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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第8部 カルム王国旧領奪還編
113/219

奇襲 2

泥を無数に跳ね飛ばしながら1202頭もの馬が怒涛の如く駆ける。


それは勇ましくもあり無謀とも言える行動への挑戦だった。


「よし止まれ!」


先頭を走る俺が合図の意味で右腕を上げると各人が止まった、訓練をしたかいはあったようだ。


「レイシアとカミラ達との合流地点だ、待とう。」


雨に濡れながら単独で偵察に出たレイシアと60人を率い確認と罠の準備する為に出たカミラを待つ事30分、予定より早く2人が帰って来た。


「アベルさん、こちらに向かって12000人の軍勢が向かっている事間違いありません!ここから約20KM付近にいました、進軍中です。」


「アベル、地図にある盆地もアベルが睨んだとおり泥濘だったよ!言われたとおりクレメンテにも協力して貰って細工もして来たよ!」


よし、この先の5KMの地図上の盆地付近は泥濘んでいる。

後は、そこに誘い込むだけだ。


「司令官、用意できました!」


「じゃあ手筈通りにやってくれ、それから危険を感じたら直ぐに逃げろよ!」


「了解しました!」


コソベの格好をした元コソベ達60人が俺の指示を受けイグナイト帝国軍12000人の方向に歩き出した。


俺の奇襲作戦は彼ら元コソベ達60人に全てが掛かっているのだ。



※    ※    ※



イグナイト帝国駐留軍の将の1人、ジョージ・ギルバートは上機嫌であった。

大雨の中、ずぶぬれ状態なのに上機嫌なのだ。

理由があった。

彼は自分で進言し画策した作戦がズバリ適中している最中の真っ只中にいたのだ。


自分の思った通りにカルム王国軍は気を良くして進軍し荷駄隊を置き去りにする失態をし、尚且つ読みとおりに罠に嵌まったと気付き焦り引き返してきたカルム王国軍がフェリの街で自分が残してきた陽動部隊が仕掛けた炎に包まれたのだ、然も陽動部隊は無事に帰還し嬉しい報告までしてくれた。


「いや~ジョージ様に見せたかったですよ、カルム王国軍が炎に包まれ焦った姿を!然も我々が川を渡った途端に濁流が起こりましたから天までイグナイト帝国の味方をしてくれているようでした!」


そんな嬉しい報告に喜びは隠せずウキウキしながらの進軍最中であったのだ。


後は置き去りにされた荷駄隊を全滅し、あわよくば物資でも戦利品に出来ればパーフェクトと言って良い出来なのだ。


『これからは私をパーフェクト将軍と呼べ!』

と自分の周りの者達に言って笑いを誘いギャグも冴えている!と感じずにいられなかった時だった。


先頭を歩いていた槍部隊から新たな情報を掴んだと報告があったのだ。

どうやら進軍している時にコソベの集団が歩いて来て擦れ違い様に何かを呟いたらしいのだ。


早速、肥満が原因で痛い左膝を引き摺りながら先頭部隊まで行くと60人のコソベ達がコソベ独特の怯えながらニタった笑う顔をして泥の中に座らされていた。


「こいつらか、何やら呟いたのは?」


「はいそうですジョージ様!お前、呟いた事を正直に言え!」


指を指されたコソベは益々怯え黙ったが思いっ切り蹴られると急いで話し始めた。


「いえ、ただ俺達は2000人弱ほどの兵士達が、この先の盆地に野営していたのを見たので貴方達の仲間かなと思って・・・・・」


「2000人弱の兵士達が野営!?間違いないのか?」


「はい・・・・・どうも見た感じですけど兵士達はずぶ濡れで震え馬も疲れているように見えました、だから貴方達が救出に向かっているんだと思って・・・・・・」


なるほど本隊に追いつく為に馬に無理をさせたのか!


