第20話・TASTE!異世界の常識を食い破れ
ドアがノックされる音で、俺は思わず飛び起きた。
いつの間にか、うたた寝しちまった……。
「起きた? ルーグさん達が来たわよ」
「おう! 準備万端だ!」
華蓮がドアを開けるのと同時に、鍋の蓋も開ける。
部屋中にビーフシチューの匂いが広がって、たまんねぇ!
ルーグさん達が、わいわいしながら顔を出す。
「なんだこの匂いは……!?」
「ふふん、期待していいっすよ!」
「家の外までいい匂いがしてきてたよー! 早く食べたーい!」
「さ、座ってください!」
六人分の木皿にビーフシチューを盛り付ける。
もちろん、ゴロゴロとした肉をたっぷりと入れて。
そうして、皆の前に皿を並べて──
「おまちどうさんです! 創太特製・魔獣肉のシチューです!」
「シチュー……だと?」
「凄い色、ですね……」
「こんな色、見たことねぇ……」
「でもでも! すっごくいい匂いだよー!?」
俺達からすれば普通のビーフシチューだけど、この世界でこの色のシチューは異色なのか?
みんなの表情が強ばり始める。
カレーとか、どんな反応になるんだ……?
「俺の故郷の、贅沢飯の一つっす!」
「味はもちろん保証しますよ?」
いつの間にか、華蓮もちゃっかり席に座っている。
でもフォローさんきゅ!
「さぁさぁ、冷めないうちに食ってください!」
「あ、ああ……」
「いただきます……」
みんな様子見なのか、スープから飲み始める。
いやまぁ、気持ちは分かるけどさ……。
一口飲んだ瞬間、みんなの動きが止まった。
「ソータ……」
「な、なんすか?」
「何をしたらこんな味になる……?」
「はい?」
「こんなもの食ったことない、いや、何だこの味は──!?」
語彙力を失っているかのように、ブツブツと呟き出すルーグさん。
なんだなんだ、何かまずいことしたか!?
「もー、ルーグはー! すっごく美味しいよ、ソータ!」
「……ははっ、そうだな! 美味すぎる!」
「ルーグの気持ちも分からないでもありません……それ程までにこのシチューが美味しすぎて……!」
「…………」
まぁ、美味すぎるものを食った時って、「美味い」とか「やばい」しか出ねぇもんなー。
ふと華蓮を見ると、黙々と一人、笑顔で食べ続けていた。
客人ほったらかして、自分だけ楽しむなよ……。
「肉も三時間は煮込んだんで、バッチリ柔らかいっすよ!」
「さ……っ」
「ん、じかん……!?」
「料理一つに三時間も……?」
「は、はぁ……」
そんなに不思議なことなのか?
数時間の煮込みくらいは当たり前の工程だと思ってたけど……。
もしかして、この世界の料理って相当……?
「なっ、この肉……スプーンで切れるぞ!?」
「あむっ、んぐんぐ……や、柔らかーい!!」
「口の中でもお肉がほろりと……!」
「…………!」
うんうん、その感動は俺にも分かる。
しかも、ただ単に柔らかいだけじゃなく、煮込みなのにジューシーってところが、この魔獣肉の凄さなんだよな。
華蓮も頷きながら食べている。
てか、もう食べ終わるじゃねーか……。
と思っていたら、おもむろに皿を差し出してきた。
「兄さん、おかわり」
「おまっ、ルーグさん達を差し置いて黙々と食ってんなよ!」
「良いじゃない、まだたくさんあるんだもの。それに……初めての料理で戸惑うルーグさん達の気持ちも分かります」
華蓮はスプーンを置き、ルーグさん達に視線を向ける。
「皆さん、美味しいですか?」
「あ、ああ、そりゃもちろん……」
「でしょう? 美味しいものは美味しい、それで良いんです」
なんだよ、その自信たっぷりな表情は……。
でも、あながち間違ってないよな。
そして華蓮は立ち上がると、カウンターからパンを取り出す。
さすが華蓮、買っておいてくれたのか……。
そしてパンを持ち、ニヤリとしながらみんなに告げる。
「シチューはパンに付けて食べても美味しいんですよ……?」
食べる手を止めて華蓮を見つめる皆が、わっと動き出す。
「カレン、俺にもくれ!」
「あっ、ずるいー! ぼくもー!」
「わたくしも……!」
「……俺にも」
それぞれがパンを手に取ると、シチューにたっぷり浸して口に運ぶ。
「うっ……うまい!」
「なにこれ、おいしいー!」
「硬いパンを柔らかくするために浸すことはありましたが……」
華蓮は満足そうに頷くと、自分のパンを黙々と楽しみ始める。
俺もそろそろ食うか!
「うーん、うま!! さすが俺!」
ただのビーフシチューで、こんなに喜んでもらえるとは思ってもみなかったなぁ。
……まぁ、暇つぶしも出来ない三時間は、さすがに地獄だったけど。
「おかわり!」
「ぼくもー!」
「わたくしも……」
「……肉多めで頼む」
次々に皿を差し出され、それに応えながら、カウンター下に保存しておいたヨーグルト漬けの魔獣肉を取り出す。
「まだまだシチューはありますけど……こいつの分のお腹、残しておいてくださいね?」
魔獣肉をぺちんと叩きながら、俺はニヤリと笑った。
ちなみに。
ステーキ肉を取り出した時の華蓮は、この中で一番、目を輝かせていた。
……なんでお前が、期待の眼差しなんだよ!
読んで頂きありがとうございます!
応援して頂けると励みになります。
次回更新・3月19日




