第1話・HELP!異世界に来ちゃった双子
……正直に言う。
俺はこの瞬間をちょっと待っていた。
「異世界召喚じゃんこれー!!!」
これーこれーこれー…と辺りに声がこだまする。
目の前には、どこまでも続く草原。
見慣れた田舎の風景に似ているのに、何かが違う気がする。
何がと言われても分かんないんだけど……。
隣で、妹の華蓮が深いため息を付きながら言う。
「おじいちゃんが言ってた神隠しって、きっとこのことだったのね……」
「神隠し……なぁ、華蓮。ここどこだと思う?」
「少なくとも……日本じゃない気がするわね」
俺たちは辺りを見回す。
ついさっきまで神社の境内にいたはずで、朝の掃き掃除を終えたばかりだった……はず。
「てか、さっきまで境内にいたよな」
「そうね。兄さんが掃除に飽きて、ホウキを振り回しながら技名を叫び出して……。
そしたら周りの景色が、だんだん薄くなっていって……」
「あれはほら。こういう時の為のイメトレだって」
「今日び、小学生でも言わないわよ。ファイヤーソード、なんて」
「う、うるせぇ!」
華蓮はスマホを取り出し、操作を試みる。
俺も覗きんでみるとアンテナは立っていない。
「……だめね、圏外だわ」
「そりゃそうだよなぁ……」
その時。
草むらの向こうで、ガサッと何かが動いた。
「……今なんか音しなかったか?」
「そこの茂み……何かいる……?」
俺たちは手を取り合い、茂みを見つめた。
ガサガサと草が揺れ、音の主が姿を現した。
「……ウ、ウサギ?」
「ウサギ型のモンスターぽいなー。
よく初心者用の雑魚モンスターで見るけど、可愛いなー!」
「????」
ゲームをしない華蓮は戸惑いつつも、ウサギモンスターの可愛さに表情は緩んでいる。
気持ちはめっちゃ分かる。
「……ね。エサとかあげられるかしら……?」
そう言って1歩、手を出しながらモンスターへ近付こうとしている。
「ま、待てって華蓮!そういうの大体──」
ガブリ。
俺の制止も虚しく、手を差し出した華蓮は容赦なく噛み付かれた。
「──ッ!」
「ほれみたことか!可愛くったってモンスターなんだから……」
俺は慌てて華蓮のところまで駆け寄り、噛まれた手を取る。
うわ、痛そー……。
──その瞬間
べちっ!
静かな草原に鈍い音が響く。
華蓮が手に持っていたホウキで、モンスターを上から叩いたのだった。
「ちょ、おま……」
「……オイタはだめよ。ね?」
「モンスター相手に何言ってんだよおおお!?」
華蓮を揺さぶりながら叫ぶ。
揺さぶられながらも、モンスターをまっすぐ見つめて叱る華蓮。
何でそんなに冷静なんだよ!?
「に、逃げるぞ華蓮!ホウキじゃ武器になんねーよ!はやく……」
すると草むらからわらわらとウサギが出てくる。
わー、ウサギがいっぱーい。
って現実逃避してる場合じゃねぇ!
「や、やばいだろ、これ……」
ゲーム開始時、雑魚モンスターを甘く見て即死する。
よくあることだ。
でもそれゲームの話だよな?
これゲームじゃねーし、死んだらどうなるんだ……?
スタート地点にリスポーンされるのか?
てかスタート地点てどこだよ!
俺はパニックになりつつも、冷静になろうと試みる。
「兄さん」
「な、なんだよ!?」
「あんなに沢山、一度に躾けするのは無理よ」
「ゲームでもペットでもねーんだわぁああ!?!!?」
次の瞬間だった。
風を切る音とともに、何かが視界を横切る。
ドンッ、と大きな音がして、先頭にいたウサギ型モンスターが吹き飛んだ。
「うおっ!?」
驚いて声を上げた俺の前に、剣を構えた人影が立つ。
「無事か?」
振り返ったその男は、軽装の鎧に剣を携えた、いかにも冒険者といった風貌だった。
「か、華蓮が噛まれて!あの、ウサギが!血が出て!妹がホウキでバシッと!」
俺は捲し立てるように話し始める。
突然の展開に思考が追い付かないからだ。
兄として冷静でいたかったけど、無理だった。
「兄さん、落ち着いて」
「なんでお前が落ち着いてるんだよ……」
パニくる俺を冷静に諭す華蓮に、思わず冷静にツッコんでしまった。
こいつ、肝が据わりすぎだろ……。
「ぶはははは!」
俺たちのやり取りを見ていた冒険者が笑い出す。
「はは…っ!お前ら冒険者なりたてか?この辺は初心者向きとはいえ、油断すると痛い目にあうぞ?」
笑いながらもチラリと華蓮の手を見る。
「傷は浅いが…。ポーション持ってないのか?」
「ポ、ポーション!?」
待ってました!と言わんばかりのテンションで、叫んでしまう。
いやほら、ゲーマーとしては反応してしまうわけで……。
「………」
冒険者がジッと俺らを見つめる。
「お前らのその服…。もしかして召喚者か?」
「え。」
俺の間の抜けた声に、冒険者は小さく息を吐いた。
「やっぱりな」
「やっぱりって……?」
「まずその服装。その反応。……最近、似た連中が何人か現れてる」
「えぇっ!?」
男は剣を鞘に戻しつつ、周囲に視線を走らせる。
「ウサギどもは一旦散ったが……長居はできん。
カレンと言ったか、手を出してみろ」
冒険者は腰のポーチから小瓶を取り出す。
透明な液体が、淡く光っていた。
もしかしてそれが……!?
