表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
閑話 大森林地帯捜索編
124/219

業の深き者

あの日、私の人生が狂った。


いや、あのクズでどうしようもなかった兄が死んだ時からか。


私の名は永田真理子・・・・・今はマリコだけ。

『業の深き者』として生きている。


昔、どうしようもなかったクズの兄がトラックに轢かれて死んだ。


警察からの話では遺体には多数の刺し傷等があり一緒に轢かれて死んだ女の子に刺されたらしい。


死んだ場所近くの公園には、その女の子の父親が惨殺死体として発見され、それを目撃した兄は巻き込まれたのではないかとの警察の見解だった。


可笑しな人の形の箱に入れられた兄の人間としての形が無くなった遺体が実家に運び込まれ更に棺桶に入るという奇妙な光景。

兄の姿を確認しようと棺桶を泣き叫びながら開けようとする母、それを同じく泣き叫びながら母を止める父。


不思議に思った。


両親は兄という重荷から解放され自由になれたのだ。


何故、泣く必要があるのか清々しく感じる私には理解が出来なかった。


葬式が始まったが友達など誰もいなかった兄、参列者など身内以外は誰もいなかった。


だが、そんな侘しい中に3人の私の新たな『家族』となる人達が参列してくれたのだ。


永田勇人、私の婚約者。

そして勇人の両親。


「お義兄さんの事、お悔やみ申し上げます。」


勇人が丁寧に言葉を述べてくれた。


「御足労頂きありがとうございます。」


クズの兄の為に、この家族の手を煩わし恥ずかしく思いながら言葉を返す。


「真理子、お義父さんとお義母さんの為にも再来月の結婚式は延期した方が良さそうだね。」


「え⁉︎どうして?」


「え⁉︎」


思い返せば、この時から私の人生が狂い始めたのだ。


両親がクズの兄の死を引摺る中で私達は結婚し私は永田真理子になった。

勇人や義両親の遠慮する中を私が押し切ったのだ。

死んでも何の障害、寧ろ障害でしかなかった兄が死んだのだ。

気にする必要などあるはずもなく、死んでまで私の幸せを邪魔されるのが嫌だったからだ。


幸せな結婚生活が始まるはずだった。

学生時代から始めた貯金を惜しげもなく使い新居を飾った。

新しいマンションに新しい家電、新しい車。


そうだ、子供は3人は欲しい。

スポーツでも音楽でも良い。

未来に向かって希望溢れる子供達を産み育てよう!

兄のようなクズ人生を歩んで行かないように。


そんな話を勇人に話し新しく希望に満ち溢れた生活になるはずだった。


だが同居者である勇人は次第に帰って来なくなった。


料理を作っても深夜に帰宅し食べて貰えず新しい冷蔵庫に入れる日々。


出勤時のキスも煩わしい顔と拒否され、朝早くから作ったお弁当も持って行かなくなった。


何故‥‥‥‥。


そんな疑問と想いに捕らわれ出した生活が1年を迎えた結婚記念日だった。


勇人が珍しく早くに帰宅した。

だが、申しわけ無さそな義両親と見た事の無い勝ち誇った顔をする女性と緑色の用紙を伴って。


「離婚してくれ!

彼女に僕の子供が出来た、だから速攻で離婚してくれ!慰謝料なら払う!金なら相場の倍までなら払う!」


理解出来なかった。


私の描いた幸せな生活が音を立てて崩れたのだ。


「私の何が悪かったのよ!

勇人の為に一緒懸命に‥‥‥‥。」


「真理子には人間味を感じないんだよ!

真理子といると何時か僕がお義兄さんと同じように思われるかと思うと怖いんだよ!

もう嫌なんだよ、真理子と一緒に暮らすのは!」


人間味が無い。


私は幸せな結婚生活を勇人と一緒に暮らしたかっただけなのに。


「ちょっと落ち着いて話をしましょう。お茶淹れますから。」


新たな幸せな生活に訪ねて来てくれた友人達に提供しようと用意していた最高級のカップに噂にもなったお店の心を落ち着かせる効果があるらしい素晴らしい匂いを放つダージリンティーの葉で紅茶を淹れる。

ベランダを華やかにしようとガーベラやパンジーなどを植え、それらを虫から守る為に買った害虫駆除用の薬品を紅茶に混ぜた。


「どうぞ、まずは落ち着いて皆で打開策を考えましょう。」


皆が早く落ち着きたかったのか一斉に紅茶に疑いもなく口を付けた。


直ぐに効果が現れ苦しみ始めたが死ぬまでは行かないようだ。


仕方なく勇人の為に美味しい料理を作り活躍していた包丁を持って首に向け1人1人を刺した。

特に勇人の子供を妊娠したという女は念を入れて何度も何度も首と腹を刺してやった。


皆が息をしておらず目は見開き恐怖に怯えた顔して死んだ。


そして携帯電話を使って実家の両親に連絡をする。


「ちょっと勇人と義両親がおかしいの!

