【第95話】屋根裏と買い物と泡
【第95話】屋根裏と買い物と泡
翌日。
大樹の村に来て初めての朝は、昨夜よりもずっと静かでのんびりした空気だった。
……多少埃っぽいけど。
今日は家の掃除をもう少し進めつつ、午後には村の探索と買い物をする予定だ。
「じゃあ、午前中は二階を重点的に片付ける感じで」
「うむ、掃除のコツは掴めたからのう、任せるのじゃ」
村長に貸してもらった空き家は二階建てでそれなりに広い。
その分作業箇所も多いので、今日から二人で手分けすることにし、俺は寝室の隣の部屋、ナヴィは更に隣の部屋を、それぞれ掃除することにした。
しばらくして、部屋の掃除が終わった俺は2階の廊下の雑巾掛けを始める。
屈んだ体勢での雑巾掛けはおっさんの腰に響くので、魔力の腕を伸ばして雑巾掛けを進めた。うん、我ながら良いアイディアかもしれない。
ドタンッ ガタンッ
すると、廊下の天井から妙に響く音がした。
「……ナヴィ?」
気になって隣の部屋に移動してみると、天井にある四角い入り口が開いており、梯子がかけられている。
そしてその穴から――
「主殿ー、屋根裏の入り口を発見したぞー!」
ナヴィが顔だけひょいっと出してきた。
見事に埃まみれである。
「うお、ナヴィ真っ白になってる」
「物を動かすたびに埃がすごくてのう、一番酷い有様じゃぞこの屋根裏は」
「おお…なるほど。何か面白いものでもあった?」
「山のように本が積まれておったな。中身は知らぬ」
天井からシュタッとナヴィが飛び降りる。
付着していた埃が部屋中に舞い、掃除途中の部屋が一気に埃まみれになってしまった。
「うーん……よし!今日の掃除はこれくらいにして、午後は買い物に行こっか。ナヴィ、とりあえずシャワー浴びてきなよ」
「うむ、そうするかの。……よく見れば主殿も汚れておるではないか。一緒にどうじゃ?我が主殿の身体を隅々まで洗ってやるぞ?」
ナヴィがじりじりと距離を詰めてくる。
その顔はニヤニヤしており、絶対からかっているやつだった。
「そうだね、たまには一緒に入ろうか」
いじられっぱなしも悔しいのでたまには反撃してみることに。
「!?」
するとナヴィの動きが固まった。
突然の反撃に目がまん丸になっている。
「なーんて、冗談だよ「主殿もついにその気になったのじゃなぁ!!行くぞ!!すぐ行くのじゃ!!」
「ちょ、ナヴィ!?待って!冗談だって!ほんとに冗談!!ごめんごめん!!」
物凄い勢いで廊下を引き摺られていく!まずい!力じゃ勝てない!!
――結局、俺が全力で説得(謝罪)してなんとか事なきを得た。
昼過ぎ。
身支度を整えた俺たちは村へ買い物に出かけた。
まず向かったのは食料雑貨店。
店の棚には肉、野菜、香辛料、調味料……思ったより品揃えが豊富だ。
今夜の食材を買う際に店主へ話を聞いたとこ、肉は村の狩猟人達が森から獲ってきたもので、野菜は村で育てているものらしい。そのほかはマルシャの街から定期的に品物を仕入れているとか。
次に訪れたのは家具屋。
買う予定はなかったが、店の前を通ったらナヴィが興味津々で覗き込んでいたので寄ることに。
「うーむ、二人で寝るには手狭な寝具じゃのう」
(……ノーコメント)
ナヴィは真剣に寝具を選んでいた。
今滞在させて貰っている家にはベッドがなく野宿用の寝袋を使っていたので、滞在期間によっては購入も検討しておくべきだろうか。
ベッドのオーダーメイドについてナヴィが店主と話し始めたので、何も聞かなかったことにしながら他の家具を見て回る。
なんだかんだで長居してしまった。
その後、小さな雑貨屋で調理道具をいくつか新調し、帰り道へ。
「あ、最後に御神木を見に行ってみようか」
「うむ」
村の中央にそびえる大木。
間近で見ると、圧倒されるほど大きい。
「近くて見ると余計にこう……大きいねぇ……さすが御神木」
「くは、気の抜けた感想じゃな」
「いやー、大きいこと以外に言葉が出てこなくて」
そんな話をしていると、ナヴィがふと足を止めた。
「ん、どうかした?」
「んー?……この木……んんー?」
ナヴィが眉を寄せ、木の根元に視線を向ける。
何か気になることでもあるのだろうか。
ドカッ!バシャァ!
すると突然、すぐ後ろで何かをひっくり返したような音が響いた。
振り返ると――
水の入った樽を落としたらしい、獣耳と尻尾の生えた女性が立っていた。
魔族――獣人族の女性はこちらを見たままワナワナと震えており、青ざめた顔で口を開いた。
「う、嘘……なんでこんなところに……?で、でもこの匂い……まさか……」
そして、震える声で言った。
「ナ、ナーヴェリア様……!?」
「!?」
ナヴィの本当の名前を知ってる!?まさか魔王軍の頃の……!
「む?貴様は……」
当のナヴィは眉間に皺を寄せつつ、相手の顔を思い出そうとしながら声をかけ、歩み寄ろうと一歩足を出した。すると――
「にゃ、にゃひぃぃぃい!?!?」
女性は悲鳴をあげて倒れてしまった。
うわ!泡を吹いてビクンビクンしてる…!?
「…………ナヴィ?」
「なぬ!?我のせいか!?」
とりあえず、このまま放置するわけにもいかないため、家まで連れて帰ることにしたのだった。




