表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
閑話 大森林地帯捜索編
127/219

未来

緊張と恐怖を支配する魔獣が生み出した静寂の中を兄!?だけは平然そして笑みを浮かべ歩いて行く。


「頭が3つだから・・・・・25か・・・・・まずは12からだ。」


ブツブツと意味不明な言葉を呟きながら不気味な笑顔の兄!?がケルベロスと対峙した。


ケルベロスが威嚇体勢を兼ねたように牙を剥き前脚を少し曲げ攻撃の為の前傾姿勢を取るのに対し兄!?は両手にある剣をブラッとさせる一見しただけでは無防備、そんな姿勢のままでケルベロスにゆっくりと向かっていった。


そして兄!?がケルベロスの間合いに侵入したのだろう。


それを合図にしたのかケルベロスが3つの頭を左右に揺さぶり一気に兄!?を噛み砕こうとするが如くに襲い掛かった。

だが兄!?もケルベロスに合わせるように右左にステップを踏んで躱した後、何かを数えるように呟いたのだ。


「あと23・・・・・。」


そう呟いた瞬間に何か物体がケルベロスの右と左の顔の口元から『ガキッ』と音を立てて弾き出された、それはケルベロスの牙2本。


「まずは牙12本を全て叩き折って歯抜けにしてやる・・・・・。」


私は勿論、館に逃げ込んだゴブリン達も兄!?が何時剣を振るい牙を折りに掛かったのか全く見えずに唖然となる中で女の転生者だけは見えていたのだろうか、恐ろしい事を言い出した。


「アベルさん1増やして26にして下さい。25なら恐らく尻尾を数え忘れているんじゃないですか!?」


「そうか・・・・・なんか足りないと思ったんだ。尻尾だったのか。」


そう転生者2人の呼吸を合わせたような会話が終わり再び兄は自分からケルベロスとの間合いを詰めていった。


「さっきから・・・・・いや・・・・・あの人が数えているのは何の意味があるんですか?」


そう女の転生者・・・・・いやミザリーに聞くと更に恐ろしい事を平然な顔で話してくれた。


「アベルさんが最初に言った25っていうのはケルベロスの頭が3・目が6・牙が12・前後の脚が4、全て足せば25って意味です。それに尻尾を足して26です。

全て斬り落とすか抉り出すっていう、これが『最高の痛み』『最悪な苦しみ』『想像が付かない屈辱』の意味です」


「そんな事をするつもりなんですか?ケルベロス相手に出来る訳が・・・・・」


「既に牙を2本折りましたからね、今のアベルさんなら必ずやるでしょう!かなり怒ってますからね。

でも冷静沈着なアベルさんにしては珍しく怒ってるな・・・・・どうしてだろう。」


もしかしたら陸奥神威の事もあるのだろうが、不可抗力とはいえ過去を探ってしまった事によって兄!?も深層心理の奥底で私が『末松真理子』だと感じ取ったのかもしれない。

そんな私も心の何処かで期待を持ってしまった時、再び襲い掛かったケルベロスの左右の口から4本の牙が弾き出され更に中央の鼻先にまで斬り裂かれた。


「あと20・・・・・。」


そんな数字を楽しそうに数えていく兄!?の顔がより『ニタァ~』とした不気味な笑顔になっていった。


だが、その時だった。


『ガアアアアアアー!』とケルベロスが兄!?から少し後退し雄叫びを上げると2本脚で立ち上がったのだ。

そして信じられない事に左右の前脚が腕に後脚の筋肉も盛り上がり両脚になり獣人化というのか身体が変化し、まるで過去の世界の映画で観た『狼男』になったのだ。


「ふん、そんな事まで出来たのか・・・・・・多少の予定変更が必要だな。」


ケルベロスの変化にも慌てる様子も無く面白そうに呟く兄!?は、またもや平然と間合いに侵入して行ったが、これは安易すぎたようだ。


獣人化したケルベロスは全てにおいて段違いの速さと強さになったらしく両腕からの強烈な連打を繰り出すと更に身体を一捻りし尻尾による強打を兄!?に放ったのだ。


躱しきれず難とかだが連打は受け止めた兄!?だったが尻尾の強打は真面に当たり、ゴブリン達の家であるテントを巻き込みながら吹き飛ばされたという表現が正しいように横一線に50M程は跳ね飛ばされたのだ。

