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13.心の強さ

 シェリルの元へと走る。日は沈み、辺には闇が訪れている。だが、目指す先には黄金色に輝く剣を携え、闇を照らす少女がいる。


 自身も『神器』を使い精神が摩耗しているはずなのに、部隊の撤退が整うまで一人で辺りを警戒している女の子。

 俺は気丈に振舞う女の子の元へと走っていった。


「シェリルっ!!」


「カズマ? 何故戻ってきた。早く皆の元へ戻るんだ」


 シェリルは振り返り俺の顔を見るやいなや、いきなり戻れと言い出した。

 人が心配で戻ってきたのにその言い方はないだろと思ったが、敢えてシェリルの元へと近づく。


「お前、無理しているだろ。気丈に振舞っていても俺は騙されないぞ。『神器』、杖がわりにしているだろ?」


 シェリルは『神器』を地面に突き立て、柄に手を乗せ立ってはいるが体の重心が前へとずれている。

 『神器』を杖がわりにして身体を支えている状態なのは明白だ。だが、気丈に振る舞うことによって誤魔化している様にしか見えなかった。


「なっ……! ば、馬鹿な事を言うなっ! 騎士たる私がその様なことをするはずがないだろう。失礼にも程があるぞ、カズマ」


「へぇ……ふぅーん、そうか。……えい」


「わわわわっ! いきなり背中を押すなっ! きゃっ!!」


 前のめりに倒れそうになったシェリルを咄嗟に抱き抱える。重心を前面にずらしていた為、背中を押したら簡単に前へと倒れそうになったのだ。これで言い訳はできまい。


「むー……、カズマ、お前いじめっ子とか周りに言われないか?」


「いや、俺はどちらかと言えば苛められるほうだぞ。……主に姉貴にだが」


 シェリルは格好がつかなかったのが気に食わないのか、頬を膨らませている。精悍な顔立ちに頬を膨らませる行為はギャップがありすぎて、思わず笑ってしまった。


「カズマ、失礼だぞ。確かに身体を支えているとはいえ、『神器』を杖がわりにしていたのは騎士にとっては恥ずかしい行為だ。だが、そこまで笑うことはなかろう」


「ごめんごめん、別にそういったわけで笑ったわけじゃないよ。ただ、シェリルの綺麗な顔立ちに頬を膨らませた表情が余りにも可愛くてつい」


「ばっ……! バカなことを申すなっ! 騎士に向かって何が可愛いだ!」


 シェリルは顔を真っ赤にし慌てふためき、俺から距離を取った。


「はは、すまんすまん」


「まったく……」


 慌てふためくその姿を見ていると、シェリルも普通の女の子なんだなと思ってしまう。何が彼女を此処まで突き動かすのだろう。

 闇の先を見つめる彼女の横顔を見てそう思う。


 シェリルも同じ人間だ。いくら国のためとはいえ、戦場に出るのは怖くはないのだろうか。

 彼女は元々、ゼクシア帝国のお姫様だとラドが言っていた。

 突然救世主に選ばれ、戦場に送られ、敵を斬り、仲間の死を乗り越え、戦い続ける――。

 辛くはないのだろうか。


 ……いや、違うな。


 シェリルだけじゃない。


 彼女たちは・・・・・辛くはないのだろうか。


 救世主として召喚され、戦わされる運命に。この世界が危機に晒されているのはわかっている。

 『異界』という化物も、彼女たちの力無しでは倒せない。故に、先頭に立って戦い続ける。


 国を、人々の命を守るために――。


 俺は正直、……怖かった。修行で野生の獣と命のやり取りをしていたから、別に化物と戦うこと自体は怖くはなかった。

 だが、実際に戦争をしてわかったんだ。目の前で人が死んでいくことに対して、俺は怖くなった。


「なぁ、シェリル」


「なんだ?」


「お前は、怖くはないのか? その……化物と戦うことに対して」


「……怖いさ。他の者はどう思っているかは知らないが、私は怖い」


 シェリルは振り向かずに、まっすぐ前を向いている。


「死んでしまうのではないかという恐怖はある。だがそれ以上に……、民を殺されていくことが私は何よりも辛い。だから私は剣を取るのだ。

 ……いや、ちがうな。だからこそ、剣を取れるというべきだな。カズマ、お前も・・・そうではないのか?」


 振り向いた顔は真剣そのものだった。

 その目が語りかけてくる。


『お前は、イオリを失いたくないという恐怖があったからこそ、剣を取ったのではないのか?』――と。


 その一言は、俺の胸にストンと落ちてきた。


 ――ああ、そうか。


 気丈に振舞う彼女の強さが今わかった。大切な者を失う恐怖があるからこそ、立ち向かえるのかと――。


「……ああ、そうだな。シェリルの言うとおりだ」


 シェリルは言葉の代わりに、微笑み返してきた。


「カズマ、お前は強い。技だけでなく、その心もな。そして、共に戦ってくれたことに感謝を」


 差し出された右手を握り返すと、シェリルは力強く握り返してきた。

 大切な仲間だと、そう思わせるような力強さを感じた。


「さてと、そろそろ部隊も領内へと撤収を終えそうだし、俺たちも戻ろうぜ?」


「ああ、そうだな。では行くと――」


 ――ザシュッ!!


「……え?」


 シェリルの胸から鋭利な黒い刃物のような物が生えていた。


 口から血を吐きながら首を動かし、その先を見つめる。


「ごふっ!! ば、馬鹿な……もう……『異界』が出現しただと……」


 そこには夜の闇に溶け込むように、地面に赤黒い液体のようなものがあった。


「お、おい……シェリル……シェリルッ!! しっかりしろ!!」


「逃げろ……カズ――」


 ――目の前にいたシェリルが、真っ二つになり……。


 顔に生温かいものが掛かる――。


 手で拭うと、ベッタリとした赤い何かがついていた。


「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だっ!! 嘘だあああああああ!!


 目の前の信じられない光景に、頭が熱くなる。


 ズルリ――。


 頭上から音がし、顔を上げると不気味に赤く光る点が二つあった。


 そいつは大きな釜口を開け――。

 

 視界いっぱいに闇が訪れた―――。




 ――み~つけた――




 意識を失う寸前、声が聞こえたような気がした。


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