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奴隷剣闘士アベル・ストークス

「さぁ、お集まりの紳士淑女の皆さまお待たせしました!只今よりモーザ3匹VS我がイグナイト帝国の新領土である旧カルム王国の少年よる1戦が始まります!

尚、この戦いは従来の賭け試合ではありません。

本日の闘技場主催者であるジーナス・モーゲンから御来場を頂きました皆さまへの細やかな御礼としての展覧試合でありイグナイト帝国の戦勝祝いを兼ねた謂わば祝典試合であります!

カルムの少年の懸命なる戦いを御覧になり皆さまの明日への活力にされるよう心から願います!」


こんな説明が司会者らしい中年の男が観客席に大声で叫ぶと観客たちは絶叫し始めた!


カルムのくそガキの食われっぷりを見てやるか!

精々抵抗してから死ねよ!

イグナイト帝国の新領土万歳!

喰われろー、叫び声はデカい声を出せよー!


俺が屈強な男2人に両脇を抱えられて闘技場の中央に運ばれると、その声は更に大きくなった。

そして俺が男たちにゴミのように投げ捨てられると更に更に大きく絶叫した。

男たちが俺から離れて20M位経った位置に来た時、男の1人が錆び付いた剣を1本投げてきた。


「坊主、精々頑張りな!」


そんな言葉を残して離れて行った。


改めて見る闘技場は円形型で中央部の戦場は直径50mの円形、その周りを7M程の壁が仕切りその壁の上から観客席が3段あった。

まるでローマのコロッセオって感じだ。


暫らくして俺の対面の壁が開いた、子牛ほどの大きさの黒い毛並みに赤い目をした犬3匹が出てきた。

これがモーザか!


「このモーザ匹、3日前から何も食わせておりません!3日ぶりの食事が『少年』という事になります!さぁ少年の運命は如何に?」


急いで剣を取り構えた時、矢を受け碌な治療もせずに連れてこられたから再び右太腿の傷が開き出血を起こした。

モーザが俺の血の匂いを嗅げ付けたのか息を荒くさせ涎を垂らし始めた!


3匹のモーザがジワリジワリと俺に近づきつつ2匹が俺の左右に少しずつ別れて行った。


コイツら適当な距離になったら一気来る気だ・・・・・


以前メリッサに聞いた事があった。


魔物でも獣でも頭の良い奴ほど適当な距離を取って攻撃をしてくる。

目で睨みながら少しずつ距離と間合いをとれ!


そんな話だった。


3匹一気に攻撃されない様にモーザが前進すれば俺は後退する、そんな感じで距離を保ちつつ壁近くまで

後退を続けた。

観客は俺がモーザに食われる瞬間を期待しているのかシーンとした静寂が闘技場を包んでいた。


壁まで8Mと言ったところだろうか、突然大声が響いた!それは壁の上に立つ矢を持った男たちだった。


「後3Mも下がったら矢を放つからな!戦え!」


マジかよ・・・・・と思った瞬間、左側のモーザが俺に飛び掛かって来た!

躱して首に向けての一撃を放ったがモーザは毛が固いのか大したダメージも無くサッと後方に下がった。

だが次の瞬間右側のモーザと中央のモーザが同時に襲い掛かって来た。


俺は敢えて中央のモーザに突進し『籠手』を打つ要領でモーザの鼻頭を叩き動きを止めたが右側のモーザの攻撃は躱しきれずに爪よる攻撃を右大腿の矢傷の所に受け、より出血が酷くなった。


このままじゃ・・・・・死ぬ・・・・・

そんな意識が俺の中に充満してきた。


いやだよ、死にたくないよ・・・・・もう一度メリッサやリーゼに会うまでは死ねない!


だが、そう思っても今持つ剣ではダメージを与えられない、端から俺がモーザに食われる為の見世物になっている。


俺が生き残る可能性があるとしたらフォースしかない。

だが初めて覚醒してからマシになったとはいえ、ほんの少ししか維持出来ない。

精々持って1分、しかも満身創痍のこの身体では、どこまで維持できるか・・・・・

だが剣の練習でのメリッサの動きに比べればモーザの方が単純で遅く感じる、いけるか?


考えている時間はない!一か八か!


早く食われちまえー!

内臓をぶちまけろー!


えげつない観客たちの叫び声の中で勝負に出る事に決めた、失敗すれば死ぬ!


敢えて右のモーザを無視し中央のモーザを睨み、左のモーザがが動いた時は剣先で威嚇する。

そうすると右のモーザが俺に襲いかかってきた、首筋を狙ったようでジャンプしてきた!


俺は直ぐに身を少し屈め躱し下からモーザの腹を体を伸ばしながら下から上とフォ―スを込めた剣を振るった。

幾ら毛が固くても腹はどんな生き物でも弱い部分だ、そう踏んだのが正解だったのか真っ二つにモーザが千切れ飛んだ!

直ぐに左のモーザが迫って来た!

そのままの態勢から今度は体幹だけを捻じって躱し上から下へと剣でモーザの首を跳ね飛ばしたが、ここまでだった。


なんとか袈裟斬りの要領で剣を中央にいたモーザに振るったものの、途轍もない疲労感と感じながら膝を突き息をするのも辛くなった、フォースを使った事で身体が耐えきれなくなったのだ。


呼吸困難気味になって立つことも身体を維持するのも辛くなったが警戒したのか残りのモーザが攻撃してこない。

待ってるんだ!俺が倒れるのを・・・・・倒れた瞬間俺死ぬな・・・・・


おい!あのガキ、使ったの・・・・・フォースだったよな!

ガキのくせにフォースが使えたのか?


