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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第10部 ウルバルト帝国権力争奪編
143/219

No.2

精強な騎馬兵を中心とする40万を超える兵力を率い先頭に立つ男がいる。

国を事実上は運営しNo.2と呼ばれ摂政という役職を配された男。

普通であればNo.2が軍勢の先頭、いや最前線に立つなどあり得ないが自身が常に望んで危険を引き受ける、全ては実妹の為に。

事実、No.1である実妹は軍勢中央部に位置しNo.3である幕僚長を拝命する異様な仮面を着けた実姉が傍らで守護し安全は保証されていると一見するだけでは、そう見て取れたのだから。

だが実際はNo.1とNo.3が、いつ殺し合いに発展しても不思議ではない関係だと50万の軍勢に属する者、誰もが知っていたが奇妙だがNo.2には安心出来ていた。

No.3はNo.1を必ず何があっても守ってくれる信頼出来る強く頼もしい存在だと知っていたからだ。

更にはNo.1自身が慕い信頼する二刀剣の達人が親衛隊5千を統括し守護しているのだ。

絶対に大丈夫だと確信も出来た。


しかしNo.2自身は焦っていた。

今、例え自分が40万の軍勢の先頭に立ち漆黒の皮と鉄を調和させた鎧に身を包み誇らしく率いている立場だとしても、例え摂政という地位に着いていようとも焦っていた。


「どうして陥せない⁉︎

こちらの兵力は敵の10倍以上だ!

兵法に照らしても確実なはずだ。

攻城機を、もっと敵城壁に近づけて一気に陥せ!

死など恐れるな!」


No.2の叱咤が木霊し元来獰猛である兵達が激しくも攻勢を掛ける。

しかし敵も最後の踏ん張りなのか死兵と化して激しく抵抗を見せた。


「ボルド様、落ち着かれよ。

いつもの貴方らしくない。

これが嘉威国の最後の城塞。

その抵抗が激しく苛烈なのは当然です。

焦らずじっくりと囲み敵の疲れを待ちましょう!」


ウルバルト帝国にとって悲願とも言える過去には東方の国々で最大勢力を誇った嘉威国の最後の瞬間である。

いきり立っても仕方ない場面ではあるが、嘉威国にウルバルト帝国を押し返す力は最早存在しないのだ。

兵糧攻めにするなり、使者を送り開城を求めるなり、色々と手はある。

しかしNo.2は選択しない。

是が非でも力攻めに拘っていた。

まるで何かに怯え時間が無いと言うように。


そうNo.2の副官を務め絶対の信頼を寄せられているスーラジは感じた。


「ボルドの摂政様、俺が先陣を切って突っ込みましょうか?

あいつら皆殺しにしても良いんでしょ?」


No.2の、もう1人の副官、最近副官の副官から従来の副官の推薦を受けて副官に昇格し直属軍の半分を預かるゴンザが聞いたが激怒を招く結果になった。


「黙ってろ!

ガキの遊びをしてんじゃねえんだぞ!」


そう怒鳴られたゴンザが一瞬だけ殺意をチラつかせそうになったが急いで辞めた。

一度殺り合って負けていたからだ。


「ボルド様、何に焦り何に怯えているのですか?

失礼ながら今のゴンザへのボルド様の返答には納得いきません。

確かにゴンザの言い様には問題もありました。

しかし、今のボルド様の有り様に求めに応えてのゴンザの進言ではないのですか?」


「何だと……お前。」


主と副官の睨み合いが発生した。

片方は明らかな殺気を伴っていたが、片方はあくまで冷静である。

だが暫くした後、殺気を持った方が折れた、いや項垂れた。


「そうだな……悪かったゴンザ、詫びを入れる、愚かな俺を許してくれ。

スーラジ、俺の浅はかさを笑ってくれ。」


激怒から一転し項垂れた顔をする。

滑稽だが怒鳴られた本人が慌てて顔を上げて貰おうと言い繕うが、冷静さを保った方はより辛辣さを激しくさせた。


「ボルド様!

