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メリッサ・ヴェルサーチ誕生

オービスト大砦、かってのカルム王国の東方の領土を守備する最大の要である。


ただオービスト大砦の『大砦』とはオービストという街や村々を囲む高さ20~30Mの岩壁を指す。

謂わば大クレーターと、その中にある街や村々を総しての呼び名である。

そのオービスト大砦から東に約50KMほど行くとポテル山脈があり、それを越えると自由都市連合:ローヴェ領となる。


そしてオービスト大砦の西方には大森林地帯が展開している。

普段はカルム王国への東方の国々からの貴重な交易路でもあるため要所要所に掲示板等も設置され安全の為の警備も十分に行われているが現在は有事である、道には掲示板は撤去され警備も無く謝って道を間違えば即魔物に襲われて死亡という危険地帯になっていた。


そんな危険地帯に足を踏み入れてメリッサとリーゼは既に3日が経過していた。


途中で何度か道を誤り魔物に襲われメリッサが撃退し難を逃れたりしたがオービスト大砦に辿り着けないばかりかイグナイト帝国の騎馬兵から奪った食料も底をついていた。

そればかりか魔物に襲われたのであろう避難者達の死体が多数あったり自分達が危険の深みに入りつつ事がメリッサにも理解出来た。


だが、そんな中にも出会いと呼べるものがあった。

現在、メリッサとリーゼは2人だけではなく1人の女騎士とその従者男1人のが侍女1人の計5人で行動しているからだ。

昨日、彼らがアンデットウルフ50匹に襲われている時にメリッサが助太刀し知り合い同行する事になった。


騎士はガブリエラ、従者男はアントニオ、侍女はジゼラと名乗った。

姓は名乗らないのでメリッサも名だけを名乗る事にした。


「ここから先は道が解るゆえ同行しませんか?食料のありますし人数が多い方が心強い!」


メリッサはガブリエラの言葉に同調し同行する事にしたがどうも胡散臭いと感じていた。

カブリエラの態度についてだ。

カブリエラは18歳位でアントニオは60歳位、ジゼラに云ったってはリーゼと同じ6歳。

カブリエラは馬に乗り残り2人は徒歩だが常に従者に怒鳴ってばかりいる。


「早く歩きなさいよ、このノロマな亀が!」


普通に見れば、ただのわがままなお嬢様騎士と従者2人だがどうもおかしい。


特にジゼラへの態度だ!


従者2人は各々が重そうな荷物を抱えており特に小さいジゼラは時折重さに耐えかね、ふら付いたりしていた。


「荷物も運べないの!この役立たずが!」


ジゼラに対して常に怒鳴りそして偶には小突いたりする。

だが、その時一瞬だけ目を細め遣りきれない顔をして声が上ずって無理やり怒鳴っている。

アンデットウルフと戦った時の剣さばきを見ると中々の武芸者なのに無理やりお嬢様キャラを演じている、ワザとらしいのだ!

そしてアントニオもとぼけた顔しているが槍捌きからはかなりの腕利きと感じ獲れた。

ジゼラもそうだ、侍女にしては態度がらしくない、どこか高貴な感じがする。

生前に皇族の御〇会に招かれた事があり〇〇陛下に御逢いした時に感じた高貴な者だけが持つ気風と同じ物を感じる。

荷物を持って歩く行動1つにしても、過去にそういった経験が無いとありありと判る。

服装にしても3人は在り来たりに平凡すぎて逆に怪しく感じる。


全てが不自然だ。

生前の経験と相手の目さえ見れば嘘をついていれば直ぐに解る

これは絶対に裏がある、気を付けなければとメリッサは警戒する事にした。

そして同時に確信めいたものもあった。


もしかしたらジゼラは行方不明とされている女王アルベルタ・カルムではないかと思った。

コープ村を脱出する前に確かに女王アルベルタは行方不明と聞いていた、もし女王アルベルタなら王都陥落の際に脱出しオービスト大砦に向かっていても不思議ではない。

自分達を疑って身分を隠している、それなら理由が着くと思った。


リーゼを連れている今、厄介事に巻き込まれては敵わない。


メリッサの目的はリーゼを守ってオービスト大砦に向かう事である。

女王アルベルタには同情はするが自分の守るべき対象ではない!

