親友 (閑話)
「さあ決勝は早宮静流vs佐藤巧也との一戦が始まりました。早宮選手の初優勝となるか!?惜しくも佐藤選手の3連覇と無敗の記録を許してしまうのか!?見所であります!」
ここは、とある世界の、とある日本の、とある東京の、とある武道館にて全国大学剣道選手権の真っ最中である。
「小・中・高時代と決勝では必ず顔を合わせる2人ではありますが、いずれも惜しくも佐藤選手の勝利に終わり早宮選手の苦敗に終わっております。今度こそは早宮選手の勝利となりますか?それとも残念な結果に終わりますか!?」
そんな明らかに早宮を贔屓したような解説をする男の言葉など無視するように2人が礼をし向かい合った。
基本的な正眼の構えを見せる早宮に対し、佐藤の右手に握る通常の竹刀と左手の小太刀いわゆる二刀流であった。
始め!
そんな審判を務めるオッサンの怒号の元、試合が開始されたが僅か5秒で結果が明らかになった。
『ふん!』早宮は佐藤の叫び声に似た一声の元に右腕一本による面への鬼神如くの強烈なる速度と破壊力を持つ一撃を竹刀で受け止めつつも真っ二つに折られた上に一本を決められたのであった。
早宮が、その一撃だけで半分脳震盪を起こした状態になり俯せに倒れ勝負が着いた。
圧倒的な強さによる佐藤の勝利であった。
会場中に落胆の声と佐藤への罵声が響く中、何とか脳震盪から脱した早宮と佐藤が礼をし試合が終わり専門雑誌や新聞の記者達が早宮に殺到しインタビューを始める為に取り囲んだ。
対して優勝者の佐藤には全く記者など寄り付かず寂しく控室に帰るだけである。
惜しかったですね!早宮選手。
次の試合に期待していますよ、早宮選手!
そんな激励を受けながら早宮は常に勝利者である佐藤を持ち上げるような答えをするが次の朝の記事は決まってこうだった。
『早宮選手、惜しくも準優勝。』
『早宮選手、次の試合を念頭に再び修行の日々へ!』
などなど早宮の答えなど関係無かった様に、彼をスター扱いをする記事ばかりが躍ったのだった。
それには理由があった。
普通なら優勝者であり無敗である佐藤を記事にするはずなのだが彼はブサイク過ぎ、そして身寄りのいない孤児だった。
デカい顔に出っ張った額、20歳そこそこなのに頭は若禿だが濃い体毛、重苦しい単瞼に二重顎、そして異様に太い眉と唇、更には短足の筋肉質な樽のような体型。
とてもヒーロー扱いには出来なかったのだ。
対して早宮は家柄も良く生まれ持った整った小さな顔の二重瞼に中性的な雰囲気と流れるような甘い声、長い脚、更に剣道の修行に一生懸命なあまり散髪に行けなかったのに何故か似合う長髪などが加味され、正しくイケメンであった。
それに早宮は性格も良く剣道では佐藤に負けてはいるが他の者には負けた事が無く、佐藤の一撃に反応出来るのも彼だけであった。
実際、他の者なら何も出来ずに負けてしまうのだ、早宮のように竹刀を折れる事も無く。
そんな全く違う2人は剣道ではライバルであり大学も違うが親友であった。
佐藤が通う大学はムサ苦しい汗だくの男ばかりが通う自分の名前さえ漢字で書ければ入学できる脳筋の体育大学であった、剣道が強いからの特待生での入学であった。
早宮は日本のトップいわゆる官僚などを輩出する、とある東京にある旧帝国大学であった。
早宮は頭の中身もイケメンであったのだ。
「また負けたよ、佐藤!君は本当に強いな!」
「ああ・・・・」
「今回も賭けは僕の負けだから、ここの支払いは僕がするよ!この後の銭湯代も僕が払うよ!それからアメリカの映画もやっているから観に行こう!」
「ああ・・・・」
そうして賭けの代償となった裏路地の屋台のラーメン屋の支払いを早宮が済ませ2人行き慣れた道を下駄の音を響かせ歩いて銭湯に向かう。
カランコロン~・・・・・・早宮の下駄の音が綺麗に響く。
下駄の音までイケメンであった。
だが、それに対し佐藤は早宮に妬みや嫉妬などの感情など全くなかった。
ライバルとかと言われ記事では常に自分は悪役のような書かれ方をしており試合会場を出た時には早宮のファンであろう女の子達から仇のように生卵を投げつけられる事もあった。
そんな事にも怒ったような様子も見せなかった。
何故なら嬉しかったのだ。
佐藤自身が早宮のファンなのだから。
早宮は佐藤の事を親友という感情を持っていたが佐藤は違った。
愛していたのだ。
生物学上『男』であり許されるはずもないが、それでも感情は抑えきれなかった。
性的な意味ではない!
