【第91話】魔族
投稿遅くなりました、すみません!
【第91話】魔族
ニトラーゼを撃破し、ようやく静けさが訪れた裏庭。
しかし、ニトラーゼに寄生されていたガルドの顔色はひどく、リズベルが駆け寄り揺さぶっても反応はなかった。
屋敷に戻り、ガルドを客間のソファへ寝かせる。
意識は戻らずまるで死人のようにぐったりしている。
「親父……!おい、しっかりしろよ!親父!」
リズベルが呼びかけても反応はない。
その後ろで、俺はナヴィに声をかけた。
「ナヴィ、今回の件ってさ、ガルドさん……本人の意思なのかな?」
俺の問いに、ナヴィは肩をすくめた。
「寄生型の異形族はの、寄生した体を“乗り物”として扱うのじゃ。支配された時点で本体の意識は消えるはずじゃから、薬を流しておったのはあやつの意思ではあるまい」
「……なるほど」
デズが補足するように口を開く。
「そして、寄生された時点で身体はただの器だ。寄生元が消えれば……器の方は……」
言葉を途中で止め、目を伏せるデズ。
リズベルはガルドの前で拳を握りしめる。
「薬で苦しんだ人たちのこともあるから……裏の掟を破った親父が“大元”だと思って、殺すつもりでいたんだ」
「でも……黒幕が別にいたって……親父も被害者だって……そんなの……」
その横顔は、強気な彼女らしくないほど弱々しかった。
俺はそんなリズベルを見て、俺は決意した。
「俺が治してみる」
「え……?」
リズベルが顔を上げこちらを見る。
「絶対とは言えないけど、やれるだけのことはやりたい……いいかな?」
デズは無言で頷き、リズベルも迷いながらも「頼む」と言った。
俺はガルドの胸に手をかざし、ヒールを発動する。
淡い緑の光が広がり、ガルドの全身を包み込んだ。
すると、死人のようだった顔色がみるみる赤みを取り戻し、苦しそうだった呼吸が安定していく。
「……治った、のか?」
リズベルが息を呑む。
ナヴィが近寄りガルドの魔力の流れを確認する。
「ふむ、先ほどと違い体内の魔力の循環も問題なさそうじゃ。寝ておるだけじゃな」
その言葉に、リズベルは膝から力が抜けたように座り込んだ。
「しっかしアキオのヒールはすげえなぁ。見たところ、遺物や魔道具じゃなくてスキルなんだろ?」
リックが感心したように笑う。
「それにナヴィの嬢ちゃんの強さと言い、二人とも半端ねえな!」
「確かに…二人とも普通ではないな。特にそちらは、根本から違うようだ」
デズがナヴィへ視線を向けて口にした言葉に、空気が少しだけ固まる。
俺はナヴィの前に出るように立った。
が、後ろでナヴィは涼しい顔で言った。
「流石に貴様にはバレておるか。そうなると、いちいち隠す必要もないな」
ナヴィがフードを取り顔を見せる。
そして、人間にはない、純魔族特有の角がリックたちの前で露わになる。
それを見て驚くリックとリズベル。
以前まで魔族と人間は戦争をしていた。
更に今回の黒幕……ニトラーゼも魔族だ。
そんな中でナヴィの種族が魔族だとバレてしまった。
この状況をどうすれば……と俺が思ったのも束の間。
デズはおもむろに服を脱ぎ、胸元の魔力紋を見せた。
「自分も魔族……巨人族です」
「いちいち紋を見せずともよい。魔力の質で一目見た時から分かっておったわ」
「そうですか。自分は、貴女の戦うところを見るまでは気づきませんでした」
「じゃろうな。普通は魔力の質など分からぬものよ。……しかし巨人族か。我の知る巨人族より随分小柄じゃな?」
ナヴィの言葉にデズは小さく頷き、そのまま自分の過去を話した。
巨人族の中では特に小さい体躯ゆえに迫害されていたこと。
戦争では捨て駒として先陣に駆り出され、瀕死の重傷を負ったこと。
そんな最中に、デズのことを人間と勘違いしたガルドの父……リズベルの祖父に助けられたこと。
後に、魔族と知っても態度を変えなかった彼とその仲間たちに恩義を感じ、裏ギルドの護衛となったこと。
当然リズベルはデズの素性を知っており、子供の頃からデズが世話をしてくれていたそうだ。
色々な情報が飛び交い、リックが頭をかいた。
「なんだよお前ら……裏が多すぎだろ」
リズベルが息を吐いて肩をすくめた。
「ははっ、まあウチの身内もそういうことだから。今さらアンタらの素性なんて気にしないよ。命の恩人なんだからな」
翌日。
俺たちの護衛任務は正式に終了となった。
リズベルは報酬を差し出しつつ、申し訳なさそうに言う。
「本当ならもっと渡したいんだけど……薬の金に手を出す訳にもいかないし、ギルドへの違約金もあるだろうからな。だから、代わりと言ってはなんだけど、コレ」
リズベルは報酬の金銭とは別に、小さな魔道具を二つ取り出した。
「こいつは、特定の魔道具同士で連絡が取れる魔道具だ。何かあった時はコレで知らせてくれ。今回の借りはその時返させてもらうよ」
そのままリズベルは言葉を続ける。
「今回の件で明日にでもギルドが来ることになってる。この街に残る理由がないなら、巻き込まれる前に出たほうがいい」
まあ、巻き込んだのはアタシなんだけどな、と笑うリズベル。
リックは元々この街に用があるらしく、もうすこし街に残るとのことだった。
「アキオたちはどうするんだ?」
リックの問いに少し考える。
「湖の都を目指しながら、色々見て回るつもり。俺たちはまあ……ほら、訳アリだからさ」
するとデズが口を開く。
「……ファミリーを立ち上げてすぐ一度、小さな……地図に載っていないほど小さな村に行ったことがある」
「小さな村?」
「ああ、その村には人間だけじゃなく魔族も住んでいた。……ずいぶん昔のことだが、興味があれば行ってみるといい」
デズに詳しい方角と目印を教わった後、俺たちは次の目的地へ移動するためリズベル、デズ、リックと別れた。
次の目的地は――
“地図にない村”に決まった。




