奇襲 1
それはアニータ・カルムに抑えられてはいたが放棄された事により単なる一都市と化したカルム王国王都カルミニに入った時だった。
パメラ・イーシスの手の者から次々と情報が入ってきた。
「アニータ・カルム側は、どうやら旧領のカルネを新たに王都と定めたようです。」
「旧領西部、旧ケンゲル軍による奪還を開始致しました。」
「イグナイト帝国駐在軍およそ40000の北部都市カルネ方面への移動開始
を確認致しました。」
アニータが完全に北部の地方領主達に匿われ同時にイグナイト帝国駐在軍も北部カルネに移動し兵力を集中している様相が判ってきた。
「恐らくはイグナイト帝国からの援軍を待ち全軍を以って我らと相対するつもりでしょう。」
この戦では常にアルベルタの傍にいるスノー・ローゼオが集まった情報から判断し助言する。
「女王いや女帝アルベルタ陛下、いっそ直ぐさまカルネに進軍し敵軍の準備が整う前に撃破致しますか?未だイグナイト帝国は援軍準備を整えるまでは時間もありますが。」
「いえ、この際です。こちらもカルネ近くまで急ぎ進軍を開始しますがイグナイト帝国からの援軍を待ち後顧の憂いは摘んでおきましょう。ここで援軍も同時に撃破すれば今後のイグナイト帝国への進軍も容易くなるでしょう。」
「御意のままに。」
強気なアルベルタにスノーは心配そうな顔で答えた。
スノー自身もアルベルタと近い考えだったのだろうが懸念も存在したのだ。
自分達の予想と理想どおりに簡単に事が運び過ぎている。
アニータ側が、あまりにも整然と予め決められたようにカルネ方面に弱気に撤退しているのが気になった。
仮に防衛するなら防壁の堅いカルミニの方が理想的であるのに単なる港町であるカルネを選んでいるのも気になる。
カルネの場所的優位、イグナイト帝国からの援軍合流の時間的早さを選んだのか?
それともアルベルタが考えたようにイグナイト帝国は駐留兵力を本国に撤退させる準備にカルネに向かっているのか?
アニータも自分を支援する北部領主達の勢力範囲に入る事で保身を狙っているのか?
何よりアニータ側の情報が容易く入る点が気になった。
もしかしたら虚偽の情報に踊らされているのか?
考えれば考える程、アニータ側の行動が胡散臭く感じる。
「女帝アルベルタ陛下、取り敢えずは各軍に警戒態勢は怠らせぬよう厳命を!各軍の勢いが強すぎます。」
「分かりました、スノーさん。」
アニータ側が、どんな手段に出てくるかは分からないが警戒は怠らない方が良いと考えるスノー・ローゼオであった。
この戦に賭ける女帝アルベルタ自身がスノーの彼女に抱く印象とは違い性急で気負いすぎだと感じずにはいられなかった、そして『ヴェルデールの4女神』や他の重臣達ですら同様に感じたのだ。
そして女帝アルベルタ率いる旧カルム王国、現エスポワール帝国軍はアニータ側を追いカルネの街に向かい進軍した。
ただ一軍を残して。
これがアニータ側の練られた罠とも知らずに。
※ ※ ※
「やばいなこりゃ・・・・・かなり遅れましたぞ、アベル様。」
「クレメンテさん焦っても同じです、安全且つ慎重に行きましょう。」
「そうですな、ですが最早この辺は我らの勢力範囲になったのですから焦る必要は無いですな!」
俺達の一軍は今、クレメンテ・カタネイという中年男が率いる荷駄隊1000人と行動を共にしている。
たった2ヶ月で結成された一軍で、前の世界で歴戦の勇士の転生者達でも今の世界では初陣である。
何より彼らの他にも60人のコソベ達がいる現状では前線に出てもやれる事は只が知れているのだ。
だったら雰囲気と場馴れをする為に敢えて荷駄隊の護衛の任を志願しアルベルタに承認されたのだった。
「しかし存外情けないですなアニータも、即カルミニを引き払いカルネに撤退とは!」
