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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第10部 ウルバルト帝国権力争奪編
149/219

不死鳥を殺す剣

バシっ!……そんな激しい音が美しく内装を飾ったゲルの中で鳴り響き女帝が吹っ飛んだ事から始まった摂政主催の宴。


「女帝ハタン……いや我が実妹よ!

そのような祝辞如きでウルバルトの皇帝が務まると思っているのか!?

だったら、もう用は無い、早く消えろ!」


そんな音から始まった美しい花に囲まれた宴。

出席者の1人を除いて緊張状態は最高潮と云って良い。


殴った者は勿論だが摂政テムルンであり、実弟兄であるボルドと従妹であり従姉であるはずのサラーナと10狼女ですら『慄く』という態度しか出来ない状況。


『皆よ、御苦労であった、今宵は疲れを忘れよ。』


そんな言葉を簡単に言ったハタンに現摂政は不満を持ったのだ、『もっと皇帝らしい言葉の一つもあるだろう!』

そんな感じで怒り出し主席者を硬直させた。


吹っ飛ばされた本人ハタンが怒りのあまり腰にある愛剣『百鬼夜行』引き抜こうとしたが殴った者に殺気が無かったから特技も感知も出来ず早々に柄頭を押さえられ剣の自由を奪われ再び殴られ吹っ飛んだ。

これは殺人が目的ではない、飽くまで摂政から女帝への教育だからだ。


「ハタン、お前は現在女帝でありウルバルト帝国を守り継承する者、そのような者が軍陣を預かる者達を前にして、こんな陳腐な祝辞如きで忠誠を保てると思っているのか!?」


ゲルの端まで吹っ飛び、情けなくも泣き顔になったハタンに親衛隊副隊長兼侍従の立場上剣を帯びる事を許された楊雪麗が急いで走り寄るが、親衛隊隊長であるリューケ・ガーランドは状況を無視し並べられた牛肉料理、然もイグナイト風に似た様に味付けされた料理に御執心である。


『美味いな、久々の味だ。

イグナイトを出発した以来の味だ!』


女帝と摂政など無視し今は牛肉料理、そんな感想を浮かべながら堪能し食する。


だが……隊長は味に取り込まれても副隊長は、そうではなかった。


「摂政様……我らが親衛隊を前にしての女帝への貴女の行為、その意味は御分りか?」


楊雪麗がギロっと現摂政に殺気を含んだ睨みを飛ばした。


「楊雪麗……いや我が妹よ、姉であり摂政である私に逆らうつもりか?」


「摂政様……実姉春麗に恩を感じ私を『妹』と呼んでくれ嬉しく思うが、これとそれは別。

貴女は忘れておられる、その『妹』が現在女帝の侍従と親衛隊副隊長を兼ねている事実を。」


「ほう……我が『妹』は血の繋がる身内などより余程に頼りになるようだ!

だが気に入らねば侍従の教育もせねばならぬ。」


「我が『姉』よ、どれだけ『妹』が貴女の実妹である女帝ハタンに感謝し恩を感じ忠誠を誓っているか、その身で確かめられよ!」


「益々心強く思う、それでは女帝の前に先に侍従の教育からせねばならぬな。」


ボルド、サラーナ、スラージ、ゴンザ、そして10狼女達には何だか分からない間に摂政と侍従の殺し合いが始まった。


互いに剣を抜き広いとはいえ所詮は狭いゲルの中で器用に動き繰り出していく。


「ば、馬鹿止めろ雪麗!

殺されるぞ!」


ボルドが慌てて必死に叫んだが直ぐに間違いである事に気がついた、テムルンが一瞬苦況の表情を浮かべたのだ

雪麗の動きはテムルンの動き、剣捌きに負けていないのだ。

冷静に相手が長剣である不利、内に入られると対応が若干ながら遅れる、そんな事も見極めて剣を繰り出している。

更にはゲルの中にある椅子や調度品の位置まで瞬時に把握し利用しテムルンの足捌きを封じ込めに使っているのだ。

テムルンが攻めれば調度品の置かれた位置に身を躱し、自分が攻める場合は柱を使い逃げ道を封じ込める、そんな戦い方を展開させた。


「どうですか、弟子雪麗の動きは?」


骨付き肉を嚙りながらリューケがボルドに聞いて来た。


「リューケ‥‥‥お前、雪麗に何を教えたのだ?」


「何をとは……。。

女帝を守る侍従に必要な警護の剣技に二刀剣の流儀を足して教えただけですが。」


女帝が襲われる想定した場合、圧倒的にゲルの中での危険性が高くなる。

だったらゲルの中での特化した剣技を追求した二刀剣を教えたと言っているのだ。

もっと言えば雪麗の持つ柳葉刀は刃の幅が非常に広く重量と遠心力をつけ斬りつけることにより威力を発揮する、そして通常よりも10cm程は短く作られているから益々効果が発揮された。

