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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第8部 カルム王国旧領奪還編
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休戦

フェリの街を発しアルベルタらの軍はアニータ・カルムらが王都と定めたカルネの街に進軍を開始し1ヶ月が経った頃だった。


野営していると草むらの暗闇の奥に立つ怪しげなフードマントを被った男に突然声を掛けられた。


「マンティス殿、マンティス殿!」


『マンティス』なんて奴隷剣闘士時代の渾名で呼ぶのは最早ゲイシーくらいだから驚いたが考えると、そんな風に俺を呼ぶとしたら他にはイグナイト帝国の人間だけである。

警戒し正体を探る事にした。


「お前誰だ⁉︎」


「お久しぶりです、マンティス殿!覚えていて頂ければ幸いですがスチュワード・ハミルトンです!」


フードマントを外した顔は確かにスチュワード・ハミルトンであった。

俺は懐かしい人物に再会する事になった。


「スチュワード・ハミルトン、お久しぶりです‥‥‥

って⁉︎こんなところにいたら拙いですよ!」


懐かしさはあるが今は敵である。

しかし友人とは戦いたくはない。


急いで場を離れるように言うがスチュワードは真剣な顔をし俺を訪ねてきたというのだ。


「マンティス殿の御力で私をアルベルタ様に取り次いで貰えないでしょうか?」


彼は現在イグナイト帝国駐留軍に配属されているらしく、今回は外交使者としてアルベルタに謁見を求めてきたのだ。


早速、俺はラシムハを呼びアルベルタにイグナイト帝国からの使者が来たと伝えて貰い、スチュワード・ハミルトンには俺の陣にて待機して貰う事にした。

いくら友人でもイグナイト帝国の人間を直ぐにアルベルタに謁見させるなど危険な事は出来ないからだ。


まずは、どうして俺にアルベルタへの取り次ぎを頼んだかを聞いてみた。


「マンティス殿の武勇を聞きましてね。

イグナイト帝国としても誰を通すか悩んでいた時、ジョージ・ギルバートが討たれたと情報が入り探ってみると敵軍指揮官はマンティス殿ではないですか、それで私が志願し罷り出た次第です。」


