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主殿、我だけを見よ~異世界で助けた奴隷少女は元・魔王軍幹部!?独占欲と戦闘力が規格外な娘と遺跡探索スローライフ~  作者: 猫村りんご


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【90話】不機嫌な相棒


『主殿のその《ヒール》じゃがの、正体を明かすなとは言ったが…スキルを使うなとまで言うつもりはない。が、先も言ったように強力過ぎる場合は使い所を考えたり加減が必要じゃ』

 


もし、俺がこの重症を治すことで、異世界人だとバレてしまったら――――。


 


【90話】不機嫌な相棒




一度、深呼吸をする。そして――

リックに向かって土下座でもするように、地面に思い切り、自分の頭を叩きつけた。


――人の命がかかっている場面で、一瞬でも身の保身を考えてしまった自分が情けない……!



「はぁ!?お、おい!何してんだよ!」


俺の突然の奇行にリズベルが驚愕している。


「ごめん!なんでもない!すぐ取りかかる!」


リックの傷口に手をかざし、意識を集中する。


「――ヒール!!」


言葉に呼応するように、俺の手から淡い緑の光があふれ出した。

眩い光がリックの体を包み込む。

次の瞬間――


「……は?」


目の前の出来事にリズベルの声が漏れる。


ドロリと崩れかけていた足が、光の中で巻き戻るように元へ戻っていく。

酷くえぐれていた足は、ほんの一瞬で元通りになっていた。


「お、おいおい……マジかよ……」


起き上がったリックが自分の足を動かし、まじまじと見つめる。


「え、今の……って、うわ!アンタ!頭!」


俺の顔を見たリズベルがギョッとしている。

……さっきの頭突き土下座で額が割れて血が出ていた。


自分にもヒールを使用して、血に濡れた顔を拭いながら立ち上がる。


(最近ちゃんとレベル見てなかったけど、もしかしてかなりレベルが上がってる……?)


ヒールについて考えかけたところで、背筋に冷たい気配を感じた。



「そういえば、お前もちょこまかと邪魔してくれたよなぁ……?」


ニトラーゼの視線が、今度は俺に向く。


「なんか妙なスキルを持ってるみてえだし――先にお前を刻んでおくか」


腕が再び伸び、水の刃が一直線に飛んでくる。


「させん!!」


デズが俺たちの前へ飛び出す。

魔力を込めた分厚い腕を構え、攻撃受け止めようとした――その瞬間。


バシュンッ!


鋭いはずの水刃が、いつの間にか前に躍り出たナヴィの手のひらで止まった。


「はぁ!?!?」


ニトラーゼが素っ頓狂な声を上げる。


「……きったないのう。手がベトベトじゃ」


ナヴィが片手をヒラヒラと払う。

手のひらから垂れた粘つく液体が地面に落ち、ジュゥと音を立てて白煙を上げた。


「アレを片手で……?」


デズが信じられないものを見る目でナヴィを見ている。

ニトラーゼの顔からも、さすがに余裕が消えていた。


「な、なんだお前……人間か?いや、それにしちゃ――」


フードで顔の隠れたナヴィを観察するニトラーゼ。


「我のことはどうでもよいじゃろ。それより、これで終わりか?」


ナヴィは一歩前へ出る。

ニトラーゼの攻撃が一気に襲いかかる。


水刃、槍、鞭。

体液を変形させた、様々な形の攻撃が次々とナヴィへ襲いかかる。


だがナヴィは、そのすべてをひらりひらりと避けていた。


半歩退く。首を傾ける。重心をわずかにずらす。

最小限の動きだけで、すべての攻撃が外れていく。


避けられた先々で、地面や壁が腐食し、ブスブスと音を立てて白煙を上げた。


「マジかよ……すげぇな…」


足の調子を取り戻したリックが立ち上がりながら呟いた。



攻撃を続けるニトラーゼの肩が上下し始める。

体液を攻撃に変え続けたせいか、その姿はさっきよりも身体が一回り小さくなっていた。


「はぁ……はぁ……クソが……!」


「なんじゃこの程度か……つまらんのう」


ナヴィは退屈そうに欠伸でもしそうな声で言った。

その瞬間、ふっとナヴィの姿が消える。


「――ッ!?」


ニトラーゼが気づいた時にはもう、ナヴィは目の前にいた。

小さな拳を振り上げ――そこで、ぴたりと止める。


「……ん?貴様の顔、見覚えがあるな……?」


ナヴィが目を細めながら呟く。

その時、ふわりと風が吹き、フードの下のナヴィの顔があらわになる。

すると、ナヴィを見たニトラーゼの顔から、血の気が引いた。


「お、おま……いや!あ、貴女様は……!!」


「ほう?我を知っておるのか?」


ナヴィの声色がわずかに変わる。


「は、はい!以前、ゼル――」


ズドォン!!!


ニトラーゼの言葉が最後まで紡がれることはなかった。

大地ごと叩き潰すような衝撃音。


「……不快な名を聞かせおって」


裏庭の一角がクレーターのように抉れ、その中心にニトラーゼの姿は跡形もなく消えていた。





「終わったみたいだね、ナヴィ」


「すまぬな主殿。加減を間違えてしもうた」


ナヴィの元へ向かい声をかけるが、返ってきた声は珍しく不機嫌な様子だった。


「ううん、ナヴィのお陰で助かったよ。ありがとう」


ナヴィは無言で立っていた。

先ほどまでの戦闘の名残なのか、距離の離れたリックやデズが感じ取れるほどの機嫌の悪さ――殺気じみた不機嫌さが漂う。


俺はそっとナヴィ頭に手を置き、フードの上から頭を撫でる。

……何も言わずに撫でていると、ナヴィの気配が和らいだ。


殺意の気配が霧のように消え、代わりに小さな影がそろりと俺の袖を掴み、寄り添ってきた。


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