全身を使い戦う二刀剣には打って付けの剣と云えたのだ。


「勿論、通常の二刀剣も教えてあります。

雪麗の努力は勿論ですが才能もありましたから大した苦労も無く修得出来ました。

しかし‥‥‥東方の人間には驚かされる。

どいつもこいつも馬鹿みたいに才気に溢れているとは。」


ボルドには、かってのリューケの一番弟子となるアベル・ストークスが一番才能が無いと言いたいのか⁉︎

そんな感じに聞こえ何と無くだが不快に感じた。

会った事は無いが話は聞いている瓜二つの者。

状況と情報から考えて、おそらくは転生前の世界で何らかの関係があった人間だったのではと見当を付けてはいたが何者なのかは分からない、ただ不快で皮肉にも情報だけは何気に入ってくる不思議な人物。

この目の前で戦っているテムルンにしてもアベルの実姉メリッサ・ヴェルサーチなる者と何らかの関係があるのだろう、だったら実姉テムルンも自分と同じ転生者という事になる。

そんな事実を言い出せずに今を過ごしている。

更にサラーナという従妹であり転生者が現れた。

俺は、この状況を、どう対処したら良いのだ!?


そんな悩みに似た疑問がボルドの心を去来した時、その一端の答え、そして怒りと不安をリューケが誘った。


「今思えばアベルの才能など東方の人間に比べれば大した事は無かったかも知れません。

しかし、今のアベルはどうでしょうな。

あいつの恐ろしいところは洞察力、そして教えた事、見た事を直ぐに実践し向上させる応用力ですからな。」


「リューケ……はっきり言えばどうだ。

俺とアベル、今は彼の方が強いと言いたいのだろう。」


「どうでしょう、もしかしたら既に奴隷剣闘士として死んだかもしれませんから。」


「そうか……リューケには言っていなかったな。

俺はアベルの妹リーゼ・ヴェルサーチなる人物にルシアニアで会った。

その時に聞いたが現在彼はテアラリ島とかいうところの騎士だそうだ。

そして、そのテアラリ島の戦士にも会ったが、恐ろしく強い奴だった。

そんな所の騎士だ、リューケが期待する以上に強くなっているかもな。」


「ほう……ではボルド様との優劣は観たいところですが、残念ながら。」


東方の人間と西方の人間、余程の事が無い限り会う事は無いと言いたいのだ。


「だろうな。」


リューケには言葉では一応は同調したが心の中では否定した。

いや自分とアベルは必ず出会う。

自分の姉妹もそうだが、このリューケにしても牛頭・馬頭の作成者備前紅風にしてもアベル達には縁のある者だ。

だとしたら、こいつも‥‥‥。


そう思いながらサラーナの顔を見た。

ゴンザの話ではサラーナの瓜二つの者ミザリー・グッドリッジなる人物がいる。

もしかしたら‥‥‥いや、そのミザリー・グッドリッジなる人物はアベルに近い者なのだろう。

今までのパターンで行けば必ずそうなる。


だったら、こちらが折れてでもサラーナには友好的に接した方が良いのだろうか。


そんな考えが浮かんだが直ぐに否定した。


少なくとも今のサラーナはハタンにとって敵であり邪魔な存在だ。

こいつを消さないとハタンの安全は保障されない。


そうボルドが考えた時、当然ながら敵であるサラーナも考えていた。


やっぱり、あいつの言うとおり、こいつらは殺さねば!