抱きたいとか犯してやりたいとか、そういうのではない!
単に試合で剣を交え、そしてラーメン屋で供に麵を啜り会話する、更に銭湯に行って裸の付き合いが出来れば、それだけで満足だった。
銭湯で気の良い早宮が『おい佐藤、背中を向けろ!洗ってやるよ!』なんて言われたら、それだけで明日死んでも良いと思えるくらい愛していたのだ。
だから剣道も真剣だった、本当は剣道なんて大嫌いだった。
だが、もし早宮に負けでもすれば彼から自分への興味が失われ相手にして貰えないのではないのだろうか!?
そんな恐怖が常に佐藤を襲っていたのだ。
勿論、早宮がそんな人間ではないと知りつつもだ。
「なぁ女子の方の結果を聞いたか?」
銭湯で2人湯船に浸かりながら早宮が女の話をして来た瞬間だけ嫉妬心に揺れる佐藤だったが何食わぬ顔をして答えた。
「今回は田中希枝が勝ったんだろう、かなりの接戦だったらしいけどな。」
同齢の女子剣士でライバルと呼ばれる山下花子と田中希枝。
自分達のように常に決勝で顔を合わせライバルと呼ばれる2人だ。
だが同じ様だから佐藤は気が付いていた、試合を見ても狂ったように殺気立ち殺し合いをしている事を。
竹刀だから互いに死なないだけなのだ。
何故誰も2人がキチ〇イである事を気が付かないのか不思議だった。
「その前は山下の勝ちだったから、これ五分に戻した格好だな。」
そんな佐藤にとってはどうでも良い話を真剣に語る早宮が聞いて来た。
「彼女達2人が男だったら佐藤は勝てるか?」
そう聞かれた佐藤が考えた。
実際、彼女達とは練習だったが試合をした事があったのだ。
その時は佐藤の体力勝ちという形で勝負は決したが、後にも先にも自分の二刀流を躱しつつ攻撃に転じて来たのは彼女達だけであった。
確かに、彼女達が男だったなら自分は負けぬまでも危なかったかもしれない・・・・・
そう佐藤が思った時だった。
「残念だが彼女達が男なら僕は勝てないな・・・・・いや今やり合っても勝てないだろうな・・・・・・」
そう自身で納得するように早宮が呟くと、猛然と佐藤が否定した。
「そんな事あるか!あいつら如きに早宮が負けるはずないだろう!」
湯の波を勢いよく起こしながら佐藤が自分の体格には似つかわしくない唐辛子のようなモノを晒しながら立ち上がると早宮が微笑みながら答えた。
「ありがとう佐藤、だが僕の剣では佐藤は勿論だけど彼女達にも敵わないよ。それに今日は親友の佐藤には話しておきたい事があるんだ。」
「話しておきたいって?」
「実は僕の剣道は、これで終わりだ。来期の選手権には出ない。」
「何故だ!?」
「これからは家庭に1台の自動車、いや3台や4台だって所有する人だって現れる世の中になっていく。
だから自動車産業界に身を投じようと思うんだ。謂わば就職活動ってやつさ。」
敗戦から立ち上がり大きく様変わりをしていく中で早宮は世の中の流れを読み大学卒業後は自動車産業に身を投じるというのだ。
「そこで佐藤、君のような剣道に対して真剣に取り組む者に対して失礼かもしれないが卒業後の趣味としての剣道になるけど僕に付き合って貰えたらと思ってね。」
突然の早宮の発言に気を失いそうになったが、形は変わっても付き合いは残るのだ。
大学選手権などどうでも良い佐藤にとっては救いの言葉だった。
「勿論だ!俺達は親友じゃないか!」
本当は早宮を愛していると言いたい佐藤だったが感情を押し殺し精一杯に答えると早宮は笑顔を浮かべながら次には佐藤にとって地獄に突き落とすような言葉を言ったのだ。
「それと・・・・・・ちょっと佐藤に報告が・・・・・」
「なんだ早宮!何でも言ってくれ!」
