出会います
王国の首都ガゼルに帰って来た。相変わらず人が多く、熱気に溢れている。しかし大分様変わりしていた。
悪い意味ではなく良い意味で。
以前より新しい変わった店が増え、きちんと整備された石畳に植物、市民の憩いの広場が出来ていた。
いつの間にか帝国は敗戦していて驚いた。
元帝国の領地は勿論。王国、魔法国家、連合国と大陸中回ったが、家族の痕跡も見つからなかった。
そもそもわたしが死んでから幽霊みたいな姿になるまで何日経っていたのかすら分からない。
この姿から今まで何年何十年経ったか数えなくなっていた。
食欲も睡眠も必要ない為時間の感覚が無くなってしまったからだ。疲労することもない。
その為、少しも休まないで探したが、見つからないという事はもうこのにはいないのだろうか。
でも仮にもう皆亡くなってるとしても弟の子孫はいるのではないか。
そもそも戦争で皆亡くなったとも考えられる。
嗚呼いけない。考えすぎると良くない。
こういう時は歌うに限る。
ステップし、時々クルクル回りながら歌う。
『青空に手を伸ばし
広げてみれば
何かが分かる気がして
光に透かしてみても
分からなくて
でも落ち着いちゃったり
嗚呼この広い空に比べたら
わたしの悩みなんて
ほんの些細なことなんだろな
でもね太陽が暖かく照らしてくれるから
もう少し頑張るね』
黄金の粒子が煌めいて周囲に消えるのにも慣れ、綺麗だと笑う。
そうしてる間に噴水のある広場に着いていた。
少し休もうかな。
噴水の縁に腰掛けて鼻歌を歌う。
鼻歌でも微弱だが粒子が溢れてうっすら体を覆う。
その時、視線を感じた。
そんなまさか、赤ちゃんよね。
今まで赤子には見られることはあったから。
でも今回は違う気がした。
ゆっくり視線を向けると幼さの残る赤毛の青年と目が合った。
目が合った?
青年と?
嘘、と声にならない息が漏れる。
信じられない気持ちと嬉しい気持ち。
気づいた時には駆け出して、青年の近くにいた。
「初めましてこんにちは。ええーと、わたしはエーテル。貴方の名前は?」
本当に久しぶりの挨拶に手間取りながら、なんとか言えたことに満足した。
ところが青年はわたしのことを最初からいなかったように背を向けて歩き出した。
待ってと声をかけても無視して離れていく。
わたしは慌てて後をついていく。
興奮していた。初めてだった。この姿になったわたしを見れる人は。
だからこの機会を逃したくなかった。
必死だった。
だから気づかなかった。
彼がドアを開こうとしてこっちを見て口を開いた。
正直期待した。彼が何を言うのか。
「いつまで着いてくるつもりだ。この変態。」
唖然としている合間に青年はドアの向こうに行ってしまった。
変態の意味を理解すると顔が熱くなる。おそらく真っ赤になっているだろう。
わたし、ストーカーみたいじゃない。でも、諦めるつもりはなかった。
例え罵られてもひっついてやる。
青年にとって傍迷惑な決意をして、ようやく周りを見る余裕ができた。
青年が入ったドアの他にもドアが並んでおり、どれがなんの部屋だか分からなかった。
階段も上った気がする。という事はここは少なくとも2階以上の可能性がある。
こんな大きな家を持っていることは貴族?
それとも金持ちなのだろうか?
さっぱり分からなかったが今はそれよりも彼があんな返事とはいえ返してくれたことが嬉しかった。
とりあえず彼が出てくるまで鼻歌でも歌っていよう。
それにしても彼の翡翠の瞳!
とても懐かしい。久しぶりに見た気がする。
今は鏡に映らないもんね。
後、あの赤毛。彼は腰まで三つ編みで垂らしている。
あれで色々な髪型ができる。妄想が捗るわ。
ふふふと笑みが零れた。