唐突だが立場は違うが同じ考えの2人が互いを同時に見つめた時、殺し合う2人に変化が起こった。


「この中では妹の方が有利だな、では立場を変えようか。」


そうボソッとテムルンが呟くとゲルの中心柱を斬り折った。


そうなると崩れるゲルから慌てて15人の者達が飛び出した、ボルド、スラージ、ゴンザにサラーナそして10狼女であり、リューケは食を優先し倒れ落ちても残ったままである。


「これで妹雪麗の有利は無くなったな、さて教育再開だ!」


「ふん!、そう簡単に姉の言う事を聞く弱い妹だと御思いですか?」


「思っていないから、全力を以って妹と対峙しているのだろう!?」


「じゃあ殺されるという実感を思い知りながら死んで貰おう、我が姉よ!」


「浅はかな……やはり教育が必要だ。」


崩れ落ちたゲルから出ても摂政と侍従の戦いは続くが遮蔽物が無くなり状況は一気に雪麗の不利に傾いた。


「これは思いの他、もっと教育が必要なようだ。」


「姉は知らぬようだ『窮鼠猫を噛む』という言葉を!」


「そうだな……そろそろ決着の時だ。」


剣を交える摂政と侍従に終わりの時が近づいた、完全に雪麗がテムルンに圧され始めたのだ。

難とかだが躱し受け取め続ける雪麗に変化が起こったのだ。


急所は外すものの体躯は傷付けられ完全に戦闘不能と誰も思い始めた時、ハタンが不用意動いたのだ。


「クソが……今直ぐ殺してやる!」


殺意を以って動いた動き、だが目的以外は他者には何の警戒も無い、無防備に動いた瞬間だった。


誰も感知出来なかった1つの影がハタンの前に現れたのだ。

ハタンすら感知出来なかった影が百鬼夜行を持つ右手に伸びた瞬間だった、争っていた2人が息を合わせた。


「今だ雪麗!」


雪麗がテムルンの一刀を躱しつつ右にあった柳葉刀を戦う相手の指示の下に影に向かって投げたのだ。


影が躱しつつも執念か欲か百鬼夜行に更に手を伸ばしたが一瞬だけ胸元を掠っただけで、呼吸を合わせたテムルンの黒椿の一撃により残念し更には切断された。


「やはり、お前だったか………久しぶりだなフトシ。」


『フトシ』と呼ばれた影が痛みか思考か分からないが暫く沈黙したが予め分かっていたのかテムルンの言葉が続いた。


「ゴンザの状況を見て気が付いたよ。

私の時と同じ手段をサラーナに使っていたか?芸のない。

相変らず『暗示術』など姑息な手段を人に教え利用しようとする、そして再び『過去』まで探ったか?

失敗したな、私を先に殺すかサラーナには違う手段を使えば良かったものを。」


フトシと呼ばれた者、身を覆う大きなマントを被り顔すら見えぬ者、それはサラーナと内密に会い、10狼女も知る者。

そいつがサラーナですら初めて耳で聞く言葉、いや叫びを発した。


「ギョエエエエ~ン」


完全に人間ではない叫びであり痛みにのたうち回り始めた為、マントが翻った時、正体が明らかになった。

テムルンとサラーナは知っていたが他の者達には慌てさせるに十分な姿、ゴブリンの姿、赤いゴブリンであった。


「ゴブリン!?

どうしてゴブリンが!?」


慌てたボルドが剣を抜き殺そうとしたがテムルンに止められ、同じく慌てたサラーナがゴブリンに叫んだ。


「どうして……どうして出て来た!?」


サラーナが必死の形相を浮かべ叫んだ瞬間だった。

他の者には魔物の叫び声にしか聞こえなかったが場にいた4人と意外な1人の頭の中に声が響き渡ったのだ。

4人とはボルド、テムルン、ゴンザそしてサラーナ。

そして意外な1人、コンジェルであった。


「サラーナ、お前がグズグズしてるからだ!この役立たずが!」


そんな叫び声が、然も日本語で頭の中に聞こえたのだ。


「おい、今変な声が頭の中で聞こえたぞ!?」


ボルドが咄嗟に釣られて転生して以来喋らなかった日本語で叫んだ時、続く者達が現れた。


「ほう……やはり我が実弟も同じだったか。」


「やはり……テムルン姉さまも……。」


「おいおい……今の何だよ!?

なんでボルドの摂政様もテムルンの摂政様もその言葉話せるんだよ!?」


「え……まさかゴンザもか……。」


「ほう……ゴンザもか意外に多いな、というかサラーナもだな。」


そうテムルンが不気味な微笑みを浮かべサラーナを見つめた時、その彼女も予想していなかった事実に慌て赤いゴブリンに叫び始めた、日本語である。


「どういう事だ!?

