引鉄と壁そして出会い
本来なら続きの「桔梗、その花言葉3」を投稿予定でしたが、全くまとまっていません。
よって、かなり前から作っていた話を先に投稿しました。
やはりプロット無しっていうのは展開に無理と無計画すぎました。
反省しています。
という事で他の投稿作品も同じでプロット無しの思い付きだけで書いていたのですが今回で反省し、現在別作品を新たに作成しています。
但し、これはプロットを初めて自分なりに考えて作っています。
相変わらず下手なんですが‥‥下手なりに楽しんで作っています。
初対面の場合なら普通は『どうも初めまして!』なんて言葉と礼を以って応えるべきなのだろうかと思ったが違った。
以前に実妹がルシアニア公国で世話になったのも聞いているから実兄として『妹がルシアニア公国では大変御世話になりありがとうございました。』とか感謝を伝えるべきだろうかとも考えていたが、これも違った。
じゃあ‥‥やっぱり面倒になる前に早々に斬り捨てるか⁉
なんてのも万が一に備えて考えていたが、それも違った。
何も出来なかった、そういう状況じゃなかった。
もう少しでメリッサの元に辿り着く、という時に俺が観たもの。
突然、蒼い光を纏った巨大な竜巻が起こったかと思うとメリッサを飲み込んだ。
いやメリッサと対峙した者を伴なってだ。
竜巻に飛ばされそうになったが愛馬パカロロが器用に踏ん張ってくれたから大丈夫だったが、代わりに物騒な日本語の怒声が聞こえて来た。
「花子、殺してやるぞ!」
「希枝、殺してやるぞ!」
俺には見えない蒼い渦の中での2人の戦い。
一体何が起こっているんだ⁉︎
想像もつかない展開に唖然としそうになったが、それは遮られた。
それに『花子』、その名前らしきもの。
その言葉は俺の頭に僅かなピリっという頭痛を起こし、そして思い出させた。
子供の頃に聞いたメリッサの前の世界での名前。
という事は、もう1人の名前らしき『希枝』なるものがテムルンか。
疑問が浮かぶと同時に不安が襲う。
メリッサに一体何が起こっているんだ⁉︎
「パカロロ、あの渦に突っ込むぞ!」
俺の命令を即座に理解したパカロロが頭を下げ突撃態勢を整えた、頭の良い馬で感謝しかない。
だが感謝したのも束の間、そのパカロロが突然に急停止、前に弾かれそうな勢いを伴なって止まり人間の俺にも判るほど動揺し始めた。
何だ、あれは⁉︎
そんな感じのパカロロが一点を凝視していたもの、視線の先には瓜二つの者がいた‥‥いや口を開いて震えているらしい俺がいた。
ただ違うのは白髪だけ。
こいつがボルドか‥‥。
瓜二つの者に遭う予感はあったが、実際に遭ってみるとどうして良いか判らない。
だが俺の中では言い知れぬ不快感、いや自分の中でも不可思議な怒りが渦巻くのが判る。
前の世界で何かしらの関係があったから瓜二つの者だと思う。
それは予想していた。
この不快感が証拠だ、更には目の前にした場合の怒り。
この世界では初めて会った者に対し、然も大事な妹の恩人に対してである。
俺の方が理不尽で礼儀知らず、恨みなど勿論だが彼には無い。
何故だ、何故こんな感情が起こる⁉︎
俺の中で戸惑いと混乱が起ころうとした時、ボルドが震えながら呟いた。
「完全に‥‥完全に戻ってしまった‥‥。
テムルン姉様が‥‥メリッサ・ヴェルサーチも‥‥。」
ボルド自身も俺には気が付いているはず、だが今の彼の興味は俺ではなく自分の姉テムルンにあるようだ。
「おい‥‥何が起こっているんだ?
お前、初めから見てたのか?」
ここで漸く俺を注視してくれたボルド、互いに同じ顔、同じ体格、会って気付いたが同じ声、その違和感がイラっとさせ更に不快さに拍車を掛ける。
「錬氣を互いにぶつけた瞬間に戻ってしまった‥‥。」
「だから何に戻ったんだ?」
はっきり早く答えろよ!なんて途轍もない苛つきが俺を襲う、そして口から無意識化で思いも依らなかった苛立ちの言葉が出た。
「だから、いつも言ってるだろうが!
常に先を予測して短略に答えを出せって、この脳筋が!」
「‥‥ご、ごめん。」
このやり取りが俺達に僅かな『ええ⁉』という緊張と静寂をもたらし、同時に焦りを感じた。
何故‥‥何故だ⁉
逢い巡り会うのは初めての2人。
どうして俺の口から‥‥こんな言葉が出た⁉
何故‥‥ボルドは素直に俺に謝った!?⁉
疑問符しか出ない状況の中でボルドが我に返ったのか、そして怒りだした。
「お前、何様のつもりだ⁉︎
何で俺が謝らねばならないんだ!」
「‥‥ご、ごめん。」
こんな奇妙なやり取り、拉致の開かない会話の最中だった。
再びだが物騒な日本語が渦を遮って俺達に聞こえて来た。
「あの時の恨み返してくれるわ!」
「馬鹿野郎!
