表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/219

もう一つの蒼い大渦

さらに、ごちゃごちゃになりました。

もう、自分でも何を書いているのかわかっていません。

こんなのでも良かったら読んでください。

どんな世界に生まれたとしても納得できるはずのないもの。

それは境遇。

生まれ落ちた先、『スタート地点』というもの。

これらには、親族、環境、成り立ち、何より『金銭』が含まれた。


最初が恵まれていたなら、『スタートダッシュ』というものが起こる。

無かったなら、『マイナススタート』ということだ。


要は『運』だ。

しかし『先』の展開次第で、どのようになるかは神でさえわからない。

選び歩んでいく生き方次第で、全てが決まっていくのだから。


もしも、異世界転生を果たしていった先、『展開』が逆だったなら⁉

もしも、この世界において一人の『戦士』として歩んでいたなら⁉

様々な葛藤が容赦なく襲い掛かった。


片方からしても、違う葛藤は抱えてはいた。

どうして、自分は一人だったのか⁉︎

どうして……自分には愛情豊かな『母親』に恵まれなかったのだろうか⁉︎


生前が似たような生活を送った転生者同士なら、そう考えても当然だったのかもしれない。


剣と剣が火花を散らし、時折に『ガチ、ガチャ』と鍔迫り合いがあったが、より顕著になっていく。

片方が抱えた不利と事情がである。


生命を賭け戦う合間に、小さな生命を守る戦いを強いられていた。

鎧を着込み剣を携えて戦場に出て一騎討ちを演じてはいる。だが土台無理な話だと腹部は証明していた。

それでも負けられなかった。

ここで負ければ命を賭けて守ってくれた者達に申し訳けが立つはずはないのだ。

幾多の死地に向かわせ見知らぬ地で死ぬまで戦わせたのは自分、決して無駄に出来るはずはない。


『もう少しだけ耐えて‥‥‥お願いだから頑張って!』


そう願ってみても、身体は時を刻むほど重く鈍くなっていった。

もはや補えるとかなどは通り越していた。


一つ一つの鍔迫り合いで気力が削れていった。

一つ一つの斬撃が体力を奪っていった。


司令官型と戦士型。

集団を操り思考を凝らす戦いを強いられた者、たった1人で戦い抜いた者の立ち位置の違いを強めていくしかない戦いとなっていった。


ダメだ、違いすぎる。

勝負にならない。

どうして、ここまで違いが出たんだ⁉︎


両者は力や速さ、そして技、そんなものなんて、もはや飛び越えていた。

この異世界にて生き抜くために会得しなければならなかった、新たな能力。

同じものだが、質がまったく違うものに変化していた。


空間把握能力。

物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が三次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する能力のこと。

生物が生きていくのに必要な、外敵から身を守ったり、迫り来る危険の度合いを測定するといった能力に関係するといわれる。


片方は司令官型になった。

よって地図や情報から素早く想像し地形を把握出来るようになった。

だから軍事において部隊配置などは有利に働いた。

もう片方は戦士型、剣や槍など敵の攻撃において、距離そして速度や威力を素早く察知し対応出来るようになった。


三次元の使い方と認識の違いが大きく出た結果だった。

相手の得意な空間に入り込んだ時点で負けは決定していたのだ。


負ける、負けてしまう……。

私が歩んだ、この世界での生き方が無意味だったのか!?


あきらめに傾き始めていた。

はっきりとした能力差が目に見える形で出てしまえば、誰だって行動を停止せざるを得ない。


だが、そのあきらめと行動は、あくまで『個人』であった。

次には司令官型の最優先事項が頭に浮かんでいた。

戦士型には無い、集団行動心理である。


この蒼い大渦は自分達を中心に回っている。

だとしたら、ここで自分の命が終わったとしても味方へは勝利をもたらすことは可能ではないか⁉︎


個人的には悩んだが腹を決めた。 

その『個人』を捨てた。

護り戦ってくれた者達、死んでいった者達の友人家族の為に、今度は私が恩を返す番だ。

何より自軍に勝利をもたらさなければならない。

だったら西へ、一分一秒、一Mでも味方から敵へと大渦を近づけてやる!

敵は必ず、この機会を利用して前へと部隊を押し出しているはず。

私なら、そうする。

そんなところへ、大渦が逆行すればどうなるかな!


時間を稼ぐ戦いに変化させ始めた。

かってボルドと十狼女の5人が戦った時のように。

あの時のツォモルリグがボルドとの圧倒的な差を埋めたように防御に徹し冷静に考える、そして『私達』の勝利は離さない!