フトシ、この世界に転生したのは私と母だけだと言ったよな!

だったら転生者としての宿命っていうのも嘘か?

ハタンを倒さねばフェニックスが怒りゾンモル草原が焼き尽くされ人々が死ぬっていうのも、その為に私と母は転生して来たっていうのも嘘か?」


必死に叫ぶサラーナにテムルンが笑いながら答えた。


「やはり芸のない。

私に言った言葉と全く同じじゃないか!

サラーナよ教えてやろう、お前はフトシに洗脳されたんだ、言葉巧みにな。

こいつは私が幽閉されていた時にもやって来て不思議な能力で前世の過去まで探って、それらしく辻褄を合わせ理由をつけながら何故か分からんが百鬼夜行に固執する。

どうせサラーナも言われただろう、百鬼夜行を奪って来いとか。」


「おい……テムルン姉さま。

一体どういう事なんだよ?」


テムルンに図星を突かれたサラーナと事態が全く理解出来ずにいるボルドとゴンザ、そして自分の他にも転生者がいた事実に慌てふためき言葉も出ないコンジェル、そんな5人に対し赤いゴブリンが叫び始めた。


「百鬼夜行は俺の剣だ!

フェニックスを殺す為に苦労して凄腕冒険ギルドを見つけ操り、同じ5種の魔獣であるヤハタノオロチを襲わせ牙を手に入れ備前蒼光に剣を作らせた、それが百鬼夜行だ!

なのに蒼光の野郎が剣の主を見つけたなど叫んで裏切りやがった。

全て備前蒼光のせいだ、だからサラーナを操って手に入れようとしたが母親と同じで役に立たん!」


「ふん、どういう理由でフェニックスを殺したいのか解らんが、だったら最初からハタンを襲えば良かったものを。」


「それが出来たならやっている……常に殺気を放っているから近づく事すら出来ん。

何者だ、そいつハタンは?

『業の深き者』である俺が触れても霞が掛かったように見えぬ過去、『贖罪者』を率いる俺でさえ触れた瞬間に気が狂いそうになる憎悪の塊、一体何なんだ、そいつは?」


「要は自分では出来ぬから他者にやらせたという事か。

そんな思考だから罠に嵌めるのも苦労はしなかったがな、我が妹には痛い思いをさせたが。」


そう呟き楊雪麗に眼差しを向けたテムルンに彼女も傷を押さえながら微笑んだ。


「初めから2人で仕組んでいたのか?」


「ああ、こいつは愚かだが用心深いからな。

ゴンザの話を聞いた時からフトシが絡んでいる可能性には気が付いた。

だから絶対に暗示には掛かっていない者、信用出来る者の協力が必要だった。

雪麗には警戒もさせ常にハタンと供にいたからな、それにリューケの弟子だから私とも本気で戦えた。

そして油断を誘う為に摂政の仕事を充実させ、この場と展開を用意した。

そうでないとハタンは隙を見せないからな、フトシが襲いやすい油断を。

まんまと餌に釣られてくれたよ。」


「まあ何せよ、殺しておくか。

それからサラーナ、後で詳しく話して貰うぞ。」


ボルドの目の色が変わりフトシを殺そうと二刀を引き抜いた、全力を以って殺す為だ。


だがボルドが近づいた時、フトシが叫び始めた、そして地面が揺れ始めたのだ。


地震か!?そう思ったが違った、もっと目に分かりやすい形で出現したのだ。

巨大な蛇、かってボルド達がルシアニアで戦ったナーガであった。


「何故ナーガが!?まだ残っていたのか!?」


「お前ら忘れてないか?

サラーナに暗示術を教えたのは俺、それは俺では人間に暗示を掛けられないからだ。

だが魔獣や魔物には出来る、例えナーガであってもな。」


そしてフトシにより暗示の掛けられたナーガ暴れ始め、直ぐに1万の摂政直属軍が駆け付けツォモルリグの指揮の元に戦ったが、準備も無かった状態では抑えようもなく次々と戦死した。


「もういい、このままナーガでハタン、いや全員殺し百鬼夜行を取り返してやる!」


この事態に、最早敵味方関係なく女帝を守る為にサラーナや10狼女すら行動を開始しようとした時、その女帝ハタンがボソッと呟き動いた。


「よく分らんが、この事態を招いたのは赤いゴブリンで、狙っているのは私と百鬼夜行、その為に私の雪麗が傷付いたという事か、ボルド?」


「そういう事だ、だが早く逃げろ、ここは俺達が防ぐ!

