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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第9部 ローヴェ大会議編
135/219

女帝と女王

漸くだが大会議が始まり物々しい雰囲気が会館を支配する。


大国5ヶ国と小国達の発言力の差も心配されたが、そこは会議の内容が経済運営と民衆の安定を謳っている為かライトタウンの住民達への観覧席も用意されミュン・ローゼオの絶妙な仕切りの元で円滑に進展していく。


だが、いくら会議の議題が経済運営と民衆の安定を目指すものであったとしても各国の領土上の問題や未来への懸念は、どうしても話題に出さない訳にはいかない。

そんな事にも対応する為か、各当事者同士の対話の個室を幾つか抜け目なく設けているローゼオ姉妹とデイジー・ヴェッキオであった。


そんな1つの個室の中で俺に一番関係があるエスポワール帝国の未来のイグナイト帝国への侵攻と、それに対するグレーデン王国の対応の問題がエスポワール帝国女帝アルベルタ・エスポワールとグレーデン王国女王ヨハンナ・グレーデルによって話し合われている。

お付きはエスポワール帝国側が紫色のエスポワール帝国の正装に身を包んだ俺と今回は女帝警護役の緑色の正装のキッカと侍従のドルマそしてラシムハ。

グレーデン王国側がヨハンナが女王を継いでから設立された『デンブル騎士団』と呼ばれる故剣聖グレン・ヴァレンタインが直々に鍛えた者達を集めた騎士集団に所属する中年男と俺より少しばかり歳上らしき女そして侍従らしき老齢の女性1人と外交主官らしい女性1人。