自分はアルやヘレンそしてアベルの為にもリーゼを守らねばならないのだ!


その晩、メリッサはカブリエラ達に隠れて自分達の馬に荷物を積んでおくようにリーゼに言い、自分はカブリエラに直接本意を聞いてやろうと考えた。

正直に話しさえすればカブリエラ達に協力して女王アルベルタに貸しを作る事も出来る。

決裂すれば苦戦するだろうが3人を殺して森の中にでも死体を捨てれば魔物が処理してくれるだろう。

その上で何食わぬ顔でオービスト大砦に向かえばよい!そう考えた。


焚火を囲むカブリエラたちの位置を確認し頭の中でシュミレートする。

カブリエラは座っているから立ち上がる前に居合いで最初に仕留めてから次に槍を持つアントニオを狙い槍を突かせつつも受け流し斬り殺す、その上でジゼラの行動次第で斬り方を考えよう!そう決めた。


予め腰に差す鳳翼を居合いに適した位置にしたからカブリエラに単刀直入に聞く。


「カブリエラ様、単刀直入にお聞きしますが、そこにいるジゼラさんは女王アルベルタ陛下ではないのですか?」


一瞬焦った顔をする3人だったが、彼らの次の行動はメリッサにとって意外な物だった。


「だから嫌だと言ったのです陛下!私に演技なんて出来るはずないじゃないですか!」

真っ先にカブリエラが真っ赤に照れた顔をしながらジゼラに向かって叫んだ。


「うーん成功すると思ったんだが、ジュリアがこんなに演技が下手だとは思わなかった」

女王アルベルタらしいジゼラが顎に手を当てながら困った顔をした。


「メリッサ殿、申し訳ない、明日になれば正直に話して協力を願おうと話してたんですよ!本当に申し訳ない!」

アントニオが頭を下げて詫びを入れてきた。


あまりにもあっさりと認めた為にメリッサは余計に警戒したが直ぐに辞めた。

彼らに殺気は無いからだ。


リーゼを呼び寄せ理由を聞く事にしたが、彼らが言うには一応の警戒をメリッサ達にしていたとあっさりと認めた。

王都を脱出した時に元は8人いたがイグナイト兵や野盗に殺された事からの警戒だったと彼らは説明した。


「改めて名乗らせてもらうが、こちらにおわせられるのがカルム王国女王陛下アルベルタ・カルム様、こちらがカルム王国宮廷護衛隊長のブラスコ・バリ男爵、そして私がジュリア・ヴェルデール、女王警護の任に着いております」


「では、私共も改めまして、私はコープ村ヘレン・ストークスが娘:メリッサ・ストークス、これが妹であるリーゼ・ストークスであります、これまでの数々の御無礼を御許し下さい、女王アルベルタ陛下」


「苦しゅうない、一緒に旅をする仲間ではないか!」


「陛下、有難き幸せにございます!」


そうメリッサが名乗るとアルベルタはニコニコして応えてくれたがジュリアが険しい顔つきになった。


「メリッサ、其方の身内にアル・ストークスという男はいるか?」


突然出たアルの名前に焦ったメリッサだったが素直に答えた。


「アル・ストークスは私共の父であります、ジュリア様!」


「そうか・・・・お父上だったか・・・・・では私はヴェルデール家の人間として知らさねばならぬ」


メリッサには次のジュリアの言葉が予想できたが、あえて何も答えず神妙に聞く事にした。


「お父上は我が母ヒラリー・ヴェルデールと供に戦い、見事な戦死を遂げられた」


それからジュリアが語りだした。

ダレン・イーシス率いる隊はカルミニ陥落寸前までヒラリー・ヴェルデールらと城に残って戦ったらしい。

しかし落城寸前になり士気が下がり始めた時にヒラリー・ヴェルデールが叫んだ内容が切っ掛けで士気は上がり時間を稼ぎ出す事に成功し女王アルベルタや守護する者達が脱出出来たらしい。


ヒラリー・ヴェルデールが士気を上げる為に叫んだ内容は以下のもだった。


「このヒラリー・ヴェルデール、幾多の戦場で後れを取った事は未だ無し!