そう現状に楽観し笑顔で話すクレメンテに笑顔で頷きながらも、どこか不自然さを感じずにはいられなかった。
この荷駄隊が遅れているのが証拠だ、いや遅れているのではない。
他の軍の進軍スピードが速すぎ荷駄隊が着いて行けなかったのが正解だ。
まるで何かに戦闘部隊が惹き付けられるように進軍速度が速くなったのだ。
行く先に障害になるものは何も無いから当然なのかもしれないが、それでも異常に感じた。
この荷駄隊は本隊と供に行動する荷駄隊とは別の部隊だが、それでも予備の食料は勿論だが戦闘で使用される矢や替えの槍や剣、薬などの薬品や従軍医師や看護師達も同行しており更には替え馬なんかも引き連れ戦闘継続に必要な物資を中心に運んでいるのだ。
もし全滅でもすれば相当なダメージをもたらす事になるのだ。
そこでテアラリ島3部族のラウラとレイシアとカミラの3人に其々10人の兵達を従わせ荷駄隊周囲の哨戒をさせ平服のラシムハには装備を解いたドミニクとシラを付き添わせ伝令として荷駄隊遅れを報告と本隊の様子を観察させる事にした。
「アベル様、そこまで心配する必要ないですよ!」
「一応念の為です、何事も無ければ笑い話で終わりですよ。」
楽観視するクレメンテがニコニコと笑顔で言うが、皆がこの『笑顔』をしているのかと思うと余計に心配になった。
そして遅れ始め3日目が経過した時、カルミニとカルネの中間地点辺りであった。
伝令に出たラシムハ達3人が戻って来たのだ。
「御苦労様、どうだ本隊の様子は?」
「かなり士気は高いですね。
それから本隊は、この先のフェリの街を抜けた40KM付近まで進んでいました。
かなり差が開いていますよ、我々も急がないと!」
「そうか、でも物資を運んでいる以上は慎重に行動しないとな。」
だがラシムハから報告を受ける俺にドミニクとシラが難しい顔をしながら言ってきた、それは日本語だった。
「フェリの街でコソベ達が話していたのが聞こえてきたんだけど気になる事が。」
「どうしたんだ?」
「最近、フェリの街の住人の顔ぶれが違うって話してたんだ。それに進軍ルート上の戦場になり易い小さな街フェリになんて普通出て行く事はあっても入って来る事は無いと思うけど。」
確かにそうだ。
戦乱を避けるために街なんかには向かわず田舎なんかに逃げるのが普通だ。
もしかしてフェリの街にアニータ側が罠を仕掛けているのか?
一応だが念には念を入れ慎重策を採る事にした。
「クレメンテさん、この辺に防備に最適な場所や建物ってありますか?」
「確か近くに古代の先人達の慰霊儀式に使われたと言われる岩場が周囲に多数切り立った場所がありますが。」
「そこは、この荷駄隊でも収容出来て立て籠もれますか?」
「十分に収容は可能ですが・・・・・どうしてそのような事を?」
「一応ですが女帝アルベルタ陛下に進言して、こちらに5000から10000の兵力に来て貰いましょう!」
コソベの話から懸念したとはクレメンテには言えず適当に誤魔化し説得し、更に俺は60人の元コソベ達を集めた。
「ごめん、もう一度コソベに戻って!」
勿論、本当の意味でのコソベという訳ではなくコソベの格好をしてフェリの街に侵入し状況を探って来てくれという意味だ。
そして俺達はクレメンテが話した場所に向かい元コソベ達はフェリの状況を3日探ったのちに合流、そしてラシムハとドミニクとシラには派兵の要請役にもう一度アルベルタの元に行って貰う事にした。
しかし潜入した元コソベ達30人が2日で戻って来たのだ。
然も、かなりヤバい情報を掴んで。
「司令官、ヤバいですよ!」
「どうした?」
「フェリのコソベ達から聞いたんだけど今いるフェリの住人の殆どが偽装したイグナイト帝国兵12000人らしいですよ!」