「アルベルタ殿、我がグレーデン王国は現在休戦中であれ貴国のイグナイト帝国への侵攻を見過ごす訳にはいかぬ。」


そんなグレーデン王国女王ヨハンナの意見がアルベルタに向けられた。

恐らく、これにはグレーデン王国がイグナイト帝国から依頼を受けた内容も含まれているのであろう。

あからさまなイグナイト擁護の文言がヨハンナの口から出る。


だが、そんな事はアルベルタにとっても想定内だったのだろう、彼女から提案をヨハンナに語り掛けたのだ。


「ところで話は変わるがヨハンナ殿、其方の兄テオドロス殿は未だ独身らしいが我が従姉アメーリアと懇意にして頂けると喜ばしいのですが。」


あの俺が救い出した従姉妹のアメーリア・カルム(現在はアメーリア・エスポワール)を交渉材料としたのだ。

これは前以てアメーリアの意志も確認されているのだろうが、それでもアルベルタにとっては唯一の肉親であり、その事実はグレーデン王国にとっても意味は大きい。


「なるほど。

アメーリア・エスポワール殿と我が兄テオドロスなら似合いですね。

それにアメーリア殿はアルベルタ殿にとっても実姉も同然の方。

ならば、これからは我らも姉妹も同様ですね。」


「そうですね。

では、これからも良しなに!」


「では良しなに!」


俺の隣でムフマンド国の正装に身を包んだラシムハがニヤっと笑う。

予めラシムハがグレーデン王国に来訪した折に仕込んだ2人の芝居なのだろう。

グレーデン王国としても建前上はイグナイト帝国への対応の為に、やりました!的な事実を作りたくエスポワール帝国にしても無用な血は流したくないのだ。

そんな事情が入り乱れた対話であった。


「では本日ミュン・ローゼオと会食の約束もあるので、アルベルタ殿ご機嫌よう。

あ、アルベルタ殿もスノー・ローゼオと会食予定とか、心地良い時を御送り致しますように。

それから『例の件』もお忘れなく、

ラシムハ殿から仔細は伺っております故に。」


「勿論、このアルベルタはグレーデン王国とテオドロス殿、姉!であるアメーリアの懇意の為の『準備』は忘れておりません。

ではヨハンナ達殿ご機嫌よう。ミュン・ローゼオとの会食を楽しみになられるように。」


アルベルタの意味有りげな返事にヨハンナも意味有りげな微笑みを残し退室し4人も会釈をして後に続いた。


「なんとか無事に終わりましたね。」


アルベルタが俺達に笑顔を向け言ってくるが俺とラシムハは兎も角、キッカとドルマが緊張を解いたのかテーブルの上に同時にへたり込んだ。


「なんだキッカ⁉︎

もしかして、あのデンブル騎士団の女に威圧負けでもしたのか?」


「アベルさん‥‥‥あんなのと殺り合って勝てたなんて凄いですよ。」


彼らは故人グレン・ヴァレンタインの弟子達だからフェリス・リードとは兄弟弟子になり、その事をキッカは言っているのだ。

実際、個室の中は殺気が充満し主君2人の対応次第では殺し合いになってもおかしくなかったのだ。


交渉とは当事者同士だけではない。

その場の流れと雰囲気次第ではラシムハの仕込みは意味を無くし交渉結果も左右しかねないのだ。


例えば俺の前に座ったデンブル騎士団の中年男。

彼の場合は俺と共に個室内での殺気でやり取りをしていたのだ。

ヨハンナの発言を後押しするように最大限に殺気を放ち威嚇していたのだが顔はニコニコと笑顔である。

俺も彼と同じようにアルベルタの発言を後押しするように最大限に殺気を放ち笑顔で援護する。

個室内を俺と彼の殺気がぶつかり合い殺伐とした空気が充満し始める。

だが充満する前に殺気を止めて殺伐さを表には出さないようにする。

微妙だが、これは交渉であって殺し合いではないのだ。

場を壊しては意味はなく、その辺は俺も彼も理解はしている。


「私は負けちゃいましたか、やっぱりメリッサ様に頼めば良かったですか?」


顔から滴る汗を袖で拭いながら聞いてきたが実際はキッカとデンブル騎士団の女とでは互角だったと思う。

だが退室する時に涼やかな顔で退室したところを考えると彼女には余裕があったという事だ。

しかし交渉結果は上々だったのだ。

そう考えればキッカは負けなかったという事だ。

それにメリッサでは殺気が剥き出しになるから、こういう場は向かない。


「負けてなんかなかったさ!

キッカは姉メリッサから推薦されてのアルベルタ陛下の警護役なんだ、胸を張れ!」


キッカが俺の言葉にホッとした顔をする横でドルマが落ち込んだ顔をする。


「私は負けました‥‥‥ヨハンナ様の侍従さんには圧倒的に負けました‥‥‥。」


侍従同士で殺気の飛ばし合いをしていたのか⁉︎

だが聞いてみると、どうも出されたティーカップの気品溢れる持ち方と仕種にテーブルマナーが圧倒的差で負けたと感じているらしい。


「そんな事はありません。

貴女は私の自慢の侍従なのですから!」


そうドルマを慰めながらもアルベルタが浮かぬ顔を見せ俺達に予想外の話を始めた。


「負けたのは私1人です。」


理由はアルベルタの予想以上にヨハンナ・グレーデルが傑物であったらしい。


あの7年前のバイエモ島3部族相手の敗北から後に前女王であった叔母より跡を継いだらしいが実権を握ってから戦争は起こさず平和外交と内需拡大により国を安定させ領土を拡大させているのだ。


領土拡大とは婚姻外交である。

イグナイト帝国に接する海側の小国には海戦に秀でた次妹ロハンナを、ソビリニア側には陸戦に秀でた末妹ミハンナを嫁がせ支配させグレーデン王国に事実上取り込んだのだ。

自らは手は汚さず策謀のみで領土を拡大したと言って良く、取り込まれた小国の反対派だった重臣達も内部謀殺されているのだ。


今回の交渉においてもヨハンナはグレーデン王国とイグナイト帝国との間に存在する島を一つ要求しただけである、それが『例の件』であり『準備』であった。

一応はアメーリアとテオドロスとの婚儀が成立しイグナイト帝国を征服した後の要求であったが、これにも思惑がある。


イグナイト帝国本土はエスポワール帝国に攻めさせる事によりイグナイトが誇る『無敵艦隊』と相対させようとしているのだ。

もし『無敵艦隊』を相手にエスポワール帝国が勝っても島の領有がなり漁業権は拡大出来て、負けてもグレーデン王国は傷付かず損もせずに『無敵艦隊』の力を幾分かでも削ぐ事が叶うかもしれないのだ。

自分の兄1人をエスポワール帝国にくれてやる事で計略を練っているのだと理解出来て、あからさまではあるがエスポワール帝国が恐れるイグナイト帝国への援軍阻止をする為には婚姻をまとめる以外には手はなかったのだ。

