1000年伝わるもの
穏やかな晴天の中を女の声が元気に勇ましく響き渡った。
「これよりテアラリ島3部族、バイエモ島3部族、そして飛び入り参加のマヤータ族による料理バトルを開催します。」
そんなスノー・ローゼオの声が、四方60Mに張られた縄で出来たリングの中で響いた。
このリングはモニカ・マカロンとイース・ミントそしてゴウドとダカロが戦ったリングである。
3組の戦闘部族による料理バトル。
各国の高貴な者達は勿論だが抽選で選ばれた50組の男女による審査が勝敗を決める料理バトルである。
評価基準はオードブルが味、そして見た目と創造性。
単品料理が味そして特性。
特性とは、健康上の効果とかそういうのだ。
単純に味だけではなく意義も評価されるらしい。
そして審査した各自が一票を持ち、その得とく票数で勝負が決まる単純な方式だ。
「ではルールを発表します。
各国の代表者の方々にはメイン料理となるオードブル形式を、抽選で選ばれた方々には単品料理を食して頂き評価して頂きます。
但し単品料理は女性用、男性用の二品、予め決められた赤い椀に女性、青い椀に男性に分けて下さい。
そして審査員の皆様は美味いという感覚と優れていると思った方に配られた票を投票箱に入れて下さい。
勿論ですが、各部族料理人達も他の部族の料理を食し審査して頂きますが、これは部族交流の一環と捉えて下さい。」
オードブルが高貴な者達、単品料理が庶民か。
これは一応は差別等ではない。
一般的な庶民にオードブルなど評価しろという方が無理であって庶民的な味も評価の対象にして欲しいという心遣いだ・・・・という一応は方便だ。
「ではスタート!
制限時間は2時間、調理はストップとなり、それ以上は失格となります。
ご注意を!」
テアラリ島3部族は先の戦いで包帯まみれになったゴウドの指揮の元にルール上決められた人数8人で作業を始めた。
あらかじめ下拵えしていた布に包まれていた肉の塊のカットとスープの制作からスタートしバイエモ島3部族も同じく包帯まみれのダカロ指示で同じような材料等でスタートした。
だがマヤータ族だ、料理人はアマンダ、ディーナ、アニラそして手伝えと命令されたらしいクオンだけである。
「クオン、その鍋に火を掛けて温めておいて下さい。
アニラとディーナは食材のカットを。」
ディーナとアニラが例の石のような物体を皮をむき細かくカットし一口大の大きさにして無動作に鍋に放り込み、そしてアマンダが何かの葉っぱを鍋に入れた、それ以上は何もしない。
「後は煮込むだけ。」
そう呟くとアマンダはニコッと笑い置かれた椅子に座り、他の3人も仕方なくという表情を浮かべながら同じく椅子に座ってしまった。
あれがマヤータ族の料理か?
オードブルは?
単品料理は?
俺を困惑に陥れたがアマンダは平気な顔をしている。
対してクオン、ディーナ、アニラは不可思議な納得がいかない顔をしてアマンダを見つめていた。
だがマヤータ族だけを見ている訳にも行かずテアラリ島3部族やバイエモ島3部族の方に目を移すとゴウドもダカロも包帯姿で塗り薬の強烈な臭いを放つ為か料理には地被けず手出しも出来ないが必死に叫び指示を送っている。
俺にはダカロはどうだか分からないがゴウドはテアラリ島の料理を試行錯誤し発展させた1人であり、謂わばテアラリ島料理の体現者だ。
俺がテアラリ島3部族の共通騎士だった頃に尽力し、そしてゲイシー・ロドリゲスの喜んだ男達の未来が花開いた瞬間だと思うと泣きそうになった。
現にゲイシーはテアラリ島3部族のリラの隣りで感動し鼻水を流しながら泣き叫んでいる。
「ここからが勝負だ。
肉の切り方に注意を怠るな!」
ゴウドが真剣な顔をし、恐らく料理の行程で重要な部分なのだろうか、チームの男達に気合いを入れた。
「ここでミスは絶対にするなよ!」
バイエモ島3部族側でも同じくダカロの叱咤が飛んだ。
両部族が真剣に慎重に料理する中でアマンダはボーっと椅子に座りクオン、ディーナ、アニラは不安そうな面持ちを更に募らせた。
「そろそろ椀の準備でもしておきましょうか。」
アマンダの号令で用意された赤と青の椀を並べ椀を並べ更に黒い椀、適当にライトタウンで安く買ってきたような粗末な物だ。
中身は同じ、オードブルも兼ねているのか⁉︎
一体何をアマンダは考えているんだ?
