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童貞喪失

モーザとの戦いから2ヵ月も経つと俺の身体は完全に回復した。


それと同時にジーナス・モーゲンが奇妙な事を俺に聞いて来た。


「アベルは、どんなスタイルで戦いたいんだい?」


どんなスタイルでと言われても普通に剣を持って戦うだけなのだが、ジーナスはそれではダメだと言う。


「私はね、お前に付加価値を付けて貴族に売らなきゃならないだよ!普通のスタイルなんかされたら目立たないだろ!」


言いたい事は判った、バトルアックスや長刀での派手な戦いをしろと言う事だろう。

だが出来れば俺はメリッサから教わった剣道を崩したくは無かった。

それにそういった派手な事をすれば生き残れる確率は下がるのは確実だ!


俺が困った顔をしていると判ったのかジーナスは1人の男を呼んできた、俺をいつも見張っている中年の男だ。


「コイツはリューケ・ガーランド。かっては奴隷剣闘士だった男さ!でもね26戦目に足をやっちまってね、それで私が買い取って使用人として使っているのさ!」


そうジーナスに紹介された男はジーナスに頭を下げた。


「コイツの剣には華があったんだよ、どんな態勢からでも華麗に戦ったものさ。私はコイツの戦いが好きでね。

今日から、リューケに剣を教わりな!リューケ、アベルは殺すんじゃないよ!」


嫌だとも言えず教わる事にしたがリューケは見た感じ痩せたヒョロっと背の高いだけの男だ。

大丈夫か、コイツで?と思うがリューケは自分でもそう思っていたみたいで俺に言ってきた。


「俺は人に剣を教えた事は無いがジーナスに頼まれたから一応はやる!しかし手取り足取りなんて器用な事は俺には無理だ。だから俺と戦って実地で覚えてくれ!」


そういうと少し広めの部屋に俺を連れて行った、どうやらここは道場かトレーニングルームらしい。

一本の木製の剣を渡してきてリューケは二本の剣を取った。

思ったとおり二刀流か、嫌だなあ、カッコばっかりでなんか嫌だ。

俺は前の世界ではネトゲの『家康の天下取り』をやっていて武芸職だったけどカッコばっかりで二刀流は嫌だったから印象は良くなかった。


「まずは、お前のやり方で掛かって来い!その方が納得するだろう!」


そこまで言われたら仕方がない、正眼の構えで間合いを測る。

間合いを測りつつ隙を伺っていると、こんな事を俺に言ってきた。


「アベルは試合でもしているつもりか?攻めてこないなら俺から攻めよう!」


右足を引きずりながら器用に俺を攻めてきた、1つ1つの動きが円を描くように流す様に攻撃してくる。

ムカついてきたので今度はこっちからも攻めてみるが、左足で蹴ってきたり肘で攻撃してきたりと動きが多彩になってきた。


「アベルの剣はまるでルールの中で戦っているような動きだな、それでは直ぐに死ぬ!」


ムカつくが、そのとおりだ。

俺はメリッサのように剣道の基本の動きからの応用まで出来ないし教わってもいない・・・・・・


散々打ち負かされてリューケに言われた。


「これで納得したか?もう一度やってもいいのだが」


「いや十分です、宜しく御願いします!」


そういうしか無かった・・・・・

だがリューケは俺が思いもしなかった事を言ってきた、本当に予想外だった!


「アベル、お前には二刀剣の才能がある、だから生き残れ!」


俺に剣の才能がある?この俺が?メリッサは全く無いと言っていたのに・・・・・


「どうして俺に才能があると思うんですか?」


「お前、元は左利きだろう?左右どちらの振りでも器用に熟していたからな!」


想い出した、前の世界で俺は小さい頃に右利きに矯正されていた、こっちの世界に来てもそれが当たり前になっていたから右で生活して来たけど本来は左利きだった。

初めて稽古をつけて貰った時も右で剣を持ったから不器用そうにメリッサには映ったのかもしれない。


俄然やる気が出てきた!


「宜しくお願いします、師匠!」


「・・・・・・師匠って俺か?」


リューケは不思議そうな顔して俺に聞いて来た、教えて貰う立場だからそう呼んだのだが・・・・・


「教えて貰う立場ですから、呼んでは不味かったですか?」


「・・・・・師匠か!」


「いやなら先生とかで呼びましょうか?」


「・・・・・先生か!」


反応がイマイチだったので焦ったが次はもっと焦る事を俺に言ってきた。


「お前変わった奴だな、俺をそんなふうに呼びたいなんて・・・・・」


焦ったが理由を聞いてみる事にした。

今までずっと生まれた時から奴隷だったらしい。

だから上から目線で常にみられることに慣れ過ぎて下から敬われる事を知らないのだ!

