【第83話】倉庫制圧②
【第83話】倉庫制圧②
天井を突き破って、瓦礫と共にリックが突入する。
轟音とともに木片が宙を舞い、倉庫の中は一瞬で混乱に包まれた。
瓦礫が散らばり、粉塵が舞い上がる。
最初は驚いた売人たちも次々と武器を抜き、威嚇の叫び声を上げた。
「な、なんだテメェは!!」
「ハッ!誰が馬鹿正直に名乗るかよ!喰らえ、貫穿弾!」
リックが親指と人差し指を伸ばし、銃の形を作って敵へ向ける。
すると指先から青白い閃光がほとばしり――次の瞬間、魔力弾が放たれた。
次々と撃ち出される魔力弾は的確に売人たちの手足を撃ち抜き、悲鳴が倉庫に響き渡る。
「く、くそっ……なんだアイツは!おい!さっさとシールドを張れ!一旦引くぞ!」
「は、はい!」
怒鳴る声と同時に、後方の男が両手を広げ魔力障壁を展開した。
魔力の膜がリックとの間に広がり、光の壁のように揺らめく。
リックは構わず貫穿弾を放つが、魔力障壁に弾かれ霧散してしまう。
「っと、硬いな。それなら――」
リックの指先がわずかに動く。
銃を形取って構えた指先にもう一本、中指を添えた。
「魔操弾!」
言葉と同時に放たれた弾丸は障壁の手前で逸れ、空を切って外れたかに見えた。
だが次の瞬間、弾道が不自然に曲がった。
弾丸は防壁の裏側から回り込み、展開者の足を貫く。
「な、なんで、後ろから――ぐあっ!」
背後からの不意打ちに魔力障壁が途絶え、そこに追撃の連射。
リックは間髪入れず、無力化を目的とした精密射撃を叩き込んでいく。
やがて2人の男が慌てて大きな鞄を抱え、裏口へと逃げ出した。
「わざわざこちらに来るか、間抜けめ」
凛とした声が響いたかと思えば、次の瞬間。
先行していた男の一人の胴体にナヴィの蹴りが放たれ、轟音とともに壁にめり込んだ。
(……あれ生きてるよね?)
呆然と眺める俺の視界の先で、視線に気づいたナヴィが手を振っていた。
目の前で仲間が壁と一体になる様を見たもう一人の男は、血の気を失って踵を返し――
今度は、こちらの出口に走り出した!
「ほら、こっちに来てるよ」
後ろのリズベルが肩越しに囁き、ふわりと良い香りが鼻をくすぐる…ってそれどころじゃない!
「ゴホン……まあ、逃げてる人を捕まえるだけなら俺にもできるか」
指輪に意識を集中させる。背中から淡い光とともに、半透明の魔力の腕が二本、伸び上がる。
目の前の俺の背から突然腕が生えた事にリズベルが一瞬、息を呑んだのが分かった。
そりゃ急に腕が生えたらビックリしますよね。
俺の姿を見て鞄を持った男がブレーキをかける――が、もう遅い。すでに射程圏内だ!
風のように素早く伸ばした魔力の腕で足首を絡め取り、男の体を宙に持ち上げる。
もう一本の腕は床を掴み、バランスを取るように固定する。
「よっと……捕まえた」
「く、くそ!なんだこれ……!」
「お、そっちも無事捕まえてくれたか。助かったぜ」
散乱した倉庫内の木箱と倒れた男たちを背に一仕事を終えたリックが合流する。
突入から物の数分で倉庫内は鎮圧され、現状いま話ができる人はこの人だけかな…と、宙吊り状態の男を見る。
「よぉ……やっぱりお前だったか」
背後にいたリズベルが前に出る。
吊るされた男はぎょっとして顔を背ける。どうやら知り合いのようだ。
その後、現場の後処理と男の身柄拘束をデズに任せ、俺たちは一旦宿へ戻ることにした。
「それで、護衛の腕としては問題なかったか?」
リックが歩きながら尋ねる。
リズベルは俺たち三人を順に見渡し、静かに頷いた。
「ああ――改めて、アンタたちにアタシの護衛を依頼したい」