しかし身体の各部から出血する大ダメージを負いながらも、ゆらっと立ち上がり赤い唾を吐き捨て顔は未だにニヤついたままである。


「これで、あと19。」


また数を減らしており、そしてチャンスにも関わらずケルベロスの追撃も無いのだ。


「ギャアアアアア~ン」


ケルベロスの泣き声にも等しい叫び声が聞こえると『ボトッ』そんな振動音が聞こえ右腕が落ちたのだ、

いや兄!?に斬り落とされていたのだ。


「少し舐めすぎた・・・・・だが、これでワン公の速度は理解出来た。」


まるでケルベロスの速度を測るために攻撃を受けてやったと言いたげな兄!?が気でも狂ったように笑い出し叫び始めた。


「今のは痛かったぞ!よくもやってくれたな!神威とマリコさん、それからゴブリン達、あと・・・・あと何か判らんが、その分も含めて嬲り殺してやるぞ!」


兄!?が二刀を左右対称に外側に向け構えケルベロスに向かって猛然と駆け出した。


そんな狂気の塊のような兄!?はケルベロスが攻撃ではなく振り払うように左腕を突き出した事すら利用し踏み台として飛び上がった。


「1・2・・・・・3・4・・・・・5・6・・・・・・あと13!」


飛び上がった一瞬の内に左の剣で右側の顔の両眼を斬り、右の剣で左側の顔の両眼を斬り裂き降下し始めた際にも両の剣の柄で左右に残った牙を叩き折ったのだ、これで残す牙と目は中央部分だけになった。


「真ん中の両眼は最後まで残してやる!もがき苦しみながら最後まで自分の身体が斬り刻まれる光景を堪能出来る様にな!」


これが転生者として生き抜いた兄!?の姿か・・・・・・本当に、どうしようもなかった兄『末松明彦』か!?

私は違う他人の過去を見たのか!?

