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百鬼夜行

薄暗く御世辞にも整理整頓されているとは表現しずらい部屋の中で2人の男が酒を飲んでいる。

彼らの生まれた国の風習なのだろうか椅子やテーブルなどは使わず床に胡坐をかいて座りワイングラスなど洒落たものではなく小さめのサラダボールに似た木製の椀で飲んでいる。


「御師匠、そろそろ本題を宜しいか?」


「待て、今少し飲んでからだ!貴様も飲め!」


「はぁ・・・・」


陸奥神威は困っていた。

出来れば早く『蒼光の剣』についての情報を伝えたいと思うのだが備前紅風は言おうとすれば遮り黙々と酒を煽るだけだった。

実際、情報を聞きたがっている事は感じ取れたが、また聞くのを恐れているようにも見える。


御師匠も随分と変わられた。


彼の知る備前紅風は鍛冶にしか興味の無い人物だった。

ひたすらに、どうすれば如何に殺傷力を向上できるか?如何にすれば多数の戦闘においても刃こぼれはしないのか?人や魔物を殺す為の道具にしか興味が無い人物だった。


それがどうだ、今はそんな備前紅風が包丁などの家庭用道具を作っている。

陸奥神威が尊敬し憧れた鍛冶技術や軽蔑し嘲笑った思考を持った人が殺しの道具ではなく包丁という家庭を守る道具を作っているのだ。

滑稽とは思わない、ただ信じられなかった。


だが現在の備前紅風が槌を振るれば、どのような剣が生まれるのであろうか?

今の備前紅風が槌を打つところを見たいと思った。


そう思った陸奥神威を他所に備前紅風は椀いっぱいのラム酒を一気に飲み干すと、やっと聞いてきた。


「待たせたな、教えてくれるか」


「では、単刀直入に申し上げます。あの剣は現在ウルバルト帝国の所有となっております!」


「そうか確か蒼光も死ぬ間際に盗賊に強奪されたと言っておったし蒼光が死んだ場所もウルバルト帝国領内だからな!」


「ですが御師匠!私が聞いた話ではどうも奇怪なことになっておりましてな!」


「なんだ奇怪とは?」


「まず最初にあの剣を手に入れたのがウルバルト帝国第3位帝位後継者テムルンだったらしいのですが、彼女が腰に帯びた時期くらいから、彼女以外の候補者達が不可解な死を遂げるようになり嫌疑を掛けれたテムルンは失脚し幽閉されたそうです。そして2年前に皇帝より新たな第1位帝位後継者が指名されたのですが告示が終わった瞬間に皇帝が倒れ死亡、テムルンも幽閉先で病死。現在は、その後継者が皇帝の地位にあるそうです。」


「そんなのは偶々だろうが、それで肝心の蒼光の剣は誰が持っているのだ?」


「ですから御師匠、その後継者である現在のウルバルト帝国の皇帝ハタンが持っています!」


「その皇帝ハタンとは如何なる人物なのだ?」


「まだ4歳の子供です」


「そうか、まだ4歳の子供か、そのような幼帝では大変であろうな」


「そこからなのですが、当然ながら幼帝である以上は暗殺もしくは皇帝の地位簒奪を狙う者達も出ますが、そのような輩は幼帝を狙う前に奇怪な死を遂げ現在では忠誠を誓う者達しかいないらしく、まるで蒼光の剣が幼帝を皇帝の地位に押し上げ守っているかのようだとウルバルト帝国でも噂になっているとか!」


押し上げた?守る?備前紅風は、その言葉を聞いて蒼光の夢の話を想い出した。

『きっと自分が手にするから・・・・・』と夢で白銀色の髪の女の子が言ったとの蒼光の言葉を想い出した。


「神威よ、ちと尋ねるが、その幼帝は髪の色は何色だ?」


「私も見たわけではないのですが噂では見事な白銀とか!」


白銀・・・・・蒼光の夢は正夢だったのか。

備前紅風は後継者たちの死も皇帝の死も蒼光の剣を早く手に入れる為に白銀の髪の幼帝が仕組んだことではないかと思った。

まさか4歳の幼帝が出来るはずはない!幼帝を守る者がいて、その者がやったのだろうか・・・・・


「その幼帝を守護するような勢力はウルバルト帝国にはどのくらいいるのだ?」


「それは私も詳しい事は判りません、ただウルバルト帝国の摂政を務める者がいて全てを仕切っているとか!」


「摂政がいるのか、幼帝だから当然だな」


「いやいや、その摂政も現在8歳の男の子で幼帝の兄にあたるとか!」


「なに8歳だと、ウルバルト帝国はどうなっておるのだ??何故そのような事態になっているのだ?4歳の皇帝と8歳の摂政だと!それで国が保たれるのか?」


「それが寧ろ先帝よりも国が栄えているとか!」


やはり蒼光の剣が関係しているのだろうか、いや幾ら優れた剣でも所詮は剣ではないか!