「実は鈴木美和の事なんだけど・・・・・・」
鈴木美和・・・・・早宮と同じ大学に通う同齢の女だ。
山下花子と田中希枝に常に負け続け、佐藤から見ても才能に恵まれているのにキチ〇イ2人のおかげで剣道では不遇と言って良い女の名前だった。
それに性格も良く野獣のような容姿の自分にも会えば笑顔で話し掛けてくれる、女に興味がなくても好感の持てる女だ。
「鈴木美和がどうしたんだ?」
「いや・・・・・彼女と約束したんだ。
卒業して生活が落ち着いたら結婚しようってね。親友の佐藤には誰よりも先に伝えておきたかったんだ。」
佐藤にとって、いつかは来ると思っていた恐怖の言葉だった。
「・・・・・・結婚するのか!?」
「ずっと付き合っていたんだ!」
自分は男である。
愛している早宮が親友だと思ってくれている自分に真っ先に報告してくれたのだ。
愛する早宮を自分の感情如きで惑わしてはならないのだ!
「おめでとう!早宮!鈴木なら申し分ないじゃないか!」
「ありがとう佐藤!君なら祝ってくれると思ったよ!」
本当は悲しかった・・・・・だが自分は男なのだ。
気持ちを押し殺す以外ないのだ・・・・・・。
それから2人は映画館でアメリカ映画を観たが、佐藤の頭には内容など全く入って来るはずなどなかった。
ただアメリカ女優が着ていた異様に短いスカートだけが何故か印象に残った。
「あの映画の中の女優のスカート、これから女の子達の間で流行りそうだな!」
笑顔で言ってきた早宮に鈴木に買ってやれと本心ではない言葉を言って2人は帰途に着いた。
本心は早宮が着れば似合うのにと思いながらである。
そして布団の中で佐藤は泣くだけ泣いた。
そんな悲しい出来事から半年が過ぎた頃だった。
佐藤が、やる気は全く無いが剣道部である以上練習参加はせねばならず飽き飽きしながら練習していた時だった。
剣道部の1人の部員が奇妙な噂を聞いて来たのだ。
早宮静流が極道達と揉め事を起こした!
「どういう事だ!?」
異常に迫力のある顔を浮かべ聞いて来た部員の胸倉を掴み上げながら佐藤が聞くと部員は恐怖に怯えながら話した。
2人のチンピラが1人の女を殴ったり蹴ったりしていた時に偶々通りかかった早宮が助けたらしいのだ。
殴ったりなど反撃はしなかったらしく足捌きだけで躱し続ける早宮にチンピラ達は手も足も出ずあしらわれたのだが、それを恨みに思い組に恥を掻かされたという事で狙っているらしいのだ。
「かなり危ないらしいです、そいつ等武闘派の組の極道だったらしくて・・・・・・」
「・・・・・・そうか。」
決断は即だった。
一応、適当にあったチラシ2枚の裏に『たいがくとどけ』と『たいぶとどけ』を汚い字で書くと練習用の鉄筋入りの木刀2本を持ち武闘派極道の組に向かって駆け出した。
「おい腐れチンピラ共、早宮を狙っているらしいな!?」
組の前に着くと勢いよく少し豪華な木製の玄関扉を蹴り破り怒鳴り声を上げながら入っていった。
中には50人程の凶暴そうなチンピラ共が屯していた。
「なんだ!?お前、早宮の知り合いか?」
親分らしき男の言葉に一瞬だけ言葉を飲んだが再び怒鳴り声上げながら答えた。
「親友だ!」
「だったら早宮の代わりに落とし前を付けるのか!?あの野郎、組の代紋に泥塗りやがった。落とし前は早宮の女にでも付けて貰おうか!」
自分達では勝てそうにない早宮には手は出さず、代わりに鈴木美和を狙ってるのだ。
「落とし前か・・・・・だったら俺が付けてやる・・・・・」
「ほう、いくら払うんだ?」
「お前ら全員皆殺しだ!それが落とし前だ!」
「なんだと、やってみろや!」
50人の武闘派極道全員が一斉にドス(小刀)や長ドス(刀)を抜いた!