それは、こっちのセリフだ!」
なんか‥‥かなりの因縁を抱えているようだ。
それだけは理解出来た。
じゃあ俺とボルドには、どんな‥‥。
‥‥元々、俺はメリッサを救いに来たのだ、しかし俺自身が瓜二つの者ボルドに遭遇するといった状況である。
正直、余裕があるとは言い難い状況だったがボルドが意味不明で意外な提案をして来た。
「おい話がある。
とりあえずだ、とりあえず、この嵐に入って2人を探す時には絶対に練氣は使わないと約束しろ!」
フォースを使うな⁉
全く意味が解らない。
「どういう意味だよ、それ?」
「意味なんて関係あるか!
2人と同じになりたくなければ絶対に剣は抜くな!
俺達も元に戻るぞ!」
元に戻る‥‥こいつ、何を言いたいんだ?
だが俺と同じ顔が必死に語る様に異常な事態を感じ同意した。
はっきり言うと途轍もない恐怖を感じたからだ。
「判った‥‥だが互いの剣は、ここに置いて置く、手ぶらだ。
それでも良いか?」
無言でボルドが頷いた。
勿論だが服の奥に隠したスティレットは装備したままだ。
俺がカムシンとマウシムを地面に鞘ごと着き刺したのを確認しボルドも腰にある二剣を突き刺したのを確認したと同時に違和感を感じた。
「おい‥‥その剣?」
ボルドの剣、メリッサの鳳翼と同じ形状、陸奥神威の剣と似ていると気が付き聞いた。
はっとしたボルドが俺を見て僅かな空白を作ってから想像だにしていなかった事実を言った、とんでもない言葉を。
「これら牛頭と馬頭は備前紅風の最後の剣だ‥‥俺が殺した!」
一瞬意味が理解出来なかった。
俺が殺した⁉︎
師匠はウルバルト帝国に着いていたのか⁉︎
何故、こいつが師匠を殺す必要があるんだ⁉︎
「‥‥どうやら‥‥俺には、お前を殺す理由は出来たようだな。」
「それは後の話だ。
今は互いに『姉』を助け出す事が先決だろ。
殺し合いなら必ず後で、いくらでもしてやる。」
悲しみと殺意を抑えつつ俺達が蒼き竜巻、2人が作り出した渦の中に入った。
入った瞬間から身体にピリピリと静電気のような嫌な感覚、それは俺達転生者を拒絶するような感覚が身体を覆った。
そして見た。
渦の中央の位置辺りで対峙し斬り合う自分達の実姉と、その後ろに影のように付き添う老婆を見た。
見た瞬間だった、身体の奥から何とも言えない程の恐怖が発生しボルドが見たというものの正体が理解出来た、それは2人の実姉達の転生前の姿、前世の2人だった者達。
「姉様、今は一旦退こう。
ここは危険過ぎる!」
「姉ちゃん、悔しいがコイツの言う通りだ。
今は戻ろう。」
恐怖を抑え姉達を連れ戻そうと呼んでみたが、その行為によって俺は自分自身の過ち、いや俺達転生者が、この世界がどうして東西に分断され極力出会わない、同一世界でありながらも別世界の形態なのかを思い知った。
「邪魔するな、殺すぞ!」
白髪頭の老婆達からの物騒な一喝。
それがキッカケだった。
俺の頭の中、そして恐らくボルドの中にも映し出されたであろう恐怖の光景。
僅かだったが消えたはずの記憶が戻っていこうとした。
暗く冷たい場所、誰もいない、居心地の良い、しかし寂しい場所。
自分だけの城、俺は王様、でも誰もいない、外に出れば敵のみ。
凄く懐かしく、しかし今の俺アベル・ストークスには地獄の場所‥‥奴隷剣闘士だった過去なんて笑えるほどの想い出に感じる場所、監獄だった場所。
前の世界の俺の部屋。
光輝くモニターを見つめる太った男、あれは俺だ‥‥。
過去の俺‥‥ダメだと思ってみても抜け出せない、努力という言葉は思ってみても最後まで楽な方向に流れていた俺だ。
誰からも相手にされず‥‥いや確かいたな。
PCの中だけはいた、しかし直ぐ消えていく友達。
でも1人だけいたな‥‥最後まで友達だった奴‥‥顔も知らないけど、でも最終的には喧嘩したんだ。
原因は何だったかな⁉︎
そいつ確か同じ歳と言ってたな‥‥。
誰だった⁉︎
そうか‥‥そいつは‥‥。
「邪魔だ、出て行け!」
再びの老婆達からの一喝に我を取り戻し、俺そしてボルドが同じ顔、同じ体格、同じ声、そして同じ行動に出た。
違うのは方向だけだった。
ぎゃあああああー!