鉄の意志を持って少しずつ動いていた。

この大渦の中、でも西に向かって動いているはず、そう私の感覚が告げている。


少しずつ、少しずつ気付かれぬように動く、不安に襲われもしたが帰趨に終わった。

『戦士型』は、1VS1、もしくは目に見える周りしか考えていない。

結局は、自身という固定観念から脱しきれない。

大局という観念は、あったとしても大きくは存在していない。


活路は、そこか!

着実に西へと歩みを進めていった。


動くたびに、身体は傷つく。

しかし不思議と気力が回復し始めた。


そしてリザリーの目を見て確信した。

有利になっていることで勝利を感じて悦に入っているんだなと。


でも、それは『勝利』かな?

個人の勝利など、些細なものだ。

今やっているのは戦争だ。

最後に多くの敵が倒れ、多くの味方が立っていればいい。


徹底した防御の上に、ジリジリと歩を西へと刻んだ。

こうなると片方も何かあると変化から、さすがに気がついてきたが、戦士としての本能がさせるのか勝負を急ぎ始めた。

あくまで『個人』としての考えだが、少なくとも目の前の『障害』を取り除きさえすれば、どうにかなるとは考えていた。


それは正解だけど、間違えているよね。

この場合、大局という観点から考えるなら、西へは行かせないが正しいのだ。

相手は鉄壁の防御を敷いたのだ。

そうやすやすとは終わらない、終わらせない。

それにリザリー、貴女は良くても貴女側の『指揮官』は、これをどう考えるかな。


実際、外では大渦が西を向かい始めたことで進軍速度が一時的に弱まっていた。

最大のチャンスが、今度は最大の壁になろうとしていたのだ。

さすがに指揮を統括するスノーでさえ、様子見をせざるを得ない。


大局を知る者は、多くの情報から観察して判断を下す。

スノーとサラーナ、転生者という接点以外は無い。

だが、司令官という観点からすれば一致していたのかもしれない。


まだまだ、命が尽きるまで大渦を西に向けてやる!

サラーナが完全に気力を取り戻し、リザリーが優位に立つにもかかわらず追い詰められるという奇妙な展開に変化していった。


じっくりと進むサラーナ、勝負を焦るリザリー、その戦いが三十分が過ぎ、三百M以上を進んだ時、突如として大渦が動かなくなった。


私は西に進んでいるんだぞ⁉︎ 何故、西に大渦が進んでくれない⁉︎


どんなに大渦の中心から端に行っても、西には進まなくなった。


何故だ、何故動かない⁉︎

まさか、止めたというのか⁉︎

いや人間の力では不可能だ、だいたい大渦を止めるものなんてあるはずが……。

いや、ある……もう一つの蒼い大渦にぶつけて止めたというのか⁉︎

……そんなことできるはずがない、私たちの性格と行動、それに結果がわかっていないと不可能なはずだ。

私たち以上に私たちを知っている人間でもいない限り無理なはずなのに、どうして!?


これは、もう一つの蒼い大渦を発生させた一人ケネル・ホールディの意図。

あのメリッサとテムルンが最初に引き起こした大渦を見たときから、うっすらと感じていたもの。

一瞬だけ、過去に引き戻されたときに見た生前の姿、許されない過去。

そして、この戦場で初めて見たリザリー・グットリッジとサラ-ナから感じた謝罪への気持ち。

だから自分の瓜二つの者が、ここにいるのことに賭け、誰よりも早く探すことに専念した。


転生前はゴト師だった。

色々な小細工を仕掛けて、台の設定を狂わし金を稼いだ。

だが、それだけでは勝利は得ない。

その細工を、どう誤魔化すかに勝負の行方があった。

どこに監視カメラがある、この列は店員が少ない配置をしている。

どの店員が常に監視している役目を果たしているのか?

