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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
閑話 オービスト大砦攻防戦編
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決意

その昼、カルム王国に激震が走った。


「イグナイト帝国100000人、ケンゲル王国100000人、合わせて200000人がオービスト大砦に進攻中!」


旧カルム王国の領土内に配置した物見からの火急の知らせであった。


200000人・・・・・・そう聞いてオービスト大砦の城内に所在する7人を除く全ての者達は慌てふためき大慌てとなった。


慌てふためかなかった者の顔ぶれは以下の者達であった。

女王アルベルタ・カルム、ブラスコ・バリ、ジュリア・ヴェルオール、シェリー・ヴェルデール、ウルフ・ハーベスト、シーダ・モンデルデン、パメラ・イーシスそして現在18歳のメリッサ・ヴェルサーチである。


「ふーん、たった200000人か!舐められたものだな!」


オービスト大砦の最高司令官の任を預かるシェリー・ヴェルデールが欠伸でも出そうな顔をして退屈そうに言った。


「せめて500000人は欲しいところですね!」


これまたジュリア・ヴェルオールも同調し強気な顔した。


「うーん、最近油絵を始めましてな、途中なのですが私は欠席でも良いですか?」


ブラスコ・バリが鼻くそを穿りながら面倒な顔をして言った。


「また計算やり直さないとダメだな、何で来るんだよ!」


財政を預かるウルフ・ハーベストが頭を抱えるが別に怯えているという印象はない。


「取り敢えず、間者が潜入しているかもしれないので警戒はしますね!」


内政を預かるシーダ・モンデルデンが笑顔で言った。


「そうですね、シェリー様!私はシーダさまの御手伝いをしてもいいですか?」


余裕綽々な顔で現在、女王アルベルタの警護を務めるパメラ・イーシスがシェリーに言った。


メリッサ・ヴェルサーチだけは答えなかった。


これが他の重臣たちの安心を買う為の擬態だと分っていたからだ。

自分は正々堂々は好きだが、こういうのは出来るだけ参加しないようにしていた。

やれない事は無い、ただ今自分まで参加すればワザとらしく思われるかもしれない。

そう考えたのだ。


「じゃあ、攻めて来たら改めて軍議をする事にしましょう!解散、あ、そうだシェリー、この前に貴女の御屋敷で頂いた料理、あれ美味しかったの!なんて名前?」


女王アルベルタがシェリーに笑顔で玉座から身を乗り出してシェリーに聞いた。


「はぁ・・・・・申し訳ございません、私は料理にとんと疎くて名前までは・・・・・」


「そうですか、明日でも良いから食べたいんだけど!」


「は!ご用意致します!」


「では解散!」


こうして、解散し怯え慌てふためいた他の重臣たちの一時の安心感を得る事には成功した。


次の日、名目だけのシェリーの屋敷での食事会が行われた。

シェリーにより慌てふためかなかった7人と1人が招待されたが内容は勿論、敵軍侵攻作戦にどう対応するかである。


7人ともう1人はオービスト大砦から見れば大森林地帯を越えたテールム川対岸の地方領主ドーラ・マッラマーチェという40歳代の女性である。

ドーラはカルム王国のカルミニ攻防戦にも参加し、この地方にもイグナイト帝国が進軍してきたおりにもゲリラ戦を仕掛け、そしてイグナイト帝国を苦戦させた勇士であった。

しかし、そのゲリラ戦で夫と息子を失い復讐に燃えていた、謂わば女王アルベルタにとって信用のおける人物でもあった。

そして現在は各イグナイト帝国に降った自分と同じテールム川対岸の地方領主たちを巡って反抗戦の準備をする現在のオービスト大砦の外交官的な仕事をする人物でもある。


「地方領主たちの話では、どうも一度イグナイト帝国・ケンゲル王国ともにカルミニにて合流し両軍同時進行となるようにございます!」


「それでどの位の地方領主が手を貸してくれそうだ?」

シェリーがそうドーラに聞くと笑って答えた、ただあまり良い返事ではなかった。


「地方領主というものは勝つ方に味方しますから、こちらで一戦なりして勝利して頂かないと動いてくれません。現に説得はしておりますが、勝てるのか?と聞き返す領主多数で!」


「地方領主たちに女王アルベルタ陛下に対する忠誠心はないのか!」


ジュリアが激怒しドーラに詰め寄るが平然とした顔で答えた。


「ジュリア殿、今、地方領主たちはイグナイト帝国からの重税により民が不満を持っている状況に苦しめられております。しかし、そんな状況でも確実性のない事に領民の命を掛ける事は出来ないのです。それが領主というものなのです!」


そう言われてはジュリアも渋々と引き下がるしかなかったが、今度は女王アルベルタがドーラに聞いた。


「ではドーラ、お聞きしますが一戦勝てば、どの位の領主がこちら側に着いて頂けますか?」


「少なくともオービスト大砦の近くの地方貴族は勿論、旧カルム王国領東地方は間違いなく味方するでしょう!」


もしそれが現実になれば旧カルム王国の1/5を取り戻す事が出来、流れ次第では1/4も狙える範囲だ!


