会議終了
2匹の魔獣達が暴れる中、観客達は熱狂し声援を送って盛り上がっている。
「頑張れ、ミノタウルス!」
「負けるな、ネグロゾーン!」
どうやら北の方にある国々の者達はネグロゾーンを知っているのか熱狂して応援し、南の方にある国々の者達は知っているらしいミノタウルスを応援する、そんな感じだ。
そして、そんな奴らの為に俺達3人は残念ながら完全に主役から脇役に降格である。
引き離し戦おうとしても2匹は必死、尚且つ観客達から野次が飛んだ。
「邪魔するな馬鹿野郎!」
「今、良いところなんだよ!」
「舞台から降りて見学でもしてろ!」
気合いを入れて戦いに臨んだはずが、こんな感じで早々に舞台袖に追いやられ3人並んで三角座りをして見学中である。
「マスク・オブ・ニート!?、どうしたんだ⁉︎ 早く戦うんだ!」
脚本通りに進まない展開に漸く焦ったのかディンが言ってくるが観客達が熱狂の渦の中にある以上、俺達が出て行っても蛇足である。
「このまま共倒れでもしてくれたら舞台に出なくていいですよね⁉︎」
レディ・ヘルスが嬉しそうに最高の笑顔で期待を込めて聞いて来た。
そう願いたいが相手は魔獣、どんな変化を起こすかはわからない。
気まぐれに観客達に襲い掛かるかもしれない。
「とりあえず警戒だけはしておこう。」
奴隷剣闘士として戦った経験、旅した経験からも魔獣は人間には考えも付かない行動をする。
警戒を怠れば死に直結する。
そんな警戒の最中、漸くというべきか魔獣2匹に変化が現れた。
相手は自分と互角に戦う魔獣、これ以上戦っても自分の死に直結するかもしれないと感じたのか戦いを止め観客席の方を睨み始めた。
この相手と戦っても餌にするのは苦労する、だったら楽な餌を狙おう、その方が手っ取り早い!
そう考えたのだろう。
本来、魔獣や魔物は無駄な争いはせず効率さを求める生き物なのだ。 。
そう考えるのは至極当然だった。
そして、それは俺達の出番が来た意味を指す。
さぁ出番だ、気合いを入れて、まずは副団長から教わった登場のセリフからだ!
「天が泣き地が泣いている。そして人々が泣き叫ぶ!
そんな涙を止める為に俺は舞い降りた。
我が名はマスク・オブ・ニート、只今推参!」
「愛と平和を守る為、捧げた身と命、惜しくはない。
しかし悪党の存在は許せない。
愛と平和の戦士レディ・ヘルス、只今推参!」
「‥‥‥!?‥‥‥俺はエムマンだぞ〜!ガオ~!」
エムマンだけが何とも締まらない‥‥‥。
気にしたのかクオンが俺に小声で囁いて来た。
「俺……エムマンの登場のセリフを教わって無いけど‥‥‥これで良かったかな、兄貴?」
忘れてた……ディーナが暴れた時はマスク・オブ・ニートとレディ・ヘルスしか出てなかったから教わってなかった。
ディンと副団長が舞台袖で焦った顔をし互いに責任を擦り付け合っている。
当然だ、自分達が俺達にセリフと演技は必要無いと無責任に言ったのだから。
だが俺達がディン達に気を取られた瞬間だった。
俺達の予定とは違いミノタウルスが俺に、ミザリー改めリザリーにネグロゾーンが襲い掛かって来た。
即座に反応しタイガー嬲り殺しで威嚇し動きを抑え、リザリーも鞭で間合いを確保する。
「予定変更だ、俺がミノタウルスを殺す!