このリューケ・ガーランドという名前も元々は初めて対戦して殺した相手の名前らしいのだ!

でも、そうなると疑問が湧く。

ジーナスが言った30戦で奴隷から解放という件だ。

それについても聞いてみた。


奴隷から騎士になって暫らくしたら戦争になって捕虜になって、また奴隷になって勝ち進んで、また騎士になって、また戦争になって・・・・・・そういうのを5回繰り返して現在に至るらしい。


要は運がないのだ!


実に不遇な人生だと思うが、本人はそれが当たり前になって特に気にしていないらしい。


「で、最初は何処の国の生まれなんですか?」


「一番遠いので確か覚えているのはエルハラン帝国だった気がする」


まさに地で売れていくよーがお似合いのオッサンだった・・・・この世界の不遇をそのまま体現した奴だ。


「兎に角だ、ジーナスの命令だ!俺には義務が出来た!だから教える!でないと俺が飯抜きになるからな!」


食う為生きているって感じだな・・・・


それから俺は二刀での訓練を開始した、意外にも手首の強化と柔軟体操そして蹴り技の訓練からだった!


「どんな態勢からでも斬り掛かれるようになれ!どんな打撃にも負けない手首を作り上げろ!」


だが、習って行くうちに実戦向きな戦い方だと気がついた。


一刀で受ければ一刀で斬る、基本はそんな感じの繰り返しだが手首を強化すると同時に身体を柔軟にすれば多少バランスが崩れた時でも、それを利用して斬り掛かる事が出来た。

それに伴っての実践訓練では剣の使い方にも色々ある事を覚えた。


例えば斬るという作業だけではなく柄の先で殴ったりするのだ。

これは間合いが縮められた時に使ったり、多数でも乱戦時にも使えると教えられた。


それから足の使い方だ、リューケの二刀剣には蹴りや足払いといった技が多用された。

単に移動だけではなく全身武器感覚なのだ!


そんな実践訓練を繰り返すうちに、あっという間に1ヵ月が過ぎ俺のデビュー戦を迎えた。


俺は皮の膝までの半パンツだけの上半身裸の両肩だけ防具があるといった姿で闘技場に出さされた!

相手は太った同じような格好に左腕にも防具を付けた戦鎚ウオーハンマーを持った男である、14戦戦っているらしい。

ってことは14戦連勝ってことか。


出場前にリューケから2つのアドバイスを受けた。


「お前は人を殺した事があるのか?」


無論なかった!


「殺す時は何も考えるな!相手は人形だと思え!思えなかったら死ぬぞ!」


そう思えるかどうかだが・・・・・


「お前はフォ―スを使えるから向こうも警戒してくる。だったらフォ―スをフェイントに使え!」


なるほど、それは思いつかなかった!

俺はフォースで斬る事しか考えていなかった。


「相手はハンマー使いだ、距離が縮まったら一気に狙ってくる、気を付けろ!」


ジーナスからも一言と言われた、これは忠告ではなく強制か要請と言った方が良いか・・・・・


「アイツのプロモーターはスミス・トゥカッターって奴なんだけど私は嫌いなんだよ、ワザと自分のところの稼ぎ頭を新人にぶつけてきやがった、分ってるね!ぶっ殺してきな!」


そして入場した!


「只今から破壊神ハヌマーンVSゴールデンルーキー・二刀剣のアベルの一戦を開始します。

なお現在の掛け率は8・5対1・5でハヌマーン有利となっております!」


「開始10・9・8・7・・・・・・2・1・0開始」


開始と当時に俺の剣とハヌマーンのハンマーが投げ込まれ拾い上げた!


「おい、坊主、俺は生き残らねばならん!家族が待っているんだ!悪いが殺す!」


恐らくは俺の精神を揺さぶる為に言った言葉だろう、だが俺にも待っている人がいる。

こんなところでは死ねないのだ!


対峙する中でハヌマーンは時計周りに動きながら俺との距離を詰めてきた。


俺は動かずハヌマーンと常に正中線に身体を保ちながら隙を伺った。

カウンターを狙う為だ、きっとハンマーを振った瞬間に身体がぶれる、その時を狙う為だ!


だがハヌマーンも俺の考えが読めているみたいで俺の間合いギリギリで動かず隙を伺っている。


よし自分から距離を詰めてやる!