その意味ではアルベルタはヨハンナに主導権を握られ交渉に臨む他無かったと言って良く、負けたと感じても仕方のないのだ。


「彼女とは、いずれ相見舞えるかもしれませんね。」


顔は沈んだ表情だが目は炎を纏ったような輝きを見せるアルベルタが言う。


「ですね、ですが今は我慢の時です。

あれこれ考えてはキリがありません。

しかし牽制の意味でもグレーデン王国が恐れるバイエモ島3部族に友誼は怠りませんように。」


アルベルタが黙って頷いたが確かに警戒は感じずにはいられない。

観た感じアルベルタと年齢は変わらないであろうヨハンナがエスポワール帝国が誇る天才を捻じ伏せたのだ、世の中には他にも天才が存在するようだ。


「そのバイエモ島3部族に遣わしたシェリーとリーゼは上手くやってくれているでしょうか?

そしてテアラリ島3部族に遣わしたジュリアとメリッサはどうなっているのでしょうか、報告は入りましたか?」


「報告は未だ入っておりません。

ですが其々にはドミニク・バルディとシラ・ビバロが着いております、まず心配はないでしょう。」


前日に両部族其々からアルベルタには友好を兼ねた酒宴の招待を受けたのだが、この交渉日程と重なり行けず『ヴェルデールの4女神』が代わりを務める事になった。


バイエモ島3部族にはリード親子の仲直りの件で俺と共に奔走したリーゼ、同行者をシェリー・ヴェルデール。

テアラリ島3部族には同盟交渉で面識のあるメリッサ、同行者をジュリア・ヴェルオール。

そんな感じで決めたのだが彼女達は武人であり、どうも心配は尽きず更に其々にドミニク・バルディとシラ・ビバロを配した訳だ。

それに酒宴という事で手土産はエスポワール帝国が誇る名産のワインとラム酒を多量に持たしてある、同行人数には行き渡るはずだ、完璧だ。


「明後日は両部族の威信を賭けた一戦目である代表チームの勝負の日、何事もなく勤めてくれれば良いのですが。」


そう明後日は大会議の華を飾る両部族の優勝者達の戦いの日である。


そんな日が近いのに酒宴とは両部族共に剛毅であるとしか言いようがないが各部族の族長達が考えがあって決めた事だ。

今の俺が心配しても仕方が無い。


「夕刻には其々が帰って来て報告もあるでしょう。

アルベルタ陛下、我らは一旦宿営地に戻り休む事にしましょう。」


「そうですね・・・・・

それでは我らは偶にはランチでもしませんか?

ライトタウンには有名な美味しい店もあると聞いています、羽を伸ばしてみませんか?」


アルベルタにしてもヨハンナという未来の宿敵に成りうるかもしれない存在に出会った事により緊張が解けないのであろう。

アルベルタにも息抜きと気分転換も必要だろうと思い俺達は了承し途中で身分を隠す平服を買い店に向かい、かなり大きな店に入店すると何故か俺を除き店員から番号札を各自に渡されていた。

そして何故か平服のヨハンナとお付きの4人もいたのだ。


ヨハンナ達も俺達に気付き交渉の時には強気だった彼女が顔を俯けデンブル騎士団の女が一瞬だけ嫌そうな顔をした。


その仕種だけで理解出来た、ヨハンナ自身もアルベルタに自分は負けたと感じ緊張が解けていないのだ。


だが、この先の時間は互いに自由な時間であって外交交渉など煩わしい時間は終ったのだ。

緊張を解くべく楽しむことに集中した方が良い。

その為に身分を隠し公の業務から解放される為に平服まで買い着ているのだ、それは向こうも同じなのだ。

現に俺達を観てデンブル騎士団の中年男は少しの会釈をしただけだ。

彼とて仕える女王には一時の安らぎを与えたいのだろう。


俺も中年男に意味ある会釈を返しグレーデン王国という存在は意識しない事にした。


「さぁ、何を注文しましょうか?」


俺がメニュー表を取りアルベルタに渡そうとした時だ。


アルベルタの視線が一点に集中し反対方向からも視線を感じ外交交渉とは種類の違う殺気が交錯してると気が付いた。

勿論だが片方の視線の主はヨハンナである。


2人の権力者、西方の大国と呼ばれる女帝と女王が殺伐とした雰囲気を店内に醸し出す。

これでは緊張が解けるどころか増すばかりだ・・・・・

仕方が無い、先に来たのは向こうだ、こちらが出よう。

アルベルタに店を変えようと言おうとした時、店内にいるスタッフと客達が何やら騒ぎ出した。


「ローヴェの大会議の成功を願い当店でも只今ランチタイムイベントを開催いたします。

当店自慢ゴッチャニーニ・パスタの大食い大会を開催致します!