直ぐに来て!」


直ぐに両親は来てくれたが私を見て驚愕し父は膝から崩れ母は嘔吐した。


そして私に自首を勧めてきた。


私を抱こうとした父の胸を刺し怯えた母に向け何度も包丁を振り下ろした。


気がつくと両親も勇人達と変わらぬ姿に成り果て両腕には手錠が掛けられていた。


警察署に護送され幾人かの人々に理由を聞かれた。

何も答えなかった、答えたえられなかった。


何日も何日も同じ事を聞かれ答えない日々。

その間は暗く冷たい施錠厳守の部屋の中に押し込められた。

1年前は希望溢れる日々をスタートし今は暗く冷たい部屋の中。

そんな運命を呪った。


暗く冷たい部屋の角を見つめ続けていると、ふと死んだクズの兄を思い出した。


兄は何年も暗く冷たい部屋の中に閉じこもっていた。

パソコンなどはあったが、たった1人の生活。

父や母に暴力を振るい暴れ金を巻き上げ何やら怪しげなものを売ったり買ったりしていたが誰1人として兄と逢おうとする者はいなかった、理解もされなかった。

勿論、妹である私でさえも。


淋しかったのか⁉︎


誰にも理解されず外にも出れない生活。

人目を常に怯えおどおどした弱い兄。

大嫌いだった兄。

記憶にある兄の顔は、怯えた顔と卑屈に笑う顔。


ああはならないと誓い頑張ったはずが、私も今は暗く冷たい部屋にいる。


兄より最悪だ。

人を6人、いや胎児を含めれば7人か、殺したのだ。


何故か、少しだけ兄の気持ちが解ったような気がする。


外に出る勇気のなかった兄。

外に出る権利を自分で消失させた私。


結局、兄妹で似たような結末だった。


そして私はドアノブにタオルを裂いて作ったロープを結び首を吊った、死んだ。



* * *



「聞こえるか、新たな『業の深き者』よ。」


そんな声が頭の中で響いた。


目を開けると恐ろしげな赤い肌、目は青い化け物がいた。

周りには緑色の肌に目が青い化け物が多数いる。


私は死んだはず・・・・・そうか、私は地獄に落ちたのか・・・・・・当然の結果だ。

そう思った時だった、また頭の中を声が響いた。


「地獄か・・・・・そうだな、ここは正しく地獄。

お前の新たな人生は地獄。

新たな命で死ぬまで続く地獄。

そして、お前は『贖罪者』達を新たに率いる『業の深き者』に選ばれ、これから私の代わりを務める者だから。」


そんな意味不明な言葉を吐く化け物に抱かれ澄んだ湖の水面に映る新たな私の姿を見せられた。


私は『鬼』になっていた。

いや、物語にあるような角は無く赤い肌と目は青い化け物になっていた。

私を抱く化け物と同じ姿、赤い『鬼』になっていた。


「『鬼』か・・・・・残念ながら『鬼』ではない、ゴブリンだ。

お前は人間からゴブリンになった。

罪を犯し償えぬ業を背負い『贖罪者』を率いる新たな主になったのだ。」


それから私と同じ『ゴブリン』は色々と話し説明してくれた。


まず自分の事から話し始めた。

名はムツオ。

元は人間だったらしい、この名も過去の世界の名前を引き継いだらしい。

人間だった頃に、戦争に行くのに必要な検査に漏れたのが原因で馬鹿にされ罵られ、一晩で狂ったように村人を皆殺しにし山中で自殺したらしい。

そんな人間だったらしい。


「私も、お前と同じように生まれ落ちた瞬間に赤き肌を持つ先代から教えられた。」


そう寂しげに話すと今度は、この状況を詳しく話し始めた。


この世界でゴブリンそして『贖罪者』となって生まれ落ちる者は人間だった頃に犯罪者、情状の余地の無い重犯罪者に限られる事。

緑色の肌を持つゴブリン達は一生懸命に生活を営む内に過去の記憶も消去され贖罪されていくらしいが赤い肌を持つゴブリンは生涯において前世の記憶が消える事も無く苦しみ続ける宿命である事。

