表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/219

桔梗、その花言葉 3

かなり、かなりの無理矢理です‥‥。

自分だけの世界に浸って優越感なの?

剣の強さだけが全て、それで満足なんだ?

あいつの何が気に喰わないの?

どうせ理由も定かに言えないくせに。

あいつとは五分と五分?それとも貴女が上?

剣道だけ?それは井の中の蛙の世界?意地の張り合い?それとも貴女が無知で無能?

お前らの中の他人には関係の無い、然も損得勘定も無い、お前らだけの感情だけの我儘な話でしょ、違うの⁉


意識朦朧の酔った頭で観た夢、誰とも付かない恐らくは自分が想像し理想像であるかもしれない赤い武者鎧の女が嫌味たらしく言った、目覚めた。


某旧帝国大学剣道部女子部員達の熱気の篭る修練。

酒を飲む、肴を食らう、歌い踊り狂う懇親会。

その直後の修練。


‥‥しくじった、自分は出遅れた。


無茶苦茶な飲み方をした奴らが剣士として鬼になって竹刀を振るう姿だった。


「あら起きた?気分は悪くない?

もし吐きたいなら旅館に迷惑掛かるから便所に行ってね!」


某旧帝国大学女子剣道部の主将が微笑みながら2人に声を掛けた。


「これは一体‥‥⁉」


2人が同時に聞いた、気付き互いに嫌な顔を隠しながらだ。


「凡才が天才に勝つには奇怪ともいえる状況、剣を振るうという状態ではないと思われる事態から這い上がる境地に追い込む必要がある。

頭で考えるな!体を頼りとするな!心、全ての動物の中で人だけが持つ『負けん気』を最大に出せる場面を想定し私達は修練に臨む、私達は貴方達のような天才ではない非才の身なのだから。」


非才⁉ お前等は十分に天才で、いずれは事実上は日本を支配していく者ばかりだろう⁉


凡人の2人にも理解出来る世間一般の常識。

だが天才は真逆を2人に平然と言った。


頭で考えるな!

全く意味が解らない。


「九州は鹿児島の言葉で『ちえっすと!』って意味判りますか?」


それは九州は鹿児島を中心に伝わる薩摩示現流剣士が気合いを入れ打ち掛かる際に叫ぶとされる言葉、一心不乱に敵を殺す、何も考えるな。知恵を捨てろ!そういう意味の言葉が変化した掛け声だとされている。


「私達は本能ではなく頭で考える癖がある。

頭からではなく身体から!

そういう癖を付ける為に狂う。

私達は貴女達のように身体的優位も無い、況してや才能も持ち合わせていない非才なのだから。」


天才とは凡人が考えも付かない発想と行動をする。

しかし‥‥酒を食らって自己を喪失させていたとは。

だが、一心不乱に剣を振るう某旧帝国大学女子剣道部員達の中に1人だけ肝心の者がいない事実に今更ながら気が付いた。

女子大学剣道界では彼女達2人に次ぐであろう人物、鈴木美和の姿が無いのだ。


「あの‥‥美和がいないみたいですが。」


聞いて良いものかと遠慮した質問に、あっさり且つ不快な返事を部長にされる事になった。


「合宿には参加していませんよ。

あの子には必要がないですからね。

こんなの美和にやらせると害にしかなりませんから。」


「害?」


「あの子が持つ奔放性を壊す結果になりますからね、これは。」


奔放性、そんな中途半端な言葉に2人は納得させられた。

確かに自分達は鈴木美和には試合の上では負けた事は無い。

だが1本は幾度も取られている、然も初手。

どんな剣士にもあり、当然だが山下花子にも田中希枝にも必ずあるもの、法則性、必須のパターンが鈴木美和には無いのだ。

然も二度同じ手が通じる相手ではなかったから厄介な存在と2人には言えたのだ。

言い換えれば『やり難い相手』なのだ。

前回には攻め一方だったかと思うと次回は守りに徹して来たりする。

研究し尽くして対処してくるから、ある意味では自分の嫌いな奴よりも出来れば戦いたくはない、そんな鈴木美和なのだ。


「じゃあ‥‥美和は一体?」


「さぁ、もしかしたら静流君と最近流行りのデートなるものに興じているかもしれませんね。」


デート⁉︎

勿論、その言葉の意味は理解出来たが相手が早宮静流だと⁉︎

興味はなくとも焦りを感じる2人に更なる部長の追撃が始まった。


「それにしても貴女達は佐藤君に負けたらしいですね。

貴女達には勝負の出来る相手じゃないから気にしなくてもいいんじゃないかしら。

まぁ佐藤君に勝てる可能性があるのは静流君か美和くらいだから。」


知っていたのか!