そんな疑問符が頭に浮かんだがアマンダに依頼したのは俺である。
もはや彼女を信じる他無いのだ。
「よし例の物を仕上げるぞ!」
俺の心配を遮るようにダカロの声が響き何やら綿で包まれた物体を全員で調理台へ持ち上げた。
それは巨大な氷。
その氷を2人の若者が削ったり叩いたりしている。
何かの彫刻を作るようだ。
料理に彫刻⁉︎
然も削った氷まで集める者もいる。
素人の俺には分からない何かを作るつもりなのか?
「よし!そろそろ用意してくれ。
こっちは大丈夫だ。」
テアラリ島3部族の方でもゴウドの指示が飛び2人の若者が何やら白い紙のような物を切り加工を始めた。
両部族共に何をするつもりなんだ?
俺だけでなく全ての観衆の頭に更なる疑問符が浮かぶ。
「両部族共に美味しそうな料理ですね。
食べるのが勿体無いくらいに!」
笑顔で語るアマンダが、楽しみです!そんな歓喜の声が聞こえたが、クオン、ディーナ、アニラの顔が真っ赤になる。
自分達の料理と比べたのだろう。
そりゃそうだろう。
俺がマヤータ族の1人ならアマンダに抗議もしくは質問の一つもしている。
石のような物体を刻んで鍋に入れ葉っぱを入れただけだ。
アマンダ以外の当事者達には、この状況は針の筵だろう。
そんな料理バトルが1時間経過し両部族が単品料理を作り始めた。
そして時間ギリギリだったが出来上がったのだ。
テアラリ島3部族は橙色のサラっとしたスープを入れ赤い椀には葉っぱと花を飾り、青い椀には粉状の何かを振り掛けた。
バイエモ島3部族側も同じくスープだが、黄色のドロっとしたスープで青い椀には氷で周りを固め冷やした感じにし赤い椀には粉状の何かを振り掛けた。
マヤータ族は特に何をする訳ではなく椀に入れた、ただそれだけだった。
「各部族出来上がりましたね。
まずは単品料理の方から審査お願いします。」
選ばれた男女50組が各部族のスープを一斉に食し始めた。
「この花や葉っぱも食べられるんだわ、美味しい!」
「何だろう⁉︎
スープ自体はサラッとした感じなのに物凄くクリーミーな味わいだ!」
テアラリ島3部族側の方はかなりの評価が高そうだ。
特に男性の評価が高そうだ。
「スープが冷たいなんて初めてだ!
一見するとドロっとしているのに喉越しは爽やかだ!」
「何これ⁉︎美味しい!
それに冷たいのは勿論初めての感覚だけど、お腹が火照るような感覚は何?」
バイエモ島3部族側もかなり評価が高そうだ。
特に女性の評価が高そうだ。
だが‥‥マヤータ族は。
「何これ?
えらく硬いわ、これキチンと煮込んだの?」
「最悪!
硬いだけじゃなくて不味い!
いや味が殆んどしないぞ!」
女も男も最悪の評価のようだ‥‥。
だが審査員達は、そんな物でも、この場では絶対に食べねばと思ったのか可哀想に無理して完食は果たした。
「では各自評価を願います。
お手元の票を投票箱へ!」
だがスノーに投票を促された時だった。
「何かさ突然身体に力が漲って来た!」
「今すぐ何でも出来そうだ!ってか絶対に出来る!」
各自男女関係なしに、そんな事を言い始め明らかに身体に体力と生命力が漲っています!
そんな感じになった。
そんな審査員達の光景にアマンダが何故だかニヤッとしていた。
「それは良かったです。
では改めて投票お願いします。」
皆の喜びに合わせるように且つ催促するようにスノーが投票を即した時だった。
再び審査員達に変化が起こり始めたのだ。
「・・・・すみません。
ちょっと急ぎの用事を思い出したので帰ります‥‥‥すみません。
おい帰ろか。」
「・・・・・うん、帰ろか・・・・・ってか一刻も早く帰ろう!」
50組の男女が投票する時間も惜しいというように、スノーや警備兵達の制止も聞かず投票もせず我先に振り切るように帰ってしまったのだ。
然も全員急ぎ足、然も何故だか手を繋いで、然も老若男女関係なしに・・・・、然も男は何故か前屈みで女は顔と目が虚ろだった。
単品料理を審査するはずだった者達は誰1人いなくなった。
そんな光景に高貴な者達が唖然とし勿論だが俺も唖然となる。
一体何が起こったんだ?
「えーと・・・・・少々ですがトラブルが。
まあ各部族ともに美味かったという事でしょう!