まるで別人だ、これが辛く厳しい運命でも生き抜き戦い続けた者のみが辿り着いた姿なのか。


私が、そんな想いに捉われた時だった。


ケルベロスが叫び出したのだ。


残った中央の頭にある両眼で周りいたモーザ達に兄!?を襲えと言うように。

だが、そんな哀願にも似た命令はモーザ達が生への執着を表わすように一斉に逃亡に転じた為に無駄に終わったのだ。


もしかしたら兄!?だけなら一斉に飛び掛かれば可能性もあるかもしれない。

しかし、そのケルベロスの哀願を察知し左手にある鎖をニヤついた顔をして振り回し始めたミザリーがいる以上はモーザ達からすれば死が確定するのだ。

現にミザリー1人に100頭以上が殺されているのだ、頭の良いモーザ達からすれば賢い選択をして当然であった。


「おい・・・・ワン公。

他所見している暇は無いし許した覚えもないぞ!」


いつの間にかケルベロスの足元に侵入していた兄!?が左の剣で太い右脚を切断した。

ケルベロスが切断された事により転倒すると左腕と左脚に自分の両の剣を突き刺し行動力を完全に奪い去ったのだ。


そして私に近づいて来てケルベロスに見せたニヤついた笑顔ではなく優しい笑顔になり言ってきた。


「その剣、ちょっと借りても良いですか?」


私が急いで剣を渡すと再び例の『ニタァ~』という顔になりケルベロスの元に戻り叫び始めた。


「お前に脚を食われた神威が作った剣で死ね!」


そう叫ぶと尻尾を斬り落としたのを皮切りにケルベロスへの地獄絵図が展開された。


そして、どの位時間が経過したのだろうか兄が、0!と叫ぶと同時にケルベロスは絶命したのだ。


「これからはアベルさんを絶対に怒らせないように気を付けよう!」


そう言うミザリーは大笑いしているのだ。


転生者とは恐ろしい。


ケルベロスの血で染まった兄!?が優しい笑顔で礼を言って返して来て私は気絶した。

怪我とケルベロスとモーザ達の脅威から解放された為だと思う。


どの位気絶していたのか判らないが私は何かに抱かれていたようだ。

周りを見るとキキやゴブリン達が心配そうに見つめ、兄!?とミザリーもいたのだ。


そして私は笑顔の『勇人』に抱かれていたのだ。


『勇人』が何かを話し兄!?が通訳をして教えてくれた。


「マリコさん、神威が貴方に礼を言っていますよ。ありがとう!って。」


「『勇人』いや神威さんに伝えて下さい・・・・・ごめんなさいって。私の我が儘で貴方は帰れなかった。」


そう兄が神威に伝えると笑顔を見せ私を更に抱きしめてくれた。


「そんな事はない。両脚を無くした時もマリコさんが付き添ってくれなかったら死んでいた。だから感謝しかないって言っていますよ!」


そう伝えてくれた兄に神威が何かを頼んでいるようだ。

私の剣を鞘から抜き剣身に兄!?の助けを借りながら何か文字らしきものを刻み始めたのだ。


「この文字は遠い東の人間達の国、神聖ヤマト皇国の言葉で未来と読みます。

この剣は今日より『未来』と名付けるそうです。貴女が未来を向いて生きて行けるように陸奥神威が願いを込めて。」


未来・・・・・『業の深き者』として生まれ変わった私には程遠い言葉だった。

だが、そんな私に『勇人』は未来がある事を願ったくれたのだ。

例え言葉が解らずとも『勇人』は私を理解してくれたいたのだ。


私の望んだ幸せな結婚生活が始まったような気がする。


それから3日後、兄!?達は人間達の国ローヴェに向けて出発する事になった。


兄!?やミザリーから、その人間達の国ローヴェと交流を持ってみればと提案されたが断り、このゴブリンの国の存在も内密にと頼んだ。

本来、ゴブリンと人間は交流を持つべき存在ではないのだ。

仮に交流を持つにしても互いに理解し合える存在になった時、まだ先の話だと思ったからだ。

ただ大森林地帯で人間の遭難者等を発見した時は保護し適切な処置をするとだけは約束した。


「じゃあマリコさん、色々と御世話になりました。この御恩は忘れません。」


兄!?とミザリーが別れの挨拶をしてくれ、『勇人』いや神威さんが私を抱きしめてくれた。


さよなら『勇人』。


「アベルさん、最後に握手して貰っても良いですか?」


私の願いに兄!?は少し複雑な顔をしたが握手してくれた。


今の兄!?いやアベル・ストークスの最近の過去が見えた。


そうか、今は姉と妹がいるのか!

それに苦楽を供にする仲間もいるのか!


