【第85話】護衛任務…?
【第85話】護衛任務…?
その後、今回の護衛内容――もとい今後の作戦概要について話を聞いた。
目的は薬流通の大元、リズベルの父……ガルド・グレイモアの拘束。
裏ギルド《グレイモア・ファミリー》のボスであるガルド・グレイモアは、普段はマルシャの街の歓楽街にある屋敷をアジトにしているそうだ。
三日後、歓楽街で大規模な賭場が開かれる予定で、ファミリーの人員の大半が警備や運営に駆り出される。
その隙を突いて屋敷へ踏み込む、という計画だった。
「それで、拘束した後は?」
リックの直接的な問いに、リズベルは短く息をついた。
「……薬を流した理由を聞く」
「聞いてどうする?納得できればアンタも手を貸すのか?」
「そんなわけ……っ、理由を聞くのはアタシの我儘だ。なんでこんなもんに手を染めたのかを知りたいだけ。……でも、どんな理由であってもケジメは必ずつける。例えボスであっても、裏ギルドとしての掟は絶対だ」
その言葉に、部屋の空気がわずかに張りつめた。
リズベルの目には恐れも迷いもなかった。ただ、真っすぐな決意だけがあった。
それから、俺たちはそのままリズベルの護衛として動くことになった。
裏で動いていることを悟られないよう、彼女が表向きはいつも通りに仕事をこなすことが前提のため、俺たちは部下という扱いでリズベルと共に行動をする。
「さて、今日の見回り先は――ここだ」
夜の歓楽街。
人の賑わう灯りに照らされた道の先で、リズベルが腕を組んで立ち止まる。
そこは、街の一角にある華やかな建物。
行き交う客と香水の匂い、夜を照らす赤い灯り。
「あー……ここってもしかして……」
「娼館だよ。今日は見回りと警備」
リズベル達はためらいもなく中へ入っていく。
俺は少しドキドキしながらその後に続いた。
受付と少しの会話の後、リズベルは奥の部屋へと進む。
中は薄暗い照明が醸し出す妖しい雰囲気に包まれていて、こういうところに来たことがない俺は意味もなく緊張してしまう。
リズベルは部屋の奥のソファにドカッと腰を下ろす。
「それで、具体的には何をすればいいのかな」
見回りと警備について聞くと、リズベルは壁面の光る盤を指さした。
部屋番号が刻まれ、その横には小さな魔石がいくつも埋め込まれている。
「客と嬢の間でトラブルが起きたらソレが光る。光ったらその部屋に入って客を追い出す。それだけ、簡単だろ?」
「……なるほど」
「アタシの管轄はこういう地味な仕事ばかりでね。ま、頑張って」
肩をすくめる俺たちを置いて、リズベルは脚を組み直し、テーブルのワイングラスを手に取った。
それからの数時間は――想像以上の激務だった。
部屋が光るたびにリックと俺が突入し、暴れる客を取り押さえて素っ裸のまま外へ放り出す。
デズはリズベルの近くで護衛に徹して、ナヴィは後ろで暇そうに欠伸をしている。
そんでもって俺たちはトラブル処理係として奔走していた。
「リック、なんでここの客ってああも殴りたがるんだろう……」
「知るかよ!いだだだだ!やめろ!全裸で暴れんな……!」
娼館の規則を破る連中はそのほとんどがこちらに向かって攻撃してくるため、
リックが受け止めて俺が魔力の腕で捕獲して連行する。
後は素っ裸のおっさんを服と荷物ごと娼館裏へ一緒に放り出す。
放り出した後は外で待機している怖いお兄さん達が引き取っていく。
そんなこんなで何度目かの突入のあと、ようやく落ち着いた俺とリックは崩れるように部屋の床にへたりこんだ。
「あはは、お疲れさん。けっこう様になってたじゃないか」
リズベルがニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいてきた。
「こ、ここの連中トラブル起こしすぎじゃない……?」
「んー娼館なんてどこもこんなもんじゃないの?まあ、ウチにとってはコレが日常茶飯事さ」
そんなことを言ってる間にまた壁面の魔石がチカチカと光り始めた。
「ほら、お呼びだよ」
「くっそぉぉぉ!少しは休ませてくれよぉぉ!」
リックの悲痛な叫びが部屋に響く。
背後では、リズベルの楽しげな笑い声。
その声を背に、俺たちは再び走り出した。
――仕事が落ち着いた頃には夜も明けて辺りは明るくなっていた。
娼館の一室に戻ると、リズベル、デズ、ナヴィの姿はなく、テーブルには一枚のメモが置かれていた。
『お疲れさん。アンタ達の宿はアタシの部屋の隣に取ってるから、しばらくはココに泊まりな』
メモにはリズベルが残したと思われるメッセージと、宿の場所が載っていた。