「現在のイグナイト帝国・ゲンゲル王国の両軍は何時頃にはオービスト大砦に着陣するでしょうか?」


「未だカルミニにも合流出来ていない、そして両軍の作戦会議それから進軍を考えましても着陣は3ヶ月はあるかと!」


「なるほど、ではまだ余裕はあるという事ですね、ではシェリー!仮に籠城戦になった場合に我が軍はどの位は耐えられそうですか?」


そう女王アルベルタに聞かれたシェリーは直ぐに答えた。


「恐らく3ヶ月と持ちますまい!」


「そうですか?ではウルフ!現在の我が軍の予算でローヴェあたりから食料を確保する事は可能でしょうか?」


そう聞かれたウルフも直ぐに答えた。


「いえ残念ながら60000人の軍を維持するのが精一杯にございます」


「そうですね元々守備兵30000人のところに敗残兵30000人が加わったのですから、ウルフ苦労をお掛けします!」


こうして女王アルベルタは他の者にも色々と質問し自分なりにまとめていく姿を見てメリッサは驚嘆を隠せなかった。

この方は本当にリーゼと同じ10歳なのか?

リーゼも成長し大人びてはいるが、この方の比ではない!

大体、この頭の回転の速さはどういうことだ!

もしアリダ・カルムやアイダナ・カルムなどの文治派・武断派がいなければ、こういった状況はカルム王国には生まれなかったのではないかと思った。

この頃にはメリッサは女王アルベルタを尊敬し忠誠を誓っていたが、それが間違いでなかったと感じずにはいられなかった。


「それでは私なりの懸念と希望を発表します!」


女王アルベルタは椅子から立ち上がると皆を一通り見回すと発表した。


「まず、地方領主の動向です。

これには一戦に勝たなければならないという事実。籠城にて例え敵が退陣したとしても我が軍に財政上の再度のチャンスは無くなるでしょう、最も籠城が長引けば終わりですが!そして地方領主たちの信用が失墜してしまいます。結局は打って出て力で勝たねばならないと云う事実だけです」


それは皆がドーラの話を聞いていたから予想出来たが次の話は皆が予想外の事を話し始めた。


「希望は両軍がまだ同盟関係において日が浅いという事です。即ち200000の軍勢しかも同数の100000同士の軍が連帯行動をとれるのかという疑問があります。最も両軍の片方にそれなりの指揮官がいればどうしようも無いですが状況を考えるとイグナイト帝国側が主要指揮を執るでしょう!そこで両軍の指揮官の性格を早急に調べる必要があります」


メリッサは聞いていて唖然とした。

この幼き女王アルベルタは謀略と分断作戦を考えているのだ。

確かに両軍が連携を欠き分断できれば互角以上の戦いが出来る可能性もあり得るだろう!


「それから、これは懸念と希望ですが自由都市連合ローヴェの存在です。聞く処によると30年前にグラーノ・ヴェッキオに新しい航路を発見された事でイグナイト帝国はテアラリ島3国との独占貿易を失ったと聞いた事があります。これを使えれば彼らから兵は無理でも援助を貰えるかもしれません!」


女王アルベルタは笑顔で言ったが直ぐに暗い顔になり言った。


「ただ、これには1つの懸念があります。もし、この機会をロ-ヴェがイグナイト帝国側との友好回復手段と捉えた場合です。彼らを援軍しローヴェにも参戦されると我が軍の敗北は確実となるでしょう。」


確かにいくら謀略や分断作戦に成功してもローヴェがポテル山脈を越えて東側から攻められれば、こちらは二面攻撃に晒される事となる、それではどうしようもなくなる。


「そこでブラスコ、貴方たちはカルミニに潜入し指揮官の性格や両軍の動向を探って下さい!」


ブラスコが一礼し了解した。


「ドーラ、貴女は引き続き地方領主たちの説得を!」


ここでメリッサが手を挙げて女王アルベルタに進言した!


