだろう、快く応じてくれた。
こうして俺の一世一代の大博打が始まった。
まずは姉妹の説得だった。
正直に自分の身分を明かし、何故従者の家に宿泊させたのかも全て話した。
「俺にお前の命をくれ!くれるなら妹の将来は俺に出来るだけの事は必ず実行する!」
そういうと春麗は涙を流して了承してくれたが雪麗が納得しなかった。
泣いて縋る雪麗に春麗は言った。
「どんなことをしてでも父母の仇を撃て!その為に姉はこの命を使うのです!」
この言葉で雪麗が折れて協力してくれることになった。
だがテムルンが痩せるまでの間には時間がある。
それにテムルンにも仮病の間は出来るだけ顔を見られるなと指示をし俺も心配をする振りをして各日には行くようにし警備のものにも差し入れをして愛想を振り撒いた。
一度従者を連れテムルンの監禁部屋に同行させたが全く警戒されない!
それからは行く時は毎回違う従者を1人連れて行くようにした。
そして1ヶ月後、テムルンが痩せて頬がこけ始めた時に実行する事にした。
男物のフードの付いたマントを着せ服に綿を詰めて太ったように見せかけた春麗を連れ俺の従者だと言った。
春麗も最後の力を振り絞るように力強く歩き病人だとは感じさせないそぶりを見せた。
警備の者たちは疑ったそぶりもなくテムルンの監禁部屋に来る事が出来た。
そして成功した。
テムルンは外に出せたが、ここからだった。
直ぐに行くのを辞めてしまえば誤魔化せない、全てが水の泡だ。
それからも俺はペースを変えず通いテムルンと偽った春麗に会った、彼女は予定通り2ヶ月後にテムルンとして死んだ。
その間にテムルンにはボルテの暗殺を頼んだ!
元々武勇優れた人である。
あっさりと暗殺は成功し、その後もハタンを脅かすであろう権力を欲する者は全てテムルンに暗殺させた。
1年後、俺が7歳になった時、3歳のハタンが俺を摂政に指名して来た。
当然、周りの者たちは笑ったがハタンは幼い声で言った。
「衛兵、今笑った奴は全て殺せ!」
焦る衛兵と家臣の中で3歳の子供が再びはっきりと言った。
「聞こえなかったのか?殺せ!」
地獄絵図が描き始まった。
ハタンの命令に衛兵たちは気でも狂ったように殺戮を始めた。
トコトコと歩いて幼い女帝が血の海に立つと再び口を開いた。
「誰が皇帝か理解しているのか?」
笑わなかった者たちが真青な顔になり女帝ハタンにひれ伏した。
こうして俺は摂政になった。
だが、女帝の指名といえど誰も俺を信用しなかった。
7歳の子供の言う事など中身オッサンの俺でも信用する訳がない!
しかし、やらねばならないのだ。
出来れば信用できる補佐役が欲しいところだ。
出来ればテムルンにやって貰いたいが彼女が生きている事が分ってしまう。
また考えに考えた!そこで思いついた!
テムルンを楊春麗に仕立てる事だった。
幸いにして妹の雪麗がいる。
彼女をハタンの侍従にでも雇い入れ、その後で武勇優れた姉の春麗をハタンに推挙したっていう事にしようと考えた。
だが問題があった。
皆にテムルンの顔は知られ過ぎている、どうすれば良いか?
仮面でも被せるか?いや何かあった時には必ずバレる!
どうするべきか?