よく考えたら、こいつの仲間には随分と因縁もあるからな!」
向ってきたミノタウロスの拳をタイガー嬲殺しで受け止めつつ弾き返し2人に指示を出す。
「クソが……もう少しで恥を晒さずに終わったものを……。」
ミザリー改めリザリーがボソッと呟き鞭を振るう。
「レディ・ヘルスの鞭は今日は特に痛いぞ、この糞豚が!」
俺達の事情、秘めたる事情に燃えて来た時、どうした事か二匹が後方に逃げ出した。
不味い……気合いを入れ過ぎた。
即座に自分達には勝てない相手だと俺とリザリーは認知されてしまったのだ。
魔獣の最優先事項は生き残る事である、完全に裏目に出てしまった。
「馬鹿!早く熱気溢れる戦いにするんだ!」
ディンと副団長が慌てて俺達に叫ぶが相手は魔獣である、自分たちの思い通りに行かなくて当然だ。
俺達が必死に追い掛け捕まえタコ殴りにする。
俺はタイガー嬲り殺しでミノタウロスの頭を殴り、リザリーは無情にもビシビシとネグロゾーンの背中を殴る。
これでは相手が魔獣とはいえ単なる虐めだ……。
「可哀想じゃないか、お前らに博愛精神は無いのか!?」
「弱い者虐めとは、こういう奴らの事を言うんだ、最低だな!」
「こいつら弱い者にしか強く出れない卑怯者だ、さっさと死ね!」
何故か観客達により正義のヒーローが脇役どころか完全な悪役に降格された……。
さすがに俺達の手が躊躇し止まった時だった、相手は魔獣と云う事を忘れてしまった時だった。
俺の腹へミノタウロスの拳が突き刺さり、ネグロゾーンの鼻から噴出された毒霧がリザリーの胸の部分に掛かった。
俺は舞台袖どころか会館の壁に減り込むほどの衝撃に襲われ、リザリー、いやレディ・ヘルスの胸のビキニ部分を溶かすほどのネグロゾーンの毒霧の威力に晒された、腐食毒か。
ミノタウロスの一撃により血を吐く俺にラウラ達、テアラリ島3部族の妹達が駆け寄って来た。
「アベル、大丈夫か?
でも少し腹が減ったのだが……早くして貰えると。」
「アベル、あんなの早く殺ってしまえ。
でもグチャグチャにはしないでね!」
「アベルさん、久しぶりに脳味噌を食べたいから絶対に頭は割らないで下さいよ、早くして下さいよ!」
小声ではあるが心配しているような勝手な言い草のような言い方である。
その時だ、クオンが必死に2匹を相手に躱し続け、レディ・ヘルスが胸を隠すために必死に抑えているのが目に入った、そして同時に妹達の武器が目に入った。
「レイシア、カミラ、すまないが、ちょっと借りるぞ!」
カミラの腰にあるサーベル:ラウドを引き抜きレディ・ヘルスに向かって投げた。
「レディ・ヘルス、これを使え!」
回転しながら飛ぶサーベルをレディ・ヘルスが器用に右手で受け取り、鞭を左手に持ち替えた。
「豚野郎が……スライスにしてやる!」
そう言って完全に怒り狂ったレディ・ヘルスがネグロゾーン目掛けて斬り掛かろうとした時だ、観客、特に男の観客からの絶叫が起こった。
「おお!あの女、良い乳してるぞ!」
こんな絶叫の中で再び胸を隠す作業に追われるレディ・ヘルスだった、サーベルを投げた意味など無くなった。
「レイシア、借りるぞ!」
レイシアの腰にあるパリーイング・ダガーを抜きミノタウロスに向かって走った、タイガー嬲殺しでは重くて振り回されてしまうからだ。
少々短いが、二刀の方が慣れていて使い易い。
だが走り出した後に筋肉馬鹿がタイガー嬲り殺しを拾って、じっくりと眺めているのにも気付かずに。
「この牛野郎が切り刻んでやる。
今晩はステーキとして活躍させてやる!」
俺の絶叫に何故かテアラリ島3部族がいる席の方から拍手と歓声が起こった。
再び俺とミノタウロスの戦いが始まった。
しかし、このミノタウロス、俺を舞台袖までふっ飛ばして自信を付けて落ち着いたのか、中々に良い動きになり然も一撃が速く重い!
