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未練と嫌悪

「途轍もない怒りと、一発くらいは殴ってやりたい!」


とは言ってみたが、実際は半分だけなのです。

半分は『未練』と感じています。


私の名はドミニク・バルティ、彼女の名前はシラ・ビバロ。

謂わゆる『転生者』というものらしい。

恥ずかしながら、前世界では不倫をした挙句に殺され転生してしまった次第です。

初めの頃は、一般的通念が狂った世界への転生に戸惑う毎日でしたが、幸運にも私達の上司であるアベル・ストークスと出会い、疑念も解消され『現在』を生きている限りです。


そんな私達は、危険な敵の真っ只中で大声をだして『私は超于晏です!』とか『私はコンジェルです!』など叫びまわり敵軍を混乱状態に誘う任務に従事しているのです。

この『超于晏』と『コンジェル』が私達のそっくりさんらしいのですが、彼らに対して聞いていた転生者特有らしい不快感は確かにあります。

しかしながら、そんなものよりも何故か『未練』が勝るのです。

上司と、彼の姉であるメリッサさんから聞いた話では不快感はそっくりさん同士が出逢わない為の壁らしきものとの説明はされたのですが、では『未練』があるのに『壁』が存在するのは不可思議な気がして作戦への参加を承諾致しました。

この『未練』は私は『コンジェル』、シラは『超于晏』であるとテントの中にて二人の『楽しい』ことの最中に確認しましたが、普通ではあり得ないのです。

例えばリザリーさん。

不快感以外にも『大切な人』との想いが、そっくりさんであるサラーナという方にお有りだと話しておられました。

他にも上司アベル・ストークスならボルド、メリッサさんならテムルンといった、其々が違った何かを持っている具合なのですが、正直なところ私は超于晏なる方には『一発殴ってやりたい!』くらいしか感情が湧きません、未練を感じるのは何故かコンジェルという女性なのです。

確認しましたが、シラも同様でした。

聞いていた話と違う、そっくりさんには興味が無い訳ではなく、然程‥‥‥こんな感じです。


これは推測ですが、前世界の超于晏とコンジェルに殺されている過去と、原因が私達の不倫、それらから導き出す答えは私とコンジェル、シラと超于晏が夫婦だった、もしくは恋人同士だったのではないか?ということになりました。

しかし唯が不倫、男と女の情事の挙句が殺人、その結果に至った理由が分かりません。

金銭で決着するなり話し合うなど方法は幾らでもあると思いますが、どうして殺人というプロセスまで至ったのか?

殺されたのに、どうして『未練』があるのか?