「回復ポーションだ。浅い傷ならこれで塞がる」
華蓮は素直に手を差し出す。
俺は半信半疑のまま、じっとそれを見つめていた。
ポーションが傷口に触れた瞬間、シュワッと小さな音がする。
瞬く間に傷口が消えてしまった。
「わ……」
「すげえええ!」
興奮する俺たちを見て、冒険者は少しだけ口角を上げた。
「驚くほどのもんじゃない。ギルドで普通に売ってるしな」
「いやいや!そもそも日本にギルドなんてないっすよ!」
「……ニホン?」
冒険者の眉がピクリと上がる。
俺たちをじっと見据え、ふぅ、とため息を付いて続ける。
そ、そんな見ないで……。
「……やはり、召喚者だな」
「え、いや、えーと、その。なんてゆーか、なぁ?」
俺は必死に誤魔化そうと、しどろもどろになりつつ華蓮に目線を移す。
「……兄さん」
そう言って、深いため息を付く華蓮。
呆れるなよ!
剣の柄に手を置いたまま、冒険者は続ける。
「保護対象として連れて行くか、それとも異世界人として始末するかは──お前ら次第だ」
カチャリと剣の音が響く。
ゴクリと喉が鳴る。
──やばいやばいやばい……!
このままじゃ冒険が終わっちまう。
何とかして切り抜けないと──
張り詰めた空気の中、俺は思考を巡らせる。
すると華蓮が口を開く。
「……あの」
「何だ」
「監禁されるか、殺されるかのどちらかってことですか?」
「か、華蓮!?お前何言ってんだよ!?」
「だって、そういう意味じゃないの?」
「そーだとしても!何だよその冷静さ!?」
ぶはっ。
突然、冒険者が笑い声を上げる。
「ぶはははは!すまんすまん、からかい過ぎたな!」
ポカーンと見つめる俺らを尻目に、笑いながらも続ける冒険者。
「いやな。たまに“こちらの世界”じゃない人間が出現する現象が起きてるんだ」
「ど、どうしてなんすか?」
「さぁなぁ。何でも神々の仕業だとか、誰かが召喚の儀式をしたとか、色んな噂があるんだが定かでなくてな」
──そんな異世界召喚あるのか?
普通は勇者召喚とか、死んだから転生するとか……何かしら理由ってあるもんじゃねーの?
「……なるほど。」
華蓮が小さな声で呟いた。
「……?」
華蓮の呟きに目を向けると、冒険者は続けて言う。
「まぁ、本人が望めば《異世界人は保護する》って決まりがあるんだ。
俺も異世界人に会ったのは初めてだが……」
「……保護って、どこかへ連れていかれるんすか?」
「ん、ああ。まずはどこかのギルドで身分証の発行をする。その時に保護申請をして連絡を待つ……という流れらしい。
俺も詳しくは知らなくてな」
「ギルド……身分証……冒険者登録ってこと!?やべー!楽しくなってきた!なぁ華蓮!!」
思わずはしゃぎだしてしまう俺。
そんな俺を見て華蓮は、やれやれといった表情でため息を付く。
「……兄さんが何言ってるのかよく分からないけど…。お気楽にも程があるでしょ」
「せっかくなんだし楽しまなきゃ損じゃね!?うわー、どうしよう!職業とかスキルとか……チートスキルとか……!」
「……何言ってるか、全然分からないわよ」
ニヤニヤした表情でブツブツしだす俺。
ゲームをしない華蓮からすれば、俺が言ってる意味が全く分からないらしい。
そりゃそうだ、華蓮はゲームしないもんな。
帰れるかどうかも分からないのにキラキラし出す自分の兄。
それを毛虫を見るかのような表情で眺める華蓮。
そんな目で見ることないだろ……。
そんな俺を放置して、華蓮は冒険者に向かって深々と頭を下げた。
「お礼をきちんと言えていませんでした。
危ないところを助けて頂きありがとうございます。
改めて……双子の妹の華蓮と申します。あのブツブツ言ってるのが兄の創太です。
保護の件、よろしくお願いします。
それと……こんな兄ですみません」
「ははっ!しっかり者の妹だな!
そういえば自己紹介がまだだったな。
俺はルーグ、Cランクの冒険者だ。よろしくな!」
こうして異世界召喚されたらしい俺たちは、冒険者ルーグと共に街へ向かうことになった。
まだ信じられない気持ちと、少しの不安。
──いや正直なところ
不安を吹き飛ばすくらいのワクワクを抱えて、俺たちの異世界スローライフは始まった。
「ていうか兄さん、今ちょっと嬉しそうよね?」
「いや別に!?全然!?」
「もう!口元がニヤけてる!」
……俺のこのドキドキは誰にも止められねぇ!
よーし、せっかくの異世界だ!
思っきり楽しんでやるぜー!
読んで頂きありがとうございます!
創太と華蓮は異世界に来たばかりで、まだ力もスキルもない状態です。
これから少しずつ二人の冒険や日常の様子を描いていきますので、温かく見守っていただけると幸いです。