右左と拳を振るい攻勢のチャンスを俺に与えない。
それどころか左手でジャブを放ち右の力を溜めタイミングを見計らいストレート、フックにアッパーと殴って来て細かく足を使い動いている。
この戦い方、どこかで……。
「ドナドナ、敵は自分の武器を捨てるようなヘタレ野郎だ。
僕が教えた通りに動くんだ!」
「モオー!」
筋肉馬鹿、マスク・オブ・ニートが俺だって気付いていないのか……友達甲斐のない奴だ。
しかしゲイシーの隣りで何故かソニアがおり2人が握手しているのが見えた。
「ゲイシー殿のおかげでモニカ・マカロン達の練習パートナーとしての役割も果たせ、あのミノタウロスも幸せだったでしょう。」
「いやいや、まだまだ僕が調教したドナドナの力は、こんなものじゃないよ。
真面目に調教にも取り組む好感の持てるミノタウロスだから。」
こいつ、モニカ達の練習相手をする為に連れて来たミノタウロスだったのか、然もゲイシーが調教したのか。
ふと気になってバイエモ島3部族側を見るとシレーヌとフェリスが握手していた……見るのと考えるのを辞めた。
「レディ・ヘルス、エムマン。
気を付けろ、こいつらテアラリ島3部族とバイエモ島3部族の代表戦士の練習相手を務めた奴だ。」
胸を隠すために腰のパレオをブラ代わりに巻き付ける作業に追われるレディ・ヘルスとネグロゾーンの攻撃を必死に躱すエムマンに指示を出す。
だが、それが不味かった。
一瞬気を取られたエムマンにネグロゾーンの毒霧がモロに直撃した。
エムマンが白い煙と悪臭を放ち溶けていく。
そしてネグロゾーンの拳による打撃がエムマンの腹に直撃し俺と同じように舞台袖を越え壁まで一気にふっ飛ばされた。
ディンと副団長が慌ててエムマンの様子を見に行ったのが見える。
その時だ、会館全体に空気を裂く乾いた鞭の音が響き渡った。
「準備完了、スライス作業再開だ。
お前、今日の夜は焼肉になるのが決定したぞ。」
レディ・ヘルスの怒りの叫びに何故かバイエモ島3部族がいる席の方から拍手と歓声が起こった。
レディ・ヘルスから狂気に満ちた殺気が発せられ物凄い形相まで浮かべている。
そんなレディ・ヘルスにネグロゾーンが明らかに怯え始め、伝染でもしたようにミノタウロスまで動きが止まった。
「おい、お前はステーキになる予定だって事、忘れてないか?」
ミノタウロスに袈裟掛けで斬りつけたが僅かに胸を傷付けただけでバックステップを踏み躱された。
「僕のドナドナが、そんな緩い攻撃を躱せないはずはないだろうが!」
ゲイシーが自慢気に俺に馬鹿にしたように言って来る。
ムカつくが、その通りだ。
更には気付いていないとは面白いものでエスポワール帝国の席を見ればメリッサもリーゼも腹を抱えて笑っている。
「この糞牛野郎が‥‥‥俺に恥を掻かせやがって‥‥‥。」
俺の怒りに対してミノタウルスがステップを踏み左拳を刻み応えて来た。
完全に馬鹿にされて挑発を掛けやがった。
俺とミノタウルスの視線が交錯した瞬間、パリーイング・ダガーと拳の一進一退の攻防が始まった。
躱しては攻撃し殴っては躱す、互いの攻防が激しく加速していく。
そんな戦いを繰り広げた時、対面側で物凄い歓声が響いた。
「我の名はエムマン。
受けてみようか嵐の攻撃。
耐えてみようか地獄の激痛。
全ての弱き人々の守護者、只今推参!」
ボロボロに焼け焦げた装備で立ち上がり誇らしく舞台に戻ってきたエムマンがレディ・ヘルスの怒りの攻撃を必死に躱すネグロゾーンの前に立ちはだかった。
「大丈夫かエムマン?」
「表面は溶けたけど大丈夫!」
「当たり前だ、エムマンの装備は名工ハウル・ブロンソンさんが1000年経っても溶けない!
そんな想いを込めて作ったんだ!
北の端っこに居るような豚の毒など屁でもない!」
副団長が叫び、ネグロゾーンも言葉は分からずとも自分を馬鹿にされていると感じ取ったのか鋭い眼光で返した。
しかし副団長は怯まない、何故ならバイエモ島3部族の戦士20人が彼の周りを固めているのだから強気だ。
「レディ・ヘルス姉さん、こいつの動きを止めるから一撃で仕留めて下さい!」
「了解だ、エムマン!」
エムマンがネグロゾーンと対峙し再び器用に攻撃を躱していく。
その間にレディ・ヘルスがタイミングを探すようにジッとサーベルを遮二無二構えた。
そして遂にチャンスがやって来た。
躱し続けるエムマンに遂にネグロゾーンが焦れ始めたのだ。
エムマンとの至近距離にも関わらず鼻から空気を吸い込む仕種を見せ毒霧を噴射しようとしたのだ。
「馬鹿め、ミスったな!」
直ぐに反応したエムマンの口の部分が大きく開き、良く見ると口の中で小さな弓を構えるクオンが見えた。
手が蹄だから使えず、それなら小型の弓で対抗しようと考えていたのか!?
