表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/219

天真爛漫

深夜、数人が集まり談義をする。


『あの女王と双子の妹達、最初から気づいて言ったのか⁉︎』


『端から疑って掛かっていただろう、気にするな。』


『だが、どうする?

グレーデンに通じるにしても、その前に仕掛けてきたら?』


『いや、仕掛けては来ないさ。

やるなら、もうやっているさ。

たぶん‥‥。』


などなど一応の隠密な会議を開いた不満の女王や女帝達。


この戦はイグナイト帝国、即ち彼の国が誇る無敵艦隊が勝つと考えた者達である。

誰しも自分の国の運命を背負って参加しているのだ。

国を豊かにし民には安寧を齎らす。

だから勝ち馬に乗ろうとする。

何が何でも駄馬には乗れない、乗った瞬間に国は滅ぶのだ。


しかし自分達がヨハンナの前で不満を露わにしたのも分かってはいる、いずれイグナイト帝国が勝利した曉に自分達は『抵抗した!無実!』との証拠にもしたかった意味もあるのだが、それでも状況的には不利であり窮地の中にいるのは確かだった。

ここまで来て安全に撤退出来るとは思えなかったからだ。


結局、この場を直ぐにでも撤退する、長々と話し合い結論が出た。

問題は安全に撤退させて貰えるのか⁉︎

そこから再び、どうするかで長々と不毛な話し合いが始めた最中であった。

意外な人物が現れた。

ノースの女王、ただ一人である。


「人質になりに来ました。」


突然の言葉であった。

何を言っているのだ、こいつは?


「これはヨハンナ・グレーデルやロハンナそしてミハンナ、更にはスキョール、デーン、ベルドッテの姫達も同意しています。

イグナイト帝国に下りたい、だが撤退もしくは合流する術が無い。

今、そんな事を悩み話し合っていると推測します。

そこで提案です。

我らともイグナイトとも組みせず『中立』の立場にしてくれませんか?

安全な撤退が出来るように我らが人質になりにヨハンナらに約束させましょう。

中立ならばグレーデンかイグナイト帝国、どちらの勝利の曉にも後日の対応も出来るでしょう。」


どう考えても甘い言葉である。

だが、疑いの目の中でもノースの女王の言葉は更に続いた。


そんな中でノースの女王が語気を強めた。


「ここからは我らの事情を話すが、はっきり言って余計な敵は作りたくない。

イグナイト帝国無敵艦隊だけでも脅威、ここで貴方達と戦い殲滅しても現状では得は無い。

だったら、早々に退散して貰い、中立の立場になって貰う方が良い。

そう結論に達たが、如何か?」


確かにグレーデン側からすれば良い選択かもしれない。

中立の立場なら、言い訳や少なくとも時間稼ぎは出来る。

しかし本当か⁉︎更に疑念一杯の目がノースの女王に突き刺さった。


そんな中でも平気な顔で言葉を紡ぐノースの女王。


「まだお疑いのようですね。

しかし何故我が来たのか考えてみろ。

あのヨハンナからすれば、あの剣聖グレン・バレンタインの弟子達で構成されるデンブル騎士団や陸戦のミハンナに急襲させれば、この場など壊滅させる事など簡単な話だ。

でもしない。

何故か?

それは単に時間が少なく余計な手間など掛けていられないからだ。

だから『中立の立場』になって頂きたい。

但し、これには互いに信用性を高める為に貴方達の兵士全てが掲げる軍団旗を預からせて頂きたい!」


軍団旗、それは自らの国の軍隊軍団の象徴である。

自軍を鼓舞し敵軍を恐怖に包む為に使われたりするが、大まかには敵味方の判別が出来るようにである。


「其方、本気で言っているのか?

軍団旗は我らが戦意の証だ!

それを引き渡せというのか?

兵士達にどう言い繕えと言うのだ⁉︎

ふざけるな!」


「だから我が来た。

我も小国とはいえ曲がりなりにも王。

それなりの価値と十分な説得にはなると思うが。」


「しかし‥‥。」


「これが決裂なら‥‥。

さあ我を殺して決意を固めろ。

デンブル騎士団や陸戦のミハンナ、いやグレーデン王国や我が国達と一戦交えれば良い!

