1話 1
1話 チョコの死
(人)
急いで家に帰ると、リビングのテレビの前で犬が手足を前に出して伸びるように死んでいた。
「チョコ」
名前を呼びながら抱くが体にはすでに体温がなかった。
後ろで旦那が私の腕のなかで死んでいるチョコを見て、涙声を上げた。
私もつられるようにしゃくりあげると、胸が苦しくなった。
こうなったのも私が悪いのだ。
昨日、結婚記念で外出していた。予約していたホテルの一流料理を堪能して、スパを生まれて初めて体験して、チョコにご飯をあげ忘れていたのを気づいたのは翌日になってからだった。
急いで帰ってきた。
最近、チョコの調子が優れないこともあって、嫌な予感はしていたのだ。
ご飯はあまり喉を通らなくなり、散歩にもろくに出かけなくなった。獣医からは「寿命でしょう」と言われていたので、注意深く見てたつもりだった。やってはいけない失態だった。
チョコとは十年来の仲だった。中学二年のときから飼い始め、結婚したあとも実家には置かなかった。それは親がしつけできないというわけではなく、連れていきたかったのだ。
家に帰れば一番に寄ってきてくれる。そんなチョコが大好きだった。
チョコは最初捨て犬だった。一時期は誰の家にもいけないということで、私も見てみぬフリを続けていたが、ある日部活の帰り道チョコが同年代の男の子に殴られているのを目撃した。
ぼろぼろになった体、その小さな体が汚されるのをこれ以上見ていられなかった。
私はすぐ家にもってかえって、親に言うと、案外すんなりと飼うことができた。
チョコは人懐っこかった。誰にも着いていくので、散歩するだけでも一苦労した。
チョコはダックスフンドだったので大きくなってもさほど変わらず家の中で飼うことができた。
犬嫌いだった父はチョコだけは可愛がり、母も私の変わりに散歩へ行ってくれた。
そんなチョコが今、私の手の中で死んでいた。
涙が止まらない。結婚記念なんてしなけりゃあよかった。
チョコは誰にも見られずに死んでいった。苦しかっただろう、悲しかっただろう
チョコが最後に何を思ったのか、考えるだけで自分を呪い、恨んだ。
ごめんねチョコ
私何もしてあげられなかった
ごめんね
死んだ体を強く抱き締めた。