毒霧が噴射される寸前で小さな矢が発せられネグロゾーンの鼻に刺さり激痛を生んだのか天井を見上げる格好になった時だ。
鞭を放ち天井の梁に巻き付け飛び上がったレディ・ヘルスが上から下へのサーベルでの斬撃をネグロゾーンの咽喉に決めた。
「ああ、俺のブーリンが……。」
フェリスの嘆きの絶叫が木霊した、ブーリンって名前だったのか……。
咽喉を切り裂かれ悶えるネグロゾーンに向かい容赦なくサーベルを振るい切り刻んでいくレディ・ヘルスに観客達が熱狂し声援が飛ぶ。
だが二種類あった。
一つは、早く食べたいというバイエモ島3部族とテアラリ島3部族などの期待感の声援。
もう一つは男達の声援だった。
「おい、尻が左右に振られて何ともエロいぞ!」
そんな熱狂する卑猥な声援だった。
そんな声援の中、同じく主催者という立場で舞台袖に居る4人が何やら話し合っている、いや揉めていた。
4人とはローゼオ姉妹、ディンと副団長である。
舞台内容について揉めているのかと、その時思ったが、後で聞くと全く違ったのだが。
こうしてネグロゾーンは倒れスライスではないがブツ切りに成り果てレディ・ヘルスとエムマンの活躍が終わった。
だがレディ・ヘルスの活躍は終ってもリザリー・グットリッジいやミザリー・グットリッジとしての活躍!?は、これからだった。
俺達が舞台に出た時にはいなかったデイジー・ヴェッキオがレディ・ヘルスを疑いの目で睨んでいたのだ。
もしかしたらレディ・ヘルスがミザリー・グットリッジだと正体がバレたのか……。
だが、そんな光景を眺める余裕が俺にもなくなって来た。
ミノタウロスが俺にラッシュを仕掛けて来た。
右・左と、あらゆる角度で拳を放ち最速の動きで俺を仕留めようとして来たのだ。
「いけー、ドナドナ。
最後の力を振り絞るんだ!」
ゲイシーの声に応えミノタウロスが連打を放つ。
「調子に乗るな、牛野郎!」
俺もラッシュを躱し続け更にミノタウロスの股の間を潜り抜け両のアキレス腱切断に成功した。
前のめりに倒れるミノタウロスの背に駆け上がり両肩にパリーイング・ダガーを振り下ろし行動の自由を奪う。
これは以前にラウラ達がやったミノタウロス狩りのやり方を1人で再現したのだ。
「さよならだドナドナ、後で味わいながら食ってやるから成仏しろ!」
首を刎ね飛ばしてやった。
観客達の声援が俺達に向かうはずだった。
いきなり舞台が再び白い煙に覆われたのだ。
「おい、早くこっちに戻ってこい。」
そんな副団長の声が小さく聞こえ俺達が戻ると、今度は直ぐに装備を脱げと言ってきたのだ。
「装備を脱いで箱に入れ、早くしろ、立場があるんだろ。
直ぐに自分達の国の席に戻るんだ。」
その声に反応し、直ぐに俺達も人目に付かないように急いで装備を外し舞台袖にある箱に入った時、劇団員の男2人と女1人が其々の装備を手にしたのが少し見えた。
そして別の劇団員が運んでくれたのか自分達の服のある楽屋に着き再び急いで其々の服を着て自分の本来の席に行くと驚きの光景が待っていた。
舞台ではマスク・オブ・ニート、レディ・ヘルス、エムマンがいて勝利宣言をしているのだ。
「愛する正義を守る、我らヒーロー。
この世が戦乱無き事を我ら3人は祈り信じています。」
そんな言葉を言って観客達に頭を下げた。
観客達が一斉にスタンディングオベーションである。
舞台は成功したようだ。
「兄ちゃんもクオンも遅いよ。
もう劇が終わっちゃったよ。」
「そう……そりゃ残念だ。」
事情を知らないから仕方ないが、その時の俺とクオンの表情はどんな感じだったのだろうか。
そして夜、テアラリ島3部族・バイエモ島3部族友好記念パーティーには各国の王や帝、そして重臣達も招待され盛大に行われた。
勿論、テーブルには食材に成り果てたドナドナとブーリンもいて戦士達の腹を満たし新たな役目を果たしているようだ。
中でもゲイシーとフェリスが味わうように食っているのが目立つ、泣きながら食っていたのだ。
「成仏しろよドナドナ。
これからは僕の一部になって生きるんだ。」
どうせ時間が経てばドナドナは更に変化して排出されるのに……。
そんなゲイシーを見て気が付いた。
よく見ると脇にはタイガー嬲殺しが置いてある。
「ゲイシー、それどうしたの?」
「ああ、これ!