尚、参加者は当店スタッフが御渡しした番号札からランダムに5人選ばせて頂きます!」


大食い大会だと!?


「5・17・26・28・34の番号札をお持ちの方、特設ステージにお越しください!

尚、優勝者には金貨100枚を贈呈いたします!」


すると5人の女性が立ち上がった。

その中に御約束通りにアルベルタとヨハンナも含まれている・・・・・・。


「お辞め下さい、アルベルタ陛下!

この後はスノー・ローゼオとの御約束が!」


直ぐにアルベルタを諫め止めた、彼女も自分の立場を重々に理解しているから頷いてくれる。


「ヨハンナ様、この後のミュン・ローゼオとの会食もあります。

御引きを!」


向こうでも当然のように中年男が進言し受け入れたヨハンナが席に座ろうとした時だった。


「おいおい雰囲気ブチ壊しだな!

逃げんのか?お嬢ちゃんたち空気読めよ!」


そんな笑い声を含ませたブーイングが各席から起こった・・・・・・。

彼女達の身分を知れば絶対に言えるはずなど無いのだが、現在悲しいかな平服だ。


「キッカ!お前が代わりに出場して来い!」


俺の意を感じ取ったキッカが立ち上がり、向こうでもデンブル騎士団の女が慌てて立ち上がったが客達のブーイングが増してしまった・・・・・。


「・・・・・行って来る!」


ボソッと一言残しアルベルタが特設ステージに歩いて行った。

向こうでもヨハンナが歩いて行く・・・・・・。


5人の出場者が特設ステージに出揃い横一列に並びスタッフに即され自己紹介を始めた。

大会議の開催中だから、どこの国から来たのかも述べるようにと言われて・・・・・。


「エスポワール帝国から来ましたアルベルタです。」


「グレーデン王国から来ましたヨハンナです。」


「皆さん、御聞きになられましたか!

こちらの2人のお嬢さん達、あの大国2ヶ国からお越しになられて然も女帝様と女王様と同じ名前ですよ!」


そんなスタッフの冗談を含ませた紹介に客達もゲラゲラと笑っていた。

本人達なのに・・・・・。

然も悲しいかな当人達も身分の習性からか笑顔で客達に手を振っている。


「では当店自慢のゴッチャニーニ・パスタは肉か魚のどちらを選べますが?」


アルベルタが肉を選びヨハンナが魚を選んだ。


「不味いですよアベルさん!大食いになったら肉の方が重いから不利ですよ!」


ラシムハが悲痛な声を上げ向こうでは外交官の女がニヤッと笑った・・・・・・。


「では飲み物はどれを選びますか?」


アルベルタが水を選びヨハンナがオレンジジュースを選んだ。


「よし!オレンジジュースの方が比重が重い!」


ラシムハがニヤッと笑い向こうの外交官の女が嫌そうな顔をした。


「ではスタート!」


アルベルタとヨハンナを含む5人が一斉に食べ始めた。


俺達がハラハラとする中で物凄い勢いで食べられていくゴッチャニーニ・パスタ。

3皿・4皿・5皿と凄い速さで食べられていく。

但し他の3人にだ・・・・・・アルベルタとヨハンナは死ぬほど遅い・・・・・。

他の3人が5皿目に突入してもアルベルタとヨハンナは1皿の半分も食べていない・・・・・。


仕方が無かったのだ。


こういう身分の者達に早く食べろというのが無理で、そんな食べ方も教わっていない。

御行儀良く、ゆっくりと食べるのが当たり前の食生活なのだ。

量も多く食べられる習慣も無ければ胃もそういう風に育っていない。


だが人間とは、この場で言う『弱い者』を応援したくなる生き物である。


「頑張れ!アルベルタ!ヨハンナ!」


「まだ食えるぞ!飲み込め!噛むな!」


客達の声援がアルベルタとヨハンナに響き彼女達も必死に食べようとし出した。

然も他の3人は兎も角も自分の『敵』になった相手には負けられない!そんな心理も働き拍車が掛かっている。


もう辞めてくれ!

もう応援するな!