「女王アルベルタ陛下に御願いの議が御座います!」


「何でしょうか、次はローヴェ対策の件になると思いますが、それは私に御任せ願いませんでしょうか?」


「自信がおありですか?ローヴェは国と言っても商人の連合体です。商人は利に聡いですから困難になりますが?」


メリッサは、腰から鞘ごと鳳翼を抜き示しながら言った。


「実は、この剣の製作者に、以前困った事があれば自分の名前を出してローゼオ姉妹を頼れ!と言われた事がありまして今回はそれにすがろうかと思います!」


「そうですか、それではパメラも同行して下さい、それと私からも後ほど策を授けますゆえ行って頂けますか?」


「御意!」

メリッサとパメラは女王アルベルタに一礼し了解した。


残りのシェリー・ジュリア・シーダ・ウルフは軍と内政維持に尽力する事になり話は終わった。


そして現在シェリーの屋敷に居候しているので自分の部屋に戻るとリーゼが起きて待っていた。


「姉上、お疲れさまです!」


今、メリッサはリーゼに『姉上』と自分の事を呼ばれている。

メリッサとしては『姉ちゃん』と呼ばれる事の方が嬉しかったがリーゼ自身が自分からそう呼ぶようになった。

メリッサがヴェルサーチ家を継ぎ、リーゼもリーゼ・ヴェルサーチとなってからだ。


「リーゼにはいずれ陛下よりお話があるかもしれないが・・・・・」


「姉上、侵攻戦の事でしたら御喋りにならない方が!」


リーゼに窘められた、いつどこで間者がいる事を警戒しての発言だと思い謝罪した。

この子はすっかり変わってしまった・・・・・

そう思わずにはいられなかった。


あのアベルがイグナイト帝国騎馬兵に捕まって行方知れずになり自分が守ってオービスト大砦に着いてから人が変わってしまった。

自分は、あの時に生前の自分に戻ろう、もう一度心・技・体をリーゼに教えようと思ったのに実際はリーゼに教えられることの方が多かった。

言葉の事でもそうだが、リーゼは常に自分に厳しくあろうとする。

礼儀勉学そして剣道・弓道でも自分がかって教えた子供達と比べても抜きんでていた。

恐らく弓の腕前は自分でも調子によっては負けるかもしれない、そう思わせるものがあった。

先程、女王アルベルタと比べてみたが、それは天才と比べた場合であってリーゼは恐らく同年齢の者と比べても遥か上だろう、そう思った。


それでも寝ている時に寝言でアルやヘレンそしてアベルの事を呟く時が合った。

特にアベルの事は寝言でよく口走った。

時折『兄ちゃん危ない!』とか『兄ちゃん死なないで!』とかを呟く事もありリーゼにはアベルの現在の状況が夢で見えているのかと思えた時もあった。

オービスト大砦に来て最初の頃に寝ていた時にリーゼに泣きながら起こされた事があった。


「兄ちゃんが、たった1人で傷つきながら戦っている、助けに行こうよ!」


なんとか宥めて落ち着かせたが、それからリーゼは変わってしまった。

いつかアベルを助けに行こう!そう考えているのだと感じずにはいられなかった。

やはり前世の事がリーゼとアベルを繋いでいるのだと思わずにはいられなかった。


「そうかリーゼすまない!私が軽率だった」


「いえ姉上が謝る事では!」


「だが、これだけは言っておく。もしもの事があったらリーゼだけでも脱出し必ず生き残れ!私は女王アルベルタ陛下に御仕えする身だ、御仕えする以上は運命は供にする」


リーゼが優しい顔つきだが決意を示すような怒りの目でメリッサに言い返した!


「姉上、私は女王アルベルタ陛下の学友兼侍従の御役目を頂いております。当然ですが私も最後まで女王アルベルタ陛下をお守りし運命を供にする覚悟は出来ております!」


メリッサはリーゼの言葉に涙が止めどなく溢れ出した。

そして自分の不甲斐無さを恥じた。


「しかし・・・・お前が死んだら父ちゃんや母ちゃんに、あの世で何と詫びれば良いのだ・・・・・・」


リーゼがメリッサを抱きしめながら言った。


「その時は、また4人で笑って暮らしましょう!もしかしたら兄上もいるかもしれません!」


この子は自分が手を出さずとも立派に成長している。

逃げろと言った自分を恥ずかしく思えた!

そして誓った、攻めて来るイグナイト帝国・ケルゲン王国は自分が皆殺しにしてやると決意した!


次の日、メリッサはパメラと共に自由都市連合の中心都市ライトタウンに向かった。

予定ではポテル山脈を越えても1ヶ月で着くはずである。

ポテル山脈の峠道は現在ローヴェの管轄下にあるので魔物は出てこず安全に通行可能である。

急げば1ヵ月掛からずして行く事も可能かもしれない!


「パメラ殿、出来るだけ急いで行きましょう!2日は寝ずに走るかも知れませんが!」


そうメリッサが言うとパメラもニヤニヤしながら言い返してきた。


「メリッサ殿、それではダメだ!私は3日は寝ずに走ろうと思っていました!」


思わず2人は吹き出してしまい笑いながら馬を走らせた。


しかし自由都市連合ローヴェのローゼオ姉妹とは如何なる人物なのだろう?


それだけが今のメリッサの不安だった。


だが、成功させねばならない!


それが自分が忠誠を誓った女王アルベルタとリーゼを守る事に繋がるのだから!


必ず成功させイグナイト帝国・ケンゲル王国の両軍を皆殺しにする!


そう決意した。


アドバイスや誤字脱字等がありましたら御指摘宜しく御願いします。

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