【第86話】湯上がりハプニング
【第86話】湯上がりハプニング
夜も明けて明るくなった頃。
俺とリックは、リズベルのメモに書かれていた宿へとようやく辿り着いた。
街の喧騒から少し離れたその宿は、歓楽街の騒がしさとは対照的に、静かで落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
受付へ向かい、名前を伝える。
「あー、お嬢から話は聞いてるよ。まずはアンタの部屋の鍵だ」
受付の男も裏ギルドの人間なのだろう。
彼は鍵の束から一つを外し、リックへ鍵を手渡す。
「で、アンタの部屋は……あー、たしかコレだったかな。先に連れの人にも鍵は渡してるよ」
受付の男から番号の擦れた鍵を受け取る。
部屋は四階とのことで、疲れで重い足を引きずって階段を上がった。
「俺は奥から二つ隣か。アキオは一番奥みたいだな。……じゃ、おつかれー」
「おつかれさま」
リックが手を振って部屋に入っていく。
俺たちの間の部屋が、リズベルたちの部屋なのだろう。
俺は一番奥の扉の鍵を差し込み、回した。
小さく「カチリ」と音を立てて開いた扉を押し、部屋の中へ。
連れには先に鍵を渡していると言っていたが……部屋を見渡してもナヴィはいないようだ。どこかに出かけてるのだろうか。
ふと、部屋に入ると少し甘い香りが鼻をくすぐる。
部屋の香りなのだろうか?先ほどまでいた娼館よりも落ち着く香りだ。
「……あー、眠くて頭がぼーっとする。もう限界。早く風呂に入って寝よう」
荷物と上着を宝物庫の指輪にしまい、脱衣所へ向かう。
浴室には簡易的なシャワー設備が備え付けられていた。
ありがたい。湯を張らずにさっと流せるのは本当に助かる。
短く息を吐き、身体を洗い流す。
熱い湯が疲れを溶かすようで、まぶたがどんどん重くなる。
サッと済ませ、脱衣所に戻る。
タオルを手に取り、濡れた髪を拭いた――その瞬間。
ガラリ、と音を立てて脱衣所の扉が開いた。
「……ん?」
「……え?」
扉を開けたのはナヴィ……ではなくリズベルだった。
ほんの一瞬、目が合う。
リズベルの視線が、ゆっくりと顔から胸、さらに下へと滑って――
「――――ッ!?!?!?」
リズベルの顔が一瞬で真っ赤に染まり、
バンッ!!と凄まじい勢いで扉が閉められた。
「な、な、なななんでアンタがここにいんのよ!!?」
扉の向こうから、怒鳴るような声が響く。
「いやっ、その、受付の人がこの部屋だって鍵を――」
「はぁぁー!?!?アイツ……!!渡す鍵を間違えやがったな……!?ぶっ殺す!!!」
物騒な怒号とドタドタと廊下に響く足音。
リズベルが部屋を飛び出していったらしい。
……とりあえず服を着て早く部屋を出よう。
数分後。
廊下で待っていると受付から鍵を受け取ったリズベルが戻ってきた。
「………………ほら、これがアンタの部屋の鍵。二度と間違えないでよね」
俺が間違えたわけじゃないんだけど……とは死んでも口に出来ない雰囲気だったので大人しくリズベルから鍵を受け取る。
顔を上げるとリズベルと視線が合う。
すると彼女の視線が一瞬だけチラリと――下の方へ。
また顔を真っ赤にしたリズベルは俺を押しのけてその場を逃げるように部屋へと戻って行った。
扉が閉まる音が響き、廊下に静寂が戻る。
どっと疲れた俺は改めて自分の部屋へ入り、ベッドに目を向ける。
そこには――ナヴィがすやすやと眠っていた。
小さな寝息と、安らかな表情。
………疲れたので俺も横になろう。
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