剣にそのような力があるはずは無い、だがウルバルト帝国の内情は仕組まれたように出来過ぎている、不可思議だ・・・・


備前紅風は蒼光の剣が気になるが、寧ろ剣を所有する幼帝の方が気になりだした。

あの剣を手にした白銀髪の幼帝とは如何なる人物であろうか?

会ってみたいと思った。

それに名前が『ハタン』とはウルバルト帝国のとある地方では『女王』を指す意味の言葉ではないか。


ん・・・・・・それにしても、どうして陸奥神威は蒼光の剣を知っているのだ?

あの弟子たちが惨殺された場に陸奥神威はいなかったはずでは・・・・・


「ところで神威よ、どうして蒼光の剣を知っているのだ?厳馬からでも聞いたのか?」


陸奥神威はニコニコしながら語りだしたが内容はニコニコ出来るような話ではなかった。


「いやいや実は嘉威国あたりを旅していた時に生前の蒼光殿に突然斬り掛かられましてな、私の作った刀で戦ったのですがあっさりと折られて死に物狂いで逃げたのです。ですが私も鍛冶屋の端くれ!蒼光殿の剣『百鬼夜行』が気になり調べておった次第です!」


「なんだと、あの剣は百鬼夜行というのか?」


「はい、受けた時に蒼光殿の銘と剣名を確認したゆえに」


悪魔に魅入られた天才:備前蒼光がヤハタノオロチの牙と魔物たちの血で作り上げた剣には相応しい名だと思った。


「ところで御師匠、私も蒼光殿の百鬼夜行に感銘を受け一振り打ってみました、御検分頂けませんか?」


そう言うと布袋に入れられた一振りの剣を取り出した。


「我が一念を込め打ち上げた剣にて名を『鳳翼』としました、これは素材に・・・・・」


「もういい、語らずとも解っておる!優雅で素晴らしい剣だ!」


百鬼夜行を見た時は自分は絶望しか感じなかったが鳳翼は何故か生命という息吹を感じさせた。

全く真逆の剣だ。

もしかしたら、かっての師匠が言われた『活人剣』とは、このような剣を指しているのかもしれない。

だが一つだけ気に入らなかった。

刃背の部分に孔雀であろうか彫刻まで施してある。

自分の剣に対する美学からすれば、こんな彫刻など無用だ!

だが神に愛されている陸奥神威が彫刻したのなら何かしらの願いを込めて入れたのだろう。

それで納得する事にした。


「このような素晴らしい剣なら、さど良い値が付くであろうな!」


「いやいや御師匠、鳳翼は売り物ではございません」


「ほう、では自分が帯びるのか?」


「いやいや、実は蒼光殿の真似ではないのですが最近夢を見ましてな!美しい燃えるような赤髪の女性がこれまた真紅の甲冑に身を包み鳳翼を携えて私に言うのです!」


蒼光の経験から夢だとは割り切れなかったので備前紅風は更に聞いてみる事にした。


「何と言ったのだ?」


「近々、鳳翼を貰いに行くから持ってこいと!」


「随分と偉そうな物言いだな」


「でしょう、ですが私が聞くのですよ、貴女は誰ですかと!」


「ほう、それで?」


「直ぐにお前には解る!とだけ言って夢から覚めました!」


「そうか、直ぐに解るか・・・・・」


素晴らしい剣は主を選ぶのか、それとも剣が主に導かれるのか?

それとも互いに引き寄せ合うのか?


羨ましい話だ、自分にはそのような夢を見た事がないのだから。

しかし近々とは何時の事だろうか?


だが、そんな備前紅風の気鬱は次の日に無くなった。


頼まれて適当に作った剣擬きの礼と弟子であるアベルが怪我により休む事になったと伝えに来たメリッサを見て鳳翼を差出し必死に土下座し懇願する陸奥神威を見たからだ。


メリッサに対して剣士の気風を感じた事が間違いなかったと改めて思った。

そして、この少女は一体何者なのだという疑問が新たに備前紅風のなかに渦巻いた。





アドバイスや誤字脱字等があれば助かります。

宜しく御願いします。

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