そして佐藤と50人の武闘派極道の戦いが始まり地獄絵図が展開されたのだ。
愛する早宮を守る為、野獣と化した佐藤の前には50人の武闘派極道など少なすぎたのだ。
ある者は脳漿を撒き散らしながら頭を割られ、ある者は突きにより咽喉を潰され、ある者は脇腹を5本潰されて血を吐きながら死んでいったのだ。
「ば、化け物だ!」
正に化け物であった。
愛する早宮、そして早宮を幸せするであろう鈴木美和を守る為に佐藤は化け物に化して殺戮を開始したのだ。
49人を殺し血塗れの佐藤の胸を轟音が響くのと同時に何かが貫いた。
「化け物が死にやがれ!」
コルトガバメント(オートマチック型拳銃 装弾数8発)を佐藤に向け発砲したのだ。
「ふん!そんな物まで持っていたのか!」
次々と佐藤に向け発砲され体の各部が被弾していくが平気な顔をして立っている。
「お前・・・・・本当に化け物か・・・・・・」
「チンピラに俺の悲しい想いなんて分かるまい・・・・・」
発砲していた親分が佐藤に頭を叩き割られ死んだ。
これで早宮は大丈夫だ、そう思った瞬間に血を吐いた。
俺は死ぬのか、まあ死んでも悲しむ奴なんて誰もいないけどな・・・・・早宮は悲しんでくれるかな!?
早宮愛してる・・・・・もう一度だけ会いたかった・・・・・幸せにな。
そして佐藤巧也は死んだ。
だが、死んだはずの佐藤におかしな事が起こったのだ。
何故か暗闇の中にいて奇妙な言葉らしきものが聞こえてくるのだ。
もしかして俺は生きていたのか!?
だが身体が動かない・・・・・
そんな状態が1年過ぎた時、馬鹿の佐藤でも事情が理解できたのだ。
佐藤巧也は生まれ変わっていたのだ。
どうやら、どこか外国の古い時代の洋風の国の人間しかも赤ん坊だ。
目が見え始めると豪華な衣装を着た金髪で巨乳の母親らしき美しい女が自分の事を『グレン』と呼んで微笑み、傍らには父親らしきイケメンが同じく自分を『グレン』と呼び優しく微笑んでいた。
然も2人の周りには数十人の男女が佳しづいており、それだけで上級の貴族の家だと理解出来た。
そして、この世界が日本ではなく別の異世界であり自分はグレーデン王国騎士の家柄『ヴァレンタイン』の長男として名を『グレン・ヴァレンタイン』と生まれ変わり転生していたのだった。
それから成長し、やはり美女とイケメンの母父の間に生まれたからなのか佐藤拓也いやグレン・ヴァレンタイン自身もイケメンに成長し宮廷の美女達からはモテる存在になった。
イケメンというだけではない。
前の世界の剣道そして自身の二刀流を駆使し戦場に出れば大活躍しソビリニア諸国連合との戦においては鬼神のような活躍を見せ、気が付けば『剣聖グレン・ヴァレンタイン』と他国からも称賛される身になっていたのだった。
これは『剣聖グレン・ヴァレンタイン』そして前の世界の佐藤巧也は知らなかった事だが、この世界にいるコソベの前身、クズ達がトラックに轢かれ死んだ際に願った理想像と彼はなっていたのだが、おかしな事があった。
『剣聖グレン・ヴァレンタイン』の前の世界での佐藤巧也としての記憶が全く消去されていなかったのだ。
要は彼自身が求める充実感がなかったのだ。
もし出来るなら、もう一度だけ早宮静流に会いたい・・・・・・
転生して別世界となった日本にいる早宮静流に会う事など不可能であった。
会える訳ないよな・・・・・。
そんな想いを抱えながら『剣聖グレン・ヴァレンタイン』と賞賛されても無意味な事であったのだ。
そして彼が60歳になった時だった。
だが、その早宮静流が目の前に現れたのだ。
正確には早宮静流に瓜二つの男の子である。
