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絶望

俺は目覚めると手足を縛られた状態で馬に乗せられていた。


「このガキ、もう起きやがった!」


馬を操るイグナイト帝国の騎馬兵に一発頭を殴られた。

殴られた時に全身に痛みが走り同時に捕まった事を実感した。


殴られ過ぎて目も少ししか開かないが耳だけは聞こえていたのでイグナイト帝国の騎馬兵達2人の話だけは聞こえていた。


「あの赤髪の小娘を捕まえていたら良い金になったのになあ!それが小隊中7人も殺られてガキ一匹とは・・・・」


「あれ妹だろうな、黒髪の方も可愛い顔立ちしてたから、ああいうのが好きな貴族もいるのに・・・・・しくじったなぁー」


話しの感じからするとメリッサとリーゼは捕まっていないようだ、安心した。


だが安心した俺にイグナイト帝国の騎馬兵達は、とんでもない事を言いだした。


「ちょっと気晴らしにコイツで遊んでやろうか?」


「なんだ・・・・・そっちの気があるのか!カルミニに着いたら好きなだけ可愛がってやれよ!」


おいおい、そっちの気って・・・・辞めてくれよ・・・・・童貞で初体験が男って・・・・


「違ーよ、あれだよ!あれ!」


「あの死体がどうかしたのか?」


「このガキの母親だ!一緒に荷駄に乗ってたからなあ、親子の御対面と往こうぜ!」


「そりゃ面白れー!」


ガキの母親って・・・・・ヘレンの遺体があるのか・・・・・

俺を乗せている騎馬兵が大声で誰かに向かって叫び出した、もう1人いるのか。


「おーい、その豚、目ぼしいもの持ってたか?」


「ダメだー、金目の物なんて一つも持ってねえぞ!」


「何だよ、これだからカルム野郎は好きじゃねえんだ!」


「チっ、じゃあやるか、親子の御対面だ!」


俺は地面に叩き落とされた。

その時『グニャッ』とした感覚が顔を覆った。


「ママのオッパイだ!今のうちに吸っておけ、もう死んでるけどなあ!」


「ほら吸えよ!ぎゃはははー」


「おい、このガキ泣いてるぞ!ほら泣けよ!」


俺は後頭部を押さえられて死んだヘレンの胸に押し付けられた。


「お前ら絶対にブチ殺してやる!必ず殺してやる!」


激しい怒りに駆られてそう叫んだ、絶対にコイツら3人を必ず殺す!お前ら顔覚えたぞ!