「そうか、では用は済んだ。直ぐに消え失せろ!」


そうジョージが吐き捨てるように言い教えてくれたコソベの顔に一蹴り浴びせると我先にコソベ達は逃げ出した。


部下の1人がコソベ達を斬り捨てて情報漏洩を防いだ方が良いのでは?と進言したが、


「コソベなど斬り捨てて我が家先祖伝来の宝剣達の切れ味が鈍ったらどうするつもりだ!パパに怒られるではないか!」


ジョークのつもりで笑いながら言うと部下達も大笑いをしたので、やはり冴えていると確信したジョージだった。


一応、斥候隊を出し確認させると確かにコソベが言った7KM先の盆地に確かに野営しているらしく多数の荷馬車を放置し多数のテントを設営し馬の鳴き声や暖を取っているのか大雨で見難くかったが灯りも確認できたと報告して来た。


「天運はイグナイトにあり!一気に荷駄部隊など殲滅し奴らが積んでいるであろう、カルムのワインで乾杯しよう!」


そう叫び、12000人の兵達も歓声を起こし士気は最高潮を示した。


すると天も、そんなイグナイト帝国兵12000人の歓声に応えたかのように更に大雨になった。


「天も震えているぞ、イグナイト帝国の勝利をな!」


そして意気揚々と盆地に着いた、自身も確認すると間違いなく多数のテントも灯りも馬の鳴き声も聞こえる

これで勝利は間違いない、そう確信した時、不思議と左膝の痛みなど全く感じず、ここ最近自分でも一番の好調状態だと感じた。


「ここ最近の俺は本当にパーフェクトだ!よし敵を殲滅するぞ突撃!」


盆地となる緩やかな坂を下ってのジョージ自らの12000人の兵達による突撃が敢行された。


大雨の為、雑音は搔き消されたのか敵荷駄隊は全く気が付かず1人として出て来ない。


「よし敵は未だ気が付かず!突撃、天運は我らにあり!」


膝の動きも良い、身体も不思議と軽い、おまけに俺の機嫌も上々だ!


だが、そう思った時だ。


「ジョージ様、ここには誰もいません!」


各所で訳が分からない!?といった感じに混乱の声が上がった。


そして一つのテントにどこからか火矢が飛んできたと思った瞬間、大爆発を起こし周りにいた兵士達が火に包まれた。それだけではない、紛れていた何金属片のような物が爆発の衝撃で四散し兵士達を襲い傷つけたのだ。


「火攻めだ・・・・・これは罠だ・・・・・あのコソベ達・・・・・急いで全軍引け!」


必死で叫んだが、次々と火矢が飛んで来て確実且つ正確に多数の荷馬車やテントに刺さった途端に大爆発を起こし兵士達の叫び声に搔き消されたのだ。


その内、とんでもない叫び声まで聞こえて来た。


「イグナイト帝国司令官ジョージを討ち取ったぞ!」


各方向から自分が討ち取られたという声が聞こえるのだ!


「俺は討ち取られていないぞ!ここにいるぞ!」


急いで周りの部下達にも叫ばして自分の生存を知らせた、その時だった。


「あそこにいたぞ、あのデブ野郎が司令官だ!ぶち殺せ!」


微かに見える赤髪の男を先頭に多数の騎馬隊が自分に向かって泥飛沫を放ちながら一丸となって突っ込んで来たのが見えた。


逃げなければ!そう思ったが左膝は何時もよりも強烈な痛みを発し肥満の身体は何時もよりも重く感じ、何よりもガタガタと震え思うように動かなかった。



※    ※    ※



イグナイト帝国兵12000人が盆地に侵入し中央部まで到達したのを確認し俺は遠距離用の大弓を持ったクオンに火矢の命令を出した。


「大丈夫かクオン、この雨でも?」


「余裕だよ兄貴、マヤータ族の優秀さをイグナイトに見せてやるよ!」


そう言うと次々とフォースを込めた火矢を放った、但しクオン曰く少しだけ火矢にフォースを込める事により火は消えにくく雨の中でもブレずに命中するらしい。


火矢がテントや荷馬車に当たり大爆発を起こし大雨の中でもイグナイト帝国兵達の叫び声が多数聞こえたが、俺の予想よりも多いような気がした。


「カミラ、油壺の他に何か仕掛けた?」


「いえ私は何も・・・・・」


偶々良い効果を挙げただけかな!?と思っているとカミラに同行したエリオが俺に言ってきた。


「アベル軍司令官閣下申し訳ありません、自分達であります!」


「なんかやったのエリオ!?」


「荷駄隊からテントなどを運び出す際に釘箱が多数あったので頂戴した次第であります!」


「釘なんかどうして・・・・・」


「爆発を起こせば四散するように配置すれば敵に更なるダメージを与えられるであります!」


「それも・・・・・前の世界の国の?」


「自分の記憶が無くなり、はっきりした事は思い出せませんが、そんな武器があったような気がするであります!」


「・・・・・えげつないな。」


しかしエリオの機転で敵が更に困難に陥ったのは間違いない!


