11.神器なき者
高台から飛び降り『異界』と戦う姉貴たちの元へと駆ける。
地上は乱戦状態だった。聖騎士達と『凶禍』が互いに命の奪い合いをしている。聖騎士を擦り抜ける際『凶禍』を斬り伏せる。
聖騎士が倒れこみ、止めを刺そうとする『凶禍』の首を斬り伏せる。事切れている聖騎士を貪り喰らう『凶禍』を斬り伏せる。
進みながら斬る、斬る、斬る、斬る、斬る――――。
正に地獄絵図。人と化物の命の奪い合い。こんな光景、俺の世界ではありえないだろう。
よくて人間同士の争いだ。それでも戦争は悲劇しかもたらさないが。
血が飛び交う。襲われている聖騎士を助ける。
「ぐっ、す、すまない……助かった……」
「一旦後退するんだ」
一言だけいい残して駆けだす。
乱戦場を抜けると、その先からは迫り来る大量の『凶禍』が迫ってきている。魔道士達の大規模な魔法攻撃で一掃したはずなのにその数はまた増えている。
『異界』から流れていた血のような液体から生まれたのだろう。早く『異界』を仕留めないと騎士の人数に限りがあるこちらが不利になる。
駆ける、駆ける、駆ける――。周りに聖騎士たちはいない。ここは銃騎士・魔道士達の射程エリア内だ。銃弾の雨が――、魔法の光弾が飛び交う中を駆け巡る。
斬り伏せながら進む。『異界』までの距離は20メートル程離れているが、その胴回りはでかい為もう目の前にいるような錯覚さえ覚える。
胴の直径は6メートル程あるのではなかろうか。
その先に一筋の軌跡が走る。姉貴だった。赤く輝く『神器』を片手に持ち、『異界』を斬り付けていた。だが、胴体がでかすぎるため致命傷までは与えられてないようだ。
俺は姉貴がまだ無事でいたことに安堵する。
なら、俺ができることは一つ。姉貴達をサポートすることだ。
脚に力を入れ一気に駆け出す。
気を練り上げる。丹田に蓄積した気の力を体全体に。肉体を強化するように。
すると右手の剣が輝きだした。
その光景に唖然とした。エウレが言っていたように本当に剣が輝いたのだ。あの時は木の棒だったが。
どうやらこの世界では気が目に見えるようだ。イリカ村で『異界』と戦った時を思い出す。
気を込めた木の棒で吹き飛ばすことができたのだ。
なら、たとえ通常武器が効かなくとも『異界』の気を逸らすことは出来るはずだ。
剣を構えた時、突然『異界』が鎌首をもたげた。
「シェリルさん!! クオンさん!! 危ない!!」
空からルルナの叫び声が聞こえ、声を発している方向を見るとシェリルと久遠は『凶禍』に気を取られ、『異界』が狙っていることに気づいていないようだった。
地面を蹴り上げ一気に『異界』の頭上高くまで飛ぶ。
大蛇である『異界』は鎌首もたげてシェリル達を狙っている為、俺には気づいていないようだ。
技を仕掛けるなら、今が好機ッ――!!
剣を両手で頭上に構え気を溜めると剣が更に輝きだした。それは強い光となって辺りを照らす。
「なっ! カ、カズマ!?」
「なんと!! くっ、間に合わない!」
突然、頭上からの強い光に気づいたのだろう。シェリルと久遠は『異界』に狙われていたことに気づいた。
だが――。
「――鳴神流闘剣礼法」
シェリル達が反応できなくても――。
「三之型――」
――俺なら、間に合うッ!!
「風車ぁぁぁぁッ!!」
剣を振りおろし垂直回転。遠心力によって繰り出される力を思いっきり『異界』の頭上へと叩きつけた。
俺の攻撃を受けた『異界』の頭が真っ二つに割れる。
声にならないような音を発した大蛇は地面に倒れこみ、そして黒い霧となって霧散していく。
地面に着地しながら俺は、『神器』でない武器の攻撃が効いたことに驚いた。
シェリル達の所へと駆け寄る。
「大丈夫か!? 二人共」
大量にいた『凶禍』は『異界』の消滅と共に黒い霧となって霧散していくところだった。
シェリルは驚いた顔をしている。
「……カズマ……そなたは一体……」
ポツリと、シェリルが呟いた声が聞こえた。