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奴隷剣闘士、さらば

その日、朝起きて歯を念入りに磨いて水浴びをしてジーナスが用意してくれた下着を身に着け服を着る。

そして俺は食堂で奴隷剣闘士として最後の儀式をする。

別に人や魔物と戦う訳じゃない、でも、これは俺の最後の奴隷剣闘士として義務的な儀式なのだ。


既に座って待っていたジーナスが俺に向かって手招きをする。

他の奴隷剣闘士たちも俺を待っていた。

俺がジーナスの対面に座ると付き人のステファン・ノームデンの手によって次々と豪華な食事が運ばれてきた。


メニューの内容はイグナイトの地方料理が主流だから名前は分らないが肉が主体の朝食にしては重そうな料理がズラリと並んだ!

奴隷剣闘士として生活していると絶対に食べる事の出来ない豪華さだ!


そう、これを完食する事が俺の最後の奴隷剣闘士としての儀式である。

これを食する事が他の奴隷剣闘士たちへの俺からのはなむけの言葉となるのだ。


これを食いたきゃ勝ち抜いて生き残って俺みたいに自由になれよ!って意味だ!


皆の視線の中で時間は掛かったがなんとか完食した時、ジーナスが2枚の紙を俺の前に提示した。


「ではアベルさん、私が貴方を商人から買った時の奴隷契約書と領収書がここにあります!」


初めてジーナスが俺を、さん!付けで呼ぶ、これも儀式の一環だ。

気になって領収書の金額を見せて貰うと銀貨5枚と書かれていた、大体芋5000個くらいらしい。


ジーナスが立ち上がり奴隷契約書と領収書を高々と上げ叫んだ!


「これでアベル・ストークスの奴隷剣闘士としての生活は終わりだ!」


そう叫ぶと破った!


そして俺が食べ終わった皿の上に置くと油を少し垂らし俺に火を点けろと言ってきた!

ステファン・ノームデンから火の付いたローソクを貰い火を点けるとメラメラと燃え上がり呆気なく黒焦げ

の墨になり果てた。


「アベル・ストークス、もう自由だよ、これから先はアベルの思ったとおりに生きればいい!」


俺は奴隷剣闘士としての戦いの日々を終え、そして自由になった。


それから収容所の出入り口に向かうとラウラが1人で待っていた。

ラウラは随分と前から来ていたらしいけどジーナスが最後の儀式があると告げると快く待っていてくれたらしい。


「アベル、ほら!あんたの愛剣だよ!」


ここでジーナスからカムシンを貰う、同時にステファンが用意してくれた最低限の生活必需品が入ったバックも貰う。

バックを受けとり剣ベルトにカムシンを装備した。


「ジーナス、今までありがとう!御世話になりました!」


「アベル、あんたには稼がして貰った、私は稼ぐ手段の道具の手入れをしただけで世話はしていない!」


「それは分るけど、本当に世話になったと思ってるんだよ!」


ジーナスは、真顔になってため息をついて言ってきた。


「アベル、最後にサービスで忠告してやる!これからどんな生き方をするかはアベル次第だ!でもねアベル!そのお人好しな性格は直しな!でないと剣を腰に帯びた以上は生き残れないよ!」


これからは剣士の自覚を持てという事か・・・・・・・


「でも、アベルの性格は嫌いじゃないよ、死んだ旦那に似てるからね!しかし、その性格のおかげで旦那は死んじまったよ・・・・・・」


「気を付けるよ、ジーナス!」


「じゃあアベル元気でな!」


そう言うとジーナスはすぐさま収容所に向かって歩き出した。


「ジーナスも元気でなぁー!」


俺がそう言うと振り返らずに手だけは振って行ってしまった。


18戦17勝1引き分けで奴隷剣闘士としての生活は終わり俺は自由になった。



「・・・・・・じゃあアベル行こうか」


ラウラが俺の顔を見ずに話し掛けて来た、勿論顔は真っ赤である。


「今日はホリー様やお付の人は一緒ではないのですね!」


「・・・・・・姉さまは色々忙しくてな、あいつらは置いてきた」


「そうですか」


「・・・・・・姉さまが来た方が良かったか?」


そう言うつもりで言った訳ではないが意味を取り違えられたのか!

これは弁解しないと!


「いやいやラウラと一緒の方が嬉しいよ!」


「そうかアベル!」


ラウラは一瞬笑い、直ぐにまた真っ赤な顔に戻ってしまった。


どうやらラウラは俺に気があるみたいだ。

それは無茶苦茶嬉しい!


でも、そう思うと俺まで照れて来た・・・・・・

考えてみたら女性と初めて2人で歩いている・・・・・・

これはデートというのに近いのではないのだろうか・・・・・・

それにラウラは改めて見ると少し怖そうだけど整った顔をしてスタイルも綺麗だ。

そんなラウラが今日に限ってコートではなく黒マントを羽織っている。

チラチラとすらりと伸びた足や豊満な胸が見えて普段なら喜んで見たりするんだろうけど、今はそれが余計に緊張の材料になった。


「・・・・・・アベル」


「はい!」


「・・・・・・そのカーチフ似合ってるな」


「カーチフ?」


「・・・・・・その頭の!赤髪のアベルには良く似合ってるぞ!」


これカーチフっていうのか、知らなかった!