あのレッドコメットにドナドナの形見代わりにくれって言ったら快くくれたんだよ。」
「へえ、そうなんだ。」
「まあ僕には丁度重さ的も良いから使うよ」
「へえ、そうなんだ。」
名工ハウル・ブロンソンの作品『タイガー嬲殺し』を簡単にあげるとは、ディンも気前がいい。
そう思った時、俺の前をマスク・オブ・ニートとレディ・ヘルス、そしてエムマンが通っていった。
勿論中身は劇団ニートの劇団員達だ。
しかし問題が起こった。
ある国の重臣の1人が騒ぎ出したのだ。
「あの舞台で観たレディ・ヘルスの尻、もっとプリンってしていたような……。
私の目もおかしくなったかな。」
スケベを極めた見識ある目にテアラリ島3部族の応対するデイジーに付き添うミザリーいやリザリーが口に含んだワインに噎せた。
そんなリザリーに改めてデイジーが疑いの目を向けた。
勿論デイジーにはミザリー改めリザリーとしたとは通しており、テアラリ島3部族の族長達は正体を知っているから問題はない、だがレディ・ヘルスの正体については未だ疑っているようだ。
「しかし……リザリーさん。
ミザリーもセンスが最悪だったけどリザリーさんも、あまり宜しくないような。
今のうちに改めた方が。」
テアナ族族長リラ・テアナ様が副官を務めるアリー・ランドンが申し訳け無さそうな顔で言った。
おかしい、今のリザリーは俺が似合うと感じた帽子を被っている。
あの変な帽子ではなくシルクハットだ、かなり似合っているはずだ。
「リザリー、後で私が選んで買ってあげるから、その変な帽子でもなく蝶のマスクでもなく……。」
そんなデイジーの言葉にリザリーが真青な顔をしていた。
しかし気になった事が残っていた。
あのネグロゾーンをレディ・ヘルスとエムマンが戦っていた時に4人が揉めていた件だ。
リザリーを助ける意味でデイジーに、その事を知っているのか聞いてみた。
すると余計にリザリーを窮地に追い込む結果となった。
「その件なら、あのレディ・ヘルスの行動を、どっちが権利を持つかで揉めていたらしいですよ。」
ジロッとリザリーを睨みながら言うデイジーに更に聞くと。
「あの戦うレディ・ヘルスの卑猥な姿に男の観客達が喜んだでしょう。
だからローゼオ姉妹がライトタウンの売春宿とは違う風俗、踊りながら服を脱いで男達を楽しませる風俗に使えないかって考えたのですけど、劇団ニート側は風俗ではなく、あくまで演劇の一環としてするとか言って譲らなかったらしいですよ。
思わぬ副産物発生って感じですね、誰かのおかげかも知れませんね。」
更にリザリーが真青な顔になった。
これは後に、ローヴェと劇団ニートが話し合い劇場推進に貢献を続けていくという確約の下、案はローヴェ側に譲られ、新たな性風俗産業が生まれる事となった。
後に正式に『ストリップ』と名付けられ安価で男達を楽しませる事となるが踊り子の大半は何故か蝶を模った目元だけを隠す仮面に口元に薄いマスクを着けビキニアーマーよりも切れ込み露出の多いビキニスタイルに何やら煌びやかな装飾品まで着けて、意味無さそうなピンク色の薄らと透けたパレオを腰に巻いていた。
レディ・ヘルスそっくりだった。
だが、そのおかげか人気を博し、其々の踊り子たちにはファン達まで着き、紙テープを器用に操り踊りに華を添える技術まで作られ応援され長く大衆文化として楽しまれることとなる。
こうして平和の下に集まった大会議だったが、次の日に無事に閉幕し西側諸国の平和と安定は更に強まった。
だが、その頃俺達西側の国々では考えも付かない事が東側、ウルバルト帝国で起こっていた。
そして俺達、ストークス家に大きく運命が変わって行く事となった。