驚きました
女教師の授業が終わり、本を鞄にしまい終わると皆が移動し始める。
もう学校は終わりなのかと思っていたが、アレクについていくと個室に入っていった。
アレクに入るなよと睨みつけられたが、気になる。
どうしよう、入るべきか入らざるべきか。
いやしかし、入るなって念を感じたから入っちゃ駄目よわたし。
そう言い聞かせていると、次々と生徒達が個室から出てきた。革の胸当てを付けており、模造刀を持っている。
チャンバラごっこでもするのだろうか。弟が友達と木の棒を振り回していたのを思い出す。
武装した集団は早足で廊下を歩いて広場まで来た。
そして綺麗に整列した。
そこでちょうど鐘が鳴る。
もしかしたらこれが授業の始まりと終わりを教えてくれているのかもしれない。
すると腕が丸太のようなガタイのいい中年男性が生徒達の前に出る。
「よおお前ら、もう聞いたとは思うが、来週は演習だ。もう六年目だが、もしヘマこいたら鍛え直してやるから覚悟しておけ。」
「んじゃいつも通り始めろ。」
言い終わると生徒達を鋭い眼光で睨みつける。手を抜くのは許さないと言わんばかりだ。
二人一組になって片方は足を投げ出して座り、もう片方がその背をグイグイ押していく。
交代して同じ事をやると、今度は立ってお互いに背をくっつけて、片方が腰を曲げて持ち上げる。そんな感じなのを続けていた。
これは準備運動なのかもしれない。
わたしが歌う前にハミングするのと同じなのかな。
そしてそれが終わった順に広場の外周を走り始めた。
五周しても息を整えるだけで疲れを感じさせる者はいなかった。あの細いイルも平気そうな顔をしている。
次は素振りだった。
百回振り終わるとまた二人組みを作って練習試合を始める。
きちんと始める時によろしくお願いします、終わるとありがとうございました、と勝ち負けに関わらずにお互い挨拶していて感心した。
それも終わると、中年の先生が動いた。どうやらアレクと対戦するらしい。
アレクは他の生徒と戦っても勝ち続けていた。どうやらアレクは戦士のセンスがあるらしい。
そうして始まった試合は皆が釘付けになる程の打ち合いだった。
お互いに攻撃されたら剣で受けるかそらすか躱して、隙を作って攻撃するのエンドレスだった。
流石にアレクは連戦もあってか苦しそうな表情をしている。
白熱した試合に生徒達はアレクを応援し始める。
わたしも負けずに声を張り上げた。
本人達も周りも白熱した試合だが、無情にも鐘が鳴る。
アレクも先生も剣を下ろす。ありがとうございましたとアレクは言った。でもアレクは不満そうだ。
先生も同じ感情を持っているのか溜息を吐いた。
わたしはアレクに駆け寄ってお疲れ様と言おうとしたが、剣がわたしを斬り裂いた。
「ありゃ、なんかいるかと思ったんだが気のせいか。俺も衰えたかな。」
剣は空気を斬る。
…先生、わたしの無い心臓が止まるかと思いました。後全然衰えていません。バリバリ現役できますよ。
今後絶対にこの先生の近くに寄らない事を心に決めた。
それからあっという間に一日は過ぎ、夕方になると三階建ての建物ーーアレクが言うには学校の寮らしい、に帰ってきた。
アレクの部屋に当然のように入るとやはり睨まれた。
ずっと聞こうと思っていた事を尋ねた。
「ねえアレク、わたしの目の色って何色?」
「はあ?黄色だろ」
ひどく面倒くさそうに言った言葉に驚愕した。
黄色?ちょっと待って、わたしの目はお母さんと同じ緑のはずなのに。
今のわたしって金髪に黄色の目?何それ、そんなの全然わたしじゃない。
「おい、どうしたんだよ。顔真っ青だ。」
「だって、わたしこんな色じゃなかった!お父さんの茶髪にお母さんの緑の目だったのに。わたしが誰だか分かんないよ…。」
話したことで落ち着き、混乱から悲しみに変わっていく。
アレクと同じ、綺麗な緑色だったのに。
「エーテル・フォレスター。それ以上でもそれ以下でもないだろお前は。」
アレクが疲れたように言った。
わたしはそれ以上でもそれ以下でもない…。つまりわたしはわたしって事?
「えっと、もっとワカリヤスクオネガイシマス。」
「お前ふざけるなよ…?」
何もふざけてないのに言われても反応に困るというか。なんというか。
「えっと、何独り言言ってるのアレク。」
ドアから顔を覗かせているのはイルだった。
「勝手に開けるな。」
アレクは唸りながら言うが、イルは困惑しているようだった。
「ちゃんとノックはしたよ?でも反応がないから様子見ようとしたんだけど。」
イルは昨日からなんか変だよ。病院に行く?と言っているが、それわたしのせいです。アレクになんだか申し訳ない。
でも流石幼馴染だな、些細な変化も分かるなんて。
「今日はもう疲れた、明日言うから出てけ。」
イルに言っているが、お前もだよと言われている気がする。
案の定睨まれた。
アッハイ、今すぐ出て行きます。