リューケ、雪麗、ハタンを連れて逃げろ!」


「クソが……ゴブリン如きの為に私の雪麗が……殺してやる。」


そう呟きボルド達守る者達を振りほどきナーガの前に立った。


「馬鹿……逃げろ!」


「ゴブリン……そんなに百鬼夜行が欲しいか?

だがゴブリン如きでは無理な話だ。

それを少し見せてやる、ありがたく思え。」


そう不気味に叫び百鬼夜行を暴れるナーガの前に翳した。

その途端にナーガが人目で見ても巨体が震え怯え始めたのだ。

暗示など意味もなく震えているだけである、本能的に百鬼夜行が自分よりも遥か上位の魔獣だと勘付いたのだ。


「おい……クソ蛇。

今から殺してやる、だが安心しろ、直ぐに痛みも感じずに死ねる。」


再び不気味に呟いた瞬間だった、ハタンが百鬼夜行に錬氣を送り始めた途端に巨大に青く光り形を成した。

それは巨大なナーガなど比較にならない程の巨大な蒼い錬氣から成る八本首の蛇、ハタンの錬氣で作られたヤハタノオロチの姿であった。


「死ね……。」


その一言の下に八本の首がナーガを襲ったように見えハタンの一撃のもとに一瞬の内に首を刎ね飛ばされた、あの硬い鱗も意味も無いように、ボルド達がルシアニアでした苦労を嘲笑うように。


「ゴブリン……お前は勘違いをしている。

百鬼夜行は私の剣、私でなければ扱えぬ。

百鬼夜行もまた私以外を主とは認めぬ。

私以外が持てば、唯の駄剣に成り果てる。」


自分の手駒であったナーガ一瞬の内に殺され呆然となったフトシだったが、直ぐに我を取り戻し叫び始めた、勿論だが意味が分るのは5人だけであり同じ転生者であるハタンには分からないが、それでもフトシがハタンに向かい叫んだ。


「だから欲しいんだ、フェニックスを殺せる剣、百鬼夜行が!

そしてフェニックスを殺して、この世界を混乱に陥れるのを眺めるんだ!

前の世界でマインドコントロールで人を操り殺した楽しい生活を、この世界で実現するんだ!」


クズが……。

そんな感想しか持てなかったフトシの言葉を理解した5人の転生者が思った時、ハタンが動いた。


「何を言っているのか解らんが……もう死ね。」


一瞬でフトシの背後に回り込み袈裟懸けで斬り捨てた。


右肩から斜めに切断され下半身は立ったまま地面に落ちたフトシだったが、最期の力を使ったのだろうか笑い始めた。


「残念だ。

フェニックスを殺せば残りの5種の魔獣達が暴れ出し世界を破滅に導く。

しかし俺が死ねばフェニックスが制御を失って暴れ始める、残念だ……観れずに。」


そんな最後の言葉を残し死んだが、フトシの言葉が現実になった。


突然だった、誰もが吐き気を催すような巨大な鳴き声が響き渡り突然に夜の空が明るくなった。

巨大な鳥、大きさなど推測も出来ない程の巨大な鳥、然も炎に包まれた鳥が飛んでいるのだ。


「これで自由になれた。

忌々しい『業の深き者』よ、漸く死んだか。

これで『壁』を壊して楽しめる!」


鳥が発したのだろうか、そんな言葉が響き、そして鳥が途轍もない炎を西の方向に口から吐き出した。

その方向は大森林地帯、謂わば東と西の境界線ともとれる地域。


「さあ壊してやったぞ、人間ども殺し合え、そして楽しませろ。

お前等を分けた壁は無くなった、さあ殺し合え、私は見ている、西も東も無い、楽しませろ、見ているぞ。」


そして悠々と西方向に飛び、最後に言った。


「切っ掛けは私が作ってやろう、楽しませろ。」


巨大な鳥、いやフェニックスが叫び飛んで行った。





















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