テムルン本人に考えて貰う事にした。
テムルンに相談すると笑って1月の時間をくれと言って姿を消した。
1月経過しテムルンは帰って来た、しかし顔が傷だらけになり一見するだけでは誰だか分らないほど状態だった。
自分で顔を傷付けたらしい。
どうやら転生した俺の姉も妹も気が狂っている人間だった。
「こうすれば小国から逃げる時に顔を負傷したって言い訳になるでしょう!」
こうして元テムルン、楊春麗が誕生した。
一応儀礼上、テムルンを楊春麗としてハタンに謁見させた。
現女帝ハタンと元帝位継承者元テムルンの対話に緊張したがハタンの一言で終わった。
「良い顔になったじゃないか!」
目立つので普段は仮面を被って貰う事にした。
それからは奴隷市場に行き、優れた経歴のある人は買い地位を与え俺の手駒にして固めてつつ、配下のもので身分の低いものでも優れた者には地位を与えた。
それまで戦があると平等に分配されていた戦利品を功ある者に厚く功無き者に低く設定し、やる気を起こさせた。
民からも優れた注進があると直ぐに採用し民を満足させた。
俺が8歳、ハタンが4歳になると、いつしか俺とハタンに逆らう者はいなくなった。
その上で周りの小国2国を征服し国土を広げウルバルト帝国の国力を挙げる事を目標にした。
そして俺が12歳、ハタンが8歳になった時、1人の男がハタンを訪ねて来た。
元神聖ヤマト皇国の人間で西の果てのカルム王国から来たと言った。
備前紅風といい、高名な鍛冶師らしいが老人で無理をしてヤーマシア大陸中央部に大きく広がる魔物の巣窟の大草原地帯と大森林地帯を抜けて来たのであろう、かなり衰弱していた。
あの大草原地帯と大森林地帯をこんな老人が1人で抜けて来た事に驚いたが、元は2人だったが途中で魔物に襲われはぐれたらしい。
会った時に俺の顔を見て驚いていたので聞いてみると自分の弟子に俺と瓜二つな奴がいるらしく名前はアベル・ストークスとかいうらしい。
世の中には似た奴もいるものだと思いながらも要件を聞いた。
女帝ハタンが持つ剣について調べているらしく出来れば見たいと申し出て来た。
テムルンが持っていた、あの剣か!
あの剣は女帝ハタンの愛剣になっていた。
テムルンが嫌疑を掛けられ幽閉された頃から次々と帝位継承者が死んだ事で呪われた剣と噂され母オヨンによって宝物殿の奥深くに収められていた剣だ。
それをハタンが女帝になった頃から自分の愛剣として傍らに置きだしたのだ。
2歳の子供の玩具には物騒だからと誰もが言ったが、頑として譲らずに仕方なく渡した剣だ。
一応、高名な鍛冶師という事でハタンに報告すると直ぐに会うと言う。
珍しい事だった。
この頃のハタンは、どうしても出席せざる公式な場以外には姿を現さず、俺がテムルンを楊春麗に仕立てる為に雇った楊雪麗にしか会わなった。
特に楊雪麗には心を開いた様で2人で子供らしく遊んだりしているのを見るとホッとさせる事もしばしばあった。
ハタンの前に連れて行くと自ら備前紅風の手を取り歓迎した。
「よくぞ、おいで下さいました!」
この子に、そんな謙虚な心があったのか驚いたが顔は優しく微笑んでいた。
それから備前紅風から剣の逸話を聞いた。
作成したのは彼の息子で聞いていても吐き気がするような曰くのある剣だった。
だがハタンは、そんな話をニコニコと聞いていた。
「紅風さま御身体の具合が優れないみたいですね、兄様、医師の手配と紅風さまが休まれる部屋の準備を!」
兄様だと!?俺の事か!?