我は一向に構わぬ!」


「暫し‥‥暫し時間を頂きたい!

直ぐに話し合って結論を出す。」


「ダメだ、先程も言ったが時間が無い。

今すぐに決めて貰おうか!」


強気なノースの女王に圧された不満を持っていた女王や女帝が不満な顔が怯えの顔に変化した事を露わにした時だった。

一人の兵士が血相を変えて飛び込んで来た。


「御報告!

グレーデン王国のデンブル騎士団が、こちらに向かって動き出しました!」


これで決まった。

勿論、これはノースの女王の仕込みである

兵士の報告とノースの女王に圧されて軍団旗の提出が直ぐに行われたのだった。

そしてノースの女王達を人質に安全な撤退が出来た。

少ないながらも戦列を組み離れて行く不満を持っていたはずの小国群達。

どの兵士の顔を見ても不満が露わであった。

ここには戦う為に来た。

だが戦うどころか、これは逃亡としか思えないのだ。

軍旗無しの撤退、正に敗北と言われても仕方ないのだから。


しかし、その光景を神妙な顔で眺める女がいた。

ヨハンナ・グレーデルである。


これで本当に良かったのか?

どうして最初から人を信用出来なかったのか。

誠実に命を投げ打ってまで私に賭けてくれた人もいるのに。

上部の能力だけを見て勇気を見ていなかった無能な私を許してくれ。

ノースの女王よ、すまない。

必ず貴女から受けた恩と、この絶好の機会を必ず生かしてみせる。


あの時、皆が集まった時に自分の意思を包み隠さず話したヨハンナに出されたノースの女王の謀略。

戦わずして勝つ。

敢えて生かして帰えさせる代わりに代価を獲る!であった。


ノースの女王が軍団旗を得た理由は『裏切り者』を演じられるようにした事である。

謂わば不満顔だった小国群達の名前と兵士達を偽造出来るようになったのだ。

イグナイト帝国は必ず工作を仕掛けてくる。

それを使い逆に工作が出来るようになったのだ。

更には離れて行く兵士達の戦意まで挫く事が出来た。


「ヨハンナ姉よ、一応の海上封鎖が整いました。

これで万が一こちらの意図を気づいたとしても後の祭りです。」


「そうか‥‥ロハンナ、絶対に絶対に魚一匹蟻一匹でさえ漏らすな!

それがノースの女王への私達の誠意だからな!」


「御意にて、必ずや!」


仮にイグナイト帝国無敵艦隊に勝利したとしても、後日にノースの女王が処刑される可能性が高い。

それでも自分から言った事とし人質に志願してくれた。

能力と勇気を同一し考えていた愚かな私を許してくれ。

そう思うヨハンナにノースの女王の兵士から伝令が届いた。


「我らが姫の参陣要請の使者、只今出発しました。

急ぎ参陣されたしとのヨハンナ様の親書も携えております。」


「そうですか、御勤め御苦労様です。

で‥‥姫の名は?

そして、どのようなお方ですか?」


そう聞くとノースの兵士が一瞬緊張した顔をし、そして笑顔で答えた。


「天真爛漫で知に優れた姫にございます。

名前はステファニー・ノース様でございます。」


自分達の姫を悪く言う兵士はいない。

きっと褒め称える意味で言ったのだろう。

しかし、褒め言葉を天真爛漫と例えるか。


思わず笑いそうになるヨハンナだったが、七日後急いで参陣してきたステファニー・ノースを間近に見て彼女が能力ある人間だと感じたと同時に兵士の言った事は嘘ではなかったと思う結果となったのだった。

そしてノースの女王が何故能力のあるステファニーを連れて来なかった理由も理解した。


「お会い出来て光栄です、ヨハンナ・グレーデル。」


小国の姫が大国グレーデン王国の女王ヨハンナ・グレーデルに全く物怖じしていない。

貴女は大国の女王かもしれないが私とて姫、だったら同等の立場だ!