各部族は同点という事で!」
スノーが予期していなかった事態を口で無理矢理誤魔化そうとするが明らかに取り繕った、かなり問題が残存する。
だが仕方ないのだ。
判断すべき審査員達はいなくなったのだから。
「気を取直してオードブルの評価を始めましょう!
どうぞ!」
スノーが、どうすりゃいいの⁉︎そんな感じの表情ながら押し切るようにオードブルの審査に移行させ各国の審査員、王や帝達が食し始めた。
まずはバイエモ島3部族側から見た目、創造性からの審査だ。
「氷の器や自分達の部族の象徴である虎をモチーフにして飾り付け思考を凝らしたのか!」
「なるほど氷が鮮度を保ち冷やす仕掛けもされているのか!」
そして味の審査に移行する。
「肉が冷たいなんて‥‥でもさっぱりとして良い食感だ!」
「それに魚は生か⁉︎
でも、この黒いソースと緑色のものを絡めると美味いぞ!
でも鼻にツーンとする感覚が・・・・だが癖になりそう!」
各国の高貴な者達の舌を唸らせ高い評価を叩き出したようだ。
そんな状況の中、ダカロが手を挙げた。
「もし宜しければ最後のデザートなどを添えたいのですが。」
テアラリ島3部族のゴウドの方を見ながら申し出た。
ゴウドもニッコリしながら、どうぞ!というように頷きスノーが複雑な顔を浮かべたがバイエモ島3部族側が無視して氷で出来た虎の彫刻を叩き壊し、そして削り始めたのだ。
氷はきめ細やかな雪のような代物になり器に山盛りに盛られ、その上から何やら白いソース、赤いソースそして赤黒い豆のような物を乗せ高貴な者達に配られた。
「何だ⁉︎口の中で溶けて、唯の雪なような物が口の中でシャリシャリ感と赤いソースが混ざって絶妙な味わいだ。
この豆と白と赤いソースが甘いのか!?」
俺も貰い食べてみたが美味い!
しかし食べ過ぎるとダメだったのか急に頭が、キーン!というような痛みに襲われた。
だが美味い!
最高の評価の中バイエモ島3部族側の評価が終わりテアラリ島3部族側の評価が始まった。
だが見た目、生肉、そんな肉が木で出来た皿の上に花を模るように綺麗に並べられている。
そして熱湯を注いだ鍋、何かの海藻を入れただけの鍋を出した。
しかし不思議な事に鍋は紙だ、下から火で熱しられているのに燃えていないのだ。
「どういう事だ、紙の鍋が燃えないなんて・・・・・そうか中の水分を吸った事によって相殺させて燃えないのか!」
高貴な者達の驚きの声の中ゴウドが笑顔を浮かべながら言った。
「その鍋の中の湯に生肉を少しシャブシャブさせてから、器のソースに浸して食してみて下さい。」
そのゴウドの言葉に高貴な者達が紙の鍋には感心するが生肉というものに嫌悪感を出しながら鍋の中に入れ掻き混ぜ食した。
「おお!これはバイエモ島3部族の真逆の温かさを表わしたような料理だ!」
「肉をしっかり煮込んだりしなくても食べられるなんて!さっぱりした味わいだ。」
高貴な者達が鍋の湯に生肉を次々と浸して食べる、好評のようだ。
「では我らも思考を凝らしてみましょう!」
そうゴウドが言うとスノーが再び複雑な顔を浮かべた中、生肉を散々に浸した鍋の中に白い何かの小さな種らしきものを大量に入れ卵を入れ掻き混ぜた。
椀に、それを入れ先程のソースを少し垂らして薦めていく。
「おお!これはほっこりする味わいだ!」
高貴な者達の笑顔が溢れた。
テアラリ島3部族側もかなりの評価を得たようだ。
そしてマヤータ族の番になった・・・・。
「何これ・・・・・。」
「硬い・・・・・・。」
「味がしない・・・・・。」
「泥臭い・・・・・。」
「申し訳ございませんが、これ以上は不味くて食べられません。」
やはり抽選で選ばれた50組の男女と同じ評価だ。
だが、そんなマヤータ族の料理を黙々と食べ続ける12人がいる、然も思い出すような複雑な表情を浮かべながら。
「これ・・・・亡き母さまが作った料理と同じだ。」
それはラウラの一言からだった。
「私も食べた事がある・・・・・母さま、それに婆さまも作ってくれたのと同じ味だ。」
続くようにエンマも言ったのだ。
「これ・・・・もしかしてゴコク芋か!?」
ふとした表情の元にオーサが呟いた一言にテアラリ島3部族の族長達が凄まじい反応を見せたのだ。
「何!?ゴコク芋!?確かにこれは幼き日に食べたゴコク芋、バイエモ島にもあるのか!?」
「あるのかって!?テアラリ島にもあるのか?」
「ある・・・・今はあまり食べなくなったが栄養があるから小さい頃は無理矢理食べさせられた・・・・昔は各部族間の争いの際は必ずゴコク芋を食べて体力を付けてから戦に臨んだらしいがな。」
「・・・・・それはバイエモ島3部族も同じだ。」
テアラリ島3部族もバイエモ島3部族も、それからは黙り切ってしまいスノー・ローゼオを始め高貴な者達も釣られて黙った時、アマンダが口を開き説明を始めた。
「やっぱり、この芋は今でもありましたか。
我等が先祖達が残してくれた芋を。」
先祖が残してくれた芋?