ハタンは普段は、おい!とか、お前!、とかと俺を呼んでいた。
苛つかせるが女帝であり、俺しか頼る人間がいないのだと思い我慢していた。
一度だけブチ切れてハタンと喧嘩になった事があった。
今は滅ぼした国だが、その国に1人の有能な軍師がいて苦戦を強いられた。
その事をハタンが詰った時だった。
もう我慢できなかった。
「お前の為に一生懸命にやってるんだ!それを一度の苦戦でとやかく言われて堪るか!もう嫌だ!殺すなら殺せ!オヨンや他の姉たちも殺したのはお前だろう!同じように俺も殺せ!」
突然の俺の怒りの言葉にハタンは呆気にとられた顔になり俺は死を覚悟した。
ハタンには何か得体の知れないものがあると分っていたからだ。
それが、どういうものかは俺には分らないが死を司る何があると思っていた。
「やだよ、見捨てないでよ!なんでだよ、どうして1人にするの?いやだよ!」
泣きながら俺の足にしがみ付いてきた。
初めは演技でもしているのかと思ったが、どうも本気で泣いているようだ。
「ごめん・・・・・疲れてたんだ!ごめん」
「もう怒ってない、ハタンを1人にしない?」
「ああ、しないよ!大丈夫だ!」
「本当に本当?」
「ああ、約束するよ!」
何故だろう、この時に思ったが俺は、この苛つかせる妹の為にあらゆる手段で手を汚しながら頑張って来た。
テムルンの時もそうだ。
ボルテを暗殺させた時もそうだ。
何故俺は妹の為にここまでやってしまうのだろうと不思議に思った。
それから暫らくして、その国を征服し軍師を捕虜にしたが有能だったので陣営に彼を向かい入れようとしたがハタンが納得せず直ぐに処刑しろと言ってきた。
説得したが頑として首を振らない、理由があった。
「あいつは私とお前を引き離そうとしたからだ!」
それから軍師を処刑にして俺はハタンに何を言われても耐えるようになった。
「兄様、兄様、早く紅風さまを!」
そう言われて直ぐに気がつき部屋と医師の用意をさせた。
紅風が楊雪麗に支えられていなくなるとハタンが俺に直ぐに命令して来た。
「直ぐに鉱鋼石属性を持つ魔獣と大量の魔物たちの血を用意しろ!それから鍛冶の工房も作れ!」
俺は千人隊に命じ大草原地帯で魔物狩りを命じ万人隊にウルバルト帝国領の北部に生息するナーガと呼ばれる魔龍を狩る事を命じた。
ハタンは足しげく紅風を訪ね、何やら色々と話し込んだりしていた。
結果、2000人の兵の命は失ったがナーガを倒し大量の魔物の血を手に入れた。
そして鍛冶の工房を作らせた。
用意をして3日が経つとハタンと紅風が工房の中で話をし紅風だけを工房に残しハタンだけが出て来た。
「あの老人、ちょっと心の隙間を擽ってやると直ぐに了承したよ!」
笑顔で俺に言ってきた。
それから紅風は1ヵ月の間、工房に籠りきりだった。
食事は差し入れさせたが、あまり食べていないようだ。
漸く出て来たと思うとハタンにひれ伏しながら2本の剣を渡した。
「我が生涯の最高傑作でございます」
「それは良かったですね、蒼光を超えられましたか?」
「それは分りませぬが、我が最高傑作にございます!」
「そうですか、でもこれでは完成とは言えませんね!」
そう言うとハタンはひれ伏す紅風の背中に、その1本を突き刺した!
そして紅風が刺された事で上半身が起き上がった瞬間にもう1本の剣で首を刎ねてしまった。
「これで完成した!」
そう言うと呆気にとられる俺にその2本の剣を渡してきた。
「これをやる!だから励め!」
「ハタン・・・・・お前、この老人に何を言ったのだ?」
「何も言って無いよ、ただ百鬼夜行を超えたくないかと言っただけだよ!」
そう言うと傍らに佇み、1人の老人が目の前で斬り殺されても顔色一つ変えない雪麗を連れて消えた。
雪麗も狂ってしまったのか・・・・・・
2本の剣を見ると老人の銘と剣名がそれぞれに刻まれていた。
牛頭と馬頭か・・・・・・地獄の獄卒って意味か・・・・・今の俺そのままだな・・・・・
ハタンは俺にも狂えと言いたいのか。
近くにいた顔を青くする警備兵に、どこかに備前紅風を丁重に葬るように命じた。
そして直ぐに重臣たちに俺に剣を教える人材はないかと聞いた。
折角2本あるのだ!二剣を同時に操れる方が良いだろう。
そうすると1人の重臣が手を上げた。
過去に奴隷たちが戦う闘技場で二刀剣の達人の一戦を見た事があるらしく名をリューケ・ガーランドというらしい。
「その男を探し出して直ぐに連れて来い!俺の剣の師として仕えて貰う!条件は名前からして西方の人間だろう、騎士として雇うと言え!」
そう進言した重臣に命じた。
テムルン、いや楊春麗が俺に言ってきた。
「なんだ、ボルドも戦場に立つのか?」
「ああ、そろそろ頃合いだろう!それから春麗、そのリューケとかいう男が来るまでの間は俺に剣を教えろ!それまでは、お前が俺の剣の師だ!」
春麗は俺に一礼し承諾した。
閑話 ウルバルト帝国編 完