【余談閑話③】プールで学ぶスキル講義
【余談閑話③】プールで学ぶスキル講義
カルナの町の豪華な宿に泊まった時のやりとり。
この宿には、それはもうとても豪華なプールが備わっている。
浮き輪や大型の浮き輪ベッド、バーカウンターにライトアップ設備。
そう、ライトアップ設備だ。
転移前の世界ではナイトプールなんてものもあったが、そんなものとは縁遠い存在だった。
ナヴィは宿を探索すると言って少し前に部屋を出ていったため、1人暇を持て余していた。
せっかくだし、一度くらいは経験してみようか――そんな軽いノリで、夜にまたプールへと足を運んだ。
ライトアップされた水面が青白く揺れ、周囲には魔石灯が等間隔に並んでいる。
夜風が少し冷たいが、浮き輪ベッドの上で寝そべっていればちょうどいい。
のんびりと魔石灯のランプを眺めていたその時だった。
「主殿」
離れたところから声がした。いつもの子供姿ではない彼女の声だ。
視線を向けた先――
大人姿の彼女は腰まで伸びた黒髪を後ろでまとめ、目のやり場に困るほどに過激的な水着を着ていた。
新たに取り寄せたのだろう……一体どんな注文をしたのか。
「……スゴクキレイデス」
焦って声がカタコトになってしまった。
「くはは、当然じゃろう?」
誇らしげに胸を張るナヴィ。
より強調されてちょっと直視できない。
「どれ、妾もその浮き輪でくつろぐとしよう」
たおやかな外見とは裏腹に豪快に飛び込むナヴィ。
ばっしゃーん!と派手に水しぶきが上がり、俺の浮き輪ベッドが大きく揺れる。
「ぷはっ、さて妾も上に……むぅ?思ったより登りづらいのう……主殿、手を貸してくれぬか?」
「え?あ、えーっと…はい」
言われるがままにナヴィの手を掴み引っ張り上げる。
「すまぬな、よいしょ……ぬ、おお、お、落ちる!」
「うわ、落ち着いてナヴィ!バランスを……!」
水面から勢いよく上がった反動で浮き輪が揺れ、ナヴィがよろめく。
慌てて彼女の腰に手を添え引き寄せるが、こちらもバランスを崩してしまった。
浮き輪ベッドは転覆しなかったが、ナヴィと密着する姿勢になってしまった。
うおおお柔らか……ッ!考えるな、今は考えるな!!
「ふぅ、助かったぞ主殿」
「……どういたしまして」
二人乗りの浮き輪は、想像以上に狭い。
しかしそれ以上に、密着した状態からナヴィが中々離れてくれる気配がない。
それとなく離れようとすると、肩に回された腕で逆に引き寄せられてしまう。
さっきまでの心地よい夜風が、やけに熱い。
「んー?どうした主殿?顔が赤いのぅ?」
「い、いや……その……」
ニヤニヤとした悪戯な表情を前に、動揺をごまかすため話題を変えることにした。
「そ、そういえばさ。前から気になってたんだけど、スキルというか、魔力の使い方っていろいろな種類があるよね?」
「――ふむ、そうじゃな。そういえば主殿はその辺りを知らぬか。よかろう、特別に妾が教えてやるのじゃ」
こうしてナイトプール(仮)でナヴィ先生のスキル講義が始まった。
「まず、魔力の使い方は大きく三つに分かれる。補助、戦闘、回復じゃ。そしてそれぞれをスキルとして呼称する」
「分類があるんだ」
「うむ。まず、補助スキルは幅広い使い方が出来るのが特徴じゃな。明かりを灯したり火や水を出す事ができ、日常使い以外にも戦闘におけるバフや探知など様々な使い方ができる。スキルを持つ者の大半は補助系じゃ」
「生活魔術とか支援スキルって感じかな」
「そうじゃ。次に戦闘系。魔力を攻撃魔術に変える者、闘気として身体能力を上げる者、武器に流して強化する者――いずれも攻撃特化の使い手じゃ」
「あ、じゃあナヴィはこの戦闘系スキル持ち?」
「うむ、主に魔力を闘気として利用しておる。しかし妾は身体強化以外にも――例えば、魔力を闘気に変換する際に熱を加えれば……」
俺の肩へ回した腕を離したナヴィは水面に腕をつける。
――少しすると、水面から腕を上げ、ほれ、と濡れた手で俺の胸板に触れる。
「あ、冷たくない」
「うむ。火力を上げれば相手を燃やすこともできるぞ」
濡れた手で胸板を撫で回しながら恐ろしいことを口にしてる………。
「そして最後が回復系じゃな。分類としては最初の補助スキル持ちと変わらんのじゃが、補助スキルの他に回復魔術が使えるものを回復スキル持ちと呼ぶ」
「へえ、使える人と使えない人がいるんだ」
「うむ。生まれ持った魔力の質によって使えるものと使えぬものがあるのじゃ。その辺りをまとめてスキル持ち、と呼んでおる」
「勉強になったよ、ありがとう」
「なに、異世界人の主殿には必要なことじゃからな。さて、次は主殿の話をしてもらおうかのう?」
「俺の話?……うーん、面白いことなんて何もないけどなぁ」
そこから俺の……というより日本に関する色々な話をした。
魔石灯の光が水面に揺れて、静かな夜が青白い光とともにゆっくりと更けていった。
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