過去の記憶を引摺るが故に『業の深き者』と崇められゴブリン達を率いる新たな主として認知される事。

そして新たな赤い肌を持つゴブリンが生まれた時、先の赤い肌のゴブリンの死が近い事を意味すると教えてくれた。


そんな話を聞いて正に地獄にいると思った。

新たな人生においても、やり直す、という行為が出来ないのだ。

この過去の自分が犯した行為を表したような醜い身体となり新たな『赤い肌を持つゴブリン』が現れるまで後悔の日々を過ごして行かなければならないのだ。

恐怖した。


「だが救われる道もある。

過去の話らしいが救われた者もいたそうだ。

それが、どんな救われ方かはわからないがな。」


「わからないって?」


「先代達の中で救われたと言い残した者が少数だが存在するのだ。

だが、そう言った者達が各自違う救われ方だったという話は聞いたが内容まではわからない。

ただ‥‥‥その者達には必ず『転生者』がいた」


転生者、過去の世界の記憶をある程度保持したまま私達と同じように、この世界にやって来た者達。

彼らは私達とは違い『人間』として生を受け、過去に然程の罪など無い者達。


「お前も機会があれば会えるかもしれない。中々会えないがな、現に私は見た事もない。」


「中々会えない?」


この世界ではゴブリンと人間は敵対関係にあり互いに接触を避けているらしい。

それに転生者自体が数も少ないらしい。


「ただ転生者というだけでは意味がないらしい。

それがどういう意味かはわからないがな。」


そんな疑問を残す話を最後に聞いて私の先代は話を閉じた。

これ以上は彼も知らないのだろう。


「ところで名前は?」


「永田真理子」


「そうか、ならば今日より『マリコ』とだけ名乗るが良い。」


寂しそうに言って早速に彼から私への新たな『業の深き者』への教育が始まり、半年後に彼は微笑みを浮かべて死んでいった。

漸く彼は救われたのだろうか。


そして私は『業の深き者』としてゴブリン達『贖罪者』の新たな主になった。


それから10年の月日が流れた頃だった。


子供の私にでもゴブリン達が敬意を払って崇められていた頃に『人間』が現れた。

いや現れたではない。

襲われていたのを発見されたという方が妥当かもしれない。


襲っていたのは私達ゴブリンの天敵とも呼ばれ地獄の番犬とも恐れられるケルベロス。

頭が3つあり体高3M、体長7Mの巨大な犬のような魔獣、モーザと呼ばれる魔物達を支配下に置き、しばしば私達ゴブリンも襲われ被害を被っていた。


連絡を受け直ぐに警備部隊を率いて駆けつけると、その人間は既にケルベロスに右脚を食い千切られ残した左脚も噛み付かれ食い千切られる寸前であった。


「弓隊、ケルベロスに向け放て!人間には当てるな!」


私の命令の元、一斉斉射が始まりケルベロスには然程のダメージを与えられぬまでも人間を救い出すことには成功した。


ケルベロスは私達にも牙を向けようとしてきたが赤い肌の私がいる事を確認すると何故か場から離れていった。


兎に角、人間は救い出せたのだ。

しかし人間には左脚も無くなっていた。


それから人間は10日間意識不明となり生死を彷徨ったが生命力が強かったのだろう、生き延びた。


しかし両脚が無くなったのだ。

正気は保てまい、そう思ったが笑い出したのだ。


残念ながら転生者ではなく念話も使えなかったが、それでも礼のつもりなのか私に剣を一本渡してきた。


剣身には何やら彫ってあったが残念ながらゴブリンである私には意味がわからなかったが、それを指刺し次に自分の顔を指刺した。

自分の名前、自分が作った剣と言いたいのだろうと想像出来た。


礼のつもりで剣を受け取り頭を下げるとニコッと笑った。


その顔はどこか過去の自分が愛した人である勇人に似通ったところがある事に私は嬉しさと恐怖に包まれた。


そして私と彼は10年間一緒に暮らしている。

言葉の通じぬ彼との生活だが、何を求めているのか?何がしたいのか?何と無くだが理解出来るようになっていた。


だが、そんな事が私を苦しめる。


彼は人間であり私はゴブリン。


彼は人間達の中で生きるべきであり、それを叶えてやりたいと思う半面で別れたくはない!という葛藤が私を包む。


勇人に似た笑顔を離したくはないのだ。


彼には待っている人間がいるのだろう。

時折、私に気付かれぬように西の方を見て思いに耽ている時がある。

悲しそうな目で。


両脚が無い事を言い訳に私は彼を離せない。

ゴブリン達は私が憐れみから彼の面倒を観ていると思っているが、違う。


私は彼に慰められているのだ。


『業の深き者』としての宿命と罪から少しでも誤魔化されるように。


そんな葛藤が10年過ぎた時、彼らが現れた。


転生者、私を救ってくれるかもしれない転生者が現れた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