「ありがとうラウラ、ラウラも今日のマントが良く似合ってるよ!」


「・・・・・・ありがとう」


そして会話が途切れた・・・・・・

なんとか喋らないとダメだ!


「ラウラはカーチフとかよく知ってたね!俺全然知らなかったよ!」


「・・・・・・父様もそれと似たのを着けてたんだ、だから知ってる」


「へえ、お父さんも着けてたんだ!」


「なあアベル、私を不思議に思わないか?」


いきなり真剣な顔をして俺に言ってきた。


「何が不思議なの?」


「私はテアラリ島3部族の人間だ!いずれは強い男の血で子供を産まねばならない!だが私は自分1人では男と目を合わす事すら出来ない・・・・・まだアベルだからなんとか喋れる状態だ・・・・・」


それって俺を男として認識してないって事・・・・・・?


それからラウラは理由を話し出した。


父のアフマドはラウラが生まれ物心が付き彼が亡くなるまでの間は頻繁に会いに来てくれていたらしい。

その時はアフマドはホリーに剣を教えたりラウラと遊んだりする一方で母のノーマとも愛を語ったりして仲睦まじく過ごしたりしていていたそうだ。

そんな2人を見てラウラは羨ましく思う一方で、それが当たり前だと思っていた。

だが、いざ外に出てみると男は性の道具に過ぎず女も一夜を過ごし子供を産んでも相手の顔も名前も覚えていない、それがテアラリ島では普通だった。

レイシアやカミラと席を並べ教育を受けても教師役の者は部族の長の一族として強い男の血を求めよと言ってきてレイシアもカミラも当たり前のように頷いて聞いていた。

聞いていて吐き気がして、じゃあ自分の両親の関係は一体なんなのだ?という疑問を持つようになった。

ギャップに悩むようになり男がダメになったらしい。

それでも、ホリーに同行してイグナイト帝国とエルハラン帝国などテアラリ島3部族の掟で出国が許される2国に行くようになり、まだお付の人たちさえいればマシな状態にはなったそうだ。


「こんな私はやはりおかしいのだろうか・・・・・」


確かにテアラリ島3部族の感覚に照らせば異常などだろう。

しかし、この世界が一般的に『女尊男卑』であったとしてもラウラの両親の関係は異常ではなく寧ろ正常だと思う。


「うーん、おかしいとは思わないよ!ただ聞く限りじゃあテアラリ島は閉鎖的なところがあるから、これから変っていって国際感覚が磨かれればラウラのギャップも埋まるんじゃないかな!」


「・・・・・それはどういう意味だ、アベル?」


「国際感覚が出来れば、当然ながら人々の交流も増えるし出入国の機会も出来るだろう!そうなるとテアラリ島だけの感覚にゆっくりと他の国の感覚も加味されて行く事になるからテアラリ島3部族の間でも変化が起こるさ!」


「・・・・・アベル、すまんが解り易く話してくれないか?」


「ラウラのお父さんやお母さんのように恋愛をして子供を作るって意味さ!強い弱いじゃなくて愛おしいと思う人達の間で子供を作るって人も増えると思うよ!」


「それでは部族の血に強き者の血が入らないではないではないか!」


「だから、そう考えない人もテアラリ島3部族内で出るって事さ!勿論そういう風習は大事だと思うよ!でも、これから変ればいいんじゃないのかな?戦うだけの強さだけが全てじゃないって事を!」


ラウラは俺の説明では納得したのかしなかったのか分らないけど少し考えた後また聞いて来た。


「アベルは強くなくても良いのか?姉さまに勝った程の強さじゃなくても良いのか?」


「そりゃ強い方が良いしもっと強くなりたいと思てるよ!」


「では強さが欲しいと思っているんだな!」


「俺はね、奴隷になる前は鍛冶屋で修業してて包丁作ったり鍋修理したりして平和に暮らしてたんだよ!でも戦争になって父や母は死んで姉も妹も生きているか分らないけど、いつか3人で暮らして平和に暮らしたあの頃に戻りたいと思っている!だから平和に暮らす為の強さが欲しいんだよ!」


「平和に暮らす為の強さか・・・・・・」


また納得したのかしなかったのか分らない表情になったけど少しは感じ入った顔をしてくれた!

しかし、次の瞬間焦った顔して俺に言ってきた!


「ああ、アベル急がないといけなかったんだ!姉さまにアベルの剣を買ってやれって言われてた!」


「いや、いいよ!カムシンがあるから十分だよ!」


「アベルは二刀剣だろ!もう1本が絶対に必要だ!」


それから鍛冶屋に走っていた!