もう1人ぼっちの『末松明彦』ではないんだね。

頼もしい仲間に囲まれたアベル・ストークスなんだね。


少しだけ悲しくも安心した気持ちになれた時、アベル・ストークスが手を放し強く私を抱きしめた。

アベル・ストークスの鼓動がはっきりと聞こえた。


「何故だか判らないけど・・・・・何故かな。」


過去の世界、『末松明彦』の過去が見えた。


それは引き籠る前の笑顔の『末松明彦』。


そうだ、引き籠る前は両親が共働きの中で常に小さい私と一緒に居てくれた兄だった。

優しく笑う、小さい私の遊びにも付き合ってくれる面倒見の良い兄だった。


忘れていたのだ私は。


「すみません・・・・・何故だか抱きしめたくなって・・・・・変だな。」


「良いですよ・・・・・・それより最高LVになれたのですね。」


「え!?最高LV?」


「最高LVです、アベル・ストークスは、この世界で最高LVなりました!」


「はあ・・・・・ありがとうございます。」


「さあ早く家族と仲間達が待っていますよ!そして、ありがとう転生者達!」


「ええマリコさんも御達者で!」


アベル・ストークス、ミザリー・グットリッジ、陸奥神威が手を振ってゴブリンの国から離れていった。

彼らの帰る場所、本来いる所に帰って行ったのだ。


「良い低能生物達でしたね!」


キキが笑顔で言ってきたが奇妙な帽子を被っている。

ミザリーの帽子だった。


「これ女の低能生物がくれたんです。ブサイクだけど可愛いでしょ!縮めて『ブサ可愛い』です!」


「そうですね、良く似合いますよ。」


そんなキキを見ながら思う。

先代達が言った『転生者に救われた』という伝承が事実であり、私は確かに転生者から運命に立ち向かう『勇気』を教えられ、更に人間からは『未来』を貰い救われたのだ。


「さあ人間に負けぬように我らゴブリンも精進しましょう!

いつか交流する日も来るかもしれない。その時は胸を張って人間達と交流が出来る様に今から少しずつ頑張って行きましょう!」


皆が笑い、罪を背負った者達にも希望が見えた気がした。


さようなら『勇人』、さようなら『兄ちゃん』。



※      ※      ※



「しかしアベル殿が、こんなに立派になられたとは驚いたよ!」


「俺も神威さんが両脚を無くしたのに全くと言って良い程落ち込んでいないのに驚いていますよ。」


「鳳翼を打ち上げてから新たに打つ気も無かったからね、それに必要なら水無月に打たせればいいさ!」


「しかし生きていてくれて良かったですよ。これでミュンさんとスノーさんに責任が果たせますよ。」


「あいつら怒ってるだろうね、ミュンは兎も角スノーは激怒してるだろうね。」


「そりゃ怒りますよ。畑に種だけ巻いて花が咲いたらいないんだから。」


「アベル殿・・・・・・それどういう意味だい、花って?」


「そのままの意味ですよ、神威さんに娘がいるんですよ。然も2人、エルとナルが。」


「なんだと!独身主義者の陸奥神威に娘だと!」


「まあ、その辺は俺の任務外なので自分で処理して下さい。」


そう言うと、さすがの神威も呆然となった。

だが、次に師匠の事を聞いて来たのだ、帰って来ているかと。

当然だが未だ行方不明だ。


「大森林地帯で直ぐに魔物達に襲われ師匠が川に落とされたのを見たのを最後に逸れたんだ・・・・・・申し訳ない。」


「そうですか・・・・・神威さんだけでも会えたんだ、良かったですよ。」


俺達、2人は同じ事を思っただろう。

もう死んでいるだろう。

ウルバルト帝国にも1人で辿り着くとは思えないのだ。


そんな俺達の暗い雰囲気を察してかミザリーが話題を振って来た。


「そう言えば、ゴブリン達が守護しているとかいうフェニックスとかいう魔獣見なかったですね。」


「そういや見なかったな。デマだったのかな!?」


「アベル殿!今はあそこのゴブリンの国じゃなくて東のゴブリンの国にいるんだよ!」


「え!?東にもゴブリンの国ってあるんですか?」


「あるよ。

神聖ヤマト皇国にいた時に聞いたけど100年ごとに西と東のゴブリンの国で役目を持ち回りしているらしいけどね。

それにあれは触れてはならない魔獣の1つに数えられているから人間は関わらない方が良いんだよ。

何か得体の知れない一般の魔獣とは次元が違う能力を持っているらしい。」


「へえ、そうなんですか。」


後に、このフェニックスが俺達の運命を左右するとは、この時は知らなかった。






























閑話 大森林地帯捜索編  完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