【第96話】再会
【第96話】再会
倒れた女性──獣耳と尻尾を生やした獣人族の女性を、俺たちはひとまず家へ連れ帰ることにした。
女性を肩に担ぎ上げるナヴィ。
そして俺は、その女性が落としていった樽を持って家に戻る。
家に着くと、ナヴィはそのまま女性を雑に床へ転がした。
「うわ、そんな乱暴な……」
「人の顔を見て気絶するやつなぞ、このくらいで十分じゃ」
床に転がった女性はうなされていたので一応ヒールをかけておいた。
「さっきナヴィの名前を呼んでたみたいだけど、知り合い?」
「うむ、以前──」
ナヴィが言いかけたところで、女性の耳がぴくりと動いた。
「ん……んん……?あれ、ここは……さっきのは夢っすか……?」
のそりと上体を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。
そしてナヴィと目が合った瞬間──
「…………っ!!!」
獣耳がへにゃりと垂れて小刻みに震え始めた。
「久しいな、ランファよ」
「な、ナーヴェリア様!?!?ゆ、夢じゃなかったっすーー!!」
……うん、まあ、危険はなさそうだから良いか。
気づけば、獣耳の女性は床にぺたりと伏せ、
ナヴィはソファに足を組んで座っていた。
ちなみに俺はその後ろで立ってます。完全に傍観者の立ち位置だ。
「お主は戦場で死んだと聞いておったのじゃが……まさかこんな村におったとはな。また会えて嬉しいぞ、ランファよ」
ランファ、どうやらそれが彼女の名前らしい。
伏せた姿勢のまま、ランファは冷や汗をだらだら流しながら口を開く。
「お、お久しぶりっす……ナーヴェリア様。えっと、その……あの……」
「顔をあげよ。何があったか話せ」
普段の彼女とは違う雰囲気……元幹部の威圧感がにじみ出ている。
「は、はい……えっと……」
どうやらナヴィの元直属の配下らしい彼女の口から、これまでの語られた内容をまとめると、こうだった。
① 約20年前、戦場で人間の子どもの孤児を見つけた
② 人間とはいえ子どもを見捨てられず、そのまま勢いで無断離脱してしまった
③ 魔王軍には戻れず、人間軍にも見つからないように流浪生活
④ 最終的にこの村に辿り着き、いまは畑仕事の他に村の守り手(主に魔物討伐)として暮らしている
「……そうか。お主も中々に苦労をしたようじゃな」
ナヴィは目を細めた。その声音は柔らかく、労うようなものだった。
「な、ナーヴェリア様……」
「ところでランファよ。先程、我を見て即座に気絶したのはどういう了見じゃ?」
あっ、流れが変わった。
「にゃッ!?あ、あれはっすねぇ……最初は魔王軍の追っ手が来たのかと……てっきり自分が処分されるのかと思ってぇ…」
「なるほどのう」
「あとは、ナーヴェリア様とのじこk…修行の日々を思い出してしまってぇ……」
「……ナヴィ?」
「違う!違うぞ主殿!我はそんな酷いことはしておらぬ!!」
「ギガントワームの巣に投げ込まれた時は死ぬかと思ったっす……」
「……ナヴィさん?」
「も、もうよい!!過去の話は一旦やめじゃ!忘れるのじゃランファ!!」
そんなこんなで重い空気もなくなった頃、ランファが口を開いた。
「ところで……ナーヴェリア様、えらく可愛いお姿になってるっすね……?というか、なぜこの村に?」
「訳あって我も魔王軍にとって死亡扱いとなっておってな。見た目も名前も変えたのじゃ」
「はぇぇ……そうだったんすかぁ。あ、そういえば……そちらの方は?」
唐突に俺を見るランファ。
「あぁ、俺は──」
「我の夫じゃ」
「えっ!?」
「えええええ!?あのナーヴェリア様に、ご、ご伴侶が!?」
「ランファ……?どういう意味かのう?」
顔はにっこりしているが、ナヴィの背後に黒いオーラが見える気がする。
「ひぇ、口が滑っ……なんでもないっす!!」
俺はこっそりナヴィに詰め寄る。
(ちょ、ナヴィ!?どういうこと!?)
(変に勘繰られるよりこの方が都合がよい。村長にも夫婦で通しておるじゃろう?)
(……そういえば、訂正してなかったかも)
村長のハルラスの勘違いを訂正しようとしたとき、ナヴィに止められたのを思い出した。
なるほど、きっと何か彼女なりの考えがあるのだろう。
そんな事を考えていると、隣のナヴィが小さく何かを呟いていた。
(我のものであると示しておいた方が色々と都合が良いからの)
「では!自分は畑の水やりの途中だったので失礼するっす!」
「うむ、役目に励むのじゃぞ」
ランファは元気よく立ち上がると、樽を軽々担ぎ上げ、尻尾を揺らしながら走って戻っていった。
こうして、思わぬ遭遇から始まった再会劇は、ひとまず幕を閉じたのだった。