「え・・・・しかしイグナイト帝国の全駐留軍40000はカルネに向かったって聞いてるぞ!?」
「だから、その内の12000人は従来フェリにいるはずの住人達を無理矢理イグナイトの旗なんか持たせて偽装して連れてったんです!」
「じゃあ早く本隊に知らせなければ、敵は援軍を待って挟み撃ちにする気だ!」
「いや・・・・・それがコソベ達が言うには、まずは俺ら荷駄隊を狙って補給路を遮断する作戦のようです。実際確認しましたが、こちらに向けて直ぐにでも進軍を開始する構えです!」
拙い事になった・・・・・
実際、殆んどが非戦闘員に近いクレメンテの荷駄隊、この状況で戦えるのは俺の一軍1260人。
1260人VS12000人、真面にやり合えば話にもならない、まして荷駄隊を守りながら戦うなんて不可能だ・・・・・それに俺達に狙いをつけたって事は予め作戦を用意周到に立てていた証拠だ。
とてもじゃないが援軍は間に合わない・・・・・
アルベルタ達本隊を自陣優位な北部領まで引き込んだ上に補給線が伸びきったところを分断し、イグナイト帝国の援軍を待って本隊が弱り切った時を狙って一気に攻勢に出る作戦だ。
それなら人数的不利も解消できるし上手くいけばアルベルタの首も獲る事も出来るかもしれない。
拙い、奥に入り過ぎた・・・・・完全に油断していた。
だが、ふと思った。
どうしてフェリのコソベ達はイグナイト帝国の作戦を、そんなに詳しく知っているんだ?
そこまで念密に立てた作戦なら箝口令も敷かれているだろうに!?
「なんでフェリのコソベ達はイグナイトの作戦を詳しく知ってたんだ?」
「コソベなんて誰も気にしないから大声で喋ってたらしいですよ!」
それを聞いて気が付いた。
イグナイト帝国兵12000人もアルベルタ本隊がフェリの街を通り抜けた事で安心し油断している。
後は俺達少数の荷駄隊を殲滅すれば良いだけなのだから。
だと、すると俺達も油断を突いた行動をしないと生き残れない。
俺は事情をクレメンテに説明し俺達とは別行動で遺跡に向かい入って貰い、そこで派兵されてくる軍と合流して貰う事にした。
俺の作戦には荷駄隊がいると行動不能になるからだ。
「そんなアベル様達がいなくなったら荷駄隊なんて直ぐに殲滅されて・・・・・」
事情を知り青ざめるクレメンテに更に俺の考えを言うと余計に青ざめる結果となったが従ってくれた。
どう考えても、これしかないのだから。
そして残りの元コソベ達30人も無事に帰って来て彼らも情報を掴んで来た。
「敵の司令官は極度の肥満らしく馬にも乗れないようで兵達も、それを気にしてか歩兵中心の部隊ですね。」
「そうか、その状況はありがたいな!」
俺は直ぐにクレメンテに言って1260人分の馬を出して貰い全員を騎兵にし準備させ作戦内容を告げた。
「良いか、これより我が隊は敵イグナイト帝国軍12000に対し奇襲を仕掛ける!謂わば奇襲を仕掛けようとする敵に奇襲を仕掛ける訳だ!そして狙うは一つ、敵司令官の首だ!全員一丸になり雑兵には目をくれず敵司令官の首だけだ!きっと極度に肥満した偉そうな奴が敵司令官だ!」
全員が頼もしく右腕を上げ俺に応えてくれた。
その時だ、ポツポツと雨が降り出しやがて大雨になった。
天は俺達に味方してくれたようだ!
※ ※ ※
「アベルが派兵要請だと!?」
「はいアベルさんが念には念を入れて兵5000以上の派兵を求めています!」
ラシムハ達3人が急ぎ馬を駆り2日でアルベルタ本隊に追いつきアルベルタに言上した。
「しかし遅れているとはいえ最早この地より南側は我らの手中にあり安全も確保された。
そこまで慎重にならなくても良いのでは?」
この時、ラシムハから見てもアルベルタは高揚しすぎ、そして血気盛ん過ぎた。
いつもの聡明なアルベルタらしくないのだ。
焦っているのか?それとも意気込んでいるのか?