その意味をアマンダに聞いてみると彼女は自分達の部族の歴史を交えながら話してくれた。
「このゴコク芋。
元は我ら先祖達が住んでいた沈んだ島に自生していた芋。
どんな地にでも育つ生命力強い芋、腐りにくく栄養価も高い芋です。
貴方達の先祖達が北と南に新天地を探しに行く際に真っ先に持って旅立った芋らしいです。
勿論我らマヤータ族でも今ではあまり食べませんが幼い時分は無理矢理でも食べさされ、その栄養価を諄い程聞かされたものです。
勿論ですが母も、その母、更にさかのぼっても同じです。
それに・・・・この芋を旧居留区から持って来るのには苦労しましたよ。
今でもサルマンの目が光る中をアニラ達が採取してくれました。」
アニラが、表情で苦労しましたという格好を整え、アマンダの話は更に進んだ。
「我らに伝わる『6人の愚かな戦士』には続きがあります。
それは我ら族長家に伝わり我らが先祖が残した言葉です。
『島の住民達を守り、その後食べたゴコク芋、7人で食べたゴコク芋が一番の味。
例え大陸を流浪し、その土地の味を知っても住民達を守り傷付いた身体を癒し体力を回復する為に7人で笑いながら食べたゴコク芋の味が一番だった。
あの6人も、せめてゴコク芋の味だけは覚えていて欲しいものだ。』
それが我等に伝わる『6人の愚かな戦士』の本当の最後です。
元々7人の戦士達、我らの先祖も含め貴方達の先祖は仲良く常に笑い合って住民達を守る事に命を賭けた戦士達。
しかし住民を思い遣るうちに意見が対立し離ればなれになった。
しかし先祖達は、どこで後悔していたのでしょう。
このゴコク芋だけは我らに伝承させていたのですから。」
アマンダの言葉を聞いたテアラリ島3部族族長達そしてバイエモ島3部族族長達も更に黙り込み考え深くなった。
今更、そんな事実を知ってもどうすれば良いんだ!?
そんな感じである。
だが・・・・・。
「このゴコク芋に、バイエモ島の香辛料にテアラリ島の香辛料を足しても面白い味が出来るかもしれない。」
「ああ、逆にテアラリ島の香辛料の上からバイエモ島の香辛料を足しても面白いかもしれない。多少の試行錯誤が必要かもしれないが。」
両島の男達、ゴウドとダカロが思い付いたようにゴコク芋を題々に話し合っている。
彼らは過去を糧に未来を話し合っているのだ。
「1000年の時を帳消しにして今を生きる我等で友好を結ぶって出来ると思うか?」
バイエモ島3部族のサーガ・バインが一言呟き、それにリラ・テアナが続いた。
「それは、これから次第だが1000年の時を経て再び交わるのも悪くはないさ。
我が先祖の為にも。」
どことなく御伽話、そんな過去のしがらみから解放されたように両部族が歩み寄った。
「では、どうですか。
先日、私もエスポワール帝国女帝アルベルタ殿と『義姉妹の契り』を交わしましたが両部族で交わされては?」
グレーデン王国のヨハンナが両部族に提案した。
俺には恐れるバイエモ島3部族への点数稼ぎにしか見えないのだが、結果は良いようだ。
御伽話という1000年の呪縛から解き放たれ両部族が感動的に歩み寄ろう、そんな雰囲気を醸し出した時だった。
「えーと・・・・・結果発表を行ないます。
文句なしで・・・・ってかルール上の問題で優勝はマヤータ族です!」
友好、1000年の時を経て友好を結ぼうとした両部族の雰囲気をぶち壊すようにスノー・ローゼオの声がリングに響いた。
「おい、なんでゴウドのテアラリ島3部族料理が負けるんだ!?