一騎打ちにおいても敵を葬り去る事100人からは数えていない。

その私が過去に3人だけ一騎打ちにおいて負けた事がある。

1人は我が母であるカリーナ・ヴェルデールだ、8歳の時に負けた!

1人は我が夫であるジョン・ヴェルデールだ、ベットの上では常に負け続けた!

そして今1人はそこにいるアル・ストークスだ!私はアルのたった一度の攻撃で完膚無きまでに負けた!

その軍神たるアル・ストークスが今ここにいる!どうしてイグナイトごときに負ける事があろうか!」


こうして士気は上がり一時は城門近くまでイグナイト兵を追いやり時間を稼ぐ事が出来たらしい。

謂わばアル・ストークスという存在がいたから今ここに女王アルベルタが存在するのであるとジュリアは語った。


メリッサはアルがどのような理由でヒラリー・ヴェルデールと戦ったのか分らないが、知り合いだったことに驚いた。


「お父上らコープ村の者達の最後は押し寄せるイグナイト兵達に怯むことなく突撃し、そして消えて行かれた・・・・・そして我が母ヒラリー・ヴェルデールももはや生きてはいまい!」


涙ながらにジュリアは語った。


「感謝の言葉以外見つからぬ、我が命、其方らのお父上に頂いたも同じだ!」


アルベルタまで涙を流しながらメリッサ達に謝るように告げた。


「勿体ない御言葉にございます、女王陛下!」


アルの最後を聞いたリーゼがアルを想い出し泣き出す中でメリッサはそう答えるしかなかった。

本当はメリッサも泣き叫びたかった。

転生した世界で何の因果か父となったアル・ストークス、そして母となったヘレン・ストークス。

初めの内は『単なる若造たち』としか見ていなかった。

だがそんな自分にアル達夫婦は愛情を持って育ててくれた。

アベルも感謝をしていると言っていたが感謝だけならアベルにも負けない、そう思っていた。

だからアル達の前では可愛い子供を演技した。

演技というよりも今思えばメリッサ自身がそうしたいと望んでいたのかもしれない。


「父ちゃん・・・・母ちゃん・・・・・」


それだけしか言葉に出来なかった。


「どうだろうか、其方、私に仕えてくれぬか?私は命の恩人であるアル・ストークスに報いたいのだ・・・それに私の周りも随分と寂しくなった」


確かにアルへの感謝の気持ちもあるのだろうが、それでは死んでいった他のコープ村の人達が浮かばれないと思い断る事にした、それに一時の精神の乱れも影響しているのだろうと。


「勿体ない御言葉なれど、我が身は平民なれば謹んで御辞退を申し上げます!」


「そんなものは気にせずとも良い!その方は腕も確かゆえ十分に資格がある!」


その時、メリッサにとって予想外の人物がとんでもない事を提案したのだ。

ジュリアがはっきりとした口調で提案して来た。


「陛下、差し出がましく進言と御願いを持って申し上げます!」


「良い案があるのか、ジュリア?」


「はい、我がヴェルデール家には昨今子孫が絶え相続無き分家が二家あります、その名をヴェルオール家とヴェルサーチ家と申し我が家の両翼と呼ばれし家柄でございます。これは我が姉シェリーの承諾を求めねばなりませぬが、いずか一家は私が相続する事になっておりましたが残り一家は未だ決まっておりません!その一家をメリッサに相続させたく存じ上げます!我が母ヒラリー・ヴェルデールが軍神と呼んだ方の娘でござりますれば亡き母も喜ぶかと。」


ヴェルデール家と言えばカルム王国でも武門の誉れ高い家柄で高名な名家である。

その家柄の分家とはいえ自分を相続人にしようとしているのだ!

