島を愛する気持ち
前話も編集し投稿しました。
ご迷惑ではありますがお読みいただけると幸いです。
その島の男達は体格が小さくひ弱、必要とされる存在として生きる価値も無い、そう聞いていた。
だが実際は臨機応変に動き頭の回転も良く器用であり、何よりも自分達の島を愛する忠義に溢れる男達だったのだ。
そして今、男達は愛する島の為に働いている。
ゴウドは、そんなテアラリ島の男達の1人である。
勿論、ゴウドが戦う姿など俺は観た事は無い。
そんな彼が蒼き光を身に纏いテアラリ島、そしてテアラリ島3部族の誇りの為に戦おうとしているのだ。
そのゴウドの相手はバイエモ島で彼と同じような生き方をしていたであろうダカロである。
ダカロもまた、バイエモ島そしてバイエモ島3部族の誇りの為に戦おうとしているのだ。
「あの光は、もしかしてフォースか!?
どうして男がフォースを!?」
ケイトがゴウドの身から溢れる光を見て驚愕の声を上げ、隣では同じように驚愕の顔をするカイヤがいる。
「そうか・・・・ズビリタス!
あんな高アルコール度数の酒を飲んで酔っ払って戦闘部族としての身体の奥底に隠された本能が出現したんだ!」
この世界は基本的には女尊男卑である。
テアラリ島でもバイエモ島でも、それは特に強い。
だから飲む酒も基本的にはアルコール耐性が弱い女に合わせた酒しか造らていない。
弱い酒しか普段は飲んでおらず心底酔っぱらうなんて無かったから隠された戦闘本能なんて覚醒する事も無く生きて来たのだろう。
それに考えてみたら、元は同じであると推測されるマヤータ族のクオンが戦闘に秀でフォースを使いこなすのにテアラリ島やバイエモ島の男が出来ないのも変な話だ。
「一体何だ?これはどういう状況ですか?」
漸く酔いが醒めたのかホリーやリラ、カミラやレイシアもやって来て状況に驚き、バイエモ島3部族側でも残りの2人の族長と妹達がやって来て同じ反応を見せた。
ケイトとカイヤから説明を受け更に驚愕する4人を尻目にゴウドとダカロの戦闘が開始されたのだ。
いや戦闘ではない。
男らしい喧嘩と云った方が適切な戦い方だった。
2人とも全開の右ストレートから始まり互いの左頬に炸裂し、その威力から張られた縄まで一気にふっ飛ばされたのだ。
それだけでも、かなりの威力のある拳という事が伺える。
「愛するテアラリ島の為に!」
「愛するバイエモ島の為に!」
ふっ飛ばされたが直ぐに起き上がると、物凄い速さでリング中央で再び2人が左ストレートを放ち今度は右頬に炸裂し再び縄まで一気にふっ飛ばされた。
どちらも意地と誇り、愛する島の為に一本気な拳で語り合う、そんな喧嘩が繰り広げられ観客達を熱狂させた。
「うおおお!どっちも全く引かないぞ!」
「愛する島の為に意地の張り合いだ!」
そんな観客達の熱狂が両部族の者達を更に困惑に陥れて行く。
バイエモ島3部族の族長達や妹達はどうだか俺には分からないが、少なくともケイト、ホリー、リラのテアラリ島3部族の族長達やラウラ、カミラ、レイシアの妹達にしても比較的にテアラリ島の男達には寛容である。
しかし、そんな彼女達でさえ島の男達はひ弱で自分達よりも下の存在という認識は抜けていないのだ。
これは、もしかしたら、あの御伽話以前からの認識かも知れず仕方の無い事なのだが。
それでも、そんな彼女達の困惑を更に深めるようにゴウドとダカロの単純だが迫力ある拳の語り合いが続いていった。
一撃一撃と互いの顔に互いの拳がめり込みふっ飛ばされる展開が続く。
だが、暫らくすると足を止め左右の拳を振るい始め打ち合いに変っていったのだ。
「戦い方を学び始めている・・・・」
ソニアとシレーヌが同時に呟いた。
確かに単に拳で殴るだけの展開から左右の拳での殴り合いに変化し、また暫らくするとフェイントなどを織り交ぜ戦い方を短時間で急激に学んでいるのだ。
「おおお!今度は足を使い始めたぞ!」
観客達にも分るのだろう。
単に喧嘩という段階から立派な戦闘部族らしい戦いに変化し、どちらも未だたどたどしいが足捌きまでし始めた。
正に戦闘部族の血に恥じない急激な戦闘本能を発揮し始めたのだ。
「これほどまでの戦闘力が男に眠っていたなんて・・・・・」
リラが驚愕の呟きを上げるとサーガが疑問の声を上げた。
「それもあるが、あの身に纏うフォースは何だ?