貴方はウルバルト帝国の摂政であり、この戦の事実上の総司令官。

その貴方が項垂れた顔をすれば全軍の指揮に関わると心得えよ!

顔を毅然と上げなされ!」


「手厳しいなスーラジは。」


「それが副官、臣下の務め当然。

そして貴方は摂政、ウルバルト帝国の謂わばNo.2。

威厳を持たれよ!」


そうスーラジが自信と責任感を植え付けようと言ったのだが裏目に出た。


「No.2か……確かに国の運営上はNo.2だな。

しかし、この戦場にウルバルト帝国の真のNo.2が、もうすぐやって来る。

俺が焦っているのは、その事だ。」


2人の副官にとっての自分達や、この戦場にいる40万の将兵にとって意外な言葉がNo.2から語られた。


真のNo.2!?


目の前に居る男が摂政でありNo.2ではないのか!?

現に、この男はNo.1のウルバルト帝国女帝ハタンの実兄であり、No.3の幕僚長であり実姉テムルンの実弟ではないか!?

この男ほどウルバルト帝国に貢献し実力のある男が、何処にいると言うのだ?

摂政ボルド以外に誰がいると言うのだ!?


そんな疑問符を纏う2人にボルドが力なく答えた。

言われれば確かにその通りであり、また血筋と実績においても過分の無い人物の名前だった。


「俺の従妹サラーナだ。」


サラーナ。

テムルンやボルド、そしてハタンの実母であり先帝オヨンの妹である亡きボルテの忘れ形見の一人娘であるサラーナ。

現在はウルバルト帝国の一武将として東南部方面に軍を率い遠征中であり、今回の嘉威国の滅亡が早まった理由の一つにサラーナの活躍が存在した事も歪めない。

嘉威国に従属する国々を下し殲滅し生きとし生けるもの全てを殺傷し蹂躙しウルバルト帝国の恐ろしさを喧伝したのはサラーナと言えたのだ。


そのサラーナがウルバルト帝国の東方での確固たる位置を確立する、この戦場に自身直属の全軍13万を率いて向かっている最中だと伝令が先日来たのだ。


「しかし……いくら従妹サラーナ様でもウルバルト帝国のNo.2などと……。」


誰もが思う疑問をスーラジが口にしたがボルドが当然のように溜息を付きながら答えた。


「俺やテムルン姉様には帝位継承権は無いからな。」


そうなのだボルドは男であり当然ながら継承権など存在せず、テムルンに至っては自ら放棄した事実があるから現在表に立てている。

そうなるとハタンに何か事があった場合は、当然ながら従妹であるサラーナに帝位が移行する。

ハタンは婚姻すらしていないのだから。


そんな事実を知らされ唖然となる副官2人を置いていくように更にボルドの言葉は続いた。


「それにサラーナは東南部攻略という実績も挙げ、亡き伯母ボルテ子飼いの古参重臣だった者達の信頼もある。

悲しいが、嘉威国滅亡という悲願を目の前にしてウルバルト帝国の人材の無さが足を引っ張って俺達に襲いかかって来た。

謂わば真のNo.2はNo.1を目指し狙え資格のある人間という事だ。

偽りのNo.2ではなくてな。

だから焦っていた。

一刻も早く、この嘉威国滅亡を達成しハタンに箔を付けねば、いつサラーナに追い落とされるかも知れぬ。

なんとしてもサラーナが来る前に。」


「では一刻も早く!

ゴンザ、貴様が先陣で主城門を破り一刻も早く勝利を掴め、絶対に失敗するな!

確実に陥して来い!」


「心得た、直属軍全軍と左右翼の指揮権貰います!」


「おお、それで良い!」


だがゴンザが左右翼に伝令を送ろうと場を離れた時だった。

何処からか戦場を渡るように幾つもの骨笛の音が勢いよく木霊した。

そして怒号が響き渡った。


ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!

ホルダン・ダウシフ!