然も、貴女達には勝負の出来る相手じゃないだと⁉︎

更には佐藤に勝てる可能性があるのは早宮静流と鈴木美和だけだと⁉︎


相手が歳上、某旧帝国大学女子剣道部部長とはいえ怒りの表情を露わにした2人に気にした様子も見せず嫌味の言葉が的確に放たれた。


「おやおや怒りましたか⁉︎

こんな言葉くらい流せない貴女達に佐藤君が負けるとも思えませんから言ってみたのですけどね。」


流せない貴女達‥‥佐藤との戦いの中で言われた言葉。

表現は違うが内容は同じ言葉を佐藤ではなく第三者から言われたのだ。


「何故‥‥私ではなく早宮静流や鈴木美和なら佐藤拓也に勝てると考えているのですか?」


「だって貴女達の剣道は剣道であって剣道じゃないじゃない。

まるで殺し合いでもしてるような剣道。

剣道とは確かに武技、しかし相手を敬い礼儀は欠かさない。

貴女達のように殺意を向けて戦う一辺倒の剣道では佐藤君の格好の相手ですからね。

どうせ鬼か悪魔にでも見立て戦っていたのでしょう?

殺意を読むすべを得意とする佐藤君を相手に。

でも静流君も美和も違います、あの子達が目指しているのは無心の一撃を持つ剣道ですから。」


言っている意味が理解出来ない。


相手を倒す。

これが武技では基本中の基本。

自分のどこが悪いのか⁉︎

早宮静流や鈴木美和が無心の一撃を目指している⁉︎

確かに、それは剣道だけではなく全ての日本武道における理想だ。

だが、そんな事は現実的は無理であり、あくまで理想の話だ。


疑問符を頭の上に掲げて悩んでいると、呆れたような顔の部長が言ってきた。


「さあ酔いが冷めてきたなら、もう帰りなさい。

貴女達が一番に信じる修練の続きでもしなさい。」


そこからは自分達を無視するように一切振り返る事のない部長を見て一分後に礼を残し旅館を後にする二人だった。


旅館を出て一瞬だけ顔を見合わせた2人、『ふん!』との最大の好意の一言を残し花子は那智勝浦へ希枝は白浜へと歩き出した。

方向は真逆、だが頭の中では同じことを考えた。


相手は剣鬼、あの大学剣道界、いや日本剣道界最強の佐藤拓也だ。

自分が全力を尽くし戦っても歯牙にはならなかった佐藤拓也、だが某旧帝国大学女子剣道部部長は勝てる可能性があり得るのは早宮静流と鈴木美和だと断言した。


どういう意味だ?

まさか本当に無心の一撃などを二人は求めているのか?


奇妙な疑問を抱えて二人は遠く離れた民宿へと歩き出した。


そんな二人の背が離れていくのを旅館の二階の窓から眺める者がいる。

完全に見えなくなるのを確認すると女子達が必死に竹刀を振るう修練場まで一気に走り部長、副部長、書記の三人に報告をした。


「アイツら頭を抱えて帰って行きましたよ!

部長の作戦通りに悩みながら帰って行きました!」


「そうか!

よし皆、もう良いぞ、作戦は成功したぞ!」


部長の合図のような言葉に一斉に竹刀を下ろしへたり込んだ某旧帝国大学女子剣道部部員達、口々に笑いながら話し始めた。


酒飲んでから直ぐすぎて死ぬかと思った!


「すまん、すまん。

これも某旧帝国大学女子剣道部が、アイツらから大学女子剣道界NO1を獲る為だ。

よくやってくれた。」


「酒を飲んで自己を消失して『頭で考えるな!体を頼りとするな!心、全ての動物の中で人だけが持つ『負けん気』を最大に出せる場面を想定し私達は修練に臨む』ってどんな想定ですか?」


「ある訳ないじゃん、そんな馬鹿で阿呆な想定!