あんなのは『獣化』した私でも出来ないぞ。」
確かにそうだ。
普通、フォースは武器等に送り込み使う物である。
俺だって身に纏うなんて出来ないし、かって戦った張馬林にしても頭の一部分に送り込んでいただけだ。
「あれは発勁ですよ。」
いつ来たのか気が付かなかったがマヤータ族族長アマンダとディーナがいた。
そしてフェリス・リードと母のナタシャー・リードもいる。
「そう云えばアマンダさんも発勁とかいうのを使いますけど、それって何ですか?」
それからアマンダは説明してくれた。
要はフォースなのだが俺達のとは違う種類になるらしい。
「フォースは自分の内から湧き出る生命力です。
一般的には武器等に依存させ強度を増したりして使用しますが、発勁は依存ではなく放出し相手にぶつける技です。
勿論、身体から放出させるなんて長い時間と厳しい修練が必要ですが、凄いですね、恐らく2人には才能が有ったのでしょう。」
「じゃあ2人も、その発勁をやっているって言うんですか?」
「ええ原理は発勁なのですが、ただ彼らの場合は制御出来ず身体からフォースが漏れ出し、それが発勁と似た効果になっているが正解でしょう。
それでも凄い事なのですが。」
「制御出来ず漏れ出てるって・・・・じゃあ、もしかして・・・・。」
「そうです、フォースには許容量、限りがあります。
この勝負、そうは長くは続かないでしょう。」
何てことだ。
元々、戦闘経験も訓練もされていない2人だ。
このままいけば戦闘不能になってしまう。
それにゴウドもダカロも年齢的には40代前半位だ。
頭も半分禿げて腹も酒とツマミのせいか出っぷりと出ているオッサンだ。
そんな者達がフォース枯渇なんて現象に襲われたら下手すりゃ心臓麻痺なんて起こして死んでしまう。
このままでは不味い事になる。
俺がそう思ったのと同時だった。
「ダカロさん、足だ!
足を使って右に周り込みながら左手で細かく殴って有利に戦うんだ!」
俺と同じように感じ取り不安を同じように感じたのだろう。
バイエモ島3部族の共有騎士であるフェリス・リードがダカロにアドバイスを送り始めたのだ。
そのフェリスのアドバイスにダカロが直ぐに反応し対応しだした。
次々とダカロの拳がゴウドの身体にヒットし削るようにダメージを与えていく。
形勢は一気にダカロに傾き有利になった。
なんて歯がゆいんだ・・・・。
俺は今の自分の立場を呪う。
今の俺はテアラリ島3部族の共通騎士ではない。
テアラリ島3部族そしてバイエモ島3部族と同盟を結ぶエスポワール帝国の一軍を率い人々からは『パープルヘイズ』と字名される騎士なのだ。
テアラリ島では、あれだけ親身になってくれ世話になったゴウドに一言のアドバイスも送る事すら許されない無い立場なのだ。
「早くゴウドに指示やアドバイスを!早くゴウドに!」
今の俺には、こんな発言しか許されない。
しかしテアラリ島3部族の族長達、妹達は呆気に取られ『テアラリ島最強』と字名されるソニアですら呆然と立ち竦むだけである。
次々とダカロの左手から繰り出される細かい拳に耐えていたゴウドが遂に後退を見せ、そしてグラッとよろめいた瞬間だった。
「ダカロさん、今だ!顎だ!
右の全力の拳を叩きつけろ!」
的確なフェリスの指示の元にダカロの拳が的確に弱りだしたゴウドの顎を貫いた。
そして、ゆっくりと前に顔からゴウドが倒れ落ちた。
不味い・・・・これは確実にヤバイ倒れ方だ!
だが倒れたゴウドは立ち上がろうとしてもがき続ける。
「テアラリ島の為に・・・・・愛するテアラリ島・・・・テアラリ島3部族の為に・・・・・。」
しかし足が定まらないのか不安定になって何度も立ち上がろうとしてはふら付き立ち上がれない。
「これでバイエモ島3部族の勝利が決まったな!」
そんなバイエモ島3部族共有騎士フェリス・リードの喜びの声が聞こえ、俺の中で怒りの炎が燃え上がる。
もう一回、テアラリ島共通騎士に戻って、この場でフェリスと戦ってやろうか!
勿論この炎が理不尽だと判っている。
そんな想いに捉われた時だった。
「ゴウド立ち上がれ!
君には全てのテアラリ島の男達の想いと意地そして名誉が掛かっているんだ!」
俺の後方から怒号が聞こえた。
振り向くとゲイシー・ロドリゲスとナザニン・ロムがいた。
恐らく遊びに出掛けていたゲイシーをナザニンが連れて来てくれたのだ。
「ゴウド、立ち上がったら僕が指示する、言うとおりに動くんだ!」
そうゲイシーが叫ぶとゴウドはふら付く膝を押さえながら立ち上がったのだ。
「ふん、親友の言葉には逆らえねえな・・・・。」
ふら付きながらも男らしく呟き立ち上がったゴウドに即対応したフェリスの指示が飛ぶ。
「ダカロさん、まだ相手はふら付いています。
あと一撃叩き込めば勝てますよ!」
フェリスの指示を的確に対応したダカロの拳がゴウドの顔面中央に向かい放たれた。
「ゴウド、焦らずに上半身を後ろに傾けるんだ!
