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10.騎士隊

 先頭を走っていた聖騎士部隊に追い着き、最前線に出た時はもう結界付近まで近づいていた。作戦では司令室から戦場をモニターしていて、部隊が結界付近に近づいたタイミングで部分解除するという手筈になっている。


 比較的に敵が少ない場所を選んでるらしいが、それでも前方の結界の先にはかなりの数の『凶禍』が蠢いている。近づくにつれその姿がハッキリとしていき遠目で見た限りでは黒い塊にしか見えなかったが、その姿は人型に近かった。


 ただし、全身はコールタールのように真っ黒く顔らしき部分には真っ赤に光る目があるのみ。その目は獲物を狙っているようにさえ思える。

 そして結界にノイズがはしり乱れ始めた。


「全員戦闘態勢ッ!! 結界が部分解除されるぞ! 後から続く銃騎士・魔道士隊の為に進路を確保するんだッ! 行くぞぉ!!」


 近くを走っていた聖騎士の一人が叫んで、雄叫びを上げる。それに呼応するように部隊全体が各々の雄叫びを上げた時、結界が解除された。

 結界が解除された先で蠢いていた『凶禍』が雪崩のように流れ迫ってくる。見た目とは裏腹にその動きはかなり速い。こちらの部隊と接敵するまで目視で100メートル弱。


 左腰に差してある長剣を掴み引き抜こうとした時、前方の空から人が降ってきた。


 オレンジ色の髪の毛をなびかせショートパンツにロングブーツ姿。その見覚えのある後ろ姿はイザナだった。ただし、その両手に持っているのは先ほどの大型ライフル銃ではなく、無骨な大型ガトリング。


 瞬間、イザナの構えるガトリング銃からマズルフラッシュが起きると、同時に迫り来ていた『凶禍』が次々と弾け飛んでいく。結界内に侵入してきた『凶禍』が一掃され、あまりの威力に呆気に取られそうになる。

 マズルフラッシュが止み、辺りには『凶禍』の死骸が散らばっていたが黒い霧となって霧散していく。


「止まるなぁ!! 行け行けぇ!! イザナ様が活路を見出してくれたぞ!! 今のうちに結界境界線まで進み陣を固めろぉ!!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 聖騎士達は速度を落とすことなく、仁王立ちしているイザナを避けるように道を開け走っていく。俺はイザナに近寄り声を掛けると、くるりと振り向いたその顔は頬を膨らませていた。


「ちょっとカズカズ。自分の傍を離れないでって言ったのに何で先に行っちゃうんっすか。ってゆーか、何なんすかその脚の速さは。どう見ても常人の速さじゃないっすよそれ! 『神器』も持ってないのにその身体能力は何なんすか!」


 イザナは口を捲し立てる様にしゃべりだす。俺としては空から現れたイザナの身体能力を問いただしたい気分だ。『セフィラ』に選ばれた『神器』持ちはここまで凄いのかと。

 しかも言わずもがな、先ほどの大型ライフル銃より更に大型のガトリング銃を軽々持ちながらでだ。


 とにかくまだ戦中なので先に謝る。


「わ、悪かったって。でも結果的にイザナが先頭に躍り出てくれたおかげで衝突時の死傷者は免れたはずだろ? というか、そのガトリングはなんだよ。さっきのライフルはどうした?」


 謝りながら疑問に思ったことを口にする。イザナはキョトンとした顔で自分が担いでいるガトリングへと視線を移す。


「あ、これっすか? 『ビナー』の第二形態っすよ。火力は高いんすけど燃費悪いのが難点なんすけどねー」


「だ、第二形態!? 『セフィラ』の『神器』って変形するのか!?」


「いえ、自分の『神器』だけっすね。持ち主の性質により違うみたいっす。現に、クオリンの『神器』は剣が初めから2本あったじゃないっすか。それと似たようなもんっすよ」


 クオリンて誰だと思っていると、「ああ、くおんのことか」と納得する。確かに姉貴の『神器』は大太刀が一本で、くおんは大小の刀が二本。


 そういえば持ち主の心を写すと言っていたな。イザナの『神器』へと視線を落とす。無機質な武器はまさに『豪快』というイメージを彷彿とさせる。再度イザナの顔を見る。華奢な体に整った顔立ちの中に幼さが宿る。イザナの心はタフネスということなのだろうか。


