【第94話】掃除と食事と冒険譚
【第94話】掃除と食事と冒険譚
村長に案内された家の中を見て回る。
家は二階建てで、以前の街で住んでいた家よりもずっと大きな家だった。
が、広いということはそれだけ掃除や補修箇所も多いということでもある。
「とりあえず、玄関とリビング、それから寝室だけ先に片付けようか。生活できれば十分だし」
「うむ、そうじゃな」
実際この村にどれくらい滞在するかも決めているわけではない。
長居しないのであれば、最低限の生活環境だけ整えておけば問題ないだろう。
そんなこんなで掃除開始。
天井の蜘蛛の巣へ向けて、魔力の腕を伸ばしてはたきで払い落とす。高い場所でも脚立いらずで随分楽だ。
「その腕、ずいぶん使いこなしておるのう」
「護衛の3日間は色々と使う場面が多かったからなぁ。今なら三本出しても自分の手足みたいに使いこなせるよ。……まあ、見た目はちょっとアレだけど」
にょきっと背中から三本の腕を生やした各手にはたき、ちりとり、箒を持つ俺。
「くはは、逆に似合っておるぞ」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
そんな他愛もない会話をしながら掃除を続け、気づけば外はすっかり夕方の色に変わっていた。
一先ず生活空間だけでもまともになったか、と作業を中断したところで、コンコンと扉が叩かれた。
「はい」
扉を開けると、そこには村長のハルラスが立っていた。
「こんばんは、アキオさん。掃除は進んでいますかな?」
「あ、こんばんは。掃除は……まあ、最低限はなんとか片付きましたかね」
「それは良かった。もしよければ、夕食をご一緒しませんかな?村の食堂を案内しますよ」
「そうですね。キリもいいので…「主殿、早く行くぞ!我は腹が減っておるのじゃ!」
喋っている途中にすごい勢いで袖を引っ張られた。
確かに今日は移動や掃除でかなり体を動かしたし、俺も腹ペコだ。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
こうして俺たちは村長に案内され、村の食堂へ向かった。
この村には酒場と食事処、二つの店があるらしい。
今日案内された食事処は、小さな看板が灯る温かい雰囲気の店だった。
扉を開けるとカランカランと鐘の音が鳴り、恰幅のいいおかみさんが笑顔で迎えてくれる。
「おやまぁ、ハルラスさん!いらっしゃい!……あら?後ろの人たちは見ない顔だね?」
「こちらのお二人は今日この村に来られた旅の方でしてな」
「まぁ!じゃあアンタたちが噂の!」
「噂……?」
首を傾げる俺に、おかみさんはにこにこと笑いながら説明する。
「この村に外から人が来るなんて滅多にないからねぇ。昼間に新しい顔を見たって話が、もう村中に広まってるよ」
(なるほど。確かにこういう場所なら話題くらいにはなるか)
案内された席に着きメニューを注文する。しばらくすると料理が次々に運ばれてきた。
どれも温かくていい匂いだ。
食事をしながら、ハルラスさんに旅の話を色々と聞かれた。
全部を話すわけにもいかないので適度にほかしつつ、これまでに寄った街や遺跡探索のことを話していると──
気づけば周りに人が増え、いつの間にか小さな宴会のような賑わいになっていた。
特に盛り上がったのは遺跡の話で、質問攻めにされるほどの盛り上がりだった。
ちなみにナヴィはおかみさんや女性客に捕まっていたけど、意外にも満更ではないようだった。
というか、めちゃくちゃ餌付けされていた。
(少し心配だったけど、楽しそうならいいか)
こうして、俺たちの“大樹の村”での最初の夜は、温かく賑やかな空気の中で過ぎていった。