「ジョージ・ギルバートって‥‥‥あ!あの肥満の男か!」


「そうです。実に見事な戦いであったとか!」


そうスチュワードは褒め称えてくれるが、同じイグナイト帝国の武人ジョージ・ギルバートの死を悼むような素振りを一切見せなかった。

もしかして、これは偽装工作でアルベルタに謁見すると見せ掛けて暗殺でもする気か⁉︎


そう考えた俺の表情から読んだのかスチュワードがイグナイト側の全ての事情を惜しげもなく話してくれた。


長年の不況によりイグナイト帝国は現在2派に分かれ主張をぶつけ合っているらしい。


一つはスチュワード・ハミルトンの姉ミシェル・ハミルトンを中心に内需を拡大し農地改革や流通システムなどの商業形態の変革で国を救おうとする者達。

もう一つはセシリア・ケンウッドを中心に外征にて国の勢力拡大を狙う者達。


その2派が存在するらしくジョージ・ギルバートはセシリア派の1人であったらしくスチュワードとしても複雑だが特に親しい間柄でもなかったらしい。。


「そんな重要な話を敵側の俺に喋って大丈夫ですか?」


「構いませんよ、いずれ知られるか既に知られているかのどちらかですから!」


「確かに‥‥‥」


「そこでマンティス殿に頼み出た謁見の要件なのですが我等イグナイト帝国駐留軍の安全な撤退と休戦交渉をアルベルタ様と行いたいのです。」


惜しげもなく話し覚悟したスチュワードの顔に正直何とかしてやりたい気持ちにはなったが決めるのはアルベルタである。

そこからは何も聞かないでおこうと思った時、ラシムハが帰って来てアルベルタが会うと判断し俺にも同席するようにと伝えて来た。


俺はゲイシーを呼び同行させる事にした。

本来なら副官のクオンの方が良いのだろうが、この場合なら否応無しにアルベルタの近くに行きたがるゲイシーの方が万が一に備えてのボディーガード役になると思ったからだ。


「ゲイシー・ロドリゲス!貴方もマンティス殿に同行されていたのか!」


スチュワード・ハミルトンはゲイシーを知っていたのか驚きの声を上げ尊敬の眼差しを送っている。


「なんだ僕を知っているのかい⁉︎」


「貴方は30戦以上無敗の『剣闘士殺しの拳闘士』と呼ばれた奴隷剣闘士界の英雄だ、知らぬはずはない!私には憧れの人だ!」


そんなスチュワードにゲイシーも気を良くしたのか、色々と自慢気に話したりしている。


そしてアルベルタの陣内に着き謁見をするが既に重臣達はいて俺の暗殺への懸念など必要無いというように『ヴェルデールの4女神』がアルベルタの脇を固めていた。


「イグナイトの使者殿よ、何用だ?決戦の日時を決めに来たのなら、其の方らの好きな時間を選べば良いぞ!」


アルベルタは誇張したようにスチュワードに言い放つと椅子に深々と座り直し足を組んでリラックスモードを演出した。


お前らイグナイト帝国など怖れてはいない!そんな感じだ。


「いえ御前に罷り出たのはイグナイト帝国駐留軍の安全な撤退とジョージ・ギルバートが人質としたフェリの街の人々の解放の御相談、そしてカルム王国‥‥‥いや失礼しました、エスポワール帝国との休戦交渉にございます。」


「フェリの住民の解放の相談は当然として、安全な撤退とは随分と都合の良い申し出だな。

何故、イグナイト帝国駐留軍の撤退を見逃し休戦を結ばねばならぬ、こちらはイグナイト帝国を踏み潰したくてウズウズしているのに。」


「ただで安全に撤退出来るとは思っていません。

先のカルム王国侵攻の際に奴隷とした全てのカルム王国民の解放を御約束致します。

勿論、これは帰国を希望する者のみですが。」


「ふん、いずれイグナイト帝国本土に侵攻した時に我が手にて解放するがな!」


「我がイグナイト帝国が誇る無敵艦隊を相手にしてもですか?」


この『無敵艦隊』という言葉が出た途端にアルベルタの勢いが止まった。


無敵艦隊、イグナイト帝国が200年前に当時即席に結成されたテアラリ島3部族連合に本土侵攻を簡単に許した教訓から作られた艦隊であり海上における操船技術や戦術、そして戦艦の改良などに力を注いで作られた艦隊であり兵力50000人。


如何に現在のエスポワール帝国が戦さに勢いがあろうとも海上戦となると話は別となる。

島国であるイグナイト帝国本土に侵攻するには、まずこの無敵艦隊を撃破しなけばならないのだ。

かと言って現在のエスポワール帝国に無敵艦隊を打ち破れるほど艦隊は無いのだ、話にもならない。


「なるほど痛いところを突いたな。

良かろう、その条件で休戦を承諾するが使者殿に一つの質問と、もう一つの条件があるが宜しいか?」


「なんなりと。」


「まず質問だ。どうして休戦なのだ?

同盟などを求めて来ない?」


「アルベルタ様が承諾しても、こちらにおられる重臣の方々はイグナイト帝国に相当な恨みを持っていると予想し納得するはずがないからです。

我らもセシリア・ケンウッド達を説得するには『同盟』や『平和条約』などよりも『休戦』の方がやり易いからです。

そして『同盟』にしても『平和条約』にしても、いずれはどちらかから破られるものです。

それなら『休戦』に留め置いた方が互いに良いでしょう。」


そう答えたスチュワードにアルベルタが満足と納得したのか、それとも信用したのか笑顔を見せ次は条件を話した。


「次は条件の追加だ。

イグナイト帝国からのアニータ・カルムへの絶縁を宣言して頂きたい。

これが条件だ。」


アルベルタからの追加の条件を聞いたスチュワードが何故か笑い出し驚くべき内容を話し始めた。


「それなら条件にする必要もありません。

既にアニータ・カルムの方から我らを絶縁して来たのですから。

だから我らは撤退したいのです、あのような馬鹿を庇う理由も無く相手にし続けてもイグナイト帝国が損をするだけです。

これはセシリア・ケンウッド公ですら同意見です。」


俺達の想像を超えた事態にスチュワードは更に笑いながら話した。


元々、イグナイト帝国は正統なカルム王国女王を演出する為に色々とアニータが支配する地域、この場合で言えば北西部の領地の安定を図るように助言をしていたらしい。


だがアニータは言う事を聞かず領地内の民衆狩りや重税、幼児を攫っての奴隷売買などに手を染め、とてもじゃないが任せる事など出来ず早々に完全な北西部の領地確保を目指したらしいが、裏では北方の強国グレーデン王国と誼を通じ牽制して来たのだ。

