◆家須賀 処刑直前の祈り
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家須賀、かくて甚だしく驚き、かつ悲しみ出でて、弟子たちに言い給う
「わが心いたく憂いて死ぬばかりなり、汝ら此処に留りて目を覚まし居れ」
少し進み往きて地に平伏し、もしも得べくば、間も無く来る苦難が己より離れんことを祈りて言い給う
「守よ、守には能はぬ事なし、願わくばこの辛苦を我より取り去り給へ。
されど、守の御意なれば、われを御心のままに従わせ給え」
帰り来たりて弟子の眠れるを見、弟子に言ひ給う。
「なんぢら眠るか、一時も目を覚し居ること能はぬか。
なんじら誘惑に陥らぬよう、目を覚しかつ祈れ。心は熱すれども肉体は弱きなり」
再び往き、同じ言にて祈り給う。
また来りて彼らの眠れるを見給う。是、弟子たちの目いたく疲れたるなり、彼ら何と答うべきかを知らざりき。
三度来りて言い給う。
「今は眠りて休め。足れり、時きたれり。視よ、われ人の子は罪人らの手に渡さるるなり。
視よ、我を売る者ちかづけり」
弟子の一人なる自由田、やがて近づき来る。
祭司長・学者・長老らより遣されたる群衆、剣と棒とを持ちて自由田に伴う。
……
そのとき弟子みな家須賀を棄てて逃げ去る。
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――円子伝 福語録