名をフェリオ・リード、この世界で自分の本当の意味での親友になった男ワッツ・リードの孫であった。
聞けば鍛冶修行の一環として剣術を習いたいらしい。
教えるのは構わず何より早宮静流ではないが瓜二つなのだ。
断る理由は無いが早宮静流とは違い何処か性格が暗い、全く笑わないのだ。
「どうしてフェリオは暗い顔をするのだ?」
理由を聞いてみると母親であるワッツ・リードの娘ナタシャー・リードに強制され来たらしいのだ。
「私には夢がありました。でも母が・・・・・」
要は夢が叶えられないというのだ。
「ならば剣術修行が終わり次第、母ナタシャー・リードに話すが良い。取りあえずは私の元で修業をしろ。
剣術は覚えておけば損はない!」
こう言ってフェリオを納得させ寝食を共にする修行が開始された。
教えてみると才能まで早宮静流とよく似たところがあった。
頭の機転が利き臨機応変に対応でき、そして器用であった。
更には剣を通して自分と接していると何故か段々と笑うようになり慕って来るようになった。
自分が教える剣術が気に入ったようで真剣に取り組むようになった。
まるで早宮静流だ・・・・・もしかして早宮は自分と同じように転生して来たのかもしれない。
そう思えるほど似ていた。
それから、ある程度基本的な剣術が形になり二刀流の極意を教えようとした頃だった。
突然、母親であるナタシャー・リードから手紙が来たのだ。
そろそろ帰って来て鍛冶屋の修業をしろ!という内容だった。
「あの野郎・・・・・ふざけやがって・・・・・今度は俺から師の剣術まで奪うつもりか!」
怒れるフェリオを宥めながら話そうとした時、突然フェリオが飛び出して着替えて帰って来た。
それを観た瞬間、顔から火が出るかと思う程焦ったのだ。
フェリオはグレン・ヴァレンタインが隠し持ち彼が着れば似合うと思っていた前の世界で観たアメリカ映画の女優が着ていたのと似たミニスカートのワンピースを着て帰って来たのだ。
「お、お、お、お前どうしてそれを・・・・・・!?」
「師よ、このワンピースは恐らくは師の想い人である女性の服だと思います。
偶に寝言で呟く『ハヤミヤ』なる名前の方でしょう!そして私と『ハヤミヤ』なる女性が似ているのでは?
時折私に向ける師の優し気な目が語っておりました。
これより私を、その『ハヤミヤ』さんと思い接して下さい!
フェリオ・リードから私も変わりたいのです!」
『ハヤミヤ』を女性だと思っているのが、せめてもの救いであった・・・・・・
だが、この瞬間だった。
前の世界の記憶がグレン・ヴァレンタインから消去されたのだ。
ミニスカートのワンピースを着たフェリオ・リードを見て充実感いや早宮静流に会えたと感じたのだ。
そしてフェリオ・リードはフェリス・リードになった。
更に比例してか二刀流を修得していくフェリス・リードと接するだけでグレン・ヴァレンタインは大満足であった。
しかし、この幸せは長くは続かなかった。
さしものの『剣聖グレン・ヴァレンタイン』も年齢的な体力低下と病には勝てなかったのだ。
「フェリスよ・・・・・これを授けておく。我が友でありフェリスの祖父ワッツ・リードの最高傑作ブーリァ(レイピア:ソビリニアの言葉で『大嵐』)とウラガーン(サクス:ソビリニアの言葉で『一陣の風』)、我が愛剣だ。
フェリスよ、お前の望むように生きろ!そして礼を言う。
フェリスのおかげで私の人生は華やかだった。」
『剣聖グレン・ヴァレンタイン』が死んだ。
フェリス・リードがバイエモ島3部族との戦いで殿を務め称賛される2ヵ月前の出来事であった。
※ ※ ※
『剣聖グレン・ヴァレンタイン』は、どこか白く広い空間に1人いた。
どこだ、ここは?