そして腹に拳を叩き込め!」
ゲイシーの指示通りに動いたゴウドが躱し腹に拳を叩き込みダカロの身体が九ノ字に折れ曲がった。
「俺には親友がいる。
『剣闘士殺しの拳闘士』と呼ばれた奴隷剣闘士界の英雄ゲイシー・ロドリゲスが!
彼の為にも負けられない!」
そう叫ぶとゴウドがダカロの脚を払い転倒させ、そして彼に馬乗りになった。
これはゲイシー得意のあれだ!
マウントポジションを取り一気に拳を相手の顔面に叩き込み続ける、相手を破壊し続けるまで辞めない、泣き出した時のゲイシーの攻撃パターンだ。
「俺はテアラリ島を愛しているんだ!」
「俺は負けられないんだ!」
「テアラリ島の男達の名誉が掛かっているんだ!」
「親友が観ているんだ!」
「テアラリ島の男達の名誉が掛かっているんだ!」
まるでテアラリ島3部族武闘祭で俺と戦った時のゲイシーを彷彿させるようにゴウドの拳がダカロの顔面に向かい叩き込まれた。
しかしダカロもまた両腕で顔を固めゴウドの拳を防いでいる。
「俺はバイエモ島を愛しているんだ!」
「こんなところで負けられるか!」
「この戦いにはバイエモ島の男達の未来が懸かっているんだ!」
「バイエモ島の男達の名誉が掛かっているんだ!」
そう叫びあうゴウドとダカロの2人の身体が、より蒼く光り出した。
それは正しくローソクが最後の燈火を称える瞬間に似た光。
そして2人の身体から蒼い光が消え、フォース枯渇の時がやって来たと判った。
ゴウドがダカロの身体の上から崩れ落ちた。
ダカロもまたガードしていた両腕が崩れた。
モニカとイースに続きダブルノックアウトかと思った時だった。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
互いに口から血を吐き出しながら立ち上がろうともがいている。
「もういい、辞めろゴウド。
立たなくていい。」
最初から観ていたからかケイトが泣きながら立とうとするゴウドを止めようとする。
「もう十分だ、だから辞めてくれダカロ。」
やはりケイトと同じく最初から観ていたバイエモ島3部族族長カイヤも泣きながらダカロを止めようとした。
だが、そんな2人に彼らが言った言葉は通常なら不敬罪である。
「男には死んでもやらねばならない事がある、黙ってろ!」
そう叫びながら立ち上がりフォース枯渇状態ながらも拳を互いの顔面に叩き込んだ。
いや正確には触ったというべきか。
ペチッ・・・・そんな音を立て拳が頬に触った状態で止まったのだ。
だが、そんな拳でも今の2人には大ダメージなのだろう。
膝が震え身体全体も震えだしたのだ。
倒れるのに耐えている、そんな状態だ。
「これは先に倒れた方、態勢が崩れた方が負けですね。」
マヤータ族族長アマンダの言葉に誰もが納得した5分後、遂に片方の膝が折れ勝負が決した。
バイエモ島3部族のダカロの膝が折れたのだ。
そして2秒後ゴウドの膝も折れた。
この瞬間、テアラリ島3部族の勝利が決まった。
観客達全て、いや各国の王や帝、その配下の者達までスタンディングオベーションである。
「やったぞゴウド!テアラリ島3部族の誇りを守ってくれた!」
一番にケイトが先頭を切って飛び出しゴウドにキスの嵐である、羨ましいかぎりだ。
「申し訳ありません・・・・誇りを守れませんでした。」
「いえダカロ、貴女は十分にバイエモ島3部族の誇りを守り、意地を示してくれました。」
こちらも先頭を切って飛び出したカイヤのキスの嵐を受けるダカロであった、羨ましいかぎりである。
そして戦ったゴウドとダカロで握手が交わされた。
最強と随一が交わした偽りの握手ではない。
「負けたよ、だが良い戦いだった。」
「いや親友のおかげだ、だから勝てたんだ。」
実に男らしい決着を見せ両部族の一戦は幕を閉じた。
「次は料理バトルで改めて勝負だ!
これが本当の我々の戦いだ!」
2人の頼もしい言葉が交わされる中、後ろではローゼオ姉妹とデイジーがホリー、リラ、サーガ、オーサに向い何やら話している。
「どうですか?ズビリタス、今なら格安でお売り致しますが!」
しっかりと商人らしく売り込みを掛けていた。
そんなズビリタスだが、その効力に惹かれた両部族に全て買い取られた訳だが、一度男に飲ませると耐性が出来て二度と戦闘本能が覚醒しないと判り無用の長物以外の代物でしかないと分かる残念な結果となった。
ちなみに、この3年後だがケイトは結婚する事になる。
相手はゴウドだ。
テアラリ島では、ゴウドは上手くやってケイトを手に入れたと奇跡のように語られたが違った。
この一戦で惚れ込んだケイトがテアナ族であるゴウドにリラから頼んで貰い無理矢理に結婚したのだ。
半分は脅しの様な結婚であったが2人は身分や年齢差など関係せず仲良く生活を営んでいったらしい。
もっと、ちなみに言えば3年後カイヤも結婚する事になる。
相手はダカロで理由もケイト達と全く同じであった。