「何だと、このくそガキが!」


それから再びボコられた、ただボコられていた時に偶然に目に入った地面に落ちていたブローチがあった。

それはヘレンが気に入って普段から身に着けていた安物のブローチだった。

恐らくイグナイト兵が金にならないと判断して捨てたのだろう。

俺は必死に拾って握り締め再び気絶した。


再び気がつくと俺は鉄格子の付いた馬車に乗せられていた。

周りには子供と女、老人たちが乗せられていた。


「気がついたかい!アベル!アンタ3日間も意識が無かったんだよ!」


声の主はコープ村の医師であるデリア・アダーニだった。

どうやらデリア・アダーニは3日間徹夜で俺を看病してくれたらしい。


「ここは?」


「ああ、私ら捕まって今はカルミニに向かって護送中だよ!」


「そうか・・・・・」


「じっとしておきな!薬でもあれば何とかするんだけど、この状態じゃあね・・・・」


「デリアさんの家族は?それからメリッサとリーゼは?」


「ウチのは爺さんと娘夫婦が殺られちまったよ、孫娘夫婦はどうなったのか・・・・・それからメリッサとリーゼも見てないねえ!」


どうやら、コープ村のほぼ半数以上は殺されたか捕まったようだ・・・・・

殆んどの人が落ち込んだ顔をしているが、中には明るい顔をしている者も数人いた。

見た感じカルム王国の兵士だろう。

考え方を変えれば、奴隷から這い上がって実績を上げればイグナイト帝国の兵士として歩む人生もあるのだから。


10日後、カルミニに到着した。

まだ街や城は陥落当時を物語るように破損したままである。

それに遺体が散乱し、あっちこっちで腐敗臭が漂っていた。


俺達はカルミニの広場に集められ、そこで老人と若年者に分けられ、そこから更に男と女に分けられた。

どうやら若年者はイグナイト帝国の本領に連れて行かれ老年者は元カルム王国内にて復興作業に使われるようだ。

俺達は再び護送車に乗せられ北東の街であるカルネに向かって出発した。

奴隷として売られるために。


カルミニの城の近くを護送車が通った時にカルム王国の旗を立てた100人程の集団が見えた。

20人程の人間を高台の貼り付けし火あぶりにするみたいだ。

護送車も俺達に観ろと命令するようにそこで止まった。


偉そうな感じの若い女が大声で何やら声明文らしきものを読み上げているのが聞こえた。


「アメーリア・カルム、ヒラリー・ヴェルデ―ル、・・・・・・・・・・ダレン・イーシス、20名を国家反逆の罪にて女王:アニータ・カルムの名において火あぶりの刑を命ずる!」


ダレン・イーシスだって!先生が何故・・・・・それに女王:アニータ・カルムだと!

アルベルタ・カルム女王は捕まってもう殺されたのか?


「城に籠って最後まで抵抗した馬鹿な奴らだ!良く見ておけ!」

護送車の番人が笑いながら俺たちに言った。


護送車の中の1人が勇気を出して番人に質問した。


「アニータ・カルムって誰ですか?」


意外にも番人は怒らずに答えてくれた、まるで誇るように!


「お前らの言う文治派の亡くなったアリダ・カルムの娘だ、元の女王が行方不明だから早々に新女王になったのさ!」


「そんな女王アルベルタは行方不明で死んだ訳ではないでしょう!王位簒奪をするなんて・・・・・」


「そんな事は俺は知らん!折角だから教えてやるがカルム王国領の西南の一部はケンゲル王国に奪取されたが、後はオービスト大砦以外はイグナイト帝国領になったからな、あの女王の謂わばイグナイト帝国に忠誠を誓うお飾りだ!」


過去にメリッサが言ったとおりの事が現実に起こり、そして俺の愛する人や親しき人が次々と死んでいった。

自分にもっと力が有ったら皆を守る事が出来たのに、そんな葛藤が俺を襲った。

かってのクズのような人生を歩んでいた俺には初めての心境だった。


「悪逆非道の罪人どもに天罰の火を点けろ!」


アニータ・カルムの誇らしげな声が響き渡り貼り付け台に設置された薪に火がつけられた。

予め油を仕込んでいたのか炎が勢いよく燃え上がり貼り付けにされた人達の身体を包んだ!


その時だ!大声が聞こえた!


「偽女王のアニータ!お前には必ず真の女王アルベルタ様が我らに代わり鉄槌を食らわせるであろう!

その時は先に地獄で待っているゆえ鉄槌の味の感想を酒の肴の代わりに聞かせて貰うぞ!」


ヒラリー・ヴェルデ―ルらしい、大声の主は。


アニータが『偽女王』と呼ばれた事に腹を立てたのか絶叫し始めた。


「もっと油を撒け!火力を上げよ!」


「偽女王らしい卑賎なやり方よ!皆の者笑ってやろうぞ!」


可笑しな光景になった、炎を着けた者の顔が引き攣り、炎に包まれている者達が爆笑しているのだ!

だが、そう長い時間が持つはずもなく1人1人と笑い声が消え最後にヒラリー・ヴェルデ―ルの笑い声がと途絶えた。

そして俺はダレン・イーシスの身体が完全に炎の中に消失するのを見届けた。


それから俺達は10日掛けてカルネに着き直ぐに船に5日乗せられイグナイト帝国の帝都:テールズに送られ奴隷市に掛けられた。

若い女は性目的として買われ、若い男は強制労働か性の対象として買われていった。

だが俺だけは違った。

俺は太った化粧の濃い女に買われたが他の人達とは目的が明らかに違った。


「このガキ、怪我してるから安いんだろうね?ほっといても死ぬだろうから、その前に闘技場に出して噛ませ犬代わりに使いたいんだけどねえ!」


こうして俺は闘技場で奴隷剣闘士として戦わさせられる事になった。






第1部 幼少期編 完。

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