そう演出するステファニー・ノースであった。


この娘‥‥あのエスポワール帝国女帝アルベルタ・エスポワールと似た感じがする。

だとしたら天真爛漫か確かにそうだ、しかし‥‥歳は十二歳くらいか⁉︎


まだ子供だった。


だがテキパキとステファニーが聞いて来た。

敵の予想人員は?どの辺りまで来ているか?いつ頃の来襲と予想しているのか?他にも、こちらの軍陣など事細かな情報を聞いて来たのだ。

求められた情報を知る限り惜しげもなく話すヨハンナに好意を持ったのか言葉を改めて自分の考えを作戦を事細かに話すステファニーにヨハンナは驚く事となった。


「ヨハンナ・グレーデル様、私の考えを話して宜しいでしょうか?」


「勿論だ、しかし『様』は辞めて貰おう。

我らは対等だ。」


「しかし貴女は現在総大将。

この戦中は様付けで呼ばさせて頂きたく思います。

では改めて話します。

この戦、このままでは負けます。

しかし、5つのスパイスの香りが加えると確実に勝てます。」


「5つのスパイス?

どういう意味だ?」


「1つ目敵を我らが海に引き込む事。

2つ目は敵の驕りに漬け込む事

3つ目は敵を精神的に分断される事。

4つ目はロハンナ殿とデーンの姫には申し訳ないが死地に飛び込んで頂く事。

5つ目は戦場を変化させる事。」


1から3はヨハンナ自身も戦いを優位にするには、それ以外にないとは考えていたが4と5が解らない。

恥を晒して言えば3を精神的と言う意味もである。

兵力ではなく精神的と言ったのだ。


「兵力ではなく精神的とは?

それからロハンナとデーンの姫を死地に?

戦さをするのだ、二人だけではなく皆が死地に赴くのだ、おかしくはないか?

そして戦場を変化させるとは?」


「では兵力を分断させたところで敵は噂の無敵艦隊、然もカルム王国侵攻戦の英雄セシリア・ケンウッドが指揮。

そう易々と分断出来るとは思えません。

だったら敵には群れて頂くだけ群れて頂き、精々自分達でも気付かぬうちに争っていて頂きましょう。

それから、まずは謝罪を。

ロハンナ殿とデーンの姫が死地の意味、彼女達が一番の危険と屈辱を受けて頂く事になります。

これは最低限の必要、勝利への根底にですから。

そして最後に戦場を変化させるとは我らが戦い慣れた状況にするという意味です。

まだ暫しイグナイト来襲までは時間があります。

各国の兵士諸君には訓練を即中断し気楽に私が考えた遊びでもしていて貰いましょうか。

これは訓練ではなく遊びです。

理由は兵士諸君には内密にして下さい。

ヨハンナ様には私の作戦概要を説明致します。

後で総大将ヨハンナ様の口から主だった者達に御説明をお願いします。

なんせ私は子供なので説得力は微塵もありませんからね。」


それからステファニーはヨハンナに作戦概要を海図の上で語り出した。

それはヨハンナからすれば綱渡りのような作戦。

確かにロハンナとデーンの姫が一番の死地の上に立つ作戦だった。

さすがに直ぐには首を縦に振れず悩んだが、やがて胸元の鈴を鳴らし侍従シビラを呼び、ロハンナとデーンの姫を連れて来るように頼んだ。


二人が来てステファニー立ち会いの下に作戦概要を説明する。


「やってくれるか?」


「御意のままに、グレーデン王国女王ヨハンナ・グレーデル!」


二人が膝まづき了承し直ぐ様、自身の艦船達を率いて死地に向かって行った。


「ではステファニー、その遊びを兵士諸君には楽しんでやって貰おうか。

気に入ってくれると嬉しいが。」


「きっと楽しんで貰えますよ。

何しろ命が掛かった遊びですからね!」


二人が笑った。


イグナイト帝国無敵艦隊との戦いの準備、天真爛漫な幼子が考え出した狡猾で残忍な殲滅戦が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