負けません
鼻歌を歌いながら妄想に浸ってどれぐらい経っただろうか。
楽しい時間は早く感じる。
目の前のドアノブがガチャリと音を立てた。赤毛の青年の入った部屋だ。
彼が出てくる!
目が輝くのがじぶんでも分かる。
赤い頭が覗いて周囲をキョロキョロと見回していた。
不思議に思って見つめていると「おい、ストーカー。うるさい帰れ」と睨みつけられた。
ふふん、そのぐらい処刑されたことにくらべたらどうってことないわ。
「わたし暇だもの。それにせっかくわたしを見れる人と会えたのだから、諦めないわよ。」
それを聞いて彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「聖職者を呼ぶぞ。」
それがわたしに対する脅しだと気づくまでキョトンとしてしまった。
そして大きく笑った。
「何がおかしい。」
彼は更に顔をしかめた。
「だって、聖職者だってわたしのこと見れないんだもの。見えないものをどうやって退治するの?」
そう言うと彼は唖然としてわたしを凝視した。
青年が言葉を失うのも無理はなかった。聖職者になるものは信心深い者が神より力を得てなるもので、それによって只人には見えないものによってもたらされる被害を解決したり、アンデッド系の魔物を討伐したりするプロだからだ。
わたしも最初は驚いた。ついうっかり聖職者の前を通った時には終わったと思った。
しかしスルーされて不思議に思ったものだ。
その後、何回も目の前を通ってもこちらを見る気配はなく、戦闘中の彼らと鉢合わせたものの攻撃されなかった。
多分、見えていないんだ。拍子抜けした。
今まで警戒していたのが馬鹿らしくなったものだ。
「お前は何者だ。」
彼の問いにわたしは勿論。
「エーテル・フォレスターよ。」
と、答えた。
「あれ、アレク。何してんの?」
階段を上がって来た金髪の少年っぽさのある青年が赤毛の青年に声をかけた。
ふむふむアレクというのね。
アレク、とわたしが呟くと、アレクは小さく舌打ちをした。
それを聞いた金髪の青年は「ええっ、僕何かした!?」と呻いた。
アレクはため息を吐いた。
金髪の人は何も悪くないわアレク。
「イル、何の用だ。」
イルと呼ばれた青年は目を眇めて「幼馴染なんだから別に用がなくったって…」と呟いた。
へぇ、幼馴染なんだとイルをジロジロ見る。
金髪はクルクルしている。天然パーマかもしれない。瞳は澄んだ青空のよう。体は細くて背は少し低めかな。
対してアレクは、イルに比べたら体はしっかりしているし、服に隠れているが筋肉も結構ついているのではないだろうか。
見比べ終わるとさっきから気になっていたイルの持っている物を見つめる。彼は大きめの木箱を持っていた。
観察していると突然イルがあっと声をあげた。
私とアレクがイルに目をやると、彼は興奮して目を輝かせていた。
「そうだ、いいアイデアが浮かんだんだよ。もう設計も頭の中にある。失くした物を探す魔道具、名付けて見つける君だ。」
自信満々で胸を張っているがネーミングセンスが残念すぎて凄さが分からない。
アレクもそう思っているのか、微妙な顔をしていた。
そもそも魔道具とはなんだろう。わたしの生きていた時代にはなかったし、家族を捜す旅でもそのような言葉は聞かなかった。
反応が悪いのに慌ててか、イルは説明し始める。
曰く、ずっと使っている物には持ち主の魔力がわずかに残るらしく、持ち主の魔力で魔道具を起動させればその人の微弱な魔力に反応するらしい。ただ、めぼしい所を歩き回らなければならないのだとか。
あったら便利かもしれないなぁ位かな。
アレクは更に中の構造について解説しようとしているイルの背を押して部屋の中に入れようとしている。
わたしもお邪魔しますとドアをすり抜けて部屋に侵入した。
アレクは当然盛大に顔をしかめて睨みつけてきたがスルーした。