更には換金の際には監視の目が外れるのか、又は大手パチンコ店なら店員の人事移動なども常にチェックしていた。

勿論、店側も警戒しパチンコ台やパチスロ機を統括し監視するシステムはあるのだが、それでも必要最小限の観察が出来ないとゴトは出来ない。

ましてや、店に入った時点で人間観察出来ないと話しにもならない。

パチンコ台やパチスロ機よりも、それらを監視する店員を誤魔化す手段が重要となるのだ。

勿論、発見され捕まれば警察に突き出される。



要は、騙し合いの世界で生きてきた男である。

騙し合いとは、相手の性格や行動を先読みすること。

これは人間観察眼が優れていないと出来はしない。

しかし、こういったものは一朝一夕には出来ない。

常日頃から訓練、そして前提がないと出来はしない。

日常での人間観察等の癖がないと出来はしない。

そのきっかけが、例え不純な動機からきたとしても。



蒼い大渦同士が交錯した途端に西には動かなくなった。

その後だった。

やがて中和されるように、二つの蒼い大渦が一つになり混ざり合った。


再び記憶の扉が開き始めた。

但し、もう二人の転生者、ケネル・ホールディとパチンコ店の店長であった。

ケネル・ホールディの生前がリザリーとサラーナ、いや美紗と沙羅にも見えた。

しかし、それは二人にとって異世界に送られたきっかけであり、憎むべき対象といって良ったのかもしれない。



とある日本、とある関西地方のオマケのような県の県庁所在地の一地区の市立中学校。

ふざけたチャラ男が教育実習生としてやってきた。

やる気は全くなかったが、何の因果か、頼まれて卓球部顧問になった。

そこには問題児女子生徒二人と母親はいたが、遊びにだけは長けた馬鹿女子大生達や狡猾に男を捜しもてあそぶ金持ちマダム達に比べれば大した問題ではなかった。

適当に言い包めて適当に対処してみたが、思いもよらなかった結果になった。

女子生徒二人は卓球の天才だったのだ。

あれよあれよという間に世界最強ペアを倒してしまい、予想外の展開になってしまった。

その事で、世間では自分を有能な指導者として崇め始めた。

当然だが、調子に乗った。

チャラけた大学生感覚で、二人の母親達にも手を出して遊びまくった。

後輩も呼び寄せ、これまたノリで遊んだ。

相手も喜んでいるから、問題はないだろうと単純に考えた。

俺ってクズだよな! と仲間内で笑い話にさえして遊んだ。


しかし、こんなクズでも決してやらなかったことがある。

受け持った女子生徒達には絶対に手を出さなかった。

自分を先生と慕い信頼し頼ってくれる生徒達が嬉しく可愛かったのだ。

本気で教員を目指そうと採用試験も受けたが、知能の関係で落ちた。

それでも、顧問として特別に採用しては貰え、それなりに充実した日々を送っていたが事件が起こった。


自分の悪行が世間に晒された。

結果、母親二人、そして自分を慕ってくれた女子生徒二人が自殺した。


打って変わり、本当のクズ認定になった。

親からは絶縁された。

後輩達は、責任を押し付けて逃亡していった。


しかし、そんなことはどうでも良かった。


自分は生徒と、その母親を殺したのだ。

後悔し絶望した。

なんとか借りた安アパートで懺悔の日々。

どうして、あんな安易なことをしていたんだ!?

寝れない、眠れたとしても夢に問題児二人と母親達が出てきて飛び起きる日々。

自暴自虐になって自殺しようとしたが、怖くて出来なかった。

出来ない以上は、嫌でも生きねばならない。

かといって、まともな就職は出来るはずはなかった。


結局、パチンコで生計を立てるしかなかった。

落ちるところまで落ちたのだ。


だが、どのギャンブルでも考えなしでは勝てはしない。

確実に勝つ方法を考えるうちに、ゴト師になった。


しかし、この不正すら償う時がやってきた。


昼はパチンコ店、夜はアパートで課金ゲームと無気力な日々を送っていた時だった。


タバコがなくなった。

深夜にコンビニ店に行こうとアパートから出て数Mほどを歩いた時だった。

いきなり背中に激痛が走った。


後ろを見ると、見覚えのあるオッサンが包丁で刺していた。


「お前のせいでクビになった!

おかげで女房子供に逃げられた!

全部、お前のせいだ!」


以前、ゴトで狙い撃ちにした大手パチンコ店の店長だった、但し、『元』だ。


最近見ないなと思っていたが、刺されてわかった。

ああそうか、クビになっていたのかと。


馬乗りにされ幾度も刺された。

しかし助けを呼ぼうとは思わなかった。


これで楽になれる……。


どこかで、そんな気持があった。

刺されるたびに、ごめん、ごめんと呟いた。

元店長にではない。

自分が殺した者たちへである。


そして散々刺されたころ、元店長叫び声をあげ始めた。

気がすんだ瞬間に、正気を取り戻し怖くなったのだろう。


腰を抜かして逃げようと這い始めた元店長を制止して、最後の力を振り絞って背中の包丁を無理矢理引き抜いた。


「証拠を残しちゃだめだよ……。」


投げ捨てた包丁を拾って、逃げていく元店長を見送りながら静かに目を閉じた。


数秒位して耳に『うわわぁぁーー! キッキキーー、ドン!』と元店長の叫び声と訳のわからない大きな音が入ってきたが、もうどうでもよかった。


ごめんなさい……。


最期の呟きを残して死んだ。


その後は、普通の転生者たちと同じになった。



二つの大渦は一つになった時、リザリーとサラーナが戦いをやめた。

そして同時に呟いた。


「……先生。」


自分達、そして母親達を死に追い詰め、異世界に送った男。

なにより卓球部顧問であり、自分達を親友にしてくれた教育実習生、チャラ男との再会になった。




















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