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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第8部 カルム王国旧領奪還編
116/219

救出

久しぶりに袖を通すジーナスが作った黒と茶色の革のコート。

メリッサとミザリーとの其々の戦いでボロボロにされた二着を元にしてリーゼが一着の革ジャン風に仕立て直してくれて俺の気分は上々である。


「ヒヒーン~、ブルブル~!」


愛馬であるパカロロも俺の気分が分かるのか機嫌が良さそうに尻尾を振っている。

このパカロロは、あのフクセク砦攻略戦で崖下りをして以来、俺の愛馬となり名前の『パカロロ』も亡き父アルの農耕馬で俺達家族を守る為に走り死んでいった馬の名前を頂戴したのだ。

だが、そんな上々な気分も、これからを考えると早々に消滅した。


「さて、どうしたものか‥‥」


1人でアメーリア・カルム救出という難問に挑む訳だが目の前にカルネの街が見えた今も考えが付かない状況だった。


1人で来たのは失敗だったかな‥‥


仲間達は俺が1人で行くと告げた時は心配し特にカミラは一緒に行くと中々承知してくれなかったがラウラの説得で納得してくれた。


そして救出に行く前にラウラと2人の時間を作り色々な話をしルシアニアの旅の話を聞いたりして過ごして送り出してくれた。


「信じている、生きて帰って来いよ!」


そう言われキスをして俺は1人で出て来たのだ。


久しぶりにラウラと交わした言葉とキスに喜びは隠せずニコニコ顔で出発したが、今はカルネの街を見た瞬間から戸惑い顔である。


まずは、どうやって警戒が厳しいと予想されるカルネの街に入るかだ。


一応、皮肉にもスチュワードの好意で今の俺はイグナイト帝国民という身分確認証を持ってはいるが、果たしてイグナイト帝国と手切れとなったアニータらのカルネの街で使用出来るのか不安になった。


これを使って逆に怪しまれないか⁉︎


闇に紛れて侵入する方が得策か⁉︎


どうするか考えが纏まらない‥‥‥


一日だけ潜入を辞めパカロロを近くの森に隠し、どういう人達が疑いを持たれずに普通に街に入って行くかを隠れて眺める事にした。


やはり警戒は厳しく色々とチェックされているらしく手荷物検査や尋問などをされていると伺い知れた。


やはり闇に紛れて侵入するか⁉︎


そう考えた時、カルネの街に向かい歩いて来る3人組が見えた、然も見た事のある奴らだった。

彼らも俺に気が付き話し掛けてきて誰だか判った。


あのテアラリ島のハロルドの街であった『コント』とかいうのしている3人組だったのだ。

偶々『コント』とかいうのをする為にカルネを選びやって来たらしい。

しかし豪く派手な煌びやかな格好になっているのが気になった、テアラリ島では『コソベ』そのままの格好だったのに・・・・


「あれ〜何やっているんですか?アベルさん。」


テアラリ島から帰って来る航海の中で彼らとは親しくなっていた事もあり信用し話すと自分達に全てを任せろと苦も無く言う。


悩んでいても仕方ないので彼らに任せ言われたとおりにしてみる事にした。


4人で打ち合わせをし兵士達が警戒する門の前に行くと、やはり停められた。


「何用でカルネの街に来た?お前ら3人はエルハランの身分確認証だが、こいつはイグナイト帝国の身分確認証じゃないか?どういう事だ?」


「実は俺らの付き人兼メンバーとしてテアラリ島で、こいつを雇ったんですよ。」


「付き人って、お前ら何者だ?」


「『コント』っていう面白い劇をやって旅している者です。」


「『コント』⁉︎それは何だ?」


兵士達が集まって来て疑いの目を向けられる中で俺達の『コント』が始まった。

ちなみに俺は二刀を抜き斬り掛かる振りをして厚紙を折り作った扇子のような物で3人組からひたすら殴られるだけの役である。

俺が顔面や後頭部を叩かれ、パーン!と勢いのある景気の良い音がする中を奇妙な叫び声を上げ逃げ回りながら叩く3人組に兵士達も腹を抱えて笑い出し、何時上演するのかなどを聞かれ潜入に成功したのだった。