こっちの評価は抜群だったはずだ!」
「そうだダカロのバイエモ島3部族の料理の評価も退けは取らなかったはずだ!」
理知的なケイトと、バイエモ島3部族では理知的かもしれないカイヤが凄い恐ろし気な形相でスノー・ローゼオに詰め寄った・・・・あのアマンダが作り出した友好モードなど無かったかの様に。
「仕方ないですよ・・・・予め決められたルールに乗っ取って審査するって初めに説明しましたよね。
ルールを守る、これが国際交流の基本なのですから!」
「どこがルールに外れたというのだ?」
「料理時間は2時間、バイエモ島3部族は氷を削ってデザートを作成したり、テアラリ島3部族は鍋に卵を入れ新たな料理を作ったりしてましたよね。
それに予め両部族ともに材料を仕込んできてましたよね?
片やマヤータ族はルールを守り制限時間をきっちり調理をしてましたから文句のつけようがないですよ!
違いますか?」
確かに思い起こせばスノーは言っていた。
『制限時間は2時間、調理はストップとなり、それ以上は失格となります。』
明らかな両部族のルール違反、その事実に気が付いたゴウドもダカロも途端に頭を抱えた。
それに何よりマヤータ族は制限時間内で暇そうに椅子に座っていただけだ。
その事実を突きつけられたテアラリ島3部族そしてバイエモ島3部族は呆然となり飛び入り参加のマヤータ族の勝利が決定した。
一応だがローヴェで用意された優勝旗なるものをアマンダが受け取り誇らしげに翳した。
テアラリ島3部族そしてバイエモ島3部族にしても、正に勝利を搔っ攫られた形になり料理バトルは終了したのだ。
その優勝旗に口惜しそうな両部族の族長達・・・・・そして、そんな族長達の様子を予想していたのかアマンダの口から予想だにしていない一言が飛び出した。
いや戦闘部族であれば予想内というべきか。
「もう一つ我らの中に伝わる言葉を忘れていました。
『勝って相手の意思を変えさせろ!』
これらは我らの先祖から1000年伝わる言葉、唯一のルールのはず。
これが欲しくば掛かってこい!『愚かな6人の戦士』の子孫共!」
そしてアマンダの肌が真っ赤になり『6人の愚かな戦士』の子孫である6人も肌が真っ赤になり戦いが始まった。
料理バトルだったので武器などの持ち込みは無かったから戦闘部族である彼女達からすれば友好的な素手での殴り合いだ。
「不味いなあ、母様・・・・マジで楽しんでるな。
ああなったら3日は止まらないな・・・・・。」
両部族の間に押し入り暴れ倒したディーナが仕方なしという呆れ顔を浮かべて言う。
もしかしてアマンダは最初から、これが狙いだったのか!?
だが、そんな疑問と供に思い浮かんだ事があった。
何故、抽選で選ばれた男女50組は投票もせず帰ってしまった?と云う事だ。
「なあゴウド、どうして抽選の男女達は帰ってしまったんだろう?」
「いや味も自信があったんだけどなあ、掟まで改変してニードホックの胆嚢を使ったのに。」
「おい・・・・ニードホックの胆嚢って・・・・まさか『男』に効くあれか!?」
「そうだよ、特性なんて条件だったから苦労してニードホック10頭を戦士達に狩って貰ったんだ!」
ニードホックの胆嚢・・・・・俺が共通騎士になったばかりの頃、海と星を眺め続けなければならなくなった、あれか!?」
そんな話の最中、聞いていたのかダカロが口を挟んで来た、それは恐ろしい話だった。
「あれ、そういう事ならテアラリ島3部族側は男性の方の票を狙っていたという事ですか!
じゃあ正解だったな、ウチは女性の方を狙ってたので!」
「女性っていうと?」
「バイエモ島近海に出没するクラーケン10頭の肝臓を使ったんですよ!
クラーケンの肝臓って女性にとっては発情効果と子宮に作用する効果があるみたいでバイエモ島では薬的な役割で使用するんですよ!」
なんだって・・・・・ちょっと待てよ・・・・・確かゴコク芋は体力増進とか言ってなかったか!?
それにニードホックの胆嚢で男性機能増進とクラーケンの肝臓で女性発情効果と子宮に作用する効果だと・・・・じゃあ相乗効果で。
それから10ヶ月後その日にライトタウンの人口が113人増えた。
あの老若男女50組に双子、三つ子が乱発し人口が増えたのだ。
まあ良い事だ。
ある意味3つの部族の友好相乗効果だ・・・・・そういう事にしよう。
そして7人の族長達は『義姉妹の盃』を交わしたらしい。