そんな俺の願いを無視するように2人が皿を平らげた、そして2皿目に突入した。

その間にも2人の視線が交錯しニヤッと笑い、自分はまだ余裕だ!というような態度を演出している。


「ドルマ様、アルベルタ陛下は普段どの位食されるのですか?」


「はっきり言えば私より少食です・・・・・」


じゃあ・・・・・かなり無理して食べているのか!?

これでヨハンナに負けでもしたら精神的ショックが・・・・・・。


しかし向こうを見ると侍従の老齢の女性が泣き叫びながら辞めてくれと叫んでいる。

ヨハンナ自身も、かなり無理しているようだ・・・・・・。


しかし両者が3皿目の半分を食べた時にフォークが同時に止まった。

2人とも、これ以上は無理!というような顔をした。


観た感じ同じくらいの量が皿には残っている。


引き分けって感じか!

向こうでも中年男が俺の方へ好意的な会釈をして来た。


これで良いんじゃないですか!そんな感じの会釈だ。


引き分けで終わったなら一番有意義に終われる!そんな安心感に両陣営が包まれた時だった。


「おい・・・・・さっきから思ってたんだが、あの2人って・・・・・本物の女帝アルベルタ様と女王ヨハンナ様じゃね!?ライトタウンに来た時の馬車に乗ってた顔と同じなんだが・・・・・」


「そう言えば・・・・・会議の時の観覧席から観た顔と同じだ!」


不味い・・・・・バレた。


「おおお!御忍びで女帝と女王が大食い大会に参加されているぞ!」


「負けるなエスポワール帝国!」


「負けるなグレーデン王国!」


こんな感じの大合唱が始まり、おまけに賭けの元締めまで始める者も現れ客達が参加し始めた・・・・・。


圧倒的な・・・・・俺達が外交交渉でやったような殺気のやり取りを遥かに上回る殺気が客達から発せられた。

金を賭けているのだ!そんな当然な雰囲気に女帝と女王が包まれていく。


「アルベルタ!アルベルタ!アルベルタ!エスポワール帝国に勝利あれ!」


「ヨハンナ!ヨハンナ!ヨハンナ!グレーデン王国万歳!」


雰囲気と国の威信に押され2人が限界を超えて意地で再びフォークを操りだした・・・・・。


俺達はアルベルタを救い出そうとするが特設ステージ前には店外からも客が押し寄せたのか溢れかえりグレーデン王国側も同じように阻まれ、前には行けない・・・・・。


そして終わりの瞬間を迎える事になった。


女帝と女王は5皿目の半分を過ぎた時に2人同時に真青な顔になり白目になって椅子から倒れ落ちた。


唖然となる客達を掻き分け急ぎアルベルタの元に駆け込み抱き上げる!


「医師だ!直ぐに医師を呼べ!この近くにミザリー・グットリッジが警備でいるはずだ!直ぐに彼女も呼んでくれ!」


俺の叫びに店主とスタッフ達がオロオロしながら走り出した、傍らでは同じような状態のヨハンナを抱き上げる中年男がオロオロした顔をしていた。


そして連絡を受けたミザリーが大国2ヶ国の女帝と女王が倒れている状況に慌てふためきながらも馬車と医師を手配してくれた。

更に報告を受けたデイジー・ヴェッキオまで慌てふためきやって来た。


診断名:胃痙攣


少食なのに大量に急激食べたのが原因だった。


その身分から遠慮気味ながらも医師に注意される女帝と女王・・・・・・2人とも凹んでいる。


「この度は御迷惑をお掛けしました。」


「いえいえ、こちらも同様です。ご迷惑をお掛けしました。」


俺と中年男で頭を下げ合う。


だが、こんな状況になったが悪い事ばかりではなかった。


一つは女帝と女王が互いに認め合い、過去に『ヴェルデールの3姉妹』がやったという『義姉妹の盃』を2人の間で行い婚姻外交以外の両国の間に強靭な成果と絆を上げた事。


一つは、打ち首覚悟で謝罪しに訪れた店主だったが女帝と女王に笑顔で迎えられ更に店の自慢のゴッチャニーニ・パスタが肉の場合は『アルベルタ』、魚の場合は『ヨハンナ』と名付ける許可を受ける栄誉を賜った事だ。


しかしながら割を喰った者達もいた。


せっかく会食の準備をして待っていたのに女帝と女王が現れず、事情を知らずに空腹に耐えねばならなかったローゼオ姉妹だった。



















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