『長く生きている』メリッサでさえ狼狽は隠せなかった、これはとんでもない事になってきた!

急いで断るが、またここでブラスコがメリッサにとっては要らぬ進言をしてきた。


「かの遥か東方の神聖ヤマト皇国には盃を交わす事によって親戚になるとかいう風習があると聞いたことがあります、さすればジュリア殿とメリッサ殿で盃を交わせば親戚になるのではないのですか?」


兄弟分の盃の事を言っているのか?

これも急いで断り、結局はヒラリー・ヴェルデールの生存確認とジュリアの姉であるシェリーの承諾を取ってからという事でなんとかまとめて逃げたメリッサだった。


だが、それから特に危機らしい危機も無く、あっさりと2日後オービスト大砦に着いてしまった。

早速、オービスト大砦を挙げての女王アルベルタの無事を喜びメリッサもリーゼもそれに伴い歓待を受けオービスト大砦を守備する最高司令官のシェリー・ヴェルデールから涙を流しながら握手を求められ感謝された。

シェリーは最高司令官という地位にしては年齢も若く鮮やかな紺碧色の鎧に身を包んだ22歳の女性だった。

紺碧の色はヴェルデール家を表す色としてカルム王国では認知されているらしい。

そして14日後、ヒラリー・ヴェルデールが処刑された事が確認されると正式にヴェルデール家を継いだシェリー・ヴェルデールからも分家相続を頼まれる事になった。


「我が母ヒラリー・ヴェルデールは誇り高き武人であった!その母が軍神と呼び尊敬された方の娘であり我が愛すべき主たる女王アルベルタ陛下をオービスト大砦まで守護したメリッサが我が分家を継ぐことに異存などあるはずもない!寧ろ反対する奴がいれば我が前に出てまいれ!成敗してくれるわ!」


シェリーは余程の感動屋で熱い性格の持ち主の人物であるのだろう!

その場で分家相続決定をしなかったジュリアを叱り飛ばしハラハラと涙を流し剣を引き抜き皆の前で宣言した。

ここまでされてはメリッサも断る事は出来ず話し合いの結果、ジュリアがヴェルオール家を継ぎジュリア・ヴェルオールを名乗り、メリッサがヴェルサーチ家を継ぎメリッサ・ヴェルサーチと名を改めた。

これによりジュリアはヴェルオール家の色を表す山吹色の鎧を身に着け、メリッサはヴェルサーチ家の色を表す真紅色の鎧を身に着ける義務を負う事となる。

更にジュリアと兄弟分の盃を交わす事になったが、これにはシェリーが激怒し意を唱えた!

だが激怒した意味が衆智の予想とは大きく違った。


「何故だ!ジュリアとメリッサだけなのだ!本家を継いだ私が入っていないではないか!こんな理不尽があってたまるか!」


結局、3人で盃を交わし3姉妹という事で落ち着き、流石に自分を末妹扱いにと進言したメリッサだったが、それが逆に謙虚と受け取られシェリーから更に好感を得たメリッサだった。

それに伴いリーゼもリーゼ・ヴェルサーチとなり、年齢が女王アルベルタと同じという事もあり御学友扱いとなった。


まるで漫画みたいだ、まるで『桃園の誓い』じゃないか・・・・・・・・メリッサはそう思った。

あまりの短期間で自分の環境が急転回し狼狽を隠せないメリッサだったが、この世界は運と実力さえあればのし上る事が許される世界なのだ、それに見合う武勲をいずれあげればよい!

アルが自分の為にチャンスをくれたのだと思うようにした。


しかし後に、メリッサがヴェルサーチ家を継いだ事でとんでもない事態を引き起こす事になる。

それは後日の話に。


閑話 姉妹逃亡編 完。

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