そんな印象をラシムハを受けた。
「アベルに伝えてくれ。焦らずとも良いゆえ、ゆっくりと来るが良いと!」
ダメだ・・・・・完全に悲願の旧領奪還が目の前に来た事で高揚し過ぎて酔っている。
他の者達からアルベルタに助言して貰おうとしたが『ヴェルデールの4女神』やパメラ・イーシス、ブラスコ・バリでさえ高揚し『アニータ・カルムを討つ!』という目的に捉われている。
マーア・インサイトは若干ながら冷静ではあるが彼女自身イグナイト帝国には恨みもあるからアルベルタらに引きずられ高揚していたのだ。
国を追われオービスト大砦に閉じ込められ苦汁を味わい続けた彼らにとって漸く訪れた機会が目の前にあるのだ、仕方が無いのかもしれない。
「リーゼ・・・・・・貴女からも女帝に助言を・・・・・」
供に旅したリーゼならと思い頼んでみたが話にならない・・・・・
「もうすぐ父ちゃんや母ちゃんを殺したイグナイト帝国兵やアニータ・カルムの首を討てるの!兄ちゃんにも早く追いついて来てって伝えて、ラシムハ!」
ではメリッサに・・・・・と思ったが辞めた。
メリッサも完全に目が血走りカルネの方向をジッと見ている・・・・・・
ではスノー・ローゼオにとも思ったが彼女は現在は援軍の立場なのだ、士気を下げるような発言は慎むだろう。
ダメだ、どうしたら良いんだ・・・・・
その時だった、ラシムハの後ろにいたドミニクとシラが笑い出したのだ。
「あの~皆さんは『ホウ・レン・ソウ』って言葉を御存じですか?」
その場にいたアルベルタや重臣たちがジロっと威嚇するように2人を見たが臆せる事も無く話を続けた。
「私達が過去にいた国の言葉なんですけど『ホウ・レン・ソウ』って報告・連絡・相談の略。組織内で十分な意思疎通を図るための作法を表す言葉です」
「だから、どうしたと言うのだ?」
少しシェリーが苛ついた顔を見せたがアルベルタが興味を持ったのか制しドミニクとシラの話を続けさせた。
「私達の司令官アベル・ストークスは、その『ホウ・レン・ソウ』を新しく創設されるエスポワール帝国に対し組する者の義務として誠実に実施し答えをアルベルタ様に求めました。
しかしながらアルベルタ様は残念ながら誠実に答えを出してすらおられません。」
「答えなら出しているではないか!ゆっくり来いと言っているではないか!」
2人の言葉に激怒したジュリアが剣に手を掛けたが、これもアルベルタが制した。
「報告・連絡・相談を受けたなら直ちにやるべき事があります、それをして初めて誠実な答えが出るのです。
失礼ですがアルベルタ様は『打ち合わせ』をされましたか?
『打ち合わせ』とは1人であっても集団であっても報告・連絡・相談の意味を熟慮し探る事です。」
「意味を熟慮し探るとは、どういう意味ですか?最早この地より南は我らが手中にあり安全も確認されているのです。」
「・・・・・まだ理解して頂けませんか、では御存じだと思いますが私達は元コソベです。」
「それはアベルから聞いていますが。」
「では暫らく失礼をして!」
ここでドミニクとシラがアルベルタを始め皆の前で奇妙な言葉でメリッサとスノーに向けて話し始めた、日本語だった。
「フェリの街でコソベ達がフェリの街の住人の顔ぶれが違うって言っていました。
それからです、アベルさんが警戒し始めて今も元コソベ達を使って情報収集をフェリで行っています!」
メリッサもスノーも突然の日本語で焦りはしたが2人の話から考えた。
「顔ぶれが違うとは、どういう事だ!?」
残念ながらメリッサには理解しがたかったが、スノーは2人の話や今までの情報や状況などから自分が感じていた懸念を加味し考えた、そして答えが出た。
「罠・・・・・これは罠だ!やられた・・・・・アニータに嵌められています!アルベルタ陛下!」
「罠とは一体・・・・・?」
「敵は自軍優位な奥深くまで誘い込み、我らの補給路を断った上でイグナイトの援軍と合流し攻勢に打って出るつもりです。
ですから我らには偽の情報を与え、通って来たフェリの街に何らかの方法で兵達と全住人を入れ替え、荷駄隊を襲うつもりです!