第一、無心の一撃って、何それ⁉︎

だが、これで混乱して自分の戦い方に疑問を持つはずだ。

そんな状態では美和には、あの二人でも勝てないからな!

しかし美和の奴、合宿に参加すると言っていたのにどこに行ったんだろうな?」


「あの子の事だから、またフラっと面白い事でも探しに行ったんですよ、きっと。」


「そうだろうな、よし後は温泉に入り美味い物を食べて剣道の疲れを癒して帰るぞ、学業も剣道も忘れるぞ!

天才はオンとオフははっきりさせる者を指すのだ!」


某旧帝国大学女子剣道部部員達が大笑いし二人を馬鹿にするように賛同した。

しかし彼女達は知らなかった。

この頃、鈴木美和は有能人間適所派遣事業の依頼で異世界転移をしベルクロ王国の王子を助けていたのである。

この世界では僅か2日間の間だけとはなっているのだが。


某旧帝国大学女子剣道部に嵌められたとも気付かず凡人二人が互いに逆方向100KMを歩く。

ただ歩くだけではない。

無心の一撃とは⁉︎

そして『貴女達のように殺意を向けて戦う一辺倒の剣道では佐藤君の格好の相手ですからね。

どうせ鬼か悪魔にでも見立て戦っていたのでしょう?

殺意を読むすべを得意とする佐藤君を相手に。』


殺気を読む術に優れている佐藤、それは実際に戦っている自分には痛い程理解出来る。

しかし相手は佐藤拓也、あの剣鬼が相手だ!

鬼や悪魔に見立て何故悪い⁉︎

そこが理解出来なかった。


とぼとぼ歩き、時には悩み立ち止まって考えた。

だが言われた意味を凡人の頭で考えるが全く答えにたどり着かない。


しかし昼が過ぎ夜が明けて次の日の昼前にたどり着いた。

かなり彎曲してだった。


どうして私は剣鬼、いや佐藤拓也と戦おうと考えたのだ⁉︎

大体が戦う必要の無い人ではないか⁉︎

それに、どうして佐藤拓也に興味があったのだ⁉︎

普段なら男など関心もないのに。

あのデカい顔に出っ張った額、20歳そこそこなのに頭は若禿だが濃い体毛、重苦しい単瞼に二重顎、そして異様に太い眉と唇、更には短足の筋肉質な樽のような体型。

不細工の極致ではないか!


しかし‥‥見方を変えれば戦う為に特化した体格とも言える。

戦った自分が一番理解出来る、尋常な体力と戦闘センスが桁違いだった。


もしや、これは戦いたい相手だった訳ではなく佐藤拓也と相対したい、そう思っただけだったのか⁉︎


剣道一筋、一念を込め歩んだ道。


聞こえは良いが一般的には世間知らずである。


増して某旧帝国大学女子剣道部部長の罠が思わぬ形で効果を発揮した。


美和が早宮静流とデートなるものに興じている、もしかして私と佐藤拓也の戦いはデートだったのか⁉︎

そうでなければおかしい。

剣道一筋の私が佐藤拓也に興味を持つなど。

愛か恋かはわからない、だが佐藤拓也に興味を持った事実は確定している。

嫌いな奴を差し置いても佐藤拓也と戦いたいのだから。


恋愛については凡人以下の二人が同じ事を考えた。


よし、よくわからないが次に佐藤拓也に会ったら告白しよう!

顔や体型などどうでもいい、佐藤拓也は強いのだから。


そう決め、民宿に着くと帰り仕度を整えた二人だった。


ちなみに、この二人、二人は知らなかったし興味も無かったが、男子にはかなりモテた存在だった。

美しくスタイルも良い二人だったが告白された事はない。

理由は二人とも近づきがたい女、怖そうだったからだ。


そして大学選手権で壮絶な戦いのち田中希枝が勝ち、男子も相変わらずの強さを誇った佐藤拓也が早宮静流に勝利した。


未だに告白も出来ずにグズグズする内に佐藤拓也が死んだ。

ヤクザと喧嘩になり皆殺しにした上で自分も死亡という結果、世間を騒がせたが直ぐに静かになり佐藤拓也という存在も消され、そして彼の二刀流すら存在しない事とされたのだった。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