そんな言葉がボソボソと聞こえたが初めて戦いでフォ-スを使って頑張ったけど限界だった。


俺の限界を見極めたのかモーザがゆっくりと近づいてきたの見えた。


ああ、ごめんメリッサ、リーゼ、俺死んだわ・・・・・


力が身体から抜け倒れ込んだと同時にモーザが動いたのが見えたが、その瞬間、モーザに矢が刺さったのが見えた。


モーザが退くが次々と矢が放たれ次々とモーザに刺さり、やがて死んだみたいだ!


暫らくすると、また大声で中年の男が観客に向け叫び出した!


「紳士淑女の皆さま、楽しんで頂けましたでしょうか?この少年は実は近々デビュー予定の奴隷剣闘士でございまして今日は特別に皆さまの御前でお披露目させて頂きました!

皆さまを驚かせようと、このような企画を組んでみましたが楽しんで頂けましたでしょうか?

この少年のデビュー戦は3ヶ月後を予定しております!どうぞご期待の上またの御来場をお持ちしております!ジーナス・モーゲンから皆様に愛を込めて御知らせでした!」


俺を運んで放り込んだ屈強な男たちが来て、今度は俺をやや優しく運んでくれた。


途中で、俺を買った太った女が待っていた。


「お前、フォ-スが使えたなら早く言いなよ!危うく金の成る木を溝に捨てるとこだったじゃないか!」


俺は、そこで気を失った。


どの位気を失っていたのだろう、目覚めると俺は粗末なベットに寝かされてはいるが怪我の治療はされており包帯だらけにされていた。


部屋を見渡すと石作りの壁に鉄格子のドアがあり、牢獄みたいな感じだ。


鉄格子のドアから男が覗いたのが見え、男が誰かと話し出した。


「ガキの目を覚めたみたいだ!先生とジーナスさんを呼んできてくれ!」


暫らくすると男と爺さんそして太った女が入って来た。

爺さんは医者の様で色々と俺を診察してくれた。


「まだ体力が回復していないのと右大腿の怪我の傷が塞がっていませんね!」


太った女が爺さんに聞いた。


「それで3ヶ月後は間に合いそうかい?」


「傷は塞がりそうですから大丈夫ですが疲労が回復するかどうか、出来るだけ栄養のある物を食べさせて休養を取らせることを勧めますね!」


「そうかい、分ったよ!おい肉でも魚でも何でもいい、適当に食べ物持ってきな!」


太った女が、そういうと手下であろう男が頷いて出て行った。


「おいガキ、名前は?」


太った女が俺に聞いてきたがムカついたので言い返してやった。


「イグナイト帝国の礼儀作法に人の名前を聞く前に自分から名乗るって作法はないのか?」


しかし皮肉にも太った女が俺の顔を繁々とみて一言言った。


「礼儀作法って、お前カルム王国の貴族の子供だったのかい?」


どうやら本当にイグナイト帝国にはそういう礼儀はないみたいだ・・・・・


「まあいい、どうせ名前なんて聞いても死んだら忘れちゃうからねー」


先程の男が大量の食糧を持って帰って来た、そして俺に食えというから食う事にした。

食っている最中に太った女が俺に言ってきた。


「食いながらで良いから今からする話を聞いて頭に叩き込んでおきな!お前は私が買った奴隷だ!

だからお前には私の言う事を聞く義務がある、所有物だからね。

だがお前にも、これは悪い話じゃない!

これから戦って勝ち生き残れば貴族の目に留まってイグナイト帝国の騎士になる事だって夢じゃない!」


誰がイグナイトの騎士なんてなるかよ!


「だがお前が死んじまえば勿論私も損をする、何故なら貴族に売れなくなるからだ。

しかしお前が勝ち続ける事に対して私はお前の生活を見る義務が生じる、ここまでは分るかい?」


大体わかったので頷くとまた話し出した。


「それから奴隷剣闘士は最大でも30戦の戦いを強制される、逆に言えばどんなに戦っても30戦って事だ!」


「30戦戦ったらどうなるんですか?」


「お前は自由だ!奴隷じゃなくなって自由に好きなように生活すればいい、奴隷剣闘士の決まりで決まってるんだよ、だからお前の場合なら後29戦ってわけだ!」


「・・・・・なるほど」


「但し、これは生きてられたらって話だ!」


「・・・・・なるほど」


「だから大概の奴は途中で貴族の目に留まるか途中で死ぬかだ!だからお前も頑張れば死なないで済む、

話しはそれだけだ!それから逃げようなんて思うな、地獄の底まで追い掛ける事になる!」


話しが終わるとさっさと太った女は出て行こうとした。


「俺の名はアベル・ストークスだ、アンタの名前は?」


俺に聞かれて太った女はニヤッとして答えた。


「ジーナス・モーゲンだ、アベル頑張って私を稼がしておくれ!あ、これは返しておくよ、お前が身に着けていた物だ!」


無動作に放ってきた物、それは俺が死にもの狂いで拾ったヘレンのブローチだった。


「・・・・・・ジーナスありがとう」


何も言わずジーナスは出て行った。


それから俺は食うだけ食って寝る事にした、取り敢えず怪我を治さないと話にならない。


後29戦、俺は生き残れるだろうか。


それにメリッサやリーゼは無事にオービスト大砦に辿り着いただろうか。


そんな事を考えているうちに知らぬ間に寝てしまった。


メリッサやリーゼの無事を祈りながら、自分が生き残れる事を願いながら、ヘレンのブローチを握り締めながら。





アドバイスや誤字脱字等がありましたら御指摘御願いします。

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