「ただ……」


 イザナの体がぐらりとよろめいたので咄嗟にその体を支える。


「精神エネルギーの消費が半端ないから、使いどころを選ばないといけないんすけど。でも、確かに聖騎士達の被害は抑えてカズカズも無事なんでオーケーっすね」


 大丈夫というように笑顔を見せる。


 俺が一番危険である最前線に出てしまったためにイザナに無理をさせてしまったみたいだ。だが、イザナは顔には出さず体勢を立て直す。

 境界線の方へと視線を送ると『凶禍』の流れが一時的に途切れた為、聖騎士達が布陣をとり始めながら戦闘を繰り広げていた。続けて銃騎士・魔道士隊が結界境界線まで追いつき更に布陣を築き始めている。


「さ、行くっすよカズカズ。銃騎士隊の見せ所っす」


「ああ」


 イザナと共に銃騎士達がいる布陣へと向かった。


 

 ◇



「急いで隊列を組めぇ!! 急げ急げぇ!!」


 怒号が飛び交う中、隊列を組み始めている銃騎士達にイザナと共に飛び込む。銃騎士隊だけでなく魔道士部隊も同じように編成を広げ二列三列と組んでいく。


「なぁ、イザナ。ここで隊列を組んでも、目の前で聖騎士達が戦っているんだぞ? これだと銃弾の巻き添えを喰らわないか?」


「狙うのはその先から流れてくる『凶禍』っすよ。既に接敵している『凶禍』は聖騎士隊の役目っす」


「その先って……。いやどう見ても無理だろ。こんな平坦な草原じゃ同士撃ちに――」


 イザナがニヤリと笑いだした。


「だから、その為に魔道士部隊・・・・・がいるんすよ」


 なんのことだと思っていると、更なる怒号が聞こえてくる。


「隊列準備完了ッ!! 魔道士部隊、始めろぉ!!」


 突然、足元に巨大な魔法陣が現れオレンジ色の光を放つ。するといきなり地面が隆起した。それは土壌壁でその上に銃騎士・魔道士がいる格好。


 それぞれ高低差があり、狙撃にはもってこいの地形へと変化した。


「ほら、これなら狙撃できるっす。さ、どんどん撃って数を減らすっすよ」


 なるほど、これなら奥にいる『凶禍』のみを狙撃することができる。周りを見渡すと一番高い壁で地上から15メートル程だろうか。高い壁の上は皆杖を持っている。どうやら魔道士部隊のようだ。


 視界が高くなったことにより、シェリル達の大部隊が見えた。大量に固まって蠢いている『凶禍』の更にその先、同じように土の壁が出来上がっていく。どうやら作戦通り挟み撃ちにできたようだ。


「銃騎士部隊、魔道士部隊、攻撃開始ッ!! 撃てぇ!!」


 攻撃合図によって一斉にマズルフラッシュと銃声音が響き渡る。こちらに向かってきている『凶禍』の体に穴が空き、地面へと次々に倒れ黒い霧となって霧散していく。

 銃撃より少し遅れて上空に大量の光弾が敵の中心部へと飛んでいき、蠢く『凶禍』どもを爆殺していく。魔道士達の方へ視線を動かすと、物凄い数の魔法陣が空中に展開されていて魔法を撃ち続けている。


 その光景は圧巻だった。これがこの世界の戦争。こんな戦いが1000年もの間行われているのかと。


 固唾を飲んでその光景を見つめる。

 光弾によって起きた土煙が『凶禍』が大量に居た場所を包み込む。


「魔道士隊、攻撃止めぇい!! 直ちにマナ補給をし、次の攻撃に備えろッ!! 銃騎士隊はそのまま攻撃を続け『凶禍』を近寄らせるな!!」


 魔道士隊の攻撃が止み、魔法によって巻き起こった土煙は風によって次第に流され、爆心地が露になる。大量にいた『凶禍』は魔法攻撃によってその数はかなり減らされていた。


 だが、その地面中心部分に赤黒く光る物が蠢いている。遠くからでも視認できるくらいの大きさ。それは綺麗な円形型で水面のように波打っている。  


「あれは『異界』!?」

 