ウルバルト帝国でいう突撃にあたる意味の『ホルダン・ダウシフ』という怒号が8つ、いや1軍団1万人からなる8軍団から発せられた。


ボルド率いる40万の軍勢を縫うように約8万の騎馬兵からなる軍勢が猛然と敵城壁に突撃を掛け獲り付き城兵を殺し、そしてボルド達が手古摺っていた主城門をあっさりと破壊した。


「クソ……もう来やがった。

10狼女まで率いて来やがったのか。

それにしても……何て破壊力だ。」


ボルドの悔しい、そう露わにしたような呟きが漏れた時、期待もしていない返答が涼やかな声で返って来た。


「邪魔しましたか、従兄殿。

いや摂政ボルド殿。」


醒めた目付きで見る同齢位の2人の美しい女を連れた明らかに異国の紺と赤色の甲冑と剣、そして槍のような武器を纏った女が、どうやって40万の軍勢を潜り抜けて来たのかボルドの後ろに騎乗した状態でいたのだ。


「いや……失礼した。

見事な攻城に感服したまで。」


「喜んで頂けたなら幸いです。

正直、交渉などをしており邪魔したのではないかと思っておりました。

いや本当に良かった。」


明らかに馬鹿にした嫌味であり、それはボルドに向けられたものであった。


間に合わなかったか……すまないハタン。


そう嫌味に対しても挙動を崩さないボルドが心の中では詫びの言葉を呟いた時、スーラジが猛然と抗議した。


「いくら女帝ハタン様に次ぐ継承者候補様とはいえ、これは軍規に乗っ取れば明らかな背信行為。

女帝より全軍指揮権を委ねられているのは我が主ボルド!

これではウルバルト全軍に示しが着きませぬ!」


スーラジの猛然たる怒りの抗議だったが言われた継承者候補は枝毛処理を開始し無視し、代わりに2人の女が冷静に言い返した。


「では聞くがボルド様は、あれ如き城門一つに幾日の時を掛けた?

あのような城門、見てのとおり我らが軍勢13万、我ら10狼女を率いるサラーナ様が一時の掛けずに打ち破ったのは真実。

はっきりと言ってみよ、ボルド様は幾日掛けた?

それとも本当に使者など送り平和的に開城を求めておったのか?

草木も残さぬと恐れられるウルバルト帝国の摂政ともあろう方が?」


「何だと我が主に対して……。」


自分が仕える主ボルドを馬鹿にされ怒りに狂ったスラージが背にある大剣ラム・ダオに手を掛けようとした時、ボルドの叱咤が飛んだ。


「控えろスーラジ!」


その叱咤でスーラジが我を取り戻し頭を下げた時、合わせるようにゴンザが慌てた顔をして帰って来たのだ。


「ボルドの摂政様、どういうことですか?

あの軍勢は一体?

こっちが準備している最中に……あれ……どうして、お前ここにいるの?」


ゴンザに『お前』と呼ばれた者が僅かに額を引き攣らせ、慌てた傍らの2人が激怒した。


「下郎!

サラーナ様に対し『お前』とはなんだ!?」


「いや、だって確かソビリニアで会ったよな!?

鎖術も教えたし……確か名前は……そうだミザリー・グットリッジだ!」


「サラーナ様に対して何がミザリー・グットリッジだ!?」


「え……もしかして、そっくりさん!?

いや、だって本当に瓜二つだぞ!」


「下郎が……。」


今度は2人が怒り狂い腰の剣に手を掛け、スラージがニヤつく展開になり、等の本人であるゴンザは訳が分からないという感じになった。


「控えろゴンザ!」


スラージに対してと同じように叱咤を与えたボルドだったが、これは意味合いが違った。

半分はスラージと同じように『よくやった!』という褒めであり、半分は咄嗟に感じ取った過去自分や自分の姉妹が感じたあの感覚からの『展望』であった。


俺の予想通りなら必ず、あの言葉、あの感覚がサラーナに出現するはずだ。


そしてボルドの予想通りにサラーナが動いた。


サラーナが剣に手を掛け激怒する2人を制しつつ馬から降りゴンザに近づき顔を間近まで近づけると、あの言葉を言ったのだ。


「不快だ……何故だ?

そのミザリー・グットリッジとかいう奴、物凄く不快だ!