俺の横でラウラが走っていたがマントが風に靡いたおかげ大きな胸がブルンブルンと揺れてエロかったがテールズの人達はラウラが怖いのか誰一人見ようとはしなかった。

勿体ないとは思うけど色より恐怖の方が勝っているのだろう。


鍛冶屋に着いて店内を見回すと客がまばらにはいるが多くはない。

しかし客が着ている服は高価そうで直ぐに貴族御用達の鍛冶屋だと分った。


ラウラと、どの剣が良いのか見ていたが考えてみたら自分にどの剣が合うのかさっぱりわからない・・・

ラウラに聞いてもハブーブしか興味が無いみたいでさっぱりだった。


それでも一緒に見ていると見た事がある人が俺をジッと見ていた。

そして笑顔で声を掛けて来た。


「もしかしてマンティス殿ではないですか?」


「そうですけど・・・・・・あ、スチュワード・ハミルトン!」


それは、あの俺と闘技場で戦った貴族の坊ちゃんのスチュワード・ハミルトンだった。

でも、こいつ俺に脇腹ブチ折られたのに、よく笑顔で声を掛けてこれるな!


「いつどやの一戦では御教授頂きありがとうございました!」


御教授って・・・・・あれが!


「いえ、それより、何と申しますか、俺がブチ折った脇腹大丈夫ですか?」


「まだ少し痛みます!」


「それは何て言って良いやら・・・・・」


「いえお気になさらず、それよりその井出達と剣を帯びているところを見ると・・・・・・」


「はい、今日で自由になりました!」


「それはそれは!おめでとうございます!」


闘技場を出れば、こんなに礼儀正しい奴だったのか・・・・・・


「ラウラ殿と一緒であるという事はテラン族の騎士に?」


ラウラを知っているのか?そう言えばラウラをスチュワード・ハミルトンは恐れている雰囲気がないけど。


「スチュワード殿、お久しぶりです!


「ラウラ殿も御機嫌麗しゅう!」


「で、今日は剣を探しに来られたのですか?」


ラウラが思いついた様な顔をし俺に言ってきた!


「アベル、スチュワード殿は剣に精通しておられる方だ!選んで貰ったらどうだろう?」


全く分からない2人が悩むより精通している人に選んで貰う方が良いだろう。

仮に俺を恨んで変なの選びやがったらテラン族に喧嘩を売った事にもなるから大丈夫だろう!


「スチュワード様、お願いできますか?」


そう俺が頼むと直ぐに了承してくれ30分悩んだのちに長さ80CMほどの1本の剣を選んで持ってきた。


「このショートソードはどうでしょう?マンティス殿は二刀剣ゆえ、それ程の剣身は必要ないでしょう。

それなら、その腰に帯びたシャムシールに合わせて、これにした方が扱い易いでしょう。これは最近売り出し中のイザーク・ケンブリッジの作で材質が・・・・・・」


長い長い説明と注釈を聞かされたが適当なところでラウラが咳払いをして漸く終わった。


そしてラウラが買ってくれた。


それからスチュワードは懐から奴隷解放の祝いだとを言って1本の30CM程のスティレット(短剣)をくれた。

見てみるとリュークのレイピアと同じワッツ・リードの作品だった。

何かあって格闘になった時に刀剣では不利だからという理由だ。


また薀蓄が始まったけど直ぐにラウラの咳払いで終わった。


「私ね、父に着いて領内の土木整備の勉強をしているんですよ。マンティス殿に負けてから剣を握って戦う事が怖くなって剣術は辞めました。でもやっぱり剣が好きでここに今も足を運ぶんですよ!」


「そうですか、なんかすみません・・・・・」


「いえいえ土木の勉強も面白いですし父はそんな私に大喜びです!」


俺が彼の剣士としての生命を断ち切ってしまったのだ・・・・・

並の奴隷剣闘士なんかじゃ勝てない彼の剣を・・・・・

申し訳ないと何故か思った、けど俺だって負けていたら死んでいたんだ。


「おっと!今日はこれから父と領内視察に出掛けるんです、それではごきげんよう!」


そう言ってスチュワードは手を振って帰っていった。

俺は奴隷剣闘士として好敵手と戦っていたんだなとしみじみと思った。


それから直ぐに一応の名目上のテアラリ島3部族の領事館に行った。

俺は名目上はホリーの騎士として雇われる事になっているがそれが大問題だった。


テアラリ島3部族で奴隷から種馬奴隷にはなった者は多くいたが騎士として雇われる事は初めての事らしいのだ。

だから騎士の叙任の儀式というものが全く分からずイグナイト帝国の貴族にも来て貰うことになった。

ただ可哀想だったのはホリーだった。

彼女はテアラリ島3部族で初めての騎士叙任をする族長という立場になってしまい緊張で何度も舌を噛み大変な儀式となった。


そして3日が経った、3ヵ月後に武闘祭と云う事で族長のホリーが帰国するので俺たち参加者たちも一緒に同行しテアラリ島に行く事になった。


いよいよテアラリ島への出港である!


自分は奴隷として海を渡り奴隷剣闘士として3年以上戦った。

そして今、テラン族ラウラ・テランのパートナーとしてテアラリ島3部族の武闘祭に向かう。

自分が生き残る為の戦いではなく人の為の戦いだ。


自分の力でラウラに勝利をもたらす事が出来るだろうか?


そんな不安を他所に甲板の上に立つ俺の横には心なしか嬉しそうなラウラが立っていた。







第2部 奴隷剣闘士編 完。

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