 隣にいたイザナが大声を上げると同時に水面のような物体から巨大な黒蛇が出現した。前に遭遇した蛇と同様、その姿はコールタールのように真っ黒く不気味な眼光を放ってるが、ただ違うのはその大きさ。


 全長何十メートルもあるか分からないほど巨大な姿だった。


「でかい! なんだあの大きさは! イザナ、『異界』ってあんなに大きな化物なのか!?」


「じ、自分もあんな大きい『異界』を見るのは初めて……あ、あぶない!!」


 漆黒の空間から出てきた大蛇が物凄い速さで地面を這いずり、もう一つの大部隊へと突っ込んでいく。巨大な口をあけ『凶禍』諸共、聖騎士達を食らいつく。

 血が飛び交い、噛みちぎられた体の一部が散乱し、騎士達の悲鳴や怒号が響き渡る。まさに地獄絵図だった。


 その惨状に胃の中がせり上がる。


「くそ! カズカズ、君はここで待っているっす。いいっすね? 各部隊、攻撃が止まってるっすよ! あれは私たちに任せて『凶禍』を殲滅するっす!」


「おい、イザナ!?」


 イザナは高台から飛び降り大蛇の方へと駆けていく。

 ふと気づくと、俺がいる部隊の騎士達は目の前の光景に萎縮してしまっている。


 無理もない。敵は余りにも巨大。しかも通常兵器は効かない。狩る立場が一瞬にして狩られる立場に。人を恐怖に陥れるには十分だ。

 瞬間、空に大きな魔法陣が展開し、無数の光弾が『異界』へと降り注ぎ爆発した。


「うお!? なんだ!?」


 爆風の余波を腕で庇い目を凝らすと、魔法陣の前には赤髪の女の子が空中に浮遊している。ルルナだった。その左手には緑色に光る杖が握られている。

 光弾の直撃を浴びた大蛇は不気味な声を発しのたうち回っていた。その周りを動き回るいくつもの光の軌跡。大蛇の体と交差した瞬間、その体から血飛沫のように黒い液体が流れる。


 どうやら斬りつけられたようだ。唯一『異界』を斬りつけられる武器を持っているのは……。 


「姉貴達か!」


 動き回る光の軌跡に目を凝らすと、シェリル、姉貴、久遠の3人だった。シェリルが両手に構える剣は黄金色のように、姉貴の大太刀は燃えるように赤く、久遠の2本の太刀はそれぞれ白銀色と紫色に発光している。

 各々の『神器』を構え、大蛇の周りを走りながら斬り込んでいくその姿は威烈。


 大蛇が鎌首を起こした時、片目が弾け飛び続けて小爆発が立て続けに起こる。魔法による攻撃かと思ったがルルナは胴体の方を攻撃している。

 イザナだった。青白く発光している大型のライフル銃をあろう事か走りながら発砲している。その凄さに息を呑む。大蛇は成す術もないようだ。


「凄い……これが救世主、『神器』の力か……。この調子なら――」


 その光景を眺める。


「お、おい。なんか『異界』の周りに『凶禍』が増えていってないか?」


「――――!? まずいぞ! 銃騎士隊、魔道士隊、救世主達の援護をしろ!!」


「無理だッ! 距離が離れすぎているし今はこっちの聖騎士隊の援護でそれどころじゃない!!」


 騎士達の動揺した声が聞こえてくる。


 目を凝らすと『異界』の周りには『凶禍』が文字通り増えている。バラバラに散開していた『凶禍』が集まっているのではなく、『異界』が流した血によって新たに『凶禍』が生まれているのだ。

 次第にシェリル達の攻撃も鈍くなってきている。増えていく『凶禍』に気を取られてしまっているようだった。


 拙いと思った瞬間、その場から飛び降りた。

 迂闊だった。姉貴達の『神器』の力に見とれていて、これなら勝てると安堵していた自分が腹立だしい。


 「おい、お前ッ!!」


 近くに居た騎士に呼び止められたが無視し、姉貴達の元へと駆け出していった。



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