お前、そいつを知っているのか?」


「いや……昔ソビリニアで出会って鎖術を教えて……あ、西方の人間でイグナイト帝国の人間だって事しか……。」


「そうか、しかし瓜二つか。

不快だ……。

ところで、お前の名は?」


「え……大剛院晋三郎権左衛門です……。」


「名からして神聖ヤマト皇国出身の人間か。

どうだ、この甲冑そして薙刀と剣は?

私に似合うか?」


不快、その言葉の後に似合うかなどという、繋ぎにもならない会話に戸惑うゴンザだったが難とか似合うと答えた。


「そうか、これは神聖ヤマト皇国からの貢物でな。

かの国などに攻め込む予定であったが知っておるだろう、神風などという不思議な現象に阻まれる故、兵力を失い死んでは馬鹿らしいと思い和平を結んだ折に送って来たのだ。

この甲冑と、この薙刀と剣をな。

薙刀と剣は、そこにいる従兄のボルド殿が帯びる二剣の鍛冶師備前紅風の師に当たる相模義弘という鍛冶師の作らしいが本当に私に似合うと思うか?」


ニヤついた顔、どこか狂気を孕む、幻落丹を世界にばら撒き楽しんだゴンザでさえ異様と思える顔、そしてミザリー・グットリッジとは別人だと確証付けた。


「似合っていますよ、まるで天女のような美しさですよ!」


「私が天女か……。

お前面白いな、気に入った!

今から私の下に来い。

従兄殿よりも待遇は良くしてやろう。

そうだ、いずれ神聖ヤマト皇国など征服する予定だ、その後に総督にでもしてやろう。」


完全にボルドの存在を無視し馬鹿にし部下になるゴンザを目の前でスカウトし始めたのだ。

これにはボルドでさえギリギリの状態で怒りを抑えるのが精一杯になり拳を握り締め堪えた。

更に挑発するようにチラチラと薄ら笑いを浮かべボルトを観る。

怒りを誘い激発させ、この戦場でウルバルト帝国の内乱さえ引き起こしても良いとさえ思っているのがありありと判った。

だが、それもゴンザの返答により終わった。

別にボルドに義理立てし庇うつもりもない、ゴンザからすれば当たり前の言葉によってである。


「誘いは嬉しいのですが、俺、一応女神……じゃなかった、女帝ハタン様に忠誠を誓っておりまして……。

だからサラーナ様の下へは、ちょっと……。」


ゴンザにとって忠誠の対象は女帝ハタンであり、成り行き上ボルドの副官をやっているだけで、空きさえ出来れば直ぐにでも親衛隊隊長になりたいと思っているから当然の答えであった。


完全に梯子を外された形になったサラーナだったが何故か笑い出した。


「そうか天女より女神の方が上か!

ならば仕方ないな、天女が女神になった時に改めて誘う事にしよう。」


その言葉は、いずれハタンを倒しウルバルト帝国の帝になると宣言したに等しいが、『天女』『女神』と例えて逃げが出来る様にもした狡猾な挑戦だとボルドには感じ取れた。


「では女帝への挨拶もあるゆえ、従兄殿、本営のゲルで会おう。

今宵は私と10狼女達、私の為に死すら恐れぬ勇猛な13万の兵達への帰還の宴会など期待しても宜しいか?」


「ああ、勿論だ。

最高の酒など用意して安心して頂けるように努めよう。

従妹殿の好きなものがあれば揃えるように言うが。」


「その心遣いだけで結構。

楽しみだ。」


そう言って軍勢中央部に居るハタンの元に10狼女の2人を引き連れ馬を走らせてサラーナは向かっていった。


「おいゴンザ。

そのミザリー・グッドリッジとかいう者の事、思い出せるだけ俺に教えろ!」


そう言って、未だ訳を理解していないが頷くゴンザを観ながら考えた。


間違いなくサラーナは俺と同じで過去から転生して来た者だ、そのミザリー・グッドリッジとかいう者と瓜二つと聞いて不快な感覚。

だったら、まだ勝負は、これからだ。


そして嘉威国がウルバルト帝国により滅亡した。







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