だから我らは抵抗らしい抵抗も無く進軍できたのです、もっと言えば荷物を運び遅くなる荷駄隊から引き離す為に我らの進軍速度も奴らに操られていたのです!」
そのスノーの答えにアルベルタらが高揚から醒め、一瞬の内に全員が真青な顔になり、そして正常な判断が出来たのか言葉絶え絶えになりながらアルベルタが呟いた。
「なんてことだ・・・・・浅はかで熟慮が足りなかった私の責任だ。」
アルベルタが自分自身の高揚が招いた結果だと落ち込みスノーと侍従のドルマに支えられた時、気が付いたようにパメラに向かい叫んだ。
「パメラ、フェリの街の人口は如何程ですか?」
「およそ12000人です、アルベルタ陛下・・・・・」
「12000・・・・対してアベルらは1260・・・・・」
絶望的数字差に気を失いそうになったアルベルタだったが、すぐさま指示を出した。
「ジュリア、パメラ、メリッサ、リーゼ!急ぎ各軍を率いフェリの街に戻り敵を殲滅しろ!
シェリー、ブラスコ、マーアは敵の進軍を警戒し一軍ずつ陣を引け!スノーさんとマークさんローヴェ軍は私の直属軍と行動を共に!我ら全軍フェリの街まで一旦後退する!」
アルベルタの指示の元、やはりメリッサとリーゼが早く行動を開始し続いてジュリアとパメラも全速力で急ぎ、次の日にはフェリの街に到着した。
だが街に入った時だった。
街の中央付近に差し掛かった時、突然家々に炎が舞ったのだ。
ここでも罠が仕掛けられていたのだ。
アニータ側はアルベルタらに作戦が気付いた場合にも備えており、100人程の陽動部隊を残し街に放火させたのだった。
この時の殲滅隊の指揮を任されたのはジュリア・ヴェルオールであったが直ぐに自らの軍に消火を指示しパメラの軍に陽動部隊の殲滅、メリッサとリーゼにアベルらの救援の指令を出した。
「メリッサとリーゼ、ここは我らが引き受ける故に直ぐにアベルの元に急げ!」
メリッサ直属軍とリーゼ率いる萌黄が炎が立ち込める街の中を突破しフェリから出た時、彼女達に不運が舞い降りた。
雨が降って来たのだ。
その雨は、やがて大雨になり来た時には浅瀬を呈していた川が直ぐに濁流を形成し行く手を阻んだのであった。
「こんな時に大雨!しかも氾濫なんて・・・・・」
メリッサが激怒と苦悶が混ざったような顔を浮かべリーゼを観た時だった。
リーゼが自分自身に、落ち着け!といった念じるような顔をしたのだ。
「どこかに橋か渡れそうな場所があるかもしれない。キッカ直ぐに探索部隊を編成して!」
そのリーゼの指示にキッカも直ぐに気の廻る者5人を主に10人程の5小隊を結成し探索に当たらせたのだ。
やはり旅に出て成長しリーゼは帰って来た!と思い、冷静さを欠いた自分の行動を恥じた時だった。
もう1人自分と同じように冷静さを欠いた者の叫び声が聞こえた。
アベルらの元に帰還する為、萌黄と行動を供にし濁流に飛び込もうとしてドミニクとシラの2人に両腕を掴まれ押さえつけられたラシムハだった。
「離せ!アベルさん達、仲間の元に早く行くんだ!」
戦力差約10倍、荷駄隊を狙って用意周到に行動を起こしている。
更に狙われている1260人は新兵で元コソベ達である。
理知的で冷静さが売りのラシムハでさえ絶望的だと考えたのだ。
「落ち着いてラシムハ!」
リーゼに両肩を掴まれ揺り動かされ正気に戻ったラシムハだったが、何も答えず泣き出した。
それから探索部隊が帰って来たが橋も渡れそうな場所も無いとの絶望的な報告であった。