「よし叫べ!」


そして元コソベ達が尋問を受けた時に聞いて来た敵司令官の名前で討ち取ったと叫んでやった。


本当は、これはやる予定ではなかったが元コソベ達が命を賭けて罠を張ってくれた事に対しての俺からの礼だ。


だが、これが思わぬ効果を生んだ。


俺達の叫びが更なる混乱を惹き起こせば良いと思っただけだったのに、悲痛な叫び声が聞こえて来たのだ。


『俺は討ち取られていないぞ!ここにいるぞ!』


更に多数の声、敵司令官の居場所を一生懸命に叫んでいるのだ。


「よし行くぞ!狙うは一つ、敵司令官の首だ!俺に続け!」


泥飛沫を上げ声の聞こえる方向に敵兵を薙ぎ倒しながら進む。


「敵将ジョージ、討ち取ったぞ!」


騎馬兵と化した俺の一軍総勢1264人が一丸になって口々に叫んだ。


そう叫べば叫ぶほど、声の主達が悲痛な叫び声を上げる。


『俺は討ち取られていないぞ!ここにいるぞ!』


『ジョージ様は、ここに居られる健在だ!』


段々と声が近くなってきた。


更には、こんな声が聞こえた。


「テ・・・・テ、テアラリ島3部族・・・・・敵の中にテアラリ島3部族がいるぞ!」


ラウラ、レイシア、カミラを見たイグナイト帝国兵達が我先に逃げ始めた。

忘れていた・・・・・イグナイト帝国民にとってテアラリ島3部族ほど怖いものはないのだ。


鉛のように固まり動けずにいる肥満男を見つけた!


「あそこにいたぞ、あのデブ野郎が司令官だ!ぶち殺せ!」


「イエッサー!」


俺の発見の叫び声に皆が群がるように敵司令官に殺到した、しかしさすがに敵司令官を守る部下達500人くらいだろうか奮戦し踏ん張りを見せた。


拙い・・・・・急がないと士気と冷静さを取り戻した敵兵達が殺到する・・・・・。


「急げえええ!デブ野郎の首を上げろ!」


必死に叫び、500人の敵兵達は一軍に任せ、少数ずつ我を取り戻し始め向かってくる敵兵達を俺、クオン、テアラリ島3部族の3人そしてゲイシーで片っ端から排除する。


まだか・・・・・早く司令官の首を上げてくれ!


そして1人で何十人斬り殺しただろう、そう思った時に勝鬨の叫び声が上がった。


「ケネル・ホールディ、敵司令官ジョージの首を獲ったぞ!」


ボロのコソベの格好のまま参戦した元コソベの1人顔を腫らしたケネル・ホールディが敵司令官の生首を槍の穂先に刺し高々と上げ、それを観たイグナイト帝国兵達が我先に逃げだした。


俺達は勝った!



※    ※     ※



「ジョージ様、早く逃げて下さい!」


部下の500人が騎兵という圧倒的不利な敵に勇敢に向っていくが、逃げろと言われた当の本人は膝の痛みと体重及び恐怖から全く動けなかったのだ。


しかも敵は自分達よりも少数なのに全くと言って良いほど恐れも無く一騎当千の雰囲気を纏ませ、実際に1人1人が強いのだ。


もしジョージが自分に襲いかかって来た1200人が転生者で前の世界では其々が優秀な軍人だと知っていたなら、こういった奇襲作戦も考えなかっただろう、そういった判断も出来る知性もあったのだから。

仕方が無かったのだ、彼は転生者ではないのだから。


「クソ、こんなところで死んでたまるか!」


勇気と忍耐で恐怖と膝の痛みと体重を跳ねのけ立ち上がり走ろうとした時だった。


突然、背中に痛みを感じたのだ。

槍で刺されれたのだ。


「ケネル、早く蹴られた恨みを返してやれ!」


ボロを纏ったコソベ達が殺到する兵士達を相手に戦いながら叫んでいた。

自分の背中を刺したのもコソベだ、然も見た事がある奴だ!