当初イグナイト帝国としてはアニータをゆっくりと懐柔し、その内に併合などの手段を取り領国経営に乗り出そうと考えていただけに飼ってみた『犬』は抜け目ない狂犬でもあったのだ。


民衆狩りや重税などは知っていたが幼児売買は情報として入っておらず俺達を驚愕させるとスチュワードは更に驚愕の事実を話し始めた。


「アメーリア・カルムが生きておいでです。」


かっての武断派のアイダナ・カルムの娘であるアメーリア・カルムである。


当然の反応としてアメーリア・カルムの死を観た俺としては直ぐに否定した。


「スチュアード、それは嘘だろ!あの時俺は確かにアメーリア・カルムが火の中に消えていくのを見たんだ!」


だが、そんな俺の反論にスチュワードは臆する様子も無く言い返してきた。


「マンティス殿はアメーリア・カルムの顔を御存じだったのか?」


そう言われると何も言えなかった、当時の俺は農家の息子で貴族で王族に連なるアメーリア・カルムの顔など知っているはずも無かったのだ。


「しかし、あの時ヒラリー・ヴェルデールもダレン先生も何も言わなかった・・・・・」


「それは彼らがアメーリア・カルムを庇い守る為に何も言わなかっただけと聞いています、実際そのアメーリア・カルムとして火刑になった者も叫び声も発しなかったはずです。

そして火刑で死んだのは・・・・・・」


スチュワードが答えを言おうとした時、ジュリア・ヴェルオールが押し殺した声で呟いた。


「まさか・・・・・それはフリィップ・カルム様か?」


「御名答!」


そのスチュワードの答えを得てジュリアが話し始めた。


フリィップ・カルムとはアメーリア・カルムの実兄にて、その様装は妹アメーリア・カルムと化粧さえすれば瓜二つであり、そんな本人も女性的な感情の持ち主で女装と化粧を好み武断派の母アイダナ・カルムから忌み嫌われカルム王国の恥と言われた弱々しい人物であったらしい。


「私が聞いた話では妹アメーリア・カルムを守る為に自ら喜んで火刑になったと聞いています。

火刑にあっても最後まで一声も叫び声も発せず亡くなられたとか、尊敬に値する人物です。」


アルベルタが凝視するようにスチュワードを睨み付けるとアメーリア・カルムに聞いた。


「で・・・・・従姉殿は何処においでか?」


「アニータ・カルムを擁する最先鋒のカルネを抑える貴族クリスチャン・セルピコの屋敷の地下牢に幽閉されております。

私が言うのもおかしな話ですが、このまま進軍を続けても必ずアニータ・カルムらはアメーリア・カルムを人質に撤退をエスポワール帝国軍に要求して来るでしょうな!」


アルベルタがエスポワール帝国皇帝として『民を想う新しい皇帝』がいると示す以上、もしここで自分の親族の1人であるアメーリア・カルムを見捨てるような事をすれば民の信用など得られるはずはなく単なる『身内殺し』と誹謗されてもおかしくないのだ。

そしてアメーリア・カルムは母アリダ・カルムが亡くなった時も武断派と文治派の争いを止めようと自らの感情を押し殺しカルム王国を守ろうとした高名な人物として知られているのだ、そのような人物を見捨てれば『エスポワール = 希望』など誰も信じるはずは無いのだ。


アニータ・カルムら北部地方貴族達に軍勢の数で勝っていながら思わぬ事態がエスポワール帝国軍に襲いかかったのだ。


だが、そんな状況で俺は思った。

要は、そのアメーリア・カルムをクリスチャン・セルピコとかいう奴の屋敷の地下牢から救出すれば良いのだ!

そうすればエスポワール帝国軍は遠慮なくアニータ・カルムらを叩き潰せるのだ。


「女帝アルベルタ陛下、私アベル・ストークスに、この一件を御任せして頂けないでしょうか?」


俺が言うと悩んだ顔をしたアルベルタが一変し驚いたように聞いて来た。


「どうするというのですかアベル?」


「アメーリア・カルム様を救出に向かいます、隠密行動なので私1人で行ってきます!」


俺が、そう言うとアルベルタや重臣達は勿論、スチュワードもゲイシーも驚きの顔をした。


何と無く思い付きで言ったけど、これからどうしようかと考えたが・・・・・


どうにかなるだろう!と単純に考えた俺だった、こんなのは悩んでも仕方が無いのだ。

出たとこ勝負である。


そしてエスポワール帝国とイグナイト帝国の一時休戦が成立し、少なくとも余計な死者が両帝国で発生する事態は防げたのだった。



















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