これが、どうしても分かりません。

そして、同時に気づいてしまいました。

私はシラを愛してはいない、シラも私を愛してはいないと気づいてしまいました。

二人いると楽しい、身体の相性も良い、転生して若い身体を手に入れて最高の毎日なのに愛していないのです。


謎は増えていくばかりです。

突入前に、私達の護衛役を引き受けてくれているゲイシー隊長に相談してみました。

勿論ですが『転生者』という事実を隠しながらです。

彼の答えは、こうでした。


『それは『愛』だよ、愛は永遠で不変のものなんだよ!』

‥‥‥と力説しておられました。


彼にも何か思うところもあるのでしょう、拳を握り熱弁を奮われておられましたが、それは無視して『愛』という言葉が印象に残りました。

『愛』と殺されて転生した事実、色々と二人で悩み考えた結果、私達は愛されていた、そして相手側の嫉妬と喪失感から殺されたのではないか⁉︎ という答えを導きました。

もし、そうならば逢って謝らねばなりません。

愛と嫉妬、そして殺人を犯すまでに至った喪失感まで与えてしまったのです。


しかし、それでは辻褄が合わない。

私達にある『未練』がです。

殺されていながら『未練』を懐くのか⁉︎

結局、振り出しに戻りました。

だから私達は答えを求めて超于晏とコンジェルに逢いに行くのです。

武勇の無い私達では、この世界でも彼らに殺されるでしょう。

それでも、この怒りを含んだ『未練』は抑えようがなく参加したのです。


こう考えている間にも敵中軍中央近くにやって来ました。

周りでは上司アベルさん達四人が必死に叫んでいましたが

、突如私達の努力を相殺する大声が響き渡りました。

クオンさんのそっくりさんでした。

クオンさんは私達に言葉と笑顔を残し彼に向かって行きました、自分の『因縁』と対峙するためです。

それは間近に私達にもやって来るのです、身震いはしましたが引き返せない宿命、気合いを入れなければ! と思った時でした、上司アベルが振り返り言いました。


「クオンの瓜二つが現れたんだ、俺達も近いはずだ。

中央部に入って行くぞ、絶対に死ぬなよ!」


そう、すぐにも現れるはずです。

この『未練』が何なのか? が分かる時が近いのです。


そして私達は再び大声で叫び始めました。

叫べば叫ぶほど、そっくりさんが近くにいると身体と心が教えてくれました。

心臓の鼓動が桁違いに早くなり不快感に心が圧迫され、吐き気すら感じます。


必ず近くにいる! 周りを見渡すといました、高台を装備した巨大な馬車の上で指揮を執っているらしい私達のそっくりさん二人、すぐに気が付いたのか失礼にも最高に嫌そうな顔をしていました。


「アベルさん、どうやら私達も『因縁』に向き合う時が来たようです。

貴方に会えて良かった。」


「ドミニク、シラ、絶対に死ぬなよ! ゲイシー、二人を頼んだぞ!

必ず生きて帰ろう!」


そして私達はゲイシー隊長に先導して貰いながら彼らに向かった。




※ ※ ※


指揮車の上にて早急なる戦力投入を続けていた。


「乱戦狙いか、良いだろう受けてやる。

しかし、いつまで保つかな。

こちらが兵力的には未だ上だ、装備から鑑みても疲れるのは向こうが早い、絶対に焦るな。

まだ何かを隠しているはずだ。

まずは焦らず撹乱し敵を疲れさせることを目的としろ。

それから最後はゴンザに任せるから残った兵力で斬り込んでやれ!」


「于晏‥‥‥美味しいところを用意してくれるのは有難いが、今回は不要だ。

漸く『待ち望んだもの』が来るみたいだ。」


「‥‥‥そうか、ならば仕方ないな。 でも死ぬなよ。」


「よせよ、ぶっ殺してこい!と言ってくれよ。」


「そうだな、俺が悪かった。」


ゴンザは転生者としての宿命に従おうとしている。

宿命が近くにいると感じているのだ。

邪魔するのは悪いだけ、実際に後ろではテムルンがジッと目を閉じて精神を集中させていた。


「テムルン様、集中しているところを申し訳ない。

ここより、一旦少し後方に下がって貰い指揮を任せても良いですか? 」


目を閉じたままのテムルンが、ゆっくりと口を開け呟いた。


「‥‥‥わかった。」


「任せて下さい、と言っておきながら申し訳ない。

どうやらゴンザだけではなく、私達も『宿命』と『因縁』を対処する時、残念ながら逃げられぬようです。」


「‥‥‥其々の事情もあるからな。

では私は下がるとしようか。」


「ありがとうございます。

そして私が敵司令官ならば、そろそろ一手を繰り出す頃かと。

その時がお任せする時、我ら三人が『宿命』と対峙した時と思って頂きたい。」


「了解した。

安心して対峙してこい。」


「はっ!

最後にテムルン様‥‥‥あの時、あの牢獄で貴女に救われねば、私はコンジェルに逢うことすら叶わなかった。 改めて礼を言います。」


「礼はいい、だが感謝の念を抱いてくれたなら二人とも生きて帰ってこい。

私は媒酌人だ、死なれては禍根を残す。

それからゴンザ‥‥‥ぶっ殺してこい。」


最後の別れの挨拶のように指揮車から降り、後方に下がっていった。

三人が片膝をつき敬意を以って見送った時、戦場に異変が起こった。

それは敵五万に対応するために戦力投入をおこなった直後だった。

敵が二手に分かれ二万ほどが右側面に押し出してきたのだ。

明らかに戦場の変化を狙っている、しかし陽動。


「乗るな! 見せかけだ。

こちらの腹を曝け出させるためだけの陽動だ。

三万ほどで警戒だけをすればいい。」


すぐに三万が警戒態勢をとったが、甘かった。

その二万が進軍し始めた。


東の蛮族にゲンゲル人の恐ろしさを身に刻んでやれ!

こんな怒涛の叫び声をあげ向かってきたのだ。


「あの五万の司令官は馬鹿か⁉

完全に突出してしまった状況では、二万を見殺すのと同じだろうが⁉ それとも乱戦を広げたいだけか⁉

だったら蹴散らしてやれ。

壊滅次第に、こちらが迂回して奴らの横っ腹を突いてやれ!」


しかし三万が颯爽と動いた暫く後だった。


「撤退、迅速に合流するぞ、急げ逃げるぞ!」


敵軍二万の指揮官であろう女が剣を片手で振り回し指示を出しているのが見えた。

二万が三万に合流するために走り出したのを皮切りに、投入した三万が引き摺られるように追い掛け走り出してしまった。


「しまった‥‥‥あの五万の本隊は二万の方か!