「顔への蹴りは痛かったぞ、でもこれで帳消しにしてやる!」


「お前・・・・・さっきのコソベ!」


「そうだよ!」


コソベ独特のニタった笑う顔をしながらケネルが槍を押し込んだ。


ジョージがうつ伏せに倒れると直ぐに仰向けにされコソベ達が殺到し自分の首に短剣が当てられたのが解った。


あ、死んだ・・・・・


そう思った瞬間に首に激痛が走ったが直ぐに何も感じなくなった、ジョージ・ギルバートは死んだのだ。



※    ※    ※



ケネルが敵司令官ジョージ・ギルバートの首を高々と上げイグナイト帝国兵達に敗北が理解されると我先に逃げ出し俺達の勝利が確定した。


それでも槍を必死に上げ続け『討ち取ったぞ!』と叫ぶケネルと元コソベ達。


「良くやった大殊勲だ!」


そう言うとケネルを含む元コソベ達全員の緊張が解けたのか急にへたり込んだ。


「俺達・・・・・勝ったのか?」


緊張が解けすぎたせいなのか彼らは俺に日本語で聞いて来た。


「勝ったぞ!お前らのおかげで大勝利だ、特にケネル・ホールディは大殊勲だ!」


俺も日本語で言ってやると元コソベ達が泣き出した。


「転生してからやっと・・・・・やっと冒険が出来たんだ」


冒険か・・・・・確かに命を掛けた戦場で生き残り殊勲を挙げる、これも一種の冒険だな。

だったら冒険には宝物を発見した事実を作らないとな!と思い適当な物はないかと探してみると首の離れた敵司令官ジョージが背負った金や赤などの派手な装飾で古めかしいフランベルジュと呼ばれる剣身中央がギザギザした大剣と腰に帯刀する同じく金や赤などの派手な装飾で古めかしいレイピアが目についた。


直ぐにジョージの死体から鞘ごと剥ぎ取り抜くと、2本とも整備されており使用した跡が無く飾りで持っていただけだろうと推測された。

2本とも無銘だが良い剣には間違いなさそうだ。


「じゃあ発見した宝物だ、ケネル!」


俺はケネルにレイピアを渡した。


「これで俺の、いや俺達の冒険が始まったんですね!」


「そうだな、でも冒険ってのは最後まで絶対に生き残っているのが鉄則だよ!」


そう言ってやると元コソベ達が笑い出した、最初の冒険が始まったのだから。


そしてフランベルジュの方はエリオに渡した。


「君が最初に俺のところに来てくれなかったら今日の勝利はなくエスポワール帝国も危機を迎えたかもしれない。ありがとう、これは礼です。」


「いえアベル軍司令官閣下、貴方のおかげで戦場に立てました。これからは、この剣を誓い敵軍の一掃する活躍を期待して頂きたいであります!」


「じゃあ期待しているよ!」


「イエッサー!」


それから俺達はクレメンテの荷駄隊と合流し再びアルベルタら本隊との合流を急いだ。


途中、あれほど降った大雨が止み天候が改善すると俺達に問題が起こった。


盆地の泥濘で戦ったため泥が鎧や身体に纏わりつき気持ち悪いのだ。

これではアルベルタの前に参上出来ない。


「確か、この先に流が緩やかな川があったはず、そこで水浴びなどをされては?」


クレメンスが言ってくれたので、そうする事にしたが只ならぬ気配に遭遇した。


ほぼ全軍に等しいカルム王国軍いやエスポワール帝国軍が対岸に群れを成し俺達を観ているのだ。


「ラシムハのヤツ・・・・・まさか全軍引き連れて来たのか?」


そんな焦りが俺達全員を覆った時、怒濤の喜びの観声が聞こえた。


生きてるぞ!無事帰って来たぞ!


そうか俺達を迎えに来たのか。


俺達は生き残れたようだ。























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