信じてください
わたしがアレクに追い出された次の日、アレクとイルは普通に授業を受けていた。ただ、イルはアレクの事を気遣いながらだった。
その為授業にあまり身が入らないようで、申し訳ない気持ちになる。
全部わたしのせいだから気にしないで、と言いたい。
そしてようやく学校から解放され、寮のアレクの部屋に三人集まった。
アレクはベッドに腰掛け、イルは椅子に、わたしは窓枠に座っていた。
「いいか、今から話すことは俺の妄想じゃない。今起きている事だ。」
真剣な顔のアレクに感じるものがあったのか、イルは真面目な顔になって分かったとはっきり言った。
それからアレクはわたしが聖職者にも見えない存在である事。何故か自分にしか見えないという事。二百四十年前の人間であった事。今そこにいる事を話した。途中、確認するようにわたしに目を向けてきたものに頷いただけで終わった。
「なんか信じられないけど、本当なんだよね。」
「当たり前だ。こんな事寝ぼけても言わない。」
アレクは後ろに倒れて溜息を吐いた。ベッドが揺れた。
「でもそれぐらいの事で良かったよ。もっと重いものかと思った。」
茶化しながら言うそれに対して、アレクは悪かったな大した事じゃなくて、と返した。
信じてくれた。それは幼馴染ゆえのお互いを知り尽くした結果である事が明らかだった。
「その彼女は今窓の方にいるの?」
イルがこっちを見たが当然、視線は合わない。
アレクが答えるとイルは何かを考えているようだ。
暗くなった事に気付いたアレクは机の上にある箱をいじると、それが光を発した。
斜めに切り込みが入っており、そこから光が漏れ出ているようだ。
変わったランタンを近くで見てみても仕組みが分からなかった。
「よし決めた!」
わたしとアレクは一緒にイルに振り返った。
「僕の魔道具で彼女を見えるようにするよ。もうアイデアは出てるんだ。死霊が見えるようになる魔道具を元に改良すればーー。」
ずっと喋り続けそうなのでアレクがストップをかける。
イルは不満そうである。
アレクが何かをイルに言って、嗚呼そうかとイルが声を上げた。
「僕の名前はイルファー・トレティーリア。イルでいいよ、よろしく。」
もうわたしのいない窓の方を見て言うから笑ってしまった。
「わたしはエーテル・フォレスター。エーテルって呼んで。こちらこそよろしく。」
勿論わたしの自己紹介はアレクに伝えてもらった。非常に面倒くさそうだったけれども。
さあ次はアレクの番だ。ところが待ってても言わないので、催促するとようやく口を開いた。
「…アレックス・レイグ。」
少々無愛想だが、してくれただけでありがたい事にしといた。
それからイルが一方的に話してくれた。
アレクの幼少期の事を面白おかしく語っては怒られていた。
例えば、木刀を素振りしていてすっぽ抜かして、イルに当たりそうになった事。家の手伝いをしないで木刀を振り回した為、父親に取り上げられた事。懲りずに木の棒を振り回してゲンコツが降り、掃除させられた事。
わたしは大きく笑ってそのやりとりを見た。楽しかった。わたしはもう独りではないのだと実感できた。
こんな楽しい時がいつまでも続けばいいのに。そう願うのを止められなかった。