少しずつ動き自分の間合いに入った瞬間に飛び込む振りをして一瞬だけ右の剣にフォ―スを込めた。


すると流行り警戒していたのか、一歩下がりハンマーを振るそぶりを見せた!


警戒してるなとフォ―スを消した時、いきなりハヌマーンが突進してタックルして来た!

すぐさま左に跳んで躱し攻撃に移ろうとした時、ハヌマーンが急転しその反動を利用してハンマーを振ってきた!

モロに俺の腹横に直撃した、だが幸いにしてヘッドではなく柄部だった。

それでも呼吸が止まり動きが止まってしまった。


そんな俺を逃さない様にハヌマーンがハンマーを振り下ろしてきた。


何とか躱したが直ぐにハンマーを振り下ろしてきた!


間合いを確保したとしても同じ繰り返しになってしまう、一気勝負を掛ける!


躱したと同時に直ぐに右の剣にフォ―スを込めて突きを入れたが、流行り警戒して上半身をスエードし一歩下がって逃げようとする。

だが左の剣で一歩下がる前のハヌマーンの右太腿を斬りにかかった。

それでも躱されたが右太腿を剣から躱した為にハヌマーンの上半身が前方にぶれた。

これを狙っていた、子供の俺がハヌマーンのような大きな大人を殺すには腹を刺すか上半身を下げさせた状態で首を狙うかしかない!


俺は右の剣で再び『突き』を放った!だがハヌマーンは首を往なして躱した!狙った首中央には当たらず逸れて首の皮を深く斬っただけで終わった。

しかしハヌマーンからは大量の出血が起こった!頸動脈にはわずかながらでも当たったのか!?


ハヌマーンがハンマ―を捨て首に手を当て出血を押さえ始めた。


チャンスだ!勝てた!


「助けてくれ!俺は死ねないんだ!頼む!」


俺に膝を着いて懇願して来た!一瞬躊躇した・・・・


その時、再び俺にハヌマーンはタックルして来た!


「甘いな!お前初めてだろう、童貞は、これに直ぐに引っかかる!そして死ぬ!」


弾き飛ばされた俺に再び頭を狙ってハンマーを振り降ろしてきた!


殺される!と思った時、一瞬あの転生前の事が頭をよぎった。


黒髪の美少女に追い掛けられナイフで刺されトラックに轢かれて死んだ。

あの時の黒髪の美少女は般若のような顔で俺を追い掛けてきた、殺されると思って必死に逃げた。

でも死んで転生してら、その少女は俺の妹に転生してきて俺の妹で良かったと言ったくれた!

俺は、あの時に妹に俺も妹で良かったよと言った!


妹に会いたい、死ねない!

何故こんな時にそう思ったのかは俺にも分らないが。


俺は自分の持てるフォースを左の剣に込めてハンマーのヘッドのすぐ下の部分を狙って振り柄を切り切断した。

ハンマーのヘッドが力なくハヌマーンの頭上を越え力なく落ちた。

右の剣をハヌマーンの腹目掛けて突き入れるが、流行り14戦のキャリアからか柄の部分だけになったハンマーで振り払おうとしてきた。

すぐさま左に込めたフォ―スを消して右の剣に込めて柄を再び切断しハヌマーンの腹に剣が深く刺さるのを確認した!


ハヌマーンは仰向けになり倒れた!


観客の絶叫が漸く聞こえた時、司会の男の絶叫も響いた!


「さあ、後は二刀剣のアベルが破壊神ハヌマーンに止めを刺してゲームセットです!さあ見守りましょう!」


俺が近づくとハヌマーンが喋り掛けてきた。


「もし・・・・お前がムフンマド国に行く事があったらチャンドニーっていう女に会ってくれ、妻なんだ、ムンドナン宮殿の近くで飯屋をやってるはずだ、すまないって伝えてくれ・・・・・頼む」


あの言葉は挑発や嘘じゃなかったのか・・・・


「分った・・・・・それだけか?後はないか?」


「ああ、それだけだ!必ず生き残れよ坊主!さあ童貞を落とせ!」

ハヌマーンはどこかスッキリとした顔をしていた。


俺は出来るだけハヌマーンが苦しまない様に心臓目掛けて剣を刺した。

一瞬、目を見開いてハヌマーンは死んだ。


俺を称える観客たちの大歓声の中で俺は童貞(殺し)を喪失した・・・・・














アドバイスや誤字脱字等があれば御指摘宜しく御願いします。

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