やられた、わかっていたのに。」


偶然だった、片方の司令官にはタイミングが良く、片方の司令官にはタイミングが悪すぎた。

勘付きはしていた超于晏だったが、あれこれ転生者の『因縁』に捕らわれながらの指揮であったため、先にあるマーア・インサイトの作戦が読めていなかった。

口惜しがった超于晏だったが、次の危機、これまた予想していた『一手』が始まった。


『俺はボルドだ! 退け、全軍退け! ウルバルト帝国に帰るぞ!』

『私はサラーナだ、幕僚長よりの命令だ。退け、全軍撤退!』

『ゴンザ、ゴンザの命令だ。退け、退くぞ!』

『摂政テムルンが命令だ、全軍撤退! 全軍撤退!』


知った者達の名を叫びながら走るウルバルト帝国の軽装鎧を着た者たち。

ボルド様もサラーナ様も本営だ、居るはずはない⁉ どうして、それにゴンザだと⁉


「おい何だ、あれは?、あの隊はどこの奴らだ?」


一瞬の混乱に陥った時、胸の中で不快感が充満し始め、そして正解が出ると同時に驚愕した。

『私は超于晏です!』『私はコンジェルです!』と自分たちの瓜二つの者たちが叫び近づいているのだ。


「まさか向こうの瓜二つの奴らが叫んでいるのか⁉

ええっ‥‥‥こんなことをすれば、この世界の人間に転生者の存在が分かってしまうだろ、何を考えているんだ⁉」


見る見る間に味方の動きが止まり混乱状態に入っていく。

更には撤退を始める軍まで出始めていた。


「まずい、やられた。

ちっ、思いつかなかった‥‥‥これを先に、こちらがやっても良かったな。

コンジェル、すぐに各軍に伝令を走らせろ、偽物が叫んでいるだけだとな。

まだ収集はつく、急げ!」


コンジェルが伝令役達を呼ぼうとした時だった、ゴンザが笑いながら遮ってきた。


「于晏、コンジェル、もっと良い方法がある。

自分の瓜二つの奴をぶっ殺せばいいだけだ。

とりあえずは俺が先に行く、お前たちも覚悟を決めておけ。」


ぶっ殺せばいいか、確かに味方に自分たちが本物であると認識してもらうには偽物を殺すしかない。


「そうだな、ゴンザの言うとおりだ。

わかった、だが俺達は混乱の収集を付け次第だ。

今のままなら兵を無駄死にさせるだけだからな。」


「随分と真面目だね、じゃあ後は二人に任せた。

ちょっと、ぶっ殺しに行って来るわ!」


「ゴンザ、死ぬなよ。」


そう言われてすぐに、ゴンザが高い指揮車から飛び降り、鎖を使い着地直前で衝撃を殺した。


二人を見て珍しく微笑みを残し走り去った。

それは自分の技量を二人に見せることで安心させようとする彼なりの気遣いだったかもしれない。


「コンジェル、これが最後かもしれない。

わかるだろ、身体と心が告げているのが。」


「そうね、近くまで来ているわ。」


「だから言っておく。

生きてくれ、俺が君の瓜二つの奴とも戦う。

だから‥‥‥。」


「いえ、私も『因縁』には向き合うわ。

そして貴方も、二人で生き残るの。

もしダメだったら、また転生して必ず出逢いましょう。」


「そうだな、必ず見つけるよ。



今度は、おにぎりを忘れないでくれ。」


「ええ必ず。」


そして二人は戦場の中、熱い抱擁と口づけかわした。

口と口とが離れて見つめ合い、互いの想いを確かめた時、最高で最悪の違和感、不快感が彼らに襲いかかった。


「もう来やがったか。」


指揮車から見落すと自分達と瓜二つの奴ら眺めるように、そこにいた。


「『因縁』と対峙する時だ。

コンジェル、絶対に死ぬなよ!」


「于晏も。」


二人が逃げなれない『宿命』と対峙した。

しかし不思議なことに気が付いた。

超于晏には女が、コンジェルには男の方が見ていたのだ。


「なんか‥‥‥あいつら最高に気色悪いんだけど。」


「そうね、私も‥‥‥。」


二人には最高の『嫌悪感』が演出され醸し出されていた。


























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