いや前に来た事がある!
「佐藤さんの願いは叶いましたか?」
何やら男2人が立っている、その内の1人は前にも会っている。
そうだ・・・・・前に死んだ時にも、ここに来た!
「思い出して頂けましたか?私は前に御逢いしましたね『有能人間適所派遣事業』の者です、こっちは『通常人間精製処理事業』の者です。」
そうだ思い出した。
チンピラ達を皆殺しにして死んだ後、ここに来て、この目の前の男から礼を言われたのだ。
「私達の恩人を救ってくれてありがとう!」
「恩人って・・・・・誰?」
「貴方が助けた早宮静流さんの未来の奥様である鈴木美和さんですよ、私達は彼女に助けられましてね。
その恩人を貴方が結果的に助けたのだから恩返しをしないと我々『有能人間適所派遣事業』の面子にも関わりますからね!何か願いがあれば生き返らせろ以外はお聞きしますよ!」
「じゃあ早宮静流に、もう一度だけ会わせてくれ。」
「分かりました、いつになるかはお約束できませんが叶えますよ!」
そんな事を話して俺はグレン・ヴァレンタインに転生したのだ。
「あのフェリオ・リードは早宮静流の生まれ変わった姿です。貴方が死んでから彼は鈴木美和と幸せに暮らし超一流自動車会社の社長までなり親孝行で文武両道の超イケメン息子2人に超美人な娘1人、孫が8人に曾孫が17人得て91歳で数多くの人々に見送られ生涯を閉じる事になりました。」
「そうか・・・・・それは良かった!それにフェリスは早宮だったのか!」
「ええ、彼に元から早宮静流だった記憶は存在しませんけどね。それに彼の希望でもありましたから、こちらとしてもやりやすかったんですよ。」
「希望って?」
「もう一度、親友の貴方に会って話がしたい!それが彼の希望でした。」
その言葉を聞いただけでグレン・ヴァレンタインいや佐藤巧也は満足だった。
親友・・・・・早宮静流は本当に思っていてくれたのだ。
そしてフェリス・リードに生まれ変わってまで実行してくれたのだ。
「さて、ここからが本題です。こちらにいる『通常人間精製処理事業』も鈴木美和さんには恩を頂きましてね。その恩人である貴方にも何かしてあげたいとの申し出なのですが、どうされます?生き返りたいとかは無しで。」
理由を聞くと、あのキチ〇イ2人が迷惑を掛け鈴木美和が解決したらしい・・・・・
「いや、もう満足だ。何もしてくれなくていい。」
そう言うと暫く『通常人間精製処理事業』の者が考えた後に言ってきた。
「じゃあ悪いようにはしませんから、取り敢えずは眠って待っていてください。」
そう言われた途端に佐藤巧也の意識が飛んだ。
「おい、どうするつもりなんだ?」
「これからの流れ次第になるが報告書によるとフェリス・リードはエンマとかいう娘と結婚しそうだ。
だったら、どうすれば良い?」
「ああ、2人の子供として転生させるのか!」
「まぁ、それが佐藤巧也にとって良いのか判らないが、少なくとも近くに居られるから満足するだろう!少しだけ嗜好を変えて次は女性だけどな!」
だが、この2人は、この時には知らなかったのだ。
後にバイエモ島3部族族長サーガ・バインに子が出来ずフェリスとエンマの間に出来た娘がバイン族の族長となり、そして後にテアラリ島3部族テアナ族族長となった白い髪を持つ娘と両島部族の威信を賭けて戦う事になるとは知らなかった。