もう耐えられなかった。
姉を助けに来たが恐怖が優った。
いやだ、あんな惨めな俺に戻りたくない。
誰からも相手にもされない、誰からも馬鹿され、挙げ句は見捨てられた俺に戻りたくない!
だったら、ここにいたらヤバイ。
転生者の法則が崩れたメリッサ達の近くにいると俺まで巻き込まれる。
第一‥‥コイツ‥‥ボルドは俺が前の俺に戻ってしまう為にいるトリガーだ、引鉄だ!
ボルドにとっても俺がトリガーだ。
急いで情け無く姉メリッサを見捨てて逃亡を図った。
巻き込まれる、巻き込まれる、絶対に嫌だ!
ごめん、メリッサ。
でも一刻も早く逃げないとボルドから離れないと俺は戻ってしまう。
必死に走った。
走っている最中に振り返ってみるとボルドも俺とは反対方向に向かって走っていた、俺と同じで逃げたのだ。
同じ声で恐怖の叫びを二つあげながら俺達は逃げた。
「アベル!
この中にいるのか⁉︎
返事をしろ!」
安心する声が3人分聞こえた。
テアラリ島3部族の3人、ラウラ、カミラ、レイシアの3人だ。
俺とメリッサを心配して危険を冒して来てくれたのか。
「ラウラ、アベルを連れて脱出しろ!
カミラは逃げた男の始末をしろ!
私がメリッサさんと対峙する奴を始末してくる!」
リーダー格のレイシアの号令の元、3人がバラバラに行動し俺は情けないがラウラに保護された。
カミラが逃げるボルドを追い掛け、レイシアが対峙する2人に割って入りテムルンに斬り掛かったのが見えた。
俺はというとラウラに抱かれ安心して泣き出した、情け無い。
※ ※ ※
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、アイツと一緒に居たら俺まで戻ってしまう!
絶対に嫌だ、あんな惨めな人生に戻るのは嫌だ!
でも‥‥アイツ‥‥確か脳内‥‥あと何だっけ?誰だっけ⁉︎
無我夢中で必死で逃げた。
そもそも今まで考えた事は間違いだった。
あの瓜二つのアイツに感じていた不快感は、不快感じゃなかった。
あれは俺とアイツを遭わせないようにしていた壁だ、俺とアイツの安全を確保する為の役割だった。
何より、こんな所に来た事自体が間違いだ。
直ぐに撤退しよう、理由なんかどうとでもする。
逆らう奴がいるなら誰であれ叩き斬る!
第一‥‥アベル・ストークスがいるなら必ずリーゼ・ヴェルサーチもいるって事だ
絶対にハタンをリーゼに合わせてならない。
2人が遭遇したら絶対に俺やアベル、姉様達など比較にならない事が起こる。
アベル・ストークスよりも先に姉達の箍が外れる現象を観ていた事で彼より覚悟と用意のあったボルドが幾分かだけ冷静に状況を考えられた。
ルシアニアでリーゼに会った時に姿形は勿論だがハタンと似たような異様な力がある、もしくは隠していると感じていた。
ハタンの怯えからすればリーゼの方が上位の位置にいるのかもしれない。
リーゼはハタンを怯えていなかったのだから。
そんな2人が遭遇すれば確実にハタンはリーゼに殺される、それだけは絶対に避けねばならない。
クソ‥‥無理してでもハタンをゾンモル草原に留めさせれば良かった。
今更遅いか‥‥。
兎に角、一刻も早く撤退準備だ。
しかし‥‥テムルン姉様‥‥勝って生きて帰ってくれよ。
自分の姉の心配、妹の危険除去を必死に考え逃げていた時だ。
後ろから叫び声が聞こえて来たと思うと、いきなり槍のような物で突かれた。
咄嗟に躱し振り返ると見た覚えのある露出の多い鎧のようなものを着込んだ女がいる、そして再び叫んだ。
「テアラリ島3部族が一つテアナ族戦士カミラ・テアナだ。
尋常に勝負しろ‥‥ええ⁉︎
アベル⁉︎」
ああ、そうか‥‥ラウラのと同じ鎧か。
そうかコイツもアベル・ストークスに関係ある者か‥‥。
しかし‥‥なんて美しい女だ。
地獄に女神が現れたのか‥‥。
2人が出会った。
後に未来のテアラリ島3部族の一つテアナ族族長となり白い髪色を持って生まれてくる者の父と母が出会った。