俺には何が面白いのかさっぱりと理解出来なかったのだが。


「ありがとう、無事に潜入出来たよ!」


「でもアベルさん、潜入は成功したけど問題が‥‥‥」


「問題って?」


「アベルさんも、この街では『コント』に出演して貰わないと。」


そうなのだ‥‥‥『コント』をするのは4人組とカルネの街では認知されてしまったのだ‥‥


仕方なく彼らと同じ宿屋に宿泊し、次の日から俺は『コント』とかいうに出演する事にした。


再び俺は、ただ殴られるだけの役である。

俺が怒る演技をして3人組は逃げ回り隙を見て俺の後頭部を奇声を上げながら殴るだけなのだがカルネの街の人々は笑いに飢えていたのか大勢が押し寄せ大盛況を見せたのだ。


無動作に置かれたバケツには重税を掛けられ苦しい生活を呈しているはずなのに何故か金が一杯になった。


それから気が付いて10日後、知らぬ間に俺達はカルネの街の最高級の宿屋にいて外には多数の女の子達が押し寄せ自分で描いたであろう、あれは俺の似顔絵か!?というような団扇を持った女の子達が宿屋の窓に向かい手を振っていた・・・・・。


「なんだ・・・・・あれは!?」


「アッ君のファンの女の子達っすよ!」


「アッ君って誰!?もしかして俺!?」


「アッ君も気に入った『ナオン(女)』が居れば、お好きにどうぞ!」


「『ナオン』って何!?」


そう言った3人組は其々がファンと呼ばれる女の子達『ナオン』3人の肩を抱きながら自分達の部屋に昼間なのに最高級のラム酒を片手に白いガウンを着て入っていった・・・・・


全く訳が分からない・・・・・


だが俺の目的はアメーリア・カルム救出である。


こんな事をしている場合ではないのだ!


合間をみて昼間に調べたクリスチャン・セルピコの屋敷に深夜に潜入しようと準備していると3人組が無駄な事をしなくても良いと言ってきた。


「お前等と違って俺は役目と責任を帯びてカルネの街に潜入してんだ!」


そう俺が怒ると3人組は笑いながら言ってきた。


「アッ君、焦らなくても絶対に向こうから直ぐに呼びに来るから!アッ君もナオンと適当に遊んでいると良いよ!」


そんな事をヘラヘラと笑いながら言う態度にブチ切れそうになったが彼らに頼んだのは俺である。

思い直して彼らに従う事にした。


そして4日後・・・・・・使者が来た。


「クリスチャン・セルピコ様が、貴様らの『コント』とかいうのを屋敷で観たいそうだ。

カルム王国女王アニータ・カルム陛下も同席される故、最高の『コント』とかいうのを見せろ!」


何故か、あっさりとクリスチャン・セルピコの屋敷の屋敷に潜入いや招待された・・・・・


「これ・・・・・どういう事!?」


3人組に聞くと各街で『コント』とかいうのをすると必ず毎回女の子達が押し寄せ最終的には貴族の屋敷で『コント』とかいうのを見せろ!と必ず招待されていたらしい。

仕方ないのだ、この世界に『コント』なんて本来は存在しないのだ。

そして普段は女の子達を相手にしなかったらしいが今回は俺がらみと云う事で早急に注目を浴びるように派手に演じていてくれたらしい。


「テアラリ島を出てから随分と美味しい想いをしてたんだな・・・・・」


「いや、それが・・・・・」


これは聞いて可哀想な事をしたと思ったが結局は女の子達が押し寄せても元が恐らくクズなので扱い方が判らず未だ童貞らしい・・・・・俺もラウラ相手にそうだから偉そうには言えないのだが・・・・・。


「さて、これでアベルさんの目的のクリスチャン・セルピコの屋敷には招待された訳ですが、取り敢えずはアメーリア・カルムさんを助け出してくれないと話にもならないので屋敷に入り次第、早急に助け出して下さい。

後の事は俺達に考えがあります!」


ここまで来たら彼らに全てを託すことにした!


「それは任せてくれ!でも救い出した後どうするの?」


「それは後のお楽しみです!」


次の日、クリスチャン・セルピコの使者が高価そうな馬車でやって来て俺達を乗せ案内してくれた。

だが何故かデカい箱をコントの為の道具だと言って載せて貰っていた。

これにアメーリア・カルムを入れて逃がすつもりなのか!?

そんな疑問を抱えたまま馬車はクリスチャン・セルピコの屋敷に着き一室に案内された。


「すみませんけど『コント』の打ち合わせに集中したいので誰も近寄らないで下さい!集中出来なかったら面白くないものになってしまうので!」


3人組は、そう真面目な顔して連れて来てくれた使者を牽制し俺に早く救出に行けと言うのだ!


「失敗しないで下さいよ・・・・・失敗したら俺達も殺されるんですから・・・・・・」


「そういうのは心配しなくていいよ!それよりも逃げる方法だけは頼むぞ!」


そして俺は部屋を出て探す訳だが馬車で入った時、屋敷隣に不釣り合いな小さな平屋の小屋があるのを見て目星をつけていた。

よく想像されるような隠し扉の奥の階段を降りたような地下牢とかも考えていたけど警備する者達が2人ほど出入りしていたから間違いなさそうだ。


人目を忍び足音を立てずに平屋に侵入し階段を降りると監視役であろうか3人の男が牢屋らしき前にいた。


「すみません、警備の人達いますか?」


「誰だ?侵入者か?」


俺が3人の前に堂々と出て声を掛けると焦ったように当然の反応が返って来た。


「いえアニータ・カルム様とクリスチャン・セルピコ様にアメーリア・カルムを今直ぐ殺して来いって言われて来たんですけど、牢屋から出して貰って良いですか?」


「え・・・・そんな命令聞いていないけど・・・・・」


「なんか『コント』とかいうのをやる奴らに嗜好返しの余興で殺すらしいですよ!」


「それ本当か?」


「ええ、そう言われて来たんですけど、心配なら確認して貰っても良いですよ!」


「ちょっと待ってろ、一応聞いて来る!」


そう言って確認に行こうとした1人を速攻で袈裟斬りで殺してやった。


「ごめん間違えた、殺すのはお前等だった!」


「こいつ・・・・クセ者・・・・・」


叫ぼうとした2人を二刀で喉笛を狙って殺し1人が持っていた鍵を奪い牢屋を空けると髪が伸び薄汚れた女が1人寝ていた。


「アメーリア・カルム様ですか?」


「誰ですか?私を殺しに来たのか?」


どうやらアメーリア・カルムに間違いなさそうだ。


「私はアベル・ストークス。アルベルタ様に仕える者です、助けに来ました!」


そう言って殺した1人をアメーリアの代わりに牢に寝かせ2人は隠し、長い牢屋生活で痩せ細り足の萎えたアメーリアを背負い再び3人組の待つ部屋に人目を忍び戻った。


「おい速攻で逃げるぞ!準備は出来ているんだろうな?」


俺の焦りの質問に3人組は慌てた様子も見せず持って来ていたデカい箱を開けた。


これにアメーリアを入れて逃げるのかと思っていると、中からは化粧箱とどう見てもボロイ服、コソベが着ていそうな服が出て来た。


「時間がない、アベルさんも手伝って!」


そう言うと3人組はアメーリアに化粧を施し服を着せ小声で何かを伝えるとデカい箱の中に押し込めた。

何をするのか、さっぱり判らない。


そうこうする内に時間になったと俺達を迎えに来た使者が来てアニータ・カルムとクリスチャン・セルピコの待つ部屋へと案内された、勿論アメーリア・カルムが入った箱を持ってである。

アニータ・カルムは肥満した女でクリスチャン・セルピコは嫌味な感じの痩せた男であった。

どちらも性格が悪そうだと、そんな印象を直ぐに感じた。


「では、今日の『コント』を始めます!御題は『ザ・コソベ!』」


そう勢い良く3人組が言うとデカい箱が細工してあったのか突然開き顔全体は白、唇と頬は赤とという奇妙な化粧をしたアメーリアが座った状態で出て来た。


「コソベ!コソベ!コソベ!早く死ねコーソベ!」


3人組は、そう叫び単にアメーリアを囲み周りながら厚紙を折り作った扇子のようなものでアメーリアの頭目掛けて殴り始めたのだ・・・・・


王族に何てことするんだ・・・・・


顔が真青になり呆気に取られる俺にも言ってきた・・・・・


「パーリラ!パリラ!パーリラ!アッ君の良いとこ見てみたい!殴って殴ってコソベの頭を殴ーれ!パーリラ!パリラ!パーリラ!」


覚悟を決め俺も扇子で思いっ切りアメーリアを殴った・・・・・。


だが、そんなアメーリアの正体には気が付かなかったのか芸が気に入り面白かったのか腹を抱えて笑いながら俺達を称賛してくれたのだ、あまり嬉しくないのだが。


アメーリアの頭と顔を殴るだけの芸が30分で終了してもアニータ・カルムもクリスチャン・セルピコも大絶賛であった。


「最高に面白かった!褒美を与える、欲しいものはあるか?」


「では俺達には芸修行の旅に必要な馬車がありません。もし宜しければ馬車を一台頂けませんか?」


「そんな事で良いのか!?」


そう言って馬車を一台貰ったのだった。


そして屋敷を出ると直ぐに言ってきた。


「アベルさん速攻で逃げますよ!」


急いで馬車に乗りカルネの街を出て俺はパカロロに乗り逃げる事にすると暫くして馬車を停め3人組はコソベの格好に着替え出しアメーリアをパカロロに乗る俺の前に乗せた。


「どうした、早く逃げるぞ!」


「ここで馬車を反対方向に放って俺らは歩いて逃げます、アベルさんは自分の軍に急いで向かって下さい!そろそろ、あの馬鹿達もアメーリアさんが逃げた事に気づいて追い掛けてくる頃でしょうから!」


「そうか・・・・・それが良いな。ところで2つ聞きたいんだけど。どうしてアメーリア様の頭を殴る芸なんてやったんだ?それと次はどこに行くんだ?」


そう聞くと、本当は嫌だったが自分達の経験上アニータやクリスチャン・セルピコのようなタイプの人間は『虐め』というものを面白おかしく捉える傾向にあると答え、次はイグナイト帝国の帝都テールズに行くと答えた。


「じゃあこれを渡しておく。俺の友人イグナイト帝国騎士スチュワード・ハミルトンがくれた身分確認証だ。彼を訪ね、それを見せて俺の名前を出せば力になってくれるはずだ。それと助かったよ、ありがとう、この恩は一生忘れないよ!いつかエスポワール帝国にも必ず寄ってくれ!君達はエスポワール帝国の救国の英雄なのだから!」


「なあにアベルさんがケンゲル王国まで船に乗せてくれた借りを返しただけですよ!またいつか会いましょう!」


そう言って3人組は俺達と別方向に歩き出した。


そして俺達も3人組が予測したとおりに馬車を追い掛けるアニータの手の者達を尻目に安全なルートを選択しアルベルタらと合流を果たしただった。


アメーリアと再会を喜ぶアルベルタから褒美をと言われたが辞退し今回の救出の本当の英雄である彼ら3人組の事を話した。


話をするとアルベルタに、どんな芸だったのかやって欲しいと頼まれたので実演してみたが・・・・・


「アベル・・・・申し訳ないが何が面白いのか私には理解出来ないのだが・・・・・」


そう言ったアルベルタと同じくメリッサとリーゼ、スノー・ローゼオ、そしてクオンも面白い理由が判らないといった顔をしたが他の者達は腹を抱